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リブと綾介は、暗い書庫の中を歩いた。
「ずいぶんと、ひっそりしていますね」
綾介の言葉が響いて、奥の方へ呑まれていった。省エネ設定になっているのか、リブと綾介が動くたびに灯る照明も移動していく。
「人がこないですから。あなたの前に来たのは、ざっと二十年は昔だったわ」
そのことばを聞いて、おもわず綾介はふりかえった。
「二十年ですか? そりゃあまた……」
想像はしていたが、あまりのことに言葉を失った綾介に、リブは笑みをかえした。
「今どき、本をわざわざ読みにくる人なんていませんよ。アカデレコードにアクセスすればすぐ見れますからね。
ここの本のデータも、その時ぐらいにはアカデレコードに登録されているわ」
「……父さんが言ってたんだけど、昔はこういうもので勉強していたんですよね?」
「そうよ。あら、あなた学生なの?」
「今年で高校生になります」
「そうなの……さぁ、ここよ。これとこれと、これ」
リブの言うままに本をとる。
「こ、この中からしらべるんですか……?」
本のぶ厚さに綾介はおもわずたじろいだ。一冊がゆうに千ページはこえている。半端な量ではない。
「文句いわない、いわない」リブは、ぼうぜんとしている綾介に、にが笑いした。
リブが選んだ三冊をつくえの上におく。索引からあやこという名前の人間を見つけていく。
「漢字とかは、わからないの?」と、人名事典をのぞき見ながらリブは聞いた。
「うん……。わかってることは、あやこっていう名まえと、有名な書誌学者の娘だってことだけ」
綾介は、顔もあげずに言った。
「その書誌学者の名前はわかるかしら?」
リブの問いに、綾介は首を横に振った。
しばらく、二人ともなにも言わなかった。本をめくる音やリストアップした名前を書きこむ音だけがひびく。
一冊分を見て、綾介は、ぐぅっと、背をのばした。
「あぁ、腹へったなぁ」
かれこれ、ここに来てから一時間はたっている。そろそろ夕ぐれ時にちがいない。
「ラウンジに移動しましょうか? ごはんは持っているのでしょう?」
リブの問いかけに綾介はうなずいた。
ラウンジは書庫があった階の下にあった。
二人は向かいの席に座った。
綾介は、持ってきたパンをもくもくと食べた。
ふと、リブが、
「失礼かもしれないけど、何故、あやこさんという方を探しているの?」と聞いた。
しばらく、リブを見つめていたが覚悟をしたように、
「母親らしいんだ」と、言った。
今晩は、魚住です。
もともと書いていた話だから、すぐ更新出来ますとか言っておきながら、あれよあれよといううちに二ヶ月も経っていまして、ほんっとーに申し訳ありません。
ひっそりと更新させていただきます。