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あなたに届けたい言葉(下)

 もう駄目だ。もう無理だ。

 男は頭を抱えていた。もう限界だった。

 どれだけ頑張っても、どれだけ手を尽くしても、上手くいかなかった。

 そして、男はまるで縋り付くかのように手紙を開こうとした。

 だが、手紙を包む布を乱暴に開けようとしたその時、違和感を感じた。

 そして、布を調べてみると、裏に紙が縫い付けてあった。

 それは、手紙の続きだった。


◆◆◆

 

 ふふふ。やっと気づきましたか。

 本当、あなたはいつも鈍いですね。

 私があんなに綺麗な手紙で終わるわけないじゃないですか。

 

 でも、あれですね。

 きっとあなたのことですから、この手紙に気づいたということは、また失敗したのでしょう?

 きっと今までにないくらい失敗したのでしょう?

 

 なんでわかるって?

 そりゃわかります。

 一時とはいえ、あなたと一緒にいたんですから。

 

 全くあなたはいつもは馬鹿で明るい癖に、一度落ち込むと駄目になるんですから、全く困ったものです。


 いいですか。よく聞きなさい。

 

 あなたは馬鹿なんですよ。

 いい加減認めなさい。

 

 でも、良い馬鹿です。

 いつもまっすぐで、いつも一所懸命で良い馬鹿です。

 

 怒りましたか?

 もう怒る気力もありませんか?

 

 ふー。もう、本当馬鹿ですね。

 いいですか。この世の中には失敗して駄目なことは沢山ありますが、やり直しが効かない失敗なんてそれ程ないんですよ。

 

 失敗しても、取り戻せばいいんです。

 取り戻せないのであれば、他の道を探せばいいんです。

 

 それは逃げじゃないかって?

 ええ、逃げですよ。

 でも、それの何が悪いっていうんですか?

 逃げては駄目だと誰が言いましたか?

 誰が決めたのですか?

 自分で自分を縛り上げて動けなくなったら、それこそ本末転倒です。

 

 でも、逃げても追いかけてくるって?

 そりゃそうでしょう。

 それは、逃げ方が悪いんですよ。

 何も考えずに逃げ出せば追ってきますよ。

 当たり前です。相手はあなたに逃げ出されたら困るのですから、追ってくるに決まってます。


 だから、逃げる時はちゃんと考えなさい。

 きちんと計画的に逃げなさい。

 きちんと計画を立てて、手をまわしてから逃げなさい。

 

 矛盾している?

 そんな余裕なんてない?

 余裕がないから逃げるのにそんなことできるわけない?

 そうですね。確かにその通りです。

 でも、本当にそうですか?

 

 あなたは言いましたよね。

 私に言いましたよね。

 思考停止だけはするなと。

 どんな時も常に考えて生きるんだと。

 生きるとはそういうことなんだと。


 空を飛んでいる鳥だって、海を泳いでいる魚だって、地を走る動物だって大なり小なり考えて生きているんです。

 傍から見れば、何も考えてないようにみえますが、みんな一所懸命考えて生きているんです。 


 あなたの頭はなんのためについているんですか?

 考えるためについているんじゃないんですか?

 

 でも、それでも駄目なら、戻ってきたらいいじゃないですか?

 その時は、罵倒してあげますよ。

 負け犬って笑ってあげます。

 一生罵倒して、負け犬っていってあげます。

 ずっとずっといってあげますから……。

 

 怒りましたか?

 悔しいですか?

 少し前まで、自分では何もできなかった女にここまで言われてかちんときましたか?


 なら、頑張りなさい。

 今の怒りを考えることにあてなさい。

 それでも、駄目なら帰ってきなさい。

 逃げて帰ってきなさい。


 その時は、あなたが教えてくれたことをもう一度、私が教えてあげますから。

 あなたが私に教えてくれたことを思い出させてあげます。

 今度は忘れないように、もう一度刻み込んであげます。

 

 前を向きなさい。後ろは振り返ってもしょうがないです。前を向いて歩いていきなさい。

 他でもないあなた自身のために歩いていきなさい。


 大丈夫です。私が大好きなあなたは大丈夫です。

 きっとこの手紙を読み終わっているとき、私が大好きな馬鹿なあなたは歩いていけるはずです。


 だって、あなたは私が大好きになった人なのですから。


 この手紙が、この言葉が、あなたの心に届く事を祈っています。


◆◆◆


 男は笑いながら、泣いていた。

 そして、泣き終わると手紙を閉じた。

 そして、最後に笑うと前に進み始めた。


 結局、男は逃げなかった。

 逃げずに一流と呼ばれるまでになった。

 だが、傍らには彼女の姿はなかった。


 彼女は男が一流と呼ばれてすぐに亡くなった。

 ある紙を男に託して。


 その男の家の引き出しの一つには、今でも、ある紙が貼ってある。


 「手紙」という言葉が書いてある紙が貼ってある。

 

 ふと窓から風が入り、紙が翻る。

 

 「ばーか。大好きですよ」と綴られた紙が風に揺れていた。

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