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10/40

10 食べたそのあとは

日間異世界ファンタジーで20位、総合でも68位にランクインしていたようです……

ブクマ、評価本当にありがとうございます!

モチベが上がると更新が捗る!

 当たり前と言えば当たり前だが、空腹でもHPは減るものらしい。


 その場合、腹を満たせさえすれば回復するのも道理で。


「お、三桁まで戻ったなHP」

 

 結局ヘルハウンドをまるっと一頭分食べたメツ子は、そこで限界とばかりに手を止め、深々とため息を吐いて言う。


「………………数千年ぶりに、本気で死ぬかと思った」


 元世界最強の竜、万感の想いを込めての呟きである。


「よかったじゃん」


「……なにがよいものか」


 ジトっと睨みつけられ、俺は軽く肩をすくめてみせる。


「いやいや、どんな感情でも大事にしないとダメだぜ? 死ぬような想いをするからこそ助かったときのありがたさもひとしおなわけだし」


「…………」


「まあ俺はそれでもそんな想い味わいたくないけど」


「そうだろうな!」


 勢いよく突っ込んできたメツ子は、どうやらすっかり回復したらしい。


 メツ子のステータスを見る限り、まだ全回復とまではいかないが、それこそ死の危機を回避できて安心しているのだろう。

 俺はついでに自分のステータスを確認し、HPがいつのまにか全快近くまできていることを確認する。


「HPって、休んでるだけでも回復するもんなんだな」


「……当たり前だ」


「んじゃ、せっかく火も起こしたし、今日はこのままここで休むか。そろそろ日も落ちてきそうな感じだし」


 いや日照時間とか知らんからわからんけど。


 俺はメツ子の返事も待たずその場でごろりと横になる。

 ぶっちゃけ疲れていないが、寝転がると落ち着く。


 俺のそんな様子を見て、メツ子はなにか言いたげにしてからそっぽを向いた。


「……ふん……好きにするがいい」


 ……あーたぶんこれはメツ子のこと考えて休もうって言ったのバレてるっぽいな。

 ついでに自分のお荷物感意識して気まずいんだろうな。


 ――ま、いっか。

 気にしてもどうなるものでもないし。


 俺はあっさりそう割り切ると、


「なあ、メツ子ってさ――」

 

 話を振ろうとして。


「…………!」


 突然ぶるりと身震いしたメツ子に、まばたきをする。


 なにいまの。

 竜独自のなにか? 


 と思ったけど。

 

「――、――」


 そのあとメツ子が無性にそわそわとしだし、やたらと周囲を見まわしていることで、すべてを察した。

 そして率直に言った。


「ああ、おしっこ?」


 食ったら出す。これは大自然の掟である。


 それは至極当然のことで、別に他意はなかったのだが。


「ば――ば、バカか貴様!!」


 顔を真っ赤にしてそう叫んだメツ子は、けれどすぐに「うっ」という表情をして、下腹部を押さえようとしたので、バレバレである。


「なんだよ、うんこもしたいの? 早く行ってこいよ」


 どうせここら辺なら人目もないだろうし。

 遮蔽物はいくらでもある。


「こ、こ、このっ……」


 冷静に考えると、この銀髪美少女が催して大自然の下で用を足すというのは、なかなかになかなかだが、しょうがない。

 だって生理現象だもの。


「大丈夫だ。俺はアイドルうんちしない派じゃないし、女の子の用足す姿で興奮する変態でもないから覗かない」


 ドヤ顔でうなずいて見せるが、この発言自体がすでに変態な気がしないでもない。

 ちなみに、そこら辺の常識がないメツ子ちゃんにそのツッコミは不可能である。

 ……あ、いや、元々この姿はとれてたらしいからいけるのか?


 悩む俺を尻目に、怒りか恥辱かに限界まで顔を赤くするメツ子は、それでも襲い来る便意には耐え難かったらしく、無言でそそくさと立ち上がるとやや早足で木陰へ向かい、


「あー待て待て。一応聞いておくけど――やりかたは大丈夫か?」


「――っ」


 制服の上着を投げつけられた。


 なんだよせっかく寒いと思ってかけてやったのに。


「……ああ、トイレするのに邪魔か」


 なるほど納得。


 俺がそんなことを思っている間に、メツ子の足音はどんどん遠ざかる。

 おいおいどこまで行くんだよ――と思ったが、まあ確かに近くじゃできなさそうだ。 


 そのまましばらく薪が燃えるのを見ていた俺は、ふと気づく。


 ……このタイミングでモンスターが現れたらどうなるんだろ?


 つーか足音が聞こえなくなるくらい離れたらやばくね?

 

 いやいやまさかそんな最悪起こるわけが――と思う間もなく。


「――――ひっ」


 耳を澄ませた瞬間、その悲鳴にも似た声が耳に届いて。

 俺は『全知』を使いながら駆け出す。


 思った通りメツ子はトイレをするためだけにしてはかなり遠くまで行っていたらしい。


 もちろんそれは生身の人間ならという話で、俺にとっては一瞬の距離だ。


「あーマンティコアかー」


 そんなことを呟きながら現場に駆けつけた俺は。


 マンティコアを前に、なぜか薄衣一枚すら身に纏っていない――つまるところ生まれたままの姿で座り込んでいるメツ子に動きを止める。


 陶器のような白い肌に落ちる美しい銀髪。

 抱きしめれば折れてしまいそうな細身なのに、押さえた腕からあふれんばかりの乳。

 巨大な獣を前に、驚き怯えたような表情を浮かべた彼女は、腰を抜かしたように濡れ落ち葉の上に直接ぺたりと座り込んでいる姿がこの上なく背徳的で――


「マジかよ最高か!」


 思わず叫んだ。

 ガッツポーズした。


 あれ? おかしいな。

 ちょっと自分がわからない。


 ともあれ、最高に空気を読んだマンティコアを軽くワンパンで沈めた俺は、再度制服の上着をかけてやってから、つやつやした笑顔でメツ子に手を差し出す。


「いやーすげータイミングで襲われたなお前。ウケるわー」


 というか全裸って。

 あれだよな。

 たまにいる、服全部脱がないとトイレできないタイプ。

 マジ笑えるわー。


「ああでもあれだな。してる最中とかする前じゃなくてよかったな」


 そんなんだったら絶対漏らしてるし。

 大惨事だし。


 さすがの俺もその状況でここに来てたら……それはそれでありですね。


 真剣に悩む俺に、ずっと顔を俯かせていたメツ子は顔面狙ってパンチを放ってきたが、そんなものを喰らう俺ではない。

 というか喰らっても痛くもなんともない。


「ふはははは遅いわぬるいわ」


「…………ぅぅぅっ」


 ひょいひょい避ける俺に、メツ子は悔しそうに恨めしそうに恥ずかしそうに歯を食いしばり、その感情を誤魔化すように拳を放ち続けるのだった。



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