ゴブリン砦に行こう(失敗編)
クロウの居る場面ではクロウの一人称視点。居ない場面では三人称視点。
次回更新は恐らく少し間が空きます。1週間~10日くらい?
問7.1600年に起きた、徳川家の覇権を決定づけることとなった戦いをなんと言いますか?
回答.真珠湾攻撃
「まだ国内に対抗勢力がいるのに国外に奇襲攻撃とか、主犯が徳川か豊臣かは知らんが全身凶器にも程があんだろ戦国日本」
東京都心からはかなり離れた、とある駅ビルの5階にて。パイプ椅子に腰掛け、デスクに向かい、無人の教員控室でボトル缶のコーヒーを横に置きながら生徒の答案を見ていた俺は、採点中に飛び出してきた驚愕の日本史に頭痛を堪えていた。
今は夏休みも程近い7月の半ば。期末テストは終わったが、中学高校共にやる気のある学校は、夏休み前の学力テストなんかを実施しようとする頃合いだ。
全員参加か任意参加かは学校や制度によるが、俺の職場である進学塾にわざわざ通っているような生徒は、特にその手のテストを受けに行く率が当然のごとく非常に高い。そして当然、この答案を出した生徒も数日中に学力テストに挑戦する筈なのだが、いったいどのような超時空戦国時代が全国区のテストの答案上で踊るのか。
神官戦士クロウ改め、塾講師の四之宮九郎としては不安なような見てみたいような、物凄い境界線上の気持ちが掻き立てられる。
しかし興味を持ってばかりもいられない。
この回答のままで行かれる場合、日本史の担当講師としては沽券に関わる話となってしまう。そう思い直し、必要であれば個人面談なども行うべきかと思考を進め―――
問8.徳川吉宗が行った政治改革は享保の改革であるが、その内容について主要なものを1つ記述せよ。
回答.旗本の三男坊である徳田新之助を名乗り、悪党を成敗して回ること。
「暴れん坊将軍じゃねぇか」
もしかしたらこいつ、知っててネタ書いてんじゃねぇか。
そう思いながら、答案の採点を進める夏の夜。これは少し遅くなるなと思いながら、ぬるくなったボトルコーヒーの蓋を開ける。
ホットでもアイスでもない絶妙に不味い温度になったコーヒーを呷りながら、片手間で赤ペンをスラスラと走らせる。問7と8はペケ、そこから先はマル、マル、マル……おい、他殆ど合ってるじゃないか。こいつ絶対わざと書いてたろ真珠湾とか。
「しっかしこりゃ、今晩はログイン遅れるな」
時計に目をやると、時間は既に午後9時に近い。いつもならば、既に家に着いている頃合いだ。こういう時はネットゲームで知り合っただけの関係で、連絡先も知らない相手というのはイマイチ不便である。
別にメリーとは毎日一緒に狩りをしようねなどという約束をしているわけではないし、相棒が居ない時は各々好きにソロで、或いはギルド辺りの連中と一緒に狩りに出ているわけだが。
予定と違う行動を取ってしまう場合、一言『遅れる』の旨だけでも伝えておきたいと考えてしまうのは性分か、はたまたネット依存症か。……後者ではないことを祈りたい。
「……まぁ、グダグダしててもしゃーない。ちょい気合入れて片付けるかー」
不味いコーヒーを飲みきって、蓋をしてから狙い澄ましてゴミ箱へトス。ゴミ箱の縁で弾かれたコーヒー缶が、軽い金属音と共に床に落ちた。
「…………」
どうやら俺には射手の才能は無いようである。
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さて、そうしてクロウこと四之宮九郎が、自身の職場である進学塾にて奇天烈な答案と格闘している頃。彼の相棒であるメリー・マリーは、ギルドの仲間数名と一緒にゴブリンの森へと挑んでいた。
辛うじて公平―――経験値均等割―――での狩りが出来るレベル帯だったため、メリーをリーダーとしたパーティーの人員は、蘿蔔、キトゥリノ、春竜胆といった、要は昨日に蘿蔔をギルドに入れられないかと相談したメンバーだ。
しかし、クロウと2人では厳しくて諦めたゴブリンの森ではあるが、人数が増えたからといって攻略が出来るかと言えばまた別の話である。
むしろ、ぎりぎり上級職になっている蘿蔔はまだしも、下級職の魔術師と戦士で、双方ともにネタや趣味に走ったキャラビルドのリノと竜胆は戦力としては計上しづらい。連携といった要素まで考えると、クロウと2人の時より戦力は低下していると言って良いかもしれない。
事実として敵の一団との戦闘において、戦士型のゴブリン2体をメリーが相手取り、魔術師型のゴブリン相手に蘿蔔が射撃戦を仕掛けている最中に、リノと竜胆はたった1体の戦士型ゴブリン相手に壊滅の危機に陥っていた。
特にリノは魔術師職という関係上、スタミナゲージの限界値が低い。ゲージが切れた事により動きが鈍り回避も出来ず、強烈な棍棒の一撃を受け、耐久力に著しく欠ける狐娘が地面に伏す。
「だが、その時キトゥリノの身体に秘められた力が開放される。不人気なビルドであるこの種族、このクラスの組み合わせを極めたものだけに存在するチートスキル。それが今この瞬間に発動したのだ。圧倒的と言っていいほどに上がったステータスを武器に、立ち上がったリノはゴブリン共を、」
「自前で変なナレーション入れとぅ場合違うよねぇ!?」
HP0で倒れている状態で口からノンストップで適当な妄言を垂れ流す、緊迫感と悲壮感という言葉とは一切無縁の喋る死体―――つまりゴブリンの攻撃で死亡してぶっ倒れたリノに、前線からメリーが思わずと言った様子でツッコミを向ける。
そしてそのツッコミを入れつつも、咄嗟の判断から即座にバックステップ。眼前のゴブリン2体から距離を取って、周囲に視線を走らせるメリー。
リノ、戦闘不能。竜胆、一人で戦士型ゴブリンを相手取っており、HPは既に半減以下。蘿蔔は無事ではあるが―――
「やばっ……! メリー殿、右でありますっ!!」
「―――っ!?」
周囲に視線を走らせ、ここからの立て直しを考えている間にその蘿蔔から声。慌てて右に視線を向け、防御ボタン。アバターが剣で攻撃をガードするような動きを見せる。
防御ボタンを押している間、キャラクターは移動速度が下がりスタミナ回復が止まる代わりに、向いている方向からの攻撃をガードして、スタミナ消耗と引き換えのダメージ減少が可能となる。
減少率と防御範囲、減少するスタミナなどは装備によるが、基本的には盾持ちの方が優秀だ。とはいえ盾ではなく剣でのガードでも、素で受けるのに比べるとダメージの減少量は雲泥の差である。
―――が。
「……あれ?」
何も起きない。というより、誰も居ない。加えて言うなら、何も無い。
てっきり見逃していた敵でも居て、攻撃が飛んできたのかと思っていたメリーは、思わず間の抜けた声をあげる。
しかしその声に被せるように、蘿蔔の再度の警告。
「メリー殿から見て右じゃなくて、自分から見て右ィ―――ッ!!」
「どっちやのんそれぇぇぇぇぇっ!?」
―――直後。
いつの間にかメリーをスポットしていたらしいゴブリンシャーマンの放った火球をモロに背中に食らい、大きなノックバックを食らって吹き飛び、バックステップで距離を取ったはずのゴブリン2体へと、ピンボールの玉よろしく突っ込んでいくエルフ娘。
意外にも最後まで粘った春竜胆が落ち、王都アールカンシェルまで帰還となるのはその2分後のことだった。
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「無理ですね。せめて、なむるさんかクロウさんを連れてくるべきだと思います」
最初に遭遇したゴブリンの群れ相手に呆気無く全滅し、女性パーティーがゴブリンの群れに倒されるという、これが18禁ゲームであるならばそれはここにはもう書けないような展開待ったなしの状況から10分後。
当然ながらエロい展開などあるわけなく、死体には何の反応も見せずに周辺をウロウロし始めたゴブリンら。それを見ていても仕方ないし、全員死んだ以上はどうしようもないので死に戻りして大神殿で合流しなおしてから、拠点であるギルドハウスにて全員の様子を見回して春竜胆が呟いた。
「装備の消耗もありますし、リスボンするにもタダじゃありません。私やリノはまだしも、レベルの高いお二人の場合、リスボン時にかかる経験値かお金の減少も馬鹿にならないはずです。これ以上の無策特攻は無駄かと」
ちなみにこのゲーム、死んだ場合は大神殿へと戻され、そこで蘇生され復活という形となる。その際に経験値を次のレベルまでの必要値の1%減少されるか、もしくはレベルごとに規定の金額を支払う事となる。
金が払えなければ経験値。経験値が足りなければ何も無し。システムとしてはそういうものだ。
なお、その復活の事はリスポーン、或いはリスポンと呼称される。Re Spawn、つまりは再発生を意味するこの単語は、ネットゲーム界隈で広く『死んで復活する』といった意味合いで使用されている。
「まぁ、そうねー。でもそうなると、シロちゃんのギルド加入がまだ先になっちゃうよ? どうもマスター、ゴブリン砦にログインしてはゴブリン砦でログアウトするっていう気の狂ったレベル上げやってるみたいだし」
「ギルドメンバー一覧を見るに、レベルもガリガリ上がっとぅようじゃけぇ、週明けのランキングには絶対載るわ、あの人」
そして彼らのギルドのマスターはそのリスポンをすることもなく、新マップの深層にて修験者よろしく篭っての修行を行っているらしい。
或いは戻ってきているのかもしれないが、少なくともリノ、竜胆、メリーのログイン時間にギルドメンバー一覧をチェックした範囲では、ログインしている時間帯はずっと居場所が『ゴブリン砦1F』か『ゴブリン砦2F』で固定されている。
その辺りの敵はポーションをドロップする相手も居るそうなので、そこで自給自足しているという事だろう。もしかしたら武器の耐久度面も、倒した敵からのドロップで凌いでいるのかもしれない。
まぁ、それだけならば好きにやっていてくださいで済むのだが、蘿蔔のギルド加入という要素が加わると、そうも言っていられなくなるのが現状だ。
ギルドへの新規メンバー参入の権限を持っているのはギルドマスター、或いはサブマスターのみであり、サブマスターを誰も登録していない『和風喫茶風鳴琴』では、実質その権限を持っているのが修験者モードに突入しているマスターだけなのだ。
「ギルドチャットもオフにしてるっぽいしー」
「まぁ、狩りの最中はパーティーチャットに切り替えてて、ギルドチャットは受けてないというのは普通らしいですけどね。ただ、こういう時に業務連絡の手段も無いというのは不便を感じます」
再度ギルドメンバーの一覧画面を表示しながら、マスターが未だにゴブリン砦に篭っていることを確認したリノが困ったように声をあげる。
横の竜胆はギルドチャットのオフ自体は普通の事であると擁護しつつも、すぐさまの連絡の取りようがないことには困り顔だ。
「あの、自分は無理して今すぐ加入として頂かなくても大丈夫でありますよ? このメンバーでゴブリン砦まで踏み込んで、直接マスターさんに直訴しようとかしなくても……」
「うんまぁ、陛下はまだ連絡の付けようから、そっちがマスターと遭遇した時に伝えてくれるようにお願いするっつーのも考えたし、数日待てば流石にマスターにもどこかで連絡がつくだろうけど。どうせなら早めにシロちゃんをギルドに入れてあげたいのと、マスターに会わせてみたいのとがあるかなぁ」
「ほじゃけど、このメンバーで森ぃ突破して砦に行くちゅうのは、はぁ、こんなぁどーなろーにゃ。そこんとこどげなん? リノちゃん」
「……うん、ちょっとまってね。申し訳ないけどもう少し共通語寄りでお願い」
「あ、ごめん」
申し訳なさげにリノが言った言葉に、苦笑しながらメリーが頷く。
明らかに目上の空気感を出している上に異性、かつギルドの中では比較的付き合いの少ない陛下相手ならば指摘されれば焦りもするが、年下で同性、かつ付き合いの多いリノや竜胆相手にならば、些かテンパり屋の傾向があるメリーとはいえ、方言を指摘されてもそこまで焦る事もない。
『えぇと』と前置きして、一拍置いて頭を共通語に切り替え、
「このメンバーで森を突破して砦に行こうにも、どうにもならないということかな。wikiの情報だと、森マップの後に砦の前に渓谷マップっていうのも超えないと駄目みたいだし」
「んー……メリーちゃん的にはクロさんやナムさんが居ても厳しいと思う?」
「そうだね。行けて渓谷までだと思うなぁ」
「そっかー……メリーちゃんの分析ならハズレは無いよなぁ」
『考え中』のエモーションを三三七拍子のリズムで頭上に表示させながら、リノが考え込むような唸り声を上げる。
実際のところ、ゲームの熟練度・習熟度―――総じて言えば“プレイヤースキル”で言えば、メリーはこのギルドにおいては不動の三番手であると言って良い。
視点の広さや連携における指揮能力などではクロウが上だろうが、あくまで個人技としての技量やゲームの知識量で見るならばメリーの方が上。関係としてはそういうバランスだ。
故にこの手の話において、リノにとってはメリーの意見はクロウのそれ以上に信用に足る判断材料となる。
ちなみにこの手のMMORPGにおいては装備やレベル、ステータスも重要だが、プレイヤースキルも戦力に対して非常に高い要素を占めている。MMO黎明期のゲームにおいても、攻撃のタイミングや位置取りなど、プレイヤースキルが状況を左右する事は多かった。
たかがタイミング、たかが位置取りと馬鹿にすることなかれ。例えば前衛が敵のターゲットを引きつける前に攻撃を放ち、敵の攻撃を一身に受ける事になった脆い後衛などが最終的にどうなるかは、火を見るよりも明らかであろう。
状況判断含めたプレイヤースキルというものは、レベルや装備に次ぐ―――或いはそれ以上に重要な、ゲームにおける戦力を左右する一大要素だ。
特にFPS的な要素とアクション的な要素が加わっているワールド・オブ・ファンタジアでは、通常のMMORPGよりもプレイヤースキルの寄与する割合はかなり大きくなっている。
特にFPSやアクションゲームにありがちな、センス特化型のプレイヤーであるのが風鳴琴のマスターであるのだが―――まぁ、それは今は関係ない。
「私らだけだと森すら突破できない。クロさんやナムさんが加わっても、行けて渓谷。アケミちゃんは私や竜胆よりレベル低いし、居てもあんまり戦力にはならない。陛下はどうかな?」
「頼めば手を貸してくれるとは思いますが……あの方、所属は風鳴琴ですが行動の軸となっているのは複数ギルドのプレイヤーが纏まって作っているパーティーですからね。今は新マップも出たばかりですし、こちらの都合で呼び立てるのは避けたほうが良いかと思います。最悪死なせてリスボンする羽目になった場合、私達とはレベルが違う陛下の場合、被害が冗談では済まされませんし」
「だね。んじゃ、陛下の手を借りる案は排除ーっと」
思考を取りまとめるように口を動かすリノと、それを横から補足する春竜胆。この辺りは両者ともに手慣れたもので、補足を受けたリノがあっさりと自案を撤回する。
その様子を困ったように見ながらも、『えと』や『あの』と声をかけあぐねているのは蘿蔔だ。彼女の場合は、自分のギルド所属の為にそこまでしてもらうのは申し訳ない、などと考えているのだろう。
「ああ、気にせんでええよぉ」
しかし、その様子に気付いたメリーが喉を鳴らすように笑いながら、横合いから蘿蔔に声をかける。彼女の場合は、蘿蔔よりもずっとリノや竜胆との付き合いが長く深いので、彼女らの行動心理もある程度は理解しているのであろう。
つまり―――
「あの子ら、蘿蔔さんの為っていうんもあるけど、それ以上にどうたらこうたら考えんのを楽しんどうもん。あたしもこういうゲームで試行錯誤するのは好きじゃけぇ」
「……ご迷惑ではないでありますかね?」
「まっさかぁ」
くっくっく、と笑いながら否定するメリーだが、思い出したように『あっ』と小さく声をあげる。
「ただ、蘿蔔さんがこういう試みに混ざんのが嫌じゃったら、気にせんで抜けてええんよ? 効率も何もあったもんと違うから」
「ああ、いえ。ご迷惑でなければ、自分もこういう無理難題へのチャレンジは好きでありますよ。実際、自分がメリー殿らと会ったのも、無理矢理新しい狩場へ向かった末の事でありましたし」
「ああ、せやったなぁ。……ほじゃけど実際、どがぁして砦まで行くんなら?」
「うーん、自分にも妙案はさっぱり。自分の事情は抜きにしても、一度くらい砦は見てみたいところであるのですけども」
「―――んん? ……ああああ!」
反応。
しかし、蘿蔔の言った言葉に反応したのは、彼女と話していたメリーではない。竜胆と話していたリノが、一度疑問符を吐いてから三三七拍子で頭上に電球アイコンをエモーションで表示させたのだ。
「そっかそっか、その手があった! 思いついた、思いついたよシロちゃん!」
「ど、どうしたんでありますかリノちゃん? 自分、何か変なことを言ったでありますかね!?」
「変なことっていうか、当然の心理っていうか。ちょっと大掛かりな事になるかもだけど、砦到達は悪くない確率で出来るかも」
ひひひ、と余り上品とは言えない笑い方をしたリノだが、思考を纏めるように数秒の沈黙。
それから改めて、口を開き直す。
「ただ、今も言ったけど割と大掛かりな事になりそうだし、多分クロさんの協力必須。ナムさんも居るに越したことないから、あの2人がログインしてる時がいいかな。メリーちゃん、クロさんの予定とか聞いてない? っていうか連絡先知らない?」
「うぅん、知らんよぉ。今日はなんぞ用事でもあるんか、まだログインしとらんし」
「チッ、もっと押しに押して電話番号くらい交換してるかと思ってたのに。まぁそれなら、明日また同じ時間にログインしてかなぁ。ナムさんは仕事が規則的だから予測しやすいんだけど、私はクロさんの行動パターンについてはそこまで詳しくないし……」
「いや、電話番号て……そんなもん聞かれとぅたら、あたし、緊張で鼻から心臓飛びだしてまうわぁ」
「……右からですか? 左からですか?」
「竜胆ちゃん、ツッコミどころはそこでありますか!?」
きゃいきゃいと声をあげながらの相談は適度に脱線を繰り返しつつ。
結局、『ゴブリン砦に居るマスターに直訴して、蘿蔔をギルドメンバーに入れよう大作戦』は翌日への持ち越しと相成ったのだった。
「ところで竜胆」
「はい、なんでしょうか? リノ」
「さっきから何回も『リスボン』って言ってるけど、リスボンってのはポルトガルの首都である歴史ある街のことで、死んで復活するのは『リスポン』、或いは『リスポーン』っていうんだよ。It's『P』、not『B』」
「……」
なお、ログアウト際のこの言葉によって竜胆が拗ねたため、翌日のリアルの学校でリノが機嫌を直してもらうのに苦労するのは、ゲームとは余り関係のない話であった。
■アイテム図鑑■
『エンジェルブレード』
▼雑感
適正レベル20程度で行えるクエストで入手可能な片手剣。1章時点での春竜胆の愛用武器であり、天使の羽のような装飾がされた柄が特徴。弓か剣のどちらか片方しか手に入らないイベントではあるが、イベントクリア後に課金で購入可能になる。
性能としては同レベル帯で装備可能になる店売り装備と大差なく、魔法属性が乗っていることくらいしか長所がない。
一応、物理無効タイプのエネミーにも攻撃可能になるという意味では便利な品だが、このレベル帯でそういったエネミーの数は少なく、物理無効エネミーが大挙しているダンジョンに行けるようになる頃にはもっと良い武器があるという不遇装備。
ただし見た目だけは良いため、愛用者は多い。
▼説明(ゲーム内で表示される説明書き)
イベントでご覧の通り、恋天使の少女が護身用に持っていた長剣。
ところで恋天使というのは天界から派遣され地上に来る天使の一種であるのだが、最近は天界も人手不足らしく、神様の間では男性天使の中から希望退職を募って恋天使への転職支援を行う案が本気で議論されているらしい。
マッシブで胸毛もさもさなキューピッド誕生の日は近い。