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2 世界最強の力まるっとゲット

 夢なのかうつつなのかよくわからない暗闇で。

 俺は思う。


 あー。

 やっぱダメだったかー。

 

 まあ正直さすがにそれはないかなーとも思ってた。

 世界統べちゃってる竜の力ゲット! なんて。

 あまりにも都合がよすぎる。


「………………きろ」


 そもそも竜の力ってよくわからないし。

 それならもっと現実的なチートスキルやら魔法やらを願えば――


「おい…………きろっ」


 ――ってなんか聞こえる。

 誰かが耳元で叫んでいるような。


「お……ろ、……やくっ」


 なんだよもう。よく聞こえないけど聞こえてるよ。っていうか。



「――起きろーっ!!」



「うるさっ!!」

 

 叫びながら起きあがると、


「――――」


 目と鼻の先に絶世の美少女がいた。

  

 年は俺より少し下だろうか。

 キラキラと光る腰までの美しい銀髪に、人形のように整いきった顔。  

 黒いローブ……というかただの布の下に、うっすらと透ける女性らしい曲線。

 触れれば折れてしまいそうな白く細い手が、まっすぐこちらに伸ばされ――


「起きろ!」


 ペシリと頬を叩く。


「いや、起きとるわ!!」


 反射的に手を握ってツッコミを入れると、少女は紅い瞳を細めて背後を見た。


「ならば――あれを見ろ」


 言われて見やった先。

 柔らかな陽射しの差し込むそこは、気を失う前と寸分変わらない、開けた谷のような場所。

 変わったことと言えば、太陽がのぼったのと――


“終焉の滅竜”の代わりに真っ赤な竜が鎮座ましましてることくらいだった。


 ……ははあ。

 あの感じはなんというか。

 

 激怒してらっしゃる?


「キシャアアアアアアアア!!」


 俺の心を読んだように、真っ赤な竜――赤竜が耳に痛い声をあげる。


 大きさは“終焉の滅竜”ほどではないにせよ、竜は竜だ。

 その敵意丸出しの哭き声と、鋭い爪や、恐ろしいまでに発達した翼は脅威以外のなにものでもない。

 ここはなるべくこれ以上刺激――しないもなにもなく。


 赤竜は大きく口を開き、その咽奥から渦巻く火球を吐き出した。


「――」


 人間、究極のピンチでとっさにどんな行動取るかなんて、まったく予想がつかない。

 自分自身でもそれは一緒。

 岩みたいな大きさの火球がこっちに飛んでくるって思った瞬間、俺はなぜか目の前の少女をかばうように前に出た。


 あやーって思った。


 いやまあびっくりするくらいの美少女だしね?

 それにしても逃げろよ。あるいは突き飛ばせよ。……いやどっちも無駄だけど。

 なんてことを考えかけているあいだに、火球は俺に直撃した。

 


 あ、死んだ――



 と思ったのに。


 なぜか。

 


 無傷。



 火球は確かに俺に直撃した。 一応周囲の地面も焼け焦げてる。

 

 にもかかわらず――俺と俺がかばった少女だけがノーダメージ。


 なにこれ?

 奇跡?


「……キシャアアアッ!」


 再び火球が、今度は連続で吐かれる。

 今度こそダメか――と思いきや。

 そのすべてが当たって、全然効いていない。

 いや一応衝撃はあった。

 なんかふわっふわのクッションボールを当てられた感じの、ありえないやつが。


 ……え。

 マジで今のがそれ?

 熱さすら感じてないんだけど……。


 赤竜もさすがに学習したのか、三度火球を放つことはせず、その翼を豪快に羽ばたかせて空へと飛び上がる。


 そのまま去っていってくれれば万々歳だったのだが、空中で羽ばたいたままこちらを見おろすと、口の中にこれまでにない大きさの火球を生みだしはじめていた。


 あれは――俺が大丈夫でも後ろの美少女がやばい。


 たぶんかばいきれない。


 そう思った瞬間。


 少女が俺に抱きついてきた。

 そんな場合じゃないのに、ふにょりとやわらかいのが背中に当たって目を見開く。

 ……マジか。

 意外とある!


「とべ!」


 どうでもいいことに意識を奪われかけていた俺に、少女は言う。


「早く!」


「いや、飛べって……鳥じゃないんだから」

 

 人間なんだから。


「いいから跳べと言っている!!」


 空を指さし、差し迫ったように言う彼女につられ、頭上を見あげると、赤竜は今にも火球を放とうとしていて。


 やばい――


 そう思うと同時に、俺は思いきり地面を蹴ってジャンプした。

 

 ジャンプ……ジャン――は?


 気づくと。


 空の中に俺はいた。


 いやー……いい天気。

 風も爽やかで、絶好の行楽日和。

 うーん、見渡す限り森が広がって……って広っ!! なにこれアマゾン?

 ――ではなく。


 赤竜いずこ?


「直下を見ろ」


 背中からの静かな声に、俺はその事実を理解する。


 かなり下に見える赤竜の頭。


 つまりそれは――俺がちょっと跳んだだけで、空を飛んでいた赤竜をはるかに超えてしまったということらしい。


「マジかよ……」


 というかこれ、この高さから落ちたらやばくない?

 どうやって着地しよう……。


 そんなことを真剣に悩みはじめた俺の耳元で少女が叫んだ。


「前を見ろ!!」


「――キシャアアァアゥッッ!!」


「うおっ」


 いつの間にか赤竜が眼前にまで迫っていた。

 火球では通じないと思ったのか、そのまま鋭い爪を振りかぶり――振り下ろされる前に。


「蹴れっ!!」


 少女の声に促されるように、俺は目の前の竜を思いきり蹴った。


「グギャッ――」


 空中にもかかわらず、妙に爽快な蹴り応えと、冗談みたいな勢いで吹っ飛んでいく赤竜。

 ついでに俺も。

 そりゃまああれだけ吹っ飛んだら反動もすごいよね!

 と他人事のように思っている間もなく。


「うおおおお!」


 横吹っ飛びを終え、いい感じに落下していく。

 

 すでに元いた谷は越え、広がる大森林に落ちていく俺は、背中の少女を守る体勢――つまりうつ伏せでそのときを待つ。

 なんかこれ……スカイダイビングみたい。

 まあパラシュートないけどな!

 

 とか言ってるうちにみるみる地面もとい、森が近づいてきて――


 今度こそ死んだああああ!


 木の枝をバキバキに折りながら地面に思いきり叩きつけられた俺は、脳内で般若心経を――唱える必要がなかった。


 なぜって。



 痛くもなんともなかったから。



 落ちたときの衝撃はすごかった。

 少なくとも俺が落ちた地面は、腐葉土だったせいもあると思うが、数十センチはヘコんだ。立ち上がって見てみたらちょっとしたクレーター状態になっている。


 でもその隕石たる俺はノーダメージ。


「……え? あ?」


 不感症じゃないよな?

 思わず頬をつねると……まあ普通に痛い。


 いや、そんなことより――。


「……あつつ……もう少し丁寧に落ちろ……」


 少し離れたところにいる少女もどうやら無事だったらしい。

 彼女のほうは多少顔を顰めているので痛みはあったようだ。

 

 まあそりゃそうだよな……数十メートル、ヘタしたら百メートル単位で跳んでたし。


 そしてその事実を確認すればするほど俺の体の不思議がハンパない。


 だが。



「なにを不思議そうにしている。貴様に痛みがないのは当たり前だろう。貴様が手にしたのはこの我の力なのだから」



「は?」


 ……我の、力?


「もう忘れたのか……自分で要求したことだろう」


 いかにも忌々しそうに顔をしかめ、眉をひそめる少女。

 その少女の。

 美しい銀髪が、さわさわと風になびき。

 紅い――宝石のような瞳に、俺は頭を殴られたような衝撃を受ける。



 ――あんたの力を全部くれ



 あ。

 あー。

 あーあーはいはい。

 

「もしかして――“終焉の滅竜”さん?」


 俺の言葉に、絶世の銀髪少女――“終焉の滅竜”は、とてつもなく不満そうにうなずいた。


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