銀木犀が薫る頃
放課後のチャイムとともに、友達は連立って帰って行った。
僕は校庭の片隅で、ひとり・・・。
傍らにあるのは、銀木犀。
仄かに甘い薫りが、僕の緊張を少しだけ和らげる。
春の頃―――
君を初めて見たのは、入学式。
沢山の生徒たちの中で、僕は君を見つけた。
君は、友達に囲まれて、楽しそうに笑ってた。
一瞬で僕の心は、撃ち抜かれて、その後の入学式の記憶がない。
君は、隣のクラスだった。
接点がないと落ち込んだけれど、放課後に奇跡が起きた。
僕は、叫びそうになったよ。
入ろうと決めていた陸上部に、君の姿があったから。
僕はフィールド競技。君はトラック競技。
君は風と戯れるように走る。楽しそうに。
僕はますます君に魅かれていったんだ。
初めての公式の大会で、君から話しかけられた。
あの時、僕は、うまく話せただろうか。
判らないけれど、それを切っ掛けに、少しずつ話をするようになって。
君の事も少しずつ知っていった。
君がお気に入りの場所も知った。
校庭の片隅にある銀木犀の傍のベンチが君のお気に入り。
―――ふわり。甘く薫る。
部活の終わったその後に、君がここに来るのを僕は知っている。
だから、急いで片づけをして、僕はここに来たんだ。
銀木犀を見ながら、ぼーっと立っていた僕の隣に、君はそっと並ぶ。
そして、君は目を閉じて、甘い薫りを吸い込んだ。
この薫り好きだな。君がそう言うから・・・。
緊張で震える手を、ギュッと握る。
銀木犀が薫る頃。君に伝えよう。
―――君が好きだ。