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信号機-1

だいたい1章の起承転結に絡むキャラは出揃った感じになりましょうか。

 その後、スケルトンの群れの駆逐に成功した俺達だが、なんとなく成り行きでパーティーを組んで狩りをすることになった。というより、蘿蔔さんをソロで放置しておくと普通に死にそうだったから、メリーの奴が誘いをかけたと言う方が正確か。

 ここはタフさと攻撃相性の関係から神官や戦士には人気の狩場だが、瓦礫その他の障害物で射線が通りにくく、出合い頭の遭遇戦なども起こり易いため、射手や魔術師との相性が悪いのである。

 それを伝えられた蘿蔔さんは落ち込んでいた。どうやら、あまり調べずにとりあえずやってみよう精神で銀矢買い込んで来てみたらしい。まぁ、ゲームを楽しむという意味では、それくらいの向こう見ずさがあった方が良いのかもしれないが。


 ともあれ、もともと遠距離火力が不足気味だった俺とメリーのタッグに、蘿蔔さんという火力偏重の砲台が加わった結果、敵を倒すまでの所要時間が大幅に減少したため、いつもの倍近い高効率での狩りが出来た。

 パーティーを組んだ後は経験値均等割りでの狩りだが、人数が3人に増えたことを差し引いても十分な効率と言えるだろう。特に蘿蔔さんは、狩りの途中でLv31へとレベルアップしていた。

 俺とメリーについては、今少しといったところだろう。流石にLv25~27の廃坑のスケルトン相手では効率が悪くなってきたので、新しい狩場を模索したいところだ。


 ともあれ、蘿蔔さんが持ち込んだ銀矢が尽きたのもあって、狩りは終了。戦利品の分配相談のため、俺たちはギルドハウスに出戻る事にした。

 ちなみに、ギルドハウスへの移動は王都の中心部にある不動産屋のNPCに声をかけてのワープによる移動となる。1つ1つのギルドハウスを王都内に実際に設置していたら広さがシャレにならないことになる為、個々のギルドハウスのマップを別途に作った上で、そこにワープさせられるという形になるわけだ。

 運営側はそれによりギルドハウスの数の確保と、王都のマップをゲームとして不親切にならない程度の広さに維持するという事の両立を目指しているらしい。


 で、一時的な招待設定で蘿蔔さんもギルドハウスに招き入れられるようにした上で、パーティーごとギルドハウスに転移した俺たち。純和風の屋敷の前の日本庭園にご到着、だ。


「わぁ……これはまた純和風でありますね! これって確か、課金パックで選択できる内装でありましたっけ?」

「確かそのはず。マスターが趣味で和風が良いと言って買ってきたんですよね」


 どうやら最大手腰掛けギルドに所属している、事実上ソロプレイヤーであるらしい蘿蔔さんが、物珍しげにギルドハウス内をきょろきょろと眺めている。

 その来客に目ざとく気付いたのは、いつの間にか赤が減って、黄と青の2色になってた信号機―――つまり、奥の椅子でずっとお喋りしていたらしい、ウチのギルド所属のお喋り屋(チャッター)どもだ。


「クロさん、メリーちゃん、おかえりー。その人だれー?」

「おー、ただいま。この人は野良でパーティー組んだ相手で、ドロップ品の精算に連れてきたんだよ。そっちはずっとお喋りしてたのか?」


 良く言えば気さくな、悪く言えば馴れ馴れしいノリの方が黄色い方。黄色に近い金髪はふわっふわのセミロングで、触れば実に感触が心地良さそうな癖毛であり、その間からちょこんと狐耳が飛び出している。

 その耳からも分かる通り種族はビーストだが、設定身長を低めにしているため、背丈は蘿蔔さんよりも少し大きい程度。問題は、その魔法職に向いていないビーストという種族で魔法使い(メイジ)なんぞをやっているアンチシナジーっぷりである。

 その上で主要武器は魔力に補正の付く杖系統ではなく、豪快に棍棒。より攻撃力の高いメイスも装備可能なのだが、『こっちのほうが見た目にインパクトある』とか言いながら、クソ安い棍棒をわざわざ強化しながら使っている筋金入りだ。魔法職が棍棒を振りかざし先陣きって殴りに行くという姿は、狩場なんかで無駄に人の目を集めるため、それが楽しくて仕方ないらしい。


 要はこの娘っ子、お喋り屋(チャッター)でありながらネタキャラプレイを好む、なかなか極まった性向の持ち主である。そんな彼女の名前はキトゥリノ。愛称はリノ。語源はギリシャ語で黄色を意味する言葉の一つらしい。


「アケミさんはお仕事があるとかで……私とリノは、途中で一度ご飯でログアウトしましたけど、それ以外はずっとここで喋っていました。あ、お客様、はじめまして。私は戦士(ウォーリア)の春竜胆といいます。竜胆とお呼びください」


 そして、お辞儀のモーションを使って頭を下げ、丁寧な挨拶をしたのは春竜胆。春に咲く青い花の名前をそのままキャラクターネームに持ってきたらしいのだが、俺は花には詳しくないので詳細は皆目検討もつかない。

 紺色に近い深い青色のポニーテールと、真面目さを強調するような片眼鏡。種族はヒューマンであり、ドレスアーマーとでも言うべき、身体のラインを強調するような見た目重視の鎧を纏っている。そして腰に差しているのは、これまた綺麗な装飾が評価が高いが、性能的にはいまいちと評判のイベント報酬の片手剣。


 リノのようなネタキャラプレイというわけではないが、こちらもこちらで効率を重視しない、アバターをドレスアップすることを楽しむタイプのプレイヤーだ。

 可愛い装備を集めて自分のアバターを着飾ることが楽しくて仕方ないらしく、彼女にとって狩りというのは服飾に必要な金を稼ぐためのものであり、レベルを上げるためのものではないらしい。


 ノリが良く明るいリノと、物静かで丁寧な竜胆。正反対なようでいて効率を重視しないという点では一致しているこの2人は、リアルでも親友関係であり、一緒にゲームを開始した仲らしい。

 信号機の残りの1人、赤いのことアケミについては―――これまた抜群にキャラが濃いので、後日当人が居る時に改めて言及するが、まぁこの2人の姉役のようなものである。


「はいっ! 自分は蘿蔔と申します! 春竜胆―――花言葉は『高貴』でしたか」

「あら、お恥ずかしい。花言葉までは意図せずに決めたんですけど……蘿蔔も花の名前ですよね?」

「正確には大根の別名でありますね。結構綺麗な花を咲かせるんでありますよ。花言葉は適応力や潔白を意味するものであります」


 そして竜胆と蘿蔔さんのこの会話である。花言葉とか、非常に首を突っ込むのが躊躇われる話題だ。

 と言うか現状、陛下もなむるもあと1人も居ないので、この場の男女比率がハンパない。気付いたら急激に逃げたくなる1:4の男女比である。

 ボイスチェンジャーの要領で、マイクの設定を追加課金パックで変えることで男性でも女性キャラクターを演じたり、或いはその逆も可能ではあるが、少なくともこの場の女子4名のうち3名まではリアル女性が確定している。唯一不明の蘿蔔さんも花言葉とか素で知ってるし、十中八九この場に男性プレイヤーは俺だけだろう。帰りたい。

 しかし、分配が終了していないのにこの場を離れるわけにもいかないので、とりあえずゴホンと軽く咳払いをし、注目を集めてから話を進める。


「あー、とりあえず自己紹介も良いが、配分先にやっちまおう。頭割りで良いか?」

「蘿蔔さんは銀矢を使ってまうたし―――……ましたし。そちらに多めにドロップを回したいです。あたし達はポーションを少し消費した程度ですし」

「えっ、いやいや。自分は助けて頂いたわけですし、むしろ経験値美味しかったのでドロップは全てそちらでも!!」


 そしていきなり意見の分裂。とりあえず面倒なんで頭割りで良いや派の俺と、消耗品の分だけ蘿蔔さんに多く還元したい派のメリー、あとは世話になった側だから何も要らないよ派の蘿蔔さんだ。

 とりあえず蘿蔔さんの案は流石に極端なので俺としても却下。別に殊更ケチるほどの話でもないので、メリー寄りの内容で意見を整理する。

 コンフィグ画面を開き、パーティーを組んだ時に揉めないために存在しているらしい、パーティー全体で拾ったドロップ品のログを確認。全体のドロップ数を簡単に整理し、


「んじゃ、頭割りして端数分は蘿蔔さん行きでいこう。プチレアのインゴットが3で割ったら余りが2出る数だし、2個分多く蘿蔔さんに行けば、まぁ銀矢代も結構補填できるだろ」

「んー……じゃあ、それで」

「あれ自分の意見は!?」

「遠慮が過ぎるんで却下。メリーの同意も得られたんで、多数決でこれで行きます。はい、全員パーティー内取引画面開いてー」


 パーティーを組んでの狩りの場合、拾ったドロップ品は一時的にパーティー共用のストックボックスに放り込まれる事になる。

 あとはそのドロップ品をパーティー解散前に取引画面で分配するのが、パーティー狩り後の分配形式となる。ドロップログ機能含め、レアドロップの持ち逃げ防止と、それがあった場合にもすぐに分かるようにとの意図からこの形式に落ち着いたらしい。


 渋った様子の蘿蔔さんを強引に押し切るようにして、取引終了。

 彼女はやや多めのドロップアイテムを貰うことにかなり抵抗を感じていたようだが、俺とメリーが先に取引画面を閉じてしまったことで、最後には何度もモーション機能で頭を下げながら受け取っていた。

 それを見た黄色(リノ)が、頭上にニヤニヤ笑いのエモーションを表示。


「くふふふふ、受け取ってしまいましたなぁ……。クロさんはこうして女の子に施しをして、優しくして、断れなくなった相手をギルドに引き込む女ったらしなのも知らずに……!!」

「え、えぇ!?」

「リノお前マジやめろ。根拠と事実の無い適当な妄言マジやめろ」

「はぁい。あ、シロさん、今の嘘だから安心してねー。私ら全員マスターに誘われてギルド入った感じで、別にクロさんは無関係だから」


 けらけらと笑いながら、『ごめんねー』と中身があるんだか分からない謝罪をする悪戯狐娘。こいつは毎度このノリなのだが、付き合いが少ない分だけ巻き込まれる頻度も少ないため、たまにやられると焦る。今は男女比の著しい不均衡もあるし、正直勘弁して欲しい。

 相棒であるメリーは横で喉を鳴らすようにして笑いながら傍観している。であれば青いの(竜胆)に助けを求めて視線を向けるが、


「こら、駄目ですよリノ」

「おう、もっと言ったれ竜胆!」

「初対面の方に『シロさん』など、相手の了承も取らずに渾名呼びは失礼です」


 そっちかよ。


「あ、自分は全然気にしないでありますよー。っていうか、むしろ嬉しい?」

「おっけーおっけー。じゃあシロさん改めシロちゃんも私の事を好きに呼ぶが良いー! オススメはビューティープリティーリノちゃんかな」

「鑑見ろよ」

「なんだこの美少女は!」


 脱力しながらの俺のツッコミに、律儀に部屋の片隅にある化粧棚の前に行って、頬に両手を当てて『きゃー☆』などとハシャいでいる黄色。

 ……うん、駄目だ。分かっちゃいたが相性が悪い。


「降参、無理。俺であいつを言い負かすことは無理ですんで、助けてくださいメリーさん!」

「くっくっく。はぁいはい、ちゃんとめんめしとく(叱っておく)から。駄目やよぉ、リノちゃん」

「はい、ごめんなさーい」


 ポンと音を立てて、謝罪のエモーションが頭上に浮かぶ。

 ……正直本気度が全く信用出来ない謝罪であるが、これ以上何か言っても泥沼であるというか、再戦になった場合俺がリノ相手に口で勝てる未来が見えない為、せめてもの抗議にブーイングのエモーションを出してから立ち上がる。


「それじゃ、分配も終わったし俺はそろそろログアウトするぞ。明日の準備もしないといかんし。竜胆、リノ、メリー、またな。蘿蔔さんもお疲れ様」

「あ、はい。お疲れ様でありました、クロウさん!」

「スーツにはアイロンかけるんよ? ふうたれ(格好)悪いと、笑われるよぉ」

「お前はオカンか」


 一応、最後の悪あがきとして相棒の言葉に突っ込んでから。

 俺はコンフィグ画面を開き、ログアウトボタンを押したのだった。

 


▼□▼□▼□▼□▼□▼□▼□▼□▼□▼□▼□▼□▼□▼□▼□▼□▼□▼□▼



「おつー……って、あ、遅かったや」


 ログアウト特有の現象として、光に包まれて消えていくクロウ。そこへ向かって届かない挨拶を投げたリノは、苦笑交じりに視線を銀髪エルフ(メリー)へと向け直す。


「ごめん、メリーちゃん。クロさんちょっとからかい過ぎたかな?」

「ええんよ、あの人ちゃんとした大人じゃけん、本気で怒っとぅんと違うと思うし。けど、蘿蔔さんはごめんなぁ。騒がしゅうて驚いとぅんと違う?」


 くっくっく、と喉を鳴らすような笑い声。

 それに対し、言葉を向けられた蘿蔔は少し疑問げな声を返す。ついでに頭の上にはクエスチョンマークのエモーション。

 どうやら大根の名を関するこのドワーフ娘も、メリー同様のエモーション多用派のようである。


「はぁ、いえ。それは良いんですけど……メリーさんのその言葉って、どこの人でありますか?」

「……あっ!」


 そして疑問を投げられ、思わず大声を出したのはメリーだ。先ほどまではまだ多少は頑張っていたのだが、いつの間にやら完全に共通語から素の喋り―――つまりは方言モードへと移行していたことに、今気づいたらしい。

 赤面のエモーションを連打で頭上に表示しつつ、消え入るような声でボソボソと答えを返す。


「……ぇと、基本は広島、です。ただ、お母さんが神戸の人なんで……結構、混ざってます」

「はぁ、なるほど。いや、申し訳ありません。狩りの最中もクロウさん相手にはそれらしい言葉が向けられていたので、気にはなっていたのであります。しかし、となるとそれが理解できるクロウさんも同郷の方でありますか?」

「いえ、私達も同じ疑問を持ったことがあるのですが、クロウさんは確か千葉あたりのご出身だった筈ですね。大学時代に語学関係のゼミ……? とやらを専攻していたとかで理解できるというお話を伺いました」

「メリーちゃん、ゼミってなんだっけ。授業のこと?」

「……ううん、授業じゃなくて教室っていうか。説明が難しい……」


 頭上にクエスチョンマークを浮かべる青色と黄色。未だ大学には少し遠い年代の二人には、ゼミという大学独特のシステムがいまいち想像出来ないらしい。

 その代わりに、今度はエクスクラメーションマークを頭上に出して、納得した様子を見せているのは蘿蔔だ。


「ははぁ、となるとクロウさんは自分よりは少なくとも年上でありますな。ああいや、リアルでの話を詮索するのはマナー違反でありますか。まこと申し訳ない」

「あらあら、そうでした。私としたことが、迂闊な事を口走ってしまいましたね」

「けど、シロちゃんその辺のマナーとかは弁えてる人だねー。これはリノちゃんさん的に好印象ですよ、好印象!」


 自戒するような蘿蔔の言葉に竜胆が頷き、リノが嬉しそうに声をあげる。その様子を見ながら、メリーは内心で苦笑を漏らした。


 ―――意外かもしれないが、馴れ馴れしいこの狐娘は意外とその辺り(ゲームマナー)のライン引きはしっかりしている。

 誰にでも懐っこく飛びつくし、時には馴れ馴れしさを感じる言動もあるが、相手の素性(リアル)を詮索するような物言いをした事も無ければ、何かアイテムを強請ったりレベル上げの無理な手伝いを要求するような行為もしたことが、冗談ですら一度も無い。

 そして逆に、それらのようなノーマナー行為を無遠慮に行い、それを恥じない相手との縁切りの見切りも早い。

 

 そのリノからすれば、この場に居ない相手のリアルでの素性についての話題になりかけたところで、我に返って即座に切り上げて自戒する良識がある蘿蔔は、それなりに好評価であったということか。


(―――分かっとぅけど、やっぱこの子は頭の回転の速い子やなぁ)


 どこか微笑ましげに視線をリノに向けるメリー。向けられているリノは気付かない様子で、矢継ぎ早に蘿蔔に質問を浴びせている。

 内容は主にギルド所属や、良く組むパーティーなどの有無。或いは普段どういう遊び方をしているのかといった内容だ。

 勢いの良い質問に蘿蔔が丁寧に一つ一つ答えて行き、一段落した所で。


「―――よし! シロちゃんが良ければ、マスターに頼んでウチのギルド所属してみない? 今なら可愛いリノちゃんさんを甘やかし放題という特典が付いてますよ奥様!」


 蘿蔔、メリー、竜胆の三人に対し、『どうかな?』と同意を求めるようにして、リノは陽気な声で投げかけたのだった。

リノちゃんさんのノリは割と実際のMMOでも見たプレイヤーさんを参考にしています。

ただしそっちは少女ではなく立派なオッサンだったがな!

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