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14 騎士の一分……とかなかった

「……あー」

 

 なんでか全然わからんけどバレてるっぽい。


 うわーめんどくさー……と思った俺を尻目に。


 おかっぱおっさんは、わざわざ馬を下りると、エルフ少女を思いきり殴った。


「――ぁっ」


 ジャララッと鎖の音をさせながら、地面に倒れるエルフ少女に、おっさんはそれはもう興奮しながら言った。


「う、う、嘘をつくな!! アレのどこが“終焉の滅竜”だと言うのだ、ぁあ!?」


 髪の毛をひっぱり、わざわざ顔をあげさせて言うおっさんに、エルフ少女は苦しげに答える。


「う……嘘では……ありません……あの少女の下腹部に、《神遺物》……『永久竜晶』が“視える”のです……『永久竜晶』は世界にたった一つ――“終焉の滅竜”がその身に宿したものしか存在しません……」


「ト、“トガリ耳”の分際で口答えするなぁあ!!」


「――ぁぅっ」


 蹴り飛ばされ、転がるエルフ少女は、鎖に引っぱられ、再度うめく。


 うーわ……自分で訊いといて口答えすんなとか言うおっさんの理不尽ぶりマジハンパない。

 もちろんおっさんにそんな自覚はないので、無茶は続く。


「そうか貴様わかったぞ! 虚言で余を騙し、解放されようとしているのだなぁ!?」


「そ……そんな……わたしは……」


「ぇえい、黙れ黙れ黙れ!!」


 気が違ったように蹴りまくるおっさん。

 ……なんかちょっとさすがにイライラしてくるな。


 そう思ったのは俺だけではなかったらしく。

 かたわらの騎士が遠慮がちながらおっさんに話しかけた。


「――侯爵閣下。そやつは奴隷魔族の中でもことさらよい“魔眼”を持つ者です。使い潰すには……」


「うるさい!!」


 あーもう聞く耳持ってないのね。

 なら――と考えかけたそのときだった。



「――くっくっくっく」



 俺の、すぐ後ろで。



「はーはっはっはっはっは!!」



 急にメツ子が高笑いをし始めた。

 ……すげえ。

 すげえテンプレっぽい高笑いを!


 あまりにテンプレっぽかったせいか、あるは別の理由か。


 俺を含めたこの場にいるすべての人間の注目を集めたメツ子は、これまでの数日で見たことのない嗜虐的な笑みを浮かべ、



「相も変わらず、愚劣極まりないな貴様ら人族は」



 そんなことをのたまった。

 

 しかもなんか片手で前髪をかきあげるとかいう芝居っぽい仕草つきで。



 ――お漏らしメツ子ちゃんどうした!?



 と思ったのはどうやら俺だけらしく、あっという間にその場の空気を支配したメツ子は、ゆっくりと下腹部に手を当てて、そこに淡い光を灯らせる。


 瞬間、騎士達がいっせいにざわめいた。



「な――!」


「あ……あの、光は…………!」


「まさか……本当に……」


「《神遺物》――『永久竜晶』!?」



 乗っている馬まで気圧され、騒然とする中。


 メツ子は一歩、二歩とゆっくり前へ歩み出て。


 ガクガクと足を震わせるおっさんの前に立つと。



「我こそは“終焉の滅竜”――汝らが世界に、終わりを告げる者だ」



 凄絶な笑み。


 矮小なものへの慈悲すら滲む、圧倒的強者の態度。


 それらを目の当たりにしたおっさんは。


「う――うわああああああああっ!!」


 もつれそうになる足で懸命に動かし、馬に乗るというよりしがみつく体勢で、こちらに背を向け、一目散に逃げ出した。


「こ……侯爵閣下! ――――くっ、退くぞ!」


 勝手に逃げてしまったおっさんを仕方なく追うような形で、側近っぽい騎士が残りの騎士たちに退却命令を出す。


 騎士達はその指示を待ってましたとばかりに、隊列も組まず、不格好に逃げていった。



 ――こうして俺のこの世界での人間との初遭遇は終わったのであった――完。



 ではなく。


「……ふん、相変わらずあんな小物がのさばっているとは。つくづく人族は愚かしいな」


 そんなことを言いながら、ジト目で騎士達の後ろ姿を追うメツ子は、すでに普段のメツ子に戻っていて。


 俺はため息と共にメツ子に言う。


「おいおい……あいつら追い払ったら街行けないじゃん」


 せっかく道案内頼もうと思ってたのに。


 おっさんたちは当然街から来ている。

 であれば、その来た道を戻るだけで街まで辿りつけるはずだ。


 そのためだけにいろいろ我慢して友好的な振る舞いをしてたのに……。 


 そんな俺の愚痴に。


「はあ? 奴らに街まで案内する手段などあるわけがないだろう。ロウラシスの幻魔光はそれほど甘くはない」


 メツ子はさも当たり前のようにそう答えて。


「は? じゃあそもそも――」


 どうやってここまで来たんだよ。

 そう続ける前に、俺はおっさんたちが盛大な忘れ物をしていったことに気づく。


 すでにその存在に気づいていたらしいメツ子は、軽く首を振って、地面に転がるボロ布――倒れるエルフ少女を目だけで示して。



「こやつ……魔族の娘のスキルを利用したに決まっている」


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