11、そして私は日常に戻る
これでようやく一段落ついた。
残された問題がないこともないが、名前を失わずに済んだ、餌の確保も可能になる、それだけあれば生きてゆくには困らない。
「ボスー、ボスゥー、おめでとう!」
パフがキャンキャン吠えて纏わり付くが、いつものように相手をする余裕のない私はかなり冷たくぞんざいに言い放つ。
「疲れた、帰る、鼻がヒリヒリする、暫く一匹にさせてくれ」
パフで思い出した、小うるさいのがもう一人いた。
私は叢から雑誌を咥えて拾った。これでも与えれば大人しくするだろう、全く手のかかる。
そうして私はパフを引き連れて戻る。戻ってからまだ昼前なのに気付いた、すでに一日を終えた気分になっていた。
パフがいたので冷やかされる前に、マツさんの家の前に雑誌を置いておく。子供騙しの罠だが、こうすれば出てきた瞬間に歓喜の雄たけびを上げて引っ込むだろう。
元々は夜行性なのだから昼間寝ても問題はあるまい、むしろ自然なのだと自分に言い訳をして眠りについた。
しきりに話かける彼女も何のその、疲れ果てていた私はストンと穴に落ちるように眠りに誘われる。本格的に睡眠を貪りだした私に、呆れたような声が聞こえた。
「まったくもう、雄っていつもどうしてこうなのかしら。そうそう、ホワイトウルフすっかり弱っていたわ、勢いがあったの最初だけね」
私は夢の中で答えた。
それは私も奴も雄だからだ。
それに奴は強かった、追い詰めて弱るような流れを作らなければ勝てなかっただろう。この私が本気で策略を巡らせねば負けていた相手だった。
相手を肉体的に殺してはならない、だが心を折り生かして殺すことはできる。
奴が負けたのは最初の戦いで私の心を折っていなかったからだ。
単純に経験の差だ、私ならあそこで逃がさない。小学生の前で乱闘などすればすぐに大人が怒り心頭で襲ってくる上に信用を失う、その結末は身の破滅だ。それを避けたい私にも時間制限があり弱みがあったのだ。
奴は力任せでそこに気づかなかった、私には地の利があった。だから勝てたのだ。
雄には雄なりに玉以外で大事なことが幾つかある。
胸躍るハッピーエンドなんてそうそうありえない、現実を曲げても夢に変化はしない。
パフはホワイトウルフが単に弱って大人しく消えただけだと思っているようだ。
公園でのあの瞬間、雄ならば産まれた時に必ず持たされる頭が悪い特性によって、確かに私と源太とホワイトウルフで何かが通じあった。
私は私の夢を見る、きっとあなたにとっては下らないだろう。
私は野良犬のボスとして生きてゆく、きっとあなたの生き方に影響はないだろう。
私は生きている限り、精一杯に手足と頭を使って生き抜くだろう。
私がその辺りにいたら、多分そういうことだ。
疲れたので寝る、目覚めたら餌を探しに行こう……人ならこういうのだろう。
「お休みなさい、良い夢を」
***お終い***
WILDDOG これで最終話です。
実は三部構成になっているのですが、このたびは一部だけを載せます。
いつか、書き直して再投稿したいと思っています。
お話にお付き合い頂きありがとうございます。
あなたに、良い夢が訪れますように~~~夕雲橙。