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23 常識と非常識

「おまえはアホか」


 俺は騒動を避けるように早足で人混みを抜け、路地に入ると同時に続けて言った。


「メツ子アホの子全裸の子なの?」


「全裸は関係ないであろう!!」


 そう全力で突っ込むメツ子さん。


「アホの子は否定しないのな。まあ確かにアホだったしな」


「な――ちが」


「違くねーだろ。あんな騒ぎおこしてプラスになること一つでもある?」


 いやまあ、騒ぎになると思ってなかったのかもしらんけど。


 メツ子はまったく納得いってないような顔で、偉そうに腕を組み、そっぽを向いたので、俺はその後ろで遠慮がちに立っているルーシェに声をかける。


「ルーシェも悪いなー。この全裸竜が迷惑かけて。代金も払わせちゃうし」


「あ、い、いえ……そんな」


「まだ貨幣の価値よくわかってないし、俺ら今金持ってないからさー。この件は金ごと貸しにしといてくれ。絶対に返すからさ」


 ぱん、と手をあわせて、謝意を示す俺に、


「か、貸し……奴隷の、わたしに……ですか?」


 ルーシェはそんな反応には慣れていないと困るとばかりに、あわあわする。


 そうして最終的に。


「あの……本当にお気になさらないでください……」


 結局縮こまってしまうルーシェを見て。


「……んー、普通にお気になさるところなんだけどなここ」


 それが普通じゃないということは、ようするに今までそういう経験をしてこなかったということで、必然的にルーシェの今までの境遇が想像できてしまう。


 ……ほんとおかっぱおっさん最悪だな。


 まあでも今回最悪だったのは。


「ふん……別に金など払わなければよかったのだ」


 この期に及んでそんなことを言いのけるメツ子さん。


 いまだにこっちを見ないのは、一応自分にも非があるとわかっているのかね?


「だから払わないでいいわけねーだろ」


「なぜだ。力はこちらのほうが上なのだ。反抗されたところで返り討ちにしてやればいいだけだろう」


「お前ね……そこまで堂々と踏み倒せって言われるといっそ気持ちいいわ」


「ならば」


「皮肉だっつーの」


 俺はメツ子の言葉に被せるように言うと、長く息を吐いて続ける。


「確かに力にあかせてあの状況を突破することはできたよ。けどそれをしたらそのあとどうなる? あのじいさんはこの辺の秩序を守る連中に訴えるだろう。あるいは泣き寝入りするにしても、仲間内で俺らが無法者であると言いふらす。結果俺たちの行動は著しく制限される。ようするに回り回ってより大きな不利益をこうむるってわけ」


「そんなもの、向かってくる先からすべて返り討ちにすればいいのだ。言うことをきかないものはすべて力で黙らせ続ければいい。力があるのなら欲望のままに振る舞え」


「どこの覇王さまだっつーの」


 と突っ込んでから気づく。


「あーそうね。お前はそう言うよね」


 全世界の敵だもんね。元世界最強竜だもんね。


 見た目が虫も殺せないような銀髪美少女なのでついつい忘れるが、そりゃそうだわ。


「逆に言えば、そういう考え方をするのがお前の勝手なら、こういう考え方をするのも俺の勝手だろ?」


 肩をすくめ、適当極まりなく言った俺に、メツ子はなぜか大きく目を見開いてこちらをまじまじと見る。


 思わず誰か後ろにいるのかと思ったが、そういうことでもないらしい。


 んん? なんかおかしなこと言ったか?


「メツ子?」


 ふるふると目の前で手を振ると、メツ子は我に返ったようにまばたきをしてから、顔をそらして。 


「……貴様も“あやつ”と同じことを言うのだな」


 ぼそりと呟く。


 ……すげー意味深だなおい。


 あやつ、って誰だよ。

 全世界の敵とか言っといて君ぼっち竜じゃなかったの――?


 と訊くことは簡単だったが、そういう軽さを許さない感じだった。


 んーシリアスっぽいこと訊くには場所と状況があれだしなー。


 俺はポリポリと頭を掻きながら言う。


「ま、今後は腹が減ったのなら俺らにまず言えよ。お前が超絶燃費悪い卑しい卑しい食いしん坊なのはちゃんとわかってるから」


「ぁあ!? 誰が卑しいだと!?」


「お前だよお前。腹減ってた、肉食いたいっつーなら俺らにそれを言えばよかったじゃん。そんな数秒ですむこと省略しちゃうくらい、肉の匂いにつられたんだろ。――ルーシェ、そういう行動とっちゃったやつってどう思う?」


「え」


 いきなり話を振られ、戸惑うルーシェは、ちらりとメツ子を見てから、気まずげに視線をそらす。


 俺はそれをいいように解釈して。


「だよなー、卑しい以外のなにものでもないよなー」

 

「んなっ、き、貴様らぁ!」


「あ、え、ぃ、いえわたしは……!」


 慌てて手を振るルーシェに、俺はにやにやしながら言う。


「いやいやいいんだぜルーシェ。“あーあ……仮にも全世界の敵、“終焉の滅竜”とか言ってたのが卑しい卑しい食いしん坊とか……幻滅だわあ”って、正直に言っちゃっても。事実だし」


「ぐ……っ」


「ひぅ……そ、そんな……っ」


 屈辱を耐え忍ぶような顔をするメツ子と、思ってもいない気持ちを代弁されて困ったような表情を浮かべるルーシェ。


 あ、やばい。ちょっと楽しい。


 楽しいが、だらだらと話してると日が暮れる。


 太陽が落ちきるにはまだ少し猶予がありそうだが、どのくらいの時間間隔で一日が成り立っているのかはわからない。

 早めに行動して悪いことはないだろう。


 というわけで。


「まあそれはそれとして。さっさと防具見に行こうぜ防具」


 親指で路地の先を指さした俺に、ルーシェは助かったと言いたげな顔を、メツ子はジト目でお前がいうなとばかりにこちらを睨みつけてくるのだった。




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