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弟子として  作者: 枯木人
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 突然見知らぬ平原に立っていた私たちは周りを見渡した。前後左右はさっきいた人で埋まっていて周囲の景色が見えない。

 そんな中で革命軍の皆がざわめき出す。転移したにしても大規模でルゥリン様を越している…流石異世界からの救世主だ…などといった声が聞こえてきた。


「はいよ。え~革命軍の皆さん初めまして俺がお前らの指揮をする化物。今村だ。ここでちょっとゲームをしたいと思う。」


 ざわめきの中、何処にいるかは分からないが、声だけが聞こえた。高くも低くもない、どこにでもあるようでなさそうな不思議な男の声だった。


「あぁ後ろの奴は見えないと思うが…前の奴から聞け。俺をこの円から出せたらお前らに俺が偉そうに指揮はしない。…俺を円から出せなかったら俺の言うことを聞け。」


 声が聞こえ終ると同時に何故か全身を恐ろしいプレッシャーが駆け抜けた。貧困に喘ぐ暮らしで荒事にも慣れていたはずの私だったが、小さく悲鳴を上げてしまう。しばらくすると声がまた聞こえてきた。


「…誰も来ねぇし…こりゃ根本的に訓練が必要かね…」


 声が聞こえると同時に後ろにいた革命軍の皆が一直線に次々と倒れて行く。私は偶々狙いから外れたようだ。隣にいた人が倒れるのを見て冷や汗を流しながら私は前の人が倒れて行くのを見送った。途中から人が倒れて行く中心で叫び声が聞こえる。


「仁ぃぃいいぃぃぃっ!てめぇ俺をこんなとこにずっと閉じ込めやがってぇっ!」

「お、タナトスじゃん。」


 視界が開けた中。私の目の前に立っていたのはまさに美形と称するにふさわしい青年と私よりはマシなものの少し顔の悪い黒ローブに包まれた人だった。

 タナトスと呼ばれた青年の剣を今村と名乗っていた人はローブで受けており、それが何と拮抗していたのだ。


「嘘…」


 どう見ても格好良くないのに彼は楽しげに笑ってタナトスさんの剣を弾き飛ばした。この世界のルールからして考えられなかった。


「はっは。ところで今から戦争するんだけど武器ない?」

「あぁ?…あぁ、そういう…なるほど。」


 斬りかかられたのに今村さんは普通にタナトスさんに話しかけていた。タナトスさんも普通に受け答えをしていると何かに納得して剣を下ろした。


「こうなるからか…あ、ところで…弱くなった…って式神に乗せてる(・・・・)のか。じゃあ今の部分はなしってことで…」


 タナトスさんは今村さんに手を当てて光を放った。一瞬今村さんはビクッとしたが、すぐに平常運転になった。


「よし、じゃあこんなに弱かったら戦争にならんだろ!ってことで一丁懐かしの訓練をやりますかね!」

「よし!俺も手伝おう!」


 タナトスさんと今村さんは全員を叩き起こして次々と恐ろしい訓練の中に革命軍の皆を連れて行った。そして私の前で今村さんが止まった。


「…?どうした?」


 それに気付いたタナトスさんもやって来た。うわぁ…近くで見ると本っ当に格好いい…私がそんなことを思っていると今村さんが私からタナトスさんに目線を移した。


「…こいつ魔力無し。」

「…あぁ…そうなのか。」


 私はその瞬間冷や水を浴びせられたかのように冷静になり何も言えずに下を向き、唇を噛んだ。そんな私の肩に今村さんは手を置いて笑っていた。


「じゃあ君は別メニューだな…クックック…」

「う…」


 その歪んだ笑みに私は逆らうことが出来ず、恐ろしい訓練に身を委ねることになった。




「も…動け…」


(あの重り本当に…酷い…腹筋も…)


 私は訓練が終わると体を全く動かせなくなった。手も腕も足も腹筋も背筋も首も舌に至るまで…私の体で今日動かしていないところはないんじゃないかと思えるほど体中動かした。



「ほれ飲め。」


 そして訓練が終わると今村さんから白い液体を渡された。何だろ…良い匂い…


 私は疲れていたけど喉も乾いていたのでそれを一息に飲んだ。それを見て彼は怪しい笑みを浮かべる。


(こ…こわ…何か入って…)


 私が不安に駆られていると彼は少しだけ曖昧な笑みを浮かべていた。


「明日は学問分野だからしっかり休め。」


 それだけ言うと彼は去って行った。


(…特に何ともないのかな…)


 その日の夜は子供の頃―――5歳から今まで警戒して浅く眠っていたがそんな余裕もなく本当に久し振りに深い眠りについた。




 そして翌日は軍の動かし方に異世界で過去に行われた戦争を基にした戦略の立て方。それとはまったく別に怪しい薬学や、基礎算術、魔法技術に【氣】の運用、そして演技の指導が入った。


「はいもっと声出せぇっ!」

「あー」

「足りん!」

「あー!」


 何でも演技が必要なのは戦場で声を通すためと、敵を引き寄せて伏兵に嵌めるには必須の演技力の水準というのがあるみたいで指導にも熱が入っている。…というより今までで一番熱が入ってる気が…

 私は昨日の訓練の所為で強張っている腹筋を頑張って動かして演技に努めた。



 そして翌日はまた筋トレだった。そしてその後の日はまた学問…

 そんな日が1ヶ月続くと何故か筋トレが辛くなくなって来た。実際には勿論キツイんだけど…何故かそんなことが無いように思えて来たのだ。


「…ふむ。3ヶ月を1ヶ月に短縮可能か…」


 今村さんが何か言ってるみたいだけどよく聞こえない。そして彼はいつもなら続けさせる筋トレを止めさせた。


「じゃ、今日から【円武術】って技の練習に入るから。これからは俺の事は師匠扱いで。」

「はい。」


 そう言って彼は私に指導を始めてくれた。彼が触れている場所には【氣】と呼んでいるモノが流れていて暖かく。訓練中なのに何故か心が安らいでいった。


 その日の夜。私は人伝にタナトスさんに呼び出しを受けた。入って来るなり彼は私を厳しい眼差しで見た。


「…お前…名は?」


 そこでふと考えた。私の名前…?何だったかな…物心ついたときには何かあったけど…魔力がないとわかってから呼ばれて…ない…


 不意に悲しくなった私。タナトスさんは特に興味なさそうに続けた。


「…名はないのか。…まぁいい。とにかく言っておく。うちの大将を裏切ったら俺が貴様を殺すからな。」


 殺気が体を突き抜け、私はその場に崩れ落ちた。タナトスさんは殺気を緩めることなく言葉を続けた。それ曰く彼、今村仁は前世において戦争が終了するや否や弟子、親友、恋人に裏切られて殺されたということ。


「…そして大将は一度弟子に裏切られたのにもかかわらずまた弟子を作ってる…お前にこの意味が分かるか?」


 タナトスさんは殺気をぶつけ続けている。しかしその顔は悲しみを面に出さないように仮面をつけているだけのようにしか見えない。私は彼が何を言いたいのか分かった。


「大将は…」

「もう言わなくても大丈夫です。」


 私は殺気を跳ね除けて立ち上がった。…こんなこともできるようになってたんだ。自分でも驚いた。


「私が今村さん…いや、お師匠様を裏切ることはないです。兄弟子様・・・・。」


 タナトスさんをじっと見据えて私はそう言った。タナトスさんも見返してくる。そして苦笑いをしてふっと殺気を解いた。


「全く…女っていうのは強いな…」

「お、タナトス浮気か。」


 その途端に今話題の最中にあったお師匠様の姿が。彼は軽く笑っていたけど浮気という言葉に私の胸にはちくりと棘が刺さった気がした。


「寧々~!タナトスが浮気中~!」

「ちょっ!おい!今真面目な話を…」

「タ~ナ~ト~ス~さ~ま~」


 おどろおどろしい声と共に黒髪を切りそろえた美女。寧々さんがこの場に現れる。それを見つつお師匠様・・・・は笑っていた。





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