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さかのぼること、二時間前。
綾介は、一人で、荒れ野を歩いていた。時おりふいてくる強い風が砂をまきあげる。彼の黒いコートは、土色っぽくなっていた。
(ここらへんだろうか?)
綾介は、周りを見わたした。黄土色の岩がちらほらと見える。
彼は、ふとたちどまる。目の前にある、大きな岩を押す。ごりっと岩がこすれる音がして、四角い岩の板がおちた。
大きな岩山の中は、空洞だった。
綾介はコートのポケットから、懐中電灯をとりだして、つけた。ぼっと、オレンジ色の小さな光がつく。
綾介は、小さな光をたよりに奥へと進んでいった。
やがて、前方に、にぶく光るものがあらわれた。綾介は、すこし身がまえるが、それが、ガラスに反射した光だと気づいて力を抜いた。
ガラスのドアの前には、小さな看板がある。それを読んで、彼は、緊張をといた。どうやら、目的地にやっと着いたようだ。
「すみません。だれか、いますか?」
綾介は、目に見えないだれかに話しかけるように言った。
ちょっとすると、ガラスの向こうに、電灯がついた。
『ようこそ、いらっしゃいませ。ここはガイア古書籍図書館です』人間そっくりに、作られた合成音が言った。
スーっと、ガラスのドアが開く。綾介は、足をすすめた。
ふいに、前のほうに、ぼう、と人かげが見えた。綾介は足を止める。
「だれだ?」冷静をよそおうとしたけれど、声がうわずった。
「おどろかせてごめんなさい。私は、館内自動検索システム『リブ』です。
どのような本をお探しですか?」
「え、ああ……」
綾介は、面くらったように、前にいる人を見た。……本当に、人にしか見えない。
黒いトレーナーとズボン。その上から、まっ白なエプロンをつけている。
そして、顔は、何の変哲もない、少女のそれだ。
(なんで、こんな所に人がいるんだ? というより、こんなところで人が住めるわけがない……)
けげんな顔をする綾介に少女は、
「ああ、この姿は、ホログラフによる立体映像なんです。実体は、ありません」
「ああ、なるほど……」綾介は、ふっと緊張をといた。
「それで、何をおさがしにいらしたのです?」
綾介は、ようやくこの図書館に来た理由を口にする。
「人を探しているんです。"あやこ"という名まえの女性を探しているんです」