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15 奴隷エルフの説得

 さてさて。


 魔族の娘――まあ俺の認識では魔族=エルフで、しかもおっさんとのあの感じでは奴隷っぽかったので、念願の奴隷エルフキタコレ! ――というのはともかく。


 その奴隷エルフ少女だが、おかっぱおっさんと愉快な騎士たちに置いていかれ、首に鎖のついたまま、今も俺らの目の前に転がっている。


 ……っていうか、おっさんの八つ当たり以降ぴくりとも動いてないけど大丈夫なのかこれ。


 一応『全知』を使ってステータスを確かめてみる。


――――――――――――――


名前:ルーシェ

種族:魔族

性別:女

LV:23

HP:22/243

MP:353/466

筋力:51

耐久:56

魔耐:421

敏捷:54

器用:101


スキル

『魔力強化LV3』MPと魔耐を強化する。

『ヒールLV7』自分以外の生物の傷を癒す。

『ウインドアローLV6』一本の風の矢を生みだし、放つ。

『エアロリフトLV3』触れることで対象を風の力で動かす。

『真理の魔眼LV7』ステータス異常耐性LV4以下の対象の虚構を解除する。《天来器》《神遺物》を発見、分析する。


――――――――――――――


 ……ふむ。


 結構スキル覚えてるな。

 普通、スキルレベルってこんなもんなのね。

 ……あらためて異常だったんだな俺の受け継いだスキルのスキルレベル。


 そしてかなりステータスが偏ってる気がする。

 魔法系が強いから魔族ってことか。


 肝心要のHPも、22/243と、かなり減ってはいるが、しっかりと残っている。

 ちゃんと生きてはいるらしい。


 ってことはまあ、軽く意識失ってるか、弱ってて動けないだけっぽいな。


「つーかルーシェっていうのか」


 なかなかいい名前じゃん。いかにもファンタジーのエルフっぽくて。

 いやまあファンタジーのエルフっぽい名前って謎だけど。


 などと考えつつ、ルーシェルーシェと何度か名前を呟いていると。


「…………ん」


 ルーシェの長い耳がぴくりと動き、やがてのろのろと顔をあげた。


 そうしてきょろきょろと辺りを見回し、俺らを見つけた瞬間。


「ひっ――」


 それはもう超絶わかりやすくどん引きした。

 腰が抜けているのか、座ったまま後退った。

 唇を震わせ、歯を鳴らして、涙を浮かべた。


 ……うーわ。


 これはおかっぱおっさんに殴られてたときの比じゃないわ。


 ――殺される、絶対殺される、むしろもう殺されてる……! って心の声が聞こえてきそうな勢い。


 まあ逆の立場で想像したら理解できなくもないけど。


 それにしてもひでーな……。

 こんなの、コミュニケーション取りづらすぎだろ。

 

 なんて思っているあいだに、俺の隣に立っていたメツ子がずいと一歩前に出て。


「ふ――恐怖するか魔族の娘……」


 さっきおかっぱおっさんたちを脅したのと同じような表情と態度で、エルフ少女ルーシェに迫る。


「泣くがいい、叫ぶがいい、己が命を請うがいい!」


「ひっ……ぇっ……」


 さらに後退ろうと地面についた手が震え、バランスを崩して倒れた彼女に、メツ子はわざわざ顔を寄せて言った。



「それでも我が貴様に与えるのは――絶望だ」



「――――――――」


「あ」


 ルーシェの股間部分の布にできた染み。

 それがゆっくりじんわりと広がっていく。


 恐怖が限界だったのだろう。

 ……そしてたぶん膀胱も限界だったんだね。

 

 うんうんあるある。

 人間――じゃないけど、誰しもそういう経験あるよ。

 

 トイレが近かったのにうっかりびっくりしたり、怖かったり、泣いたりするとついね。


 ――心中お察し申し上げます。 


 俺はエルフ少女に心の中だけで合掌し、


「ふ、恐怖に失禁したか。惨めだな。だが、そんな貴様にも――」


「だが、じゃねーっつーの」


 死体に鞭打つアホメツ子さんの話を無理矢理遮り、ため息と共に言う。


「お前がこの子をどんだけ責められるんだよ。モンスターに乱入されて、トイレちゃんとできなかったくせに」


「――なっ」


 威厳もくそもなく。

 一転してかああっと顔を赤くするメツ子に、俺は囃し立てるように続ける。


「しかも俺に全裸見られたくせにー、やーいやーい全裸トイレー」


「き――貴様ぁぁ!!」


「貴様じゃねーよ、何様だよお前は」


「そんなもの、世界を統べし“終焉の滅竜”に決まって――」


「決まってない。だってお前今力ないし。その力全部俺が持ってるし」


 さらりと俺がぶっちゃけると、ルーシェが驚いたようにこちらを向いた。


「あ、やっぱ知らなかったか。まあその『真実の魔眼』とかじゃ、こっちのステータスまでは見れないっぽいもんな。そうなんだよ、こいつ自分で俺召喚して、力奪われてやんの。アホだよな」


 指さす俺を恨みがましげに見つめるメツ子さん。


「ぐ……なぜ邪魔をする……! 今、我がせっかくこの者を懐柔しようとしていたのに――」


「懐柔ぅ!? 脅して従わせるの間違いだろ?」


「む…………その二つになにか違いがあるのか?」


 あくまで不満げに、けれどそこはかとなく戸惑ったように首を傾げる元世界最強竜さん。


 ……ダメだこいつ早くなんとかしないと。


「いやまあ……ついこの前まで人じゃなくて竜で、しかも世界を統べてて、異世界人召喚してまで力を求める最強馬鹿のお前にはわからんと思うけどさ」


「ぁあっ? 今貴様なんと言った!?」


「あーともかく、強かったお前にはわからんと思うけど、どんな弱い者も今を精一杯生きてんの。必死に弱い自分を鼓舞して。わかる?」


「そんなことは……当然であろう」


「その当然がわかってないから、この状況でこの子脅しちゃうんだけどな……。あーまあいいわ今その話は。とりあえず俺と交渉役変われ」


「…………なんだその態度は……せっかく我が……」


 メツ子はぶつくさ言いながらも、ルーシェから離れ、大人しく俺の後ろに下がった。


 さて仕切り直し。


「えーと、まあ、今こいつも言いかけてたとおり、実は君に――あー、その前にスキルで名前知ってるから名前呼んでいいか?」


 こわごわとうなずくエルフ少女さん。

 首元の鎖がいちいちチャリチャリ鳴るのが痛ましい。


「んじゃルーシェ。――ちょっとだけ動かないでもらえるか」


「……っ」


 できるだけゆっくり近づいたにもかかわらず、かわいそうなくらいびくりと反応し、怯えるルーシェ。


「いやいやなんもしないなんもしない」


 と言ったところで効果があるわけもなく。


 ……こりゃ近づきすぎるとダメだな。


 仕方なく、俺はルーシェから伸びた鎖を拾うと、彼女がなにかリアクションを取る前に、その半ば辺りを両手で持って。


「よっと」


 軽くちぎった。

 こう、紙とかを引き裂くような感じで。


 ……ま、これくらいならたいしたMP消費にならないだろたぶん。


「――――」


 呆気にとられたように目を見開くルーシェに、


「本当はもっと首に近いところ……つーかその首輪ごと切ってやりたいんだけどなー。まあそれはもうちょい俺らに慣れたあとでってことで」


 そんなことを言いつつ、俺は頭をぽりぽりとかく。


 ……これで多少緊張もほぐれたかな。


 ほぐれてくれ。


「ともかくこのとおり力はあるんだが、脅すつもりはまったくない。そしてその上で頼みたいことがある」


 俺がそう言うと、


「……脅したほうが早いのに」


 メツ子がぼそっと呟いたが、無視して続ける。


「俺らを最寄りの街――アグエルだっけ? まで、案内してくれないか?」


 なるべくゆっくり、優しく聞こえるように尋ねると。


「…………」


 ルーシェは困ったような戸惑ったような、複雑な表情を浮かべた。


「ん? どうした?」


 手探りするような、少しわざとらしいくらいの訊き方。

 

 緩慢な動きのルーシェは、俺をちらちらと伺うように見ながら、震える唇を動かす。


「…………命令、では……ないのですか?」


 よく耳を澄まさないと聞こえないような小さな声。


 ――街まで案内せよという命令じゃないのか、って?


 それは。

 そんなことを困惑するように尋ねてくるということは。


 普段、頼みという言葉を使われることがないかのようで。

 常日頃、本来なら頼まれるようなことも全部命令されていたということで――。


「おい……」


 後ろからメツ子に急かされるように言われて、俺は意識を目の前のルーシェに戻す。


「――もちろん。嫌なら断っていいし、それで俺らがルーシェになにかすることはない。絶対に」


 あ、やべ。

 ちょっと強めに言っちゃった気がする。


 なんかこう、いろいろともやったものを気持ちに込めてしまった。


 いかんいかん。


「まあ、と言っても、ルーシェもこっから一人で街帰るってなったら、大変じゃーん? モンスターとかいるしさ。ほら、さっきの俺の力見てもらったらわかると思うけど、そこら辺は安心できるぜー?」


 ことさらへらへらと言ったら、ルーシェはうつむいてしまった。

 あらら。

 どうしよ、と思った矢先。


「……それ元は我の力だがな」

 

 メツ子がふてくされたように言ってきたので、俺はここぞとばかりに乗っかる。


「誰かさんがやらかしてくれたおかげで今は俺の力だけどなー」


「貴様が我の力をよこせとか言ったからだろう!?」


「お前がなんでも願い叶えてやるって言ったからじゃーん。ほれほれ、悔しかったら奪い返してみればー?」


「ぅぐぐ……っ」


 拳を握りしめ、悔しそうにする元最強竜さんを、俺は見ていなかった。


 見ているのはうつむくエルフ少女。


 さあこれでどうだ――。


 やけにゆっくりと流れる時間の中で、ようやく顔をあげてくれたルーシェは、まだ怯えの残る表情で――


「わかり……ました。案内、させてください」


 しっかりとうなずいてくれた。


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