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16 今さら勇者と魔王

 というわけで二人旅から三人旅になった。


 しかも同行人は美少女(竜)とエルフ少女(奴隷)だ。

 やったぜ――と思う間もなく。


 ルーシェを先頭、その横に俺が並び、そのすぐ後ろをメツ子がついてくるという布陣で、ルーシェの道案内をポイントにこの上なく淡々と《深淵の森》を進んでいる。


 ……つーかあれだね。


 三人になったから必然的に会話が増えるかと思ったが、むしろメツ子が露骨に黙っていて、それをプレッシャーに感じてるのかルーシェのビクビク具合が増して余計静かになってる気がする。


 気がするというか実際なってる。


 どうやらメツ子ちゃん、思いのほか先ほどのやりとりを不満に思っているらしい。


 ちらっと後ろを振り返ったら、すげえジト目で睨み返されたもん。

 それに気づいて、ルーシェが「……ひっ」って声もらしてたし。


 仕方ないな……

 こんなギスギス感満載で先を進んでも楽しくないので、ここは俺が一肌脱いでやろう。


「いやーしかしメツ子ってマジでこの世界の人たちからビビられてんのなー。超意外だわー。見直したわー」


 ヨイショヨイショ。


「ぁあ……? 当然であろう。今さらなにを言っている」


 あら。

 全然効果なし? 

 せっかく褒めたのに。

 むしろ機嫌悪くなってるまである。


 これはメツ子方面に行くのダメそうだな。


「ルーシェは――」


「……っ」


 すげえビクつかれた。

 あー距離が近すぎたか――と思ったが、俺はむしろさらに彼女に一歩近づく。


「――!? ひっ」


 反射的に手を上げ、自分の頭を守るような動きを見せたルーシェの肩を抱き――すんでのところで蛇っぽいモンスター、エルダーアスピスの毒牙を防ぐ。


「……!」


 まったく接近に気づいていなかったらしいルーシェが驚いているのがわかる。


 まあ無理もない。

 こいつ、初撃すげー早いんだよね。


「シャァアアアアア!」


 エルダーアスピスは紫の舌を見せつけ、二撃目に移ろうとするが、俺は軽い動作でその背後に回りこんで。


「ほい」


 デコぴん。


 いやデコどこか知らんけど。


「――ギィィィッ」


 ものすごい勢いで吹っ飛んだエルダーアスピスは数本のロウラシスに叩きつけられ、勢いを減じつつ森の奥へと消えていった。


「む……ちょっと強すぎたか」


 もうちょい加減してよかったな。

 MP消費的に。


 ポリポリと頭をかきつつ反省していると、信じられないものを見たような顔のルーシェと目があった。


「ん?」


 俺が首を傾げると、ルーシェはなぜか慌てたように目を逸らし、


「――あ……ありがとう、ございます……!」


 深々と頭を下げてきた。

 おーこっちの世界でも頭下げるのはお礼の動作になんのね。

 メツ子はそんなこと一回もしてこなかったからわからなかったわ。


 というかそもそも礼を言われたことすらなかったわ。 


「いやいやこれくらいは全然。つーかいきなり肩抱いてすまんね」


 そう適当に返しつつ「ほら、お前も俺に感謝したくなったらこうやってくれていいんだよ?」というつもりでメツ子を見たら――すげえ冷めた目してた。


 なにあの目……信じられない。

 見つめあってるだけで凍りそう。


 とか思ってると。


「……我の力なのに」


 不満げにボソっと呟くメツ子さん。

 え、なに。

 もしかして――

 

「メツ子お前、嫉妬してんの? 本当は我が助けるはずだったのにーとか?」


「は、はあ!? なぜそうなる!」


「えーだって今の呟きはそうじゃん。ツンデレかよお前」


「ば――我は世界の敵、“終焉の滅竜”だぞ!? なぜ魔族の娘を助けるとかそういう発想が出てくる! さきほどのはあくまで我の素晴らしい力を行使する貴様に嫉妬しただけで――」


「嫉妬してんじゃん」


「…………っ」


 しっかり誘導尋問に引っかかるメツ子ちゃん。


「顔赤くしちゃって可愛い~」


 おちょくり以外のなにものでもない声をかけながら、俺はメツ子に近づき、


「……ま、でもさっきはマジで助かったわ」


 小声で言う。


「……なんの話だ?」


 メツ子が同じように声を抑えているのはたぶん無意識だろう。

 それがわかっていてもなんか笑えてしまう。


「さっきめっちゃルーシェ威圧したじゃん。あんなことしたら、お前は恐怖の対象になるし、翻って優しくする俺には警戒心を解きやすくなるだろ」


 北風と太陽……は微妙に違うか。

 怒り役と慰め役の分担?

 ま、言葉は知らんが、理屈としてはそんな感じ。

 もちろんルーシェはまだ完全に警戒を解いてくれているわけではないが、少なくとも突破口になったはず。


 やっぱずっとビクビクされるのは楽しいもんじゃないしな。


「つーわけで、ナイスアシスト」


 そう言ってぽんぽんと頭を叩いてやると、メツ子はこそばゆそうに「……気安く触るな」と言ってきたが、意外と満更でもなさそうだった。


 そうして再びルーシェの横に戻ると、彼女がこちらをちらちらと見て、口をもごもごし、なにか話したがっているのに気づいた。


「どしたん?」


 超適当に促すと、ルーシェはひくっと息を吸うのと一緒に言葉まで呑み込んでしまったが、辛抱強く待つと再び口を開いて、


「ぁ……あの…………あなたさまの……お、お名前を……」


「あーあーそういや名乗ってなかったっけ」


 つーか今まではスキルでバレてたから名乗ってなかったんだよね。

 あらためて訊かれると新鮮だわーと思っていたら、


「ハルカだ」


 名乗るまでもなく、後ろからメツ子が補足してくれた。

 ……いやまあいいけどさ。


 相変わらずメツ子がしゃべるたびにびくつくルーシェだが、口にする言葉は素直に信じるらしい。


「……ハルカ、さま……」


 確認するように呟かれて、なんかものすごくこそばゆく感じる。


「さまはいらないわー。ハルカでいいよハルカで」


「い……いえ、先ほど命を救っていただいた方を、呼び捨てにだ、なんて…………!」


 呼び捨てにしたら死ぬ呪いがかかってるんです!

 とでもいわんばかりの必死さに、さしもの俺も若干引く。


「あ、そ、そう。いやまあ呼びやすいように呼んだらいいけどさ」


「……はい……ハルカさま」


 あ。


「おー笑顔。可愛いじゃん」


 ほんの一瞬。

 口元だけに浮かんだそれを、俺は見逃さなかったのだが。


「――! ご、ごめんなさいごめんなさいっ」


 ルーシェは手で顔を隠すようにして、必死に謝ってきた。


 いや、なぜゆえに。


 俺が首を傾げると、後ろから声が飛んでくる。


「魔族の笑みには呪いがかかっているという、人族の信じるくだらない話のせいであろう。そやつの主人は人族のようだからな」


「はあ? なんだそりゃ」


 せっかく可愛いのに。


「まあ魔族は基本的に人族基準で美しい容姿をしている。その容姿に魅了された人族が言い訳がましく述べたものが広がったのではないか。……つくづくくだらん」


 ため息と共に言うメツ子に同意せざるをえない。


 ようするにルーシェは笑顔を見せたとわかったら反射的に防衛反応をとってしまうくらい、人に折檻されてきたってことか。

 ……ひでえなー。


「つーかこの世界だと人族って魔族より上なの?」


「およそ三千年前までは魔族のほうが上だったな」


「おーさすが数千年生きた竜。歴史語らせたら便利だな」


「……ときどき感じるが、貴様我をなんだと思ってるのだ?」


 全裸トイレ。とは言わない。


「ん? 三千年前までって、そこでなんかあったってことか?」


「都合の悪いことには答えんのか……まあいい。三千年前に、人族の傑出した戦士――“勇者”によって魔族の王――“魔王”が滅ぼされた」


「お」


 勇者と魔王ときましたよ。

 ここに来て王道じゃーん。

 まあもう過去のことらしいけど、その単語が出てくるとわけもなく興奮するね。


 と、にわかにテンションあがっていた俺に。



「まあ実質魔王倒したのは勇者に同行していた我なんだがな」



 さらりと。

 そんなぶっちゃけたことを突っ込んできた。


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