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WILDDOG  作者: 夕雲 橙
4/11

4、襲撃者は不意に襲う

 しかしながら私には知性が備わっている。ここで感情を露にすれば、現行犯で捕まった気の弱い雄のようだと更なる勘違いを植えつけてしまう。

 私は余裕を持った態度で返した。

「この先、とあるマナーの悪い出来事が起きても、私がやったと疑わないで欲しい。妙な優しさは君への評価が下がる」

「後ろめたく考えなくてもいいのよ」

「一つ聞こう、私は何だと思う」

「あなたはボス、そしていつも一匹でいる」

 間違えていない。しかし、言葉の奥で表現しようとするものは違う、だから私はこう言った。

「大よそ合っている、だが同じものでも違う角度から見えるように、私の自己意識とはややずれている。一匹なのは私が精一杯できる生き方だ、仲間と共に自由に走り、誰にも責任を負わせない、いざという際には危険が仲間に及ばない。野良は生きるための職業、ボスは役割だ」

「ご免、難しくて判らない。だけど私から見ればそう感じたの、悪気はないわ。今日のあなたは、いつもに増して難しい事を考えて、機嫌が悪いから良い子にしてもう帰る」

 彼女が感じた私の苛立ちは侵入者に対してだが、違うように受けとったらしい。

 パフはくるりと後ろを向くと私から離れる。私は思わず忠告した。

「この辺りにどこからか来た野良がうろついている、恐らく大型だ」

「ご忠告ありがとう、あなたの頭痛が消えるのなら、見かけたら教える」

 パフは振り向いて礼を言うと、軽い足音を立て軽快に走り去った。

 毎日の日課のように脱走し、町を走り回り足腰が鍛えられているのだろう。パフはまるで跳ねるように掛けて遠く小さくなる、まるでタンポポの綿毛が風に乗ったようだ。最高速度は私より劣るが身軽で小回りが利く、それに町には詳しい、用心深さも身に着けている。そう心配することはないだろう。

 心配よりも必要なのは後悔だったようだ。

 後悔が先にできないのは世の生物に等しく平等な定めだ、用心しなければならないのは私だった。


 一匹になるのを待ち構えていたのだろう、そいつは突如ゴミの後ろから飛び出し私を背後から襲った。

 砂を蹴る音が二つ、続けて二つ――長い口蓋から吐き出される独特の呼吸音。


 音の正体を確認する前に、生まれ持った本能が私を前に駆け出させた。

 直前まで無防備に尻尾をぶら下げていた場所を何かが掠め、風圧と悪意が空を切った。

 暴力を纏う圧力に追われるように尻尾を縮め、素早く体を半回転させ、四足に力を込めた。

 砂地の上を後ろ向きに滑り、後ろ足を広げ臨戦態勢を取る。

 相手を見据える前に、斜め正面から奴の体当たりをくらった私は無様に潰れた。

 体当たりの勢いで私を飛び越した奴が、低い唸りを上げ反対側から再び襲いかかる。

 得体の知れぬ相手に襲われた恐怖を抑え、感と音で奴の動きに合わせ私の中の本能が牙を剥いた。

 逃げずに立ち向かった私への攻撃は、顎と顎をぶつけ逸らされた。

 しかし、体勢が悪かった。

 私の攻撃は、奴の灰色じみて薄汚れた毛皮の端を噛み千切っただけだ。

 有利な体勢を保つ、奴の牙が私の背中に食い込む。

 毛皮で守られた部分、しかも背中は案外と丈夫な箇所だ。噛まれ方を知っていれば、余程の力の差がなければ牙はたやすく貫通しない。

 背中を逸らせ力を逃すが、奴は万力みたいな顎の力で背中を締め上げ、前足を乗せ体重を掛けた。

 痛覚で呼吸が詰まり、背骨は負荷に悲鳴を上げる。

 ここでやっと襲撃者の姿を捉えた。

 奴は体高も体長も私より一回り大きく、細い体つきをしている。

 銀色が汚れ朽ちた果てたコンクリートのような毛の色。

 剃りあがったような細い面が実際よりも軽く見せかけるが、体重は私よりあるようだ。

 私を押さえつけ勝利を確信したのか、奴の牙が一瞬緩んだ。次は急所を狙われる。

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