13 騎士との遭遇と
「おー人間!」
思わず言っちゃったわ。
自分でもどうかと思う言葉口に出しちゃったわ。
おー人間! て。
まあいるとは思ってた。
思ってたけどさ。
なにせ俺、召喚されてすぐ目の前に世界最強の竜だったじゃん?
次に目を開いたら絶世の美少女(竜)と赤竜――ドライグで、それ以降はずーっとモンスターと戦ってたわけですよ。
都合数日普通の人間と会っていなかったわけで、新鮮に感じないわけがない。
しかもぱっと見たところ20人くらいはいそう。
みんな馬に乗って、甲冑姿で、ザ・中世西洋の騎士って感じ。
「いやーどうもどうも」
そんな挨拶をしつつ、俺が片手をあげて近づいていくと。
「――」
先頭の騎士二人に、思いきり馬上から槍を突きつけられた。
「……あれ?」
警戒されてる?
というか、ザ・騎士さんたち、道なき道を進んできたせいか、あるいはここまでのモンスターとの戦いのせいか――結構あからさまにピリピリしてらっしゃる?
いやいや俺も人間人間。ちょっと世界最強の竜の力持っちゃってるけど。
危なくないですよー仲間ですよーのアピールのために、両手を軽く振っていると、騎士さんの表情が余計に強ばり、武器を持つ手にも力がこもって――
「……待て」
先頭の騎士二人をかきわけるような形で。
なんかやたらと鎧にゴテゴテと装飾品をつけた、一目で偉そうだとわかるおかっぱ頭の――いや装飾品つける余裕あるなら兜かぶれよ――おっさんが出てきた。
「ここからは余が話そう。おまえらは少し下がっておれ」
「「はっ」」
背後の騎士達が綺麗に敬礼? なんか武器を身によせていっせいに返事をしたので、それだけでおっさんが騎士達の上司だというのがわかる。
ついでに無駄にいばりちらしてて、部下にも無茶ぶりして、陰でボロクソに叩かれてる感が声と話し方に出ている。
で。
そのおかっぱおっさんは、馬の上から俺たちをじろじろと睥睨すると、つまらなさそうに言った。
「貴様らなぜこのような場所におる。手早く理由を申せ」
…………うわー。
すげーうざいわー。
俺らが武器とかもってなくて、格好もボロくて絶対立場でも力でも自分は負けないって確信込めてる話し方がすごいうざい。どうしよう。
でもせっかくの人間だし、念願のモンスター以外の生物だし。
俺は仕方なく会話を続けようとして。
「む。待て貴様。その身につけているいかにも悪趣味な服には見覚えがあるぞ」
「え……?」
「ぅむふー、間違いない。余は一度見たものは忘れないからな。そのダサい服はアウレルヒルの都で見たものが着ていたのと相違あるまい」
俺の服……学校の制服とまったく同じものを着ていた?
「もっとも、そやつらは我ら尊きグランダリム聖王国の公用語どころか、人の言葉を話せず理解できない、人の皮を被ったヒトモドキであったがな」
むふーと、気持ち悪く息を吐きだし、なぜか偉そうなおかっぱおじさん。
その気持ち悪さはしかし、話された内容にすべて吹っ飛ぶ。
――人の言葉を話せず理解できないヒトモドキ。
――俺と同じ制服を身につけている。
「それって……もしかするともしかして――うちの学校の連中もこっちに来てる可能性があるってことか?」
もしそうだとしたら。
もしそうだとしたら俺は――
…………特に……関係ない、か?
自慢じゃないが俺は元の世界で人間関係らしい人間関係を特に築いていない。
だから、「おい此方俺だよ俺! 同じクラスの○○!」とか急に言われても、「おお! 同じクラスの! …………誰だっけ?」とか普通になりそう。
っていうかなるね。なる。間違いない。
「おお、○○じゃん!」ってなる可能性もなくはないが「で?」って続きそう。
俺以外の異世界人がいるっていう事実自体は興味深いし、こっちに運悪く――運良くきてしまったやつが誰なのかまったく気にならないと言えば嘘になるが、ぶっちゃけそこまで重要じゃない。
ので、後回しにする。
とりあえずアウレルヒルの都とかいう場所で見かけたのね。
おっけおっけ。もし覚えてたらいつか行くわ。
「で、おっさんは――」
アグエルの街まで俺たちを案内してくれんの? ――そう聞き終える前に。
「――アウグス侯爵閣下!」
背後に控えていた騎士の一人が、慌てたようにおかっぱおっさんの下に駆け寄ってきた。
っていうかおっさん侯爵なのかよ。マジかよ。
公候伯子男だから、上から2番目に偉い貴族の階級の侯爵?
おかっぱだからか? 奇抜な髪型で重用されちゃったの?
などと適当なことを考えていたら、耳打ちする騎士にはじめは煩わしそうな顔をしていたおっさんもといアウグス侯爵閣下おっさんの顔色がみるみる変わっていった。
「ま、まことであるのかっ!?」
おっさん唾とばすなよ。
と、言いたくなった俺の前で。
「つ、連れてこい! 直接確かめさせるのだ!」
そうおっさんに急きたてられ、先ほどの耳打ちしていた騎士が、慌てて手にしていた鎖を引っぱる。
すると、鎖の先にボロい布……じゃない。
ボロボロの服を着て、首に鎖を巻かれた耳の長い――エルフっぽい少女が現れた。
「…………」
少女は鎧どころかまともな靴すら履いておらず、折れそうな細い腕に枷を嵌められている。
肌は薄汚れていて、長いブロンドも縮れ、唇もカサカサ。
いかにも隷属させられているといった風体で、さすがの俺も眉を顰めざるをえない。
……綺麗にしていれば、誰もが振り返るような美少女に見えるのに。
だが、それ以上に目を引くのは、彼女の美しい碧玉の瞳。
怯えた表情の中で、妙に爛々と光る大きな瞳が。
俺――ではなく、俺の後ろにいたメツ子にまっすぐ向けられていて。
少女は涙さえ浮かべ、受け入れたくない事実を懸命に呑み込むようにして、その言葉を口にした。
「――間違い、ありま、せん……彼女が、彼女こそが――世界の敵、“終焉の滅竜”です」
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