4
「まぁ……」リブは、口に手をやった。
そんな様子におかまいなしにつづける。
「父さんが亡くなる間際に、はじめて母さんのことについて聞いたんだ。ガイア古書籍図書館に行けってね」
まるで、リブにというより自分にいいきかせるように話した。
今でも、ありありと思いだせる。顔色が土気色になっても、自分に、伝えようとする父の姿。じょじょに冷たくなってくる父の体。
「ごめんなさい、聞いたりして」
「いや、いいよ。この図書館に来たら、聞かれると思っていたからね」と笑った。
ふたたび、二人は書庫へともどった。今度は二人ともしゃべらずに作業をつづけた。
三冊すべて終わった時にはすでに真夜中になっていた。
「あなたのお母さまは、いらっしゃいましたか?」リブは、綾介の手もとにあるリストをのぞき見た。
リストにずらりと書かれた名まえ。明らかにちがうものに、横線をひいて消す。
「さぁ……。いっぱいいるからわからないよ」
しばらくして、
「ああ、絶望的だよ、この数!」
綾介は、ぽんと、シャーペンを机の上に投げつけた。両手を頭の上で組んで、ため息をついた。
「見つかるのかなぁ……」ぼそっと、綾介はつぶやいた。
「せめて、祖父さんのプロフィール判ればなぁ」
リブはそんな綾介を見て、
「そんなに思いつめたら、よくないわ。明日にしたらどうかしら。休めばいい案がでてくるわ」と、ふわりと、笑いながら、言った。
そんなリブを見て、綾介は苦笑いを浮かべる。
「そうだな。もう、明日にするか」
そう言って、立ちあがって、かるく背のびをした。相当疲れていたらしく、腰がゴキッとなった。
ラウンジにあるソファは、そうとう良いものらしく、寝心地は抜群だった。
「じゃ、おやすみなさい」リブは、そう言って、去ろうとした。
「待って!」
自分で意識するよりも早く、綾介はリブを呼んだ。
「どうしたの?」首をかしげるリブ。
「そう言えば、君にはじめて会った気がしないんだ。何か、どこかで会ってたような気がする。
……ごめん。変なこと言って」
そう言って、布団がわりのコートを頭からかぶった。
背中ごしで、リブがふっとほほ笑む気配がした。
「そうね。わたしも、あなたに会ったことがあるような気がするわ」
うす暗い図書館の中に、規則正しい安らかな寝息が聞こえる。
よっぽど疲れていたのか、綾介はすぐに眠ってしまった。
リブはそのかたわらで膝を抱えて座っている。まるで瞑想するかのように目を閉じていた。
ふいに痙攣したかのように、ピクリと身体を動かす。目を開けて、視線を綾介の方に向けた。
「やっぱり、この子がそうなのね。この日のためにわたしを造ったのかしら……」
リブの呟く声は図書館の闇に吸われ、やがて消えていった……。