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12 ついに遭遇

 それから数日ほど経って。


“ほど”というのは、正確な時間がわからず、だいたいメツ子の消耗具合を見てキャンプ→翌日という換算をしていたからなのだが――ともかく何回かの休息を挟んで《深淵の森》をうろつき続けた。


 なにせ森の中は道がなく、見た目もほとんど変わらない。

 しかもどうやら生えている木――ロウラシスの特性で、一帯を焼き尽くしたり凍らせたりしても、何時間かで元の状態に戻るらしい。


 だから木になにか目印をつけて同じ場所をぐるぐると廻るの避けるということもできない。


 まさに迷宮の森。


 普通の人間なら絶望し、気が狂っても仕方がないかもしれないのだが――


「いやーめっちゃ楽しいわー」


 ありがたいことに今の俺は普通の人間とちょっと違っていた。


 今日も今日とてモンスター狩りとレベルアップに精を出す。

 すでにレベルは50を超え、ステータスもぐんぐんあがっている。


 相変わらずレベル上げは超楽だし、楽にもかかわらずめっちゃ充実してるのがたまらない。


「本当に貴様は生き生きとモンスターを倒すな……」


 そう呆れたように言うメツ子も、俺がモンスターを倒すたびに、「こいつはヘルハウンドの……LV47くらいか?」などと訊いてきたりして、どうやらスキル『全知』の一部を習得し直そうとしたりしているらしい。


 数日前までの鬱々とした感じはやや和らいで、それなりに前向きになっている気がする。


 ちなみに服装も上半身は俺の制服のブレザーを身につけ(ボタンはすべてきっちり留めている)、下半身は元々纏っていた布をスカートのように巻いていて(動きやすさを重視して短め)、変化させている。


 なんかこう、布一枚の頃に比べると、神秘さが減じた反面、女の子らしくなっているような気がしなくもない。

 

 だからまあなんというか。


「いやーなんでも変わるもんだな」


「……? モンスターの顔ぶれは変わらんぞ」


「あーまあそこはな。つーかずっと森にいるし、さすがにこれ以上は変わらないだろ」


「そうであろうな。我が知る限りのモンスターはすでに出そろった」


「この充実した日々の中で唯一そこだけだなー、気になるのは」


「とはいえ、あくまで我が知る限りの話であるし、まだ遭遇していないモンスターがいないとも知れんがな」


「え、なにそれ。もしかしてメタルなスライムとか、はぐれなメタルとか、そういうのも居ちゃったりすんの?」


 あ、やばい。想像しただけでテンションあがってきた。


「……はあ? 貴様の話はときどきわけのわからん単語が――ってこら、歩む速度を速めるな!」


 メツ子の声を背に、俺はがしがし先に進む。


 ここ数日でモンスターの顔ぶれが固定されたのは事実だ。

 そして固定されているからこそ、いろいろと試すことができた。


 たとえばパンチとキックではどれくらいのMP消費差があるのか。

 叩くのと拳では?

 相手の勢いを利用したカウンター、関節を極めるなどのややテクニカルな攻撃では?

 攻撃を弾くのと避けるのとで消費率の違いはどれだけなのか――などなど。


 すぐ近くで見ているメツ子が首を傾げ、眉を顰めるようなことを、レベル上げがてらの戦闘でひたすらにトライし続けた結果、だいたい次のような傾向が見てとれた。



 拳より蹴りのほうが消費は大きい。

 叩くより拳のほうが消費は大きい。

 カウンターは蹴りと消費はほとんど変わらないが、ダメージはより大きそう。

 間接極めは非常に消費効率がいい。

 弾くのと避けるのとでは相手が大きければ大きいほど避けたほうが消費は小さい。

 ヘルハウンドの攻撃くらいであれば、弾いたほうが消費が小さい場合がある。

 ブルーウィスプの氷魔法は避けたほうがはるかに消費が小さい。

 というか魔法はたぶん喰らうとかなりMPを消費する。



 といった感じだ。


 まあ以前あげたカロリー消費説とだいたい符合している。


 間接極めはおそらく器用さ依存ゆえの消費MPの少なさだと思われる。


 まあモンスターの力の高さを考えれば力もある程度必要だが、たとえばビッググリズリーなどはこの方法でほぼMPを消費せずに倒せたりする。


 やはりMP節約を考えるのであれば、器用さ


 魔法を喰らうとMPがかなり減るというのは納得がいくようないかないような。


 ちなみに、超魔法の手加減は今のところ不可能で、魔法に関しては得意な種族――メツ子に訊いたら〈魔族〉とかいうのが得意らしいが――に習った方がいいらしい。

 

 どこにいるんだよっていう話だが。


「つーかその前に街だよなー」


《深淵の森》の近くには、“最果ての街”アグエルというのがあるらしい。

“最果ての街”というのはこの世界の全種族にとってのラスボス“終焉の滅竜”が住まう地に近いかららしい。

 

 まあ今はただの“全裸でトイレ見られ子”ですけどね。


「……おい、貴様今我を見てなにか失礼なことを考えなかったか?」


「メツ子って妙なところ鋭いよな」


 竜の勘?

 なにそれ欲しい。


 と、冗談はさておき。


 俺は疲れないし、トイレや食事も必要としないっぽいので今のところ街を使わなくとも特に不便はないが、ほぼ人間のメツ子は違う。


 本人は「別に困らない」と言い張っているが、どこかで限界がくる気がする。


 あと俺も純粋に異世界の街って興味あるしね。


 なので、ある程度満足したら超跳躍で森をぽーんと越えていこう――と思っていたが、MP消費の大きさと無意味に目立つデメリットを考えて今のところ却下している。


 全力跳躍とかMPすげえ消費しそうなんだよなあ……


 実際、最初のMP切れ起こした原因になってるし。

 ちょうどMP切れたところで未知のなにかに襲われるとか目も当てられない。


 あくまで理想はレベル上げつつ適当に歩き続けた先に辿り着くことだ――とか考えていたら。


『全知』の敵察知になにか引っかかって、俺は足を止める。

 

「――ん?」


 そうしてつられるように止まったメツ子が、訝しげに訊いてきた。


「……どうした?」


 モンスターに遭遇すると同時に足を止めるのは珍しいことじゃない。

 

 だからメツ子が訊いたのは俺が「んん?」という顔をしていたからだろう。

 

 いやそりゃ「んん?」ともなる。


『全知』が接近を知らせるそれは、今まで遭遇したモンスターではないと伝えていたからだ。


 じゃあなんだよ、と言いたいが、姿を見るまではわからない。


 これはまさか、マジでメタルなんとかか――!?

 

 などとテンションがあがったのは、一瞬だけで。


 やがて現れたのは――



 どう見ても人間様御一行だった。


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