今
そして3ヶ月が過ぎ、お師匠様は私とかなり親睦を深めてくれていた。2ヶ月目から一般の兵相手には【傀儡】と呼んでいるもので指導して、私に付きっきりとなっていたくらいだ。
それで私は醜い子なのに年相応に甘えだしてしまったがお師匠様は軽くあしらいつつも大体受け止めてくれた。
「さて、明日がこっから出る日だな。今日教えるのは【円武術】の一応奥義。【流天翔】…まぁ原理は簡単なんだがな。【氣】を練り上げて今回は心臓の辺りから全身に行き渡るように流せ。」
だが、訓練の時は別だ。一切の容赦がない。私は言われた通りにやってみる。
「ん。…さて、…【破身衝波】!」
「え…?かはっ…」
突然お師匠様が私に掌底を叩き込んだ。一瞬息が詰まるが痛くはない。しかしお師匠様がなぜこんなことをしたのかが分からなかった。
「な…何を…?っ!体が…熱い…」
そんな混乱中の燃えるような体を突然お師匠様が後ろから抱き締めてきた。
「え!?え…え!?えぇっ!?」
私はもう本当に大混乱でどうしたらいいかわからない。
「落ち着け。…まぁこうなる確率はあったんだが…とりあえず俺の心臓の音を聞け。それに合わせて【氣】の運用を応用したあれで心臓をゆっくり動かして…」
(何か言ってるみたいだけど何言ってるか分からない!)
「だから速いっての…う~ん。」
(そりゃ速くもなりますよ!醜い子はずっと人と接してこなかったんですから!この3ヶ月で優しくされたのも初めてですよ!えぇそりゃあもう!)
「…はぁ…この手はあんまり使いたくなかったんだけどなぁ…代謝の異常促進と【氣】の流れの急化によるリミッター解除。…やっぱり何も言わずにやったら混乱するよな~でも下手に抵抗されると【剄】が通らないしな…言えないんだよなぁ…」
何か言ってるお師匠様が急に前に来ましたよ!顔を胸に埋めます!醜い子ですけど少しくらいいいですよね!?
(…あー紙の匂いがするな…何か落ち着く…)
紙の匂いというところで私はあることを思い出した。3ヶ月前にタナトスさんがお師匠様に言っていたことだ。
「…そう言えばお師匠様って…【式神】…でしたよね…」
「まぁそうだな。」
「き…消えるんですか?」
「消えるね。」
あっさりと言われた言葉に私はつい泣きそうになる。
「え…私…親がいなくて…頼る人もいなくて…」
気付けば私は弁明代わりに何故か今までの人生について喋っていた。お師匠様を使っている人に同情を引きたかったのかもしれない。
気付けば涙が出ていた。お師匠様はローブが濡れているから気付いているだろう。そしてひとしきり言い終わるとお師匠様は少し呆れる口調で言った。
「…美しくないから家を追い出すねぇ…魔力無しだからと思ってたんだが…変な理由もあったもんだな。【呪具招来】」
お師匠様は手を放して空間から何かを取り出した。私が赤くなっていると思われる目を向けるとそれは小瓶だった。
「【傾世の美】っていう呪具だ。…これを舐めると…見る者の一番理想の顔になる。今回はこれを少し応用して…」
お師匠様はそれを一滴だけ飲むと私に言った。
「今お前に見えてるのは何だ?」
もの凄く格好いい。まず間違いなく美形の部類…でも…
「何か…違う…」
「そういうこと。まぁ本体と比べて呪いの適性が低いからこうなるとも言えるんだが…今回の顔は出歯亀してるタナトスの横にいる近衛兵の好みをお前にも見せてる状態。…さて、センスは一人一人違うのに何で一々ここの女神の好みとか考えてやらないといけないんだ?」
そう言ってお師匠様は顔を元に戻した。
「第一今から革命起こしに行くんだぞ?…それに…」
お師匠様はどこから取り出したのか分からないが、鏡を手渡してきた。そこに映ったのは…
「別にお前醜くないし。」
「え…?これ…」
鏡に映っていたのはロングストレートのブロンド色の髪をして緑がかった色をした目を持つ美少女で…
「あれ…?」
頬を抓ると鏡にいる美少女の顔も変に歪む。
「…まぁ一応この世界の住民だから美しい=強い。なら強い=美しいってことに解釈したんだろ。まぁちょっと健康促進と鎮痛剤が入ってる薬も入れてあったんだが…それないと筋肉痛でショック死されても困るしな~」
お師匠様がまた何か難しそうなことを早口で言ってるけどそんなことより私の顔が…
「醜く…ない…?」
「うん。」
「お師匠様ぁ…」
私はまた泣き出してしまった。お師匠様はそれを優しく受け止めてくれた…
「こっちよ!」
「うっ…本当にいい男に…今村様万歳!」
…良いところなのに…
「はぁ…この体じゃ【ドレインキューブ】使えないしな…【傾世の美】の効果は解けないか…上等だぁっ!かかって来い!」
(…え?解けてなかった…?でも顔は元に戻って…)
ふと上を見ると馴染みの歪んだ笑みを浮かべるお師匠様の顔が。…どう見てもいつもと変わらない。
(…ということは…)
私は気付いた。そして顔が赤くなってるのが自分でもわかった。
そしてお師匠様はそんなことには全く気付いていないようで飄々と近衛兵と呼ばれる革命軍の女性派閥を殆ど叩きのめした。
「…さて、お前…名前がなかったんだよな。」
「え?ひゃ…ひゃい。」
(駄目だ噛み噛み…自覚したら…急に緊張して来た…)
「じゃあこれからルカって名乗ればいい。」
だが、お師匠様のネーミングに私は緊張を一気に解かれた。
「それ【円武術】の基礎の技じゃないですか…」
文句を言う私にお師匠様は地面によく分からない文字を書いた。
「【流禍】…災いを流すって意味だ。今まで苦労したんだろ?これからは幸多き人生をってね。さて、早速明日元の世界に帰ったら電撃攻撃するつもりだから今日はしっかり休め。」
「あ…う…」
あっさりと言われて、渡されたモノに私は何も言うことが出来なかった。その代りに心の中で何度もその名前を呟く。
(ルカ…ルカ…)
お師匠様は何でもなかったかのように去って行く。その後ろ姿を見て私はようやく思い出した。
(あ…このままじゃ…)
いなくなるんだ…そう思ったと同時にお師匠様の姿が消えた。
私は何も言うことが出来ずにその場に立ち尽くした。
そして夜が明けた。出発が迫っている。
「よぉ。今からすぐに出るからな~」
「お…お師匠様!」
(よかった…まだ消えてなかったんだ…)
いつもと変わらないお師匠様の姿に安堵しつつ言わなければならないことを言うためにお師匠様の方へ急ぐ。
「…?どうした?」
「あの!名前ありがとうございます!それで…」
(もう会えないとしても言うんだ…)
「あの!」
「あ~もう向こうに行ってからでいい?他の皆転送終ったんだが…」
「お師匠様に言いたいことが!」
「だから向こうにいる俺に言って。俺は全く同じ存在に作られてるし、記憶も向こうにあるから。」
「…へ?消えるんじゃ…」
「…?消えないけど…」
お師匠様がとぼけて来た。
「き…消えるって言ったじゃないですか!」
「あぁ…まぁ式神は消えるな。並列思考で分割したものを載せてるから俺自体は消えないよ。」
何故かお師匠様が苦笑してるけど…
「心配したんですからね!?」
「はいはい。戻ってからにして。」
そして私は元の世界に戻った。…と同時に私の名前を呼んでくれたお師匠様が美少女に囲まれてるのを見たのとあと本物の体に会えた喜びで何かよく分からないテンションになってしまった。
ただ、キスしようとして却下されたのは覚えてる。
そして訓練を受けた成果を出すことになった。結果は…あれだけ気にしていたことが嘘のように勝ち続けた。
美しさが絶対とかそんなことなかったんだ…と戦いながらふとそう思った。そしてお師匠様の指揮の下、城を攻め落として新しい所に今までの常識を打ち破る新しい城を作った。
「お師匠様ぁ~消えるって言ったのに消えなかったですよね!お詫びに…」
革命軍の皆が新しい城を作りあげて宴になった夜。私はお師匠様の下に一人でこっそり行った。お師匠様は何か書きながら私の言葉を遮った。
「でもまぁ元の世界に帰るから消えるっちゃあ消えるけどな。」
私はまた冷や水を浴びせられたかのようになる。
「で…え…」
「ん?どうかしたか?」
お師匠様は顔を上げて私の方を見る。私のさっきまでのテンションは雲散霧消してしまっていた。
(…か…帰るんだよ…そう言えば…)
「ま、一応言っとくが…首都を落としたら帰る。それまでにテストするからそれ次第じゃ俺のいた世界に連れて行くけどな。」
「!そんなこと出来るんですか!?」
「ん?まぁやって出来ないことはないんだよ。アテもあるしな…覚悟しとけ。」
絶対合格あるのみ!これから全力を以て戦い抜きます!
そう…思っていたのに…
私の目の前でお師匠様は最後の戦、首都侵略戦で味方だったはずのルゥリン様…いやルゥリンに刺されて消えた。
「お師匠様ぁっ!」
私の声は革命軍の皆の声にかき消された。私はルゥリンの【氣】を追ってすぐに追いかけた。
そしてすぐに追いついた。
「…ルゥリンさん…何でお師匠様を…」
今すぐ斬りかかりたいのを抑えて尋ねる。するとあろうことかルゥリンは今村の体を踏みつけながら答えを返した。血が沸騰するかのような怒りの中話を聞こうとするが今村がゴミ扱いされたところでルカはキレた。
しかし…
「姫に触れられると思うなよ?」
その攻撃は王国一の将によって阻まれた。その後どんなに猛攻を仕掛けても将は余裕で受け流し、更にルゥリンが今村の体を蹴りつけた時、ルカは感情のままに剣を振るい、結果大きな隙を作ることになる。
目の前がスローモーションになった中、その奥が光り凄いスピードで天から世にも美しい女性が飛んできた。そしてルゥリンがなにやらその女性に手渡した瞬間。その女性は殴り飛ばされ、次いで目の前の将の首が反転して絶命した。
「…【負荷】解除。…まったく危うく死ぬとこか…」
いつの間にか消えた今村の死体とその横にいるルゥリンと楽しげに談笑する黒ローブの男―――今村。その姿を見るなり私は戦争中にもかかわらず飛びついた。
聞けばこれがテストだったらしい。そして…結果は今村の何らかの術に救われた。おそらく不合格だろう。
戦争が終わった後、私は落ち込んだ。それにたくさん泣いた。そして今村達との最後の晩餐が始まった。何か言っているみたいだが別れの事がちらついて頭に入って来ない。
「お前たちと別れる予定…」
その言葉を聞いただけで胸が張り裂けそうになる。
「…お前は【円武術】をやらせてるし俺が鍛えるしかあるまい…」
「え!?」
つまり…それって…
「閉鎖空間に入ってろ。これから修行のやり直しだ…」
「はいっ!」
何故か悪巧みしている顔だけどそんなのはどうでもよかった。また一緒に居られるなら…
「え…お…お師匠様?」
「さぁ女神相手に模擬戦スタートぉ!」
「お師匠様の鬼ぃ~!」
わけ分からんと思った方へ
「例外者の異常な日常」から来てますので…端折りすぎてわからん。全体的な流れを見せろと思った方はそちらに行かれてください。異世界その1編辺りに流れが本編ですが軽めにあります。
ついでに修行について興味がある方は「例外者の異常な日常」のもう少し下の訓練の所に飛んでください。ちょっとアホな青年が行ってることを修行と思ってもらって構いません。
それではお付き合いいただきありがとうございました。