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第四話 ウィンドウショッピング&カッフェ

「はいっ! というわけでっ! 今日は二人でウィンドウショッピングをしたいと思いますっ!」

「はあ」


 場所は駅前。時刻は昼過ぎ。お互い昼食は済ませてきたところ。

 電車で二人、この辺で一番栄えている駅前までやってきた。なにをするのかと思えば、ウィンドウショッピングだという。

 今日のふーちゃんの装いは、桜色の薄手のカーディガンを羽織り、白の膝丈フレアスカートをオシャレに着こなしている。靴はこんなの持ってたの、と言いたくなるような、わたし好みのパンプスだ。しかし、そこはふーちゃん。先ほどからチラチラ見え隠れしている、イチローが着ていそうなTシャツで色々と台無しだった。

 ここに来る前、色々あったせいでちゃんと見れてなかったし、ちゃんと感想を言えてなかった。改めて言おう。

「一緒に歩きたくない」

 ええ、なに、その、それ。

「どこで売ってるの? そういうTシャツ」

 外国人はよく見る街だけど(実際住んでいる人も多い。外国人向けの語学学校があるから)、そういう東京にありそうな、変なTシャツ売ってるお店はこの辺だとない。大方通販だろう。何を思ってそういうのを選ぶんだろう。ウケ狙いかな……誰に対して? 通行人?

「聖ちゃんがそれ言う?」

「?」

 言葉の意味が分からない。わたしは見せびらかすようにその場で一回転して見せた。

 照りつける日差しに、真っ赤な日傘がくるくると踊る。今日のわたしは、ふーちゃんと初めての二人でお出かけということで、せっかくだからとお気に入りのお洋服を着てきたのだった。

 頭に装飾具の類は付けていない。上から下までワインレッドのドレス。ふりるふりふり超かわいい。今日のわたしはお姫様。

「キャバ嬢みたいだね」

「あ?」

「なんでもない……」

 ふーちゃんの戯言には聞こえなかった振りをして、改めてふーちゃんに問い掛ける。なんか震えてる。どうしたのかな? ブルブルふーちゃん。

「ウィンドウショッピングって言った?」

「そそそっ! 女子高生と言えばウィンドウショッピング! 乙女の嗜み、ウィンドウショッピング! 買わず、手に取り、見て、去って。お店を冷やかす、ウィンドウショッピング!」

「それだけ聞くと、すごく楽しくなさそうだけど」

 ただの迷惑な客。


 わたしは心の中で「うーん」と悩む。

 どうしてかな?

 ことごとく外して来るっていうか。まあ、まだふーちゃんが考案した女子高生的イベントってこれで実質二回目なんだけど。

 ウィンドウショッピングって女子高生っぽいかな? 女子高生って限定しちゃうのも違うような。女の子だったら、特に年齢を問わず、お子様からお年寄りまで、当たり前にやっていることだ。

 最近はないか。

 なんなら、街に出ないで、家の中で通販のサイトや雑誌でも見ながらあーだこーだ友達同士で論じてる方が、よっぽど女子高生っぽいと思わなくもない。よく知らないけど。

「あ」

「どうしたの?」


 そこで、わたしは気付いてしまう。ひょっとして、と。可能性の一つに思い至る。


 目の前の駅ビル、その一階、それこそ真ん前にある、そこそこお客さんで賑わっているカフェがある。

 オシャンティーなかっふぇー。

 その賑わいの中には自分たちと同年代の女子の姿があった。

 わたしは思ったことを言う。

「ひょっとしてだけど、ふーちゃん。女子高生の行きそうなお店入るの、びびってる?」

 固まった。ぴしりと。

 そう、音が立ちそうなほどにふーちゃんは固まった。

 首を傾げ、もう一度。

「怖いの?」

「…………」

 三点リーダで返ってきた。

「ふーん」

 予感めいたもの――加えて、引っ掛かる言動やサインはあった。

 俗世間から隔絶された孤島に住まう少女。

 隣に座るわたしに向かって、ファミレスがどうこう、タピオカミルクティがどうこう言ってた癖して、敢えてそちらには行かず妙な提案をしてくるその感性。

 それをわたしは――ふーちゃんズレた子だからそんなこともあるかなって風に納得してた。疑問にも思わなかったよ。

 けれど、目の前にそれっぽいお店があるにも関わらず、ウィンドウショッピングなどと云われてしまうと疑問が生じてくる。

 なんていうか……小手調べ感がすごい。

 真っ直ぐ直進して行く、ふーちゃんの性格に合わないっていうか。

 だって、ね? そっち入ればいいじゃん。

 そこに女子高生が行きそうなお店があるんだからそっちに入ればいい。行ったことないのなら一回だけでも。

 ね? 駅前だよ? カラオケだってゲーセンだってたくさんあるよ? それなのに。

 ウィンドウショッピングて。

 それに、ちょっと前のふーちゃんの言葉。

『わっほーい。すごいよ。裏にこんな遊べる施設あんじゃーん。ゲーセンだよゲーセン。私、リアルで初めて見たー。そしてマーック! あ、マクドっていうんだっけ? こっちはどっちなのかな? ケンタッキー! ひゃわー! 本当に白髭付けたおっさん突っ立ってる! あれ盗まれないのかな? ミスド! ミスドだよ! マジかよ~。ドーナツ並んでるよ。百種類ぐらいあんじゃね、アレ? イカれてやがるぜ~。ねえっ、お兄ちゃんっ!入っていーい?』

『? だって、聖ちゃんにはちゃんとした物を食べていて欲しいし。ま、買ってきたの私じゃなくて、全部お兄ちゃんだけどさ』


 よくよく思い返してみればふーちゃん、一人で行ってない。


 ぜーんぶ、お兄さんと一緒か、もしくは、自分では行かずに、お兄さんに行かせてる節すらある。

 ……もしかしなくとも、一人だと入れないんじゃね?

 えぇ?

 ねえ?

 こいつ、ひょっとして、びびってんじゃねーの?

 はっ!?

 いやいや、まさか!

 だって、ふーちゃんだもん。こんな元気っ子なふーちゃんが、わたしとは正反対の性格をしているふーちゃんが、まさか、ただのいち喫茶店にびびってるなんて、まさかまさか、そんなことがあるわけないよ。

 全くもう!

 はあ~。何を言ってるんだろう、わたしは!


「……………………なにを言い出すかと思えば」

 約二分の長きに渡る沈黙の後(長いよ)、ふーちゃんはようやく口を開いた。心なし声がいつもより上擦っている気がする。

「ハ」

 呆れるように、しかし、片方の頬をぴくぴくと動かしながら高らかに笑う。

「ハ、ハハハ。ハハハハハ。ハハハハハハハ」

 わたしも笑う。

 つられて。

「ハハハハハハハハハハハハハハ!」

「ハハハハハハハハハハハハハハ!」

 ふーちゃんも笑う。

 周りの人がちょっと遠巻きしてくる。わたしたちから半径数メートルぽっかり空間ができる。

 構わない。

 壊れたゼンマイ仕掛けみたいにふたりして笑い続ける。

 そして、どちらからともなく止まる。

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「Hey,Japanese Chiken Girl!! haha!!」

「誰がチキンじゃあああっ!」

「ひっ、やっ、やだ。怖いっ」

 わたしは何故か突如大声を上げて怒鳴り出したふーちゃんにびっくりして頭を抱えて蹲る。びくびく。びくびく。びくびく。いきなりの大きな声に体が強ばった。

「うっ、うう。ううぅ。怖いよお。パパぁ」

「お、お、おちょくりやがって、このアマァ……!」

 口調が乱れてる。どうかしたのかな?

「はうあーゆーどぅーいんぐ? べいびー? あーはー?」

「お、おんどりゃあ、人が大人しくしていれば、調子に乗りやがってえ……!」

 やくざかな? ……大人しく?

「へーい、ジャパニーズヤクザー! ヤクザー!」

 ちょっと楽しくなってきた。

「ちっ。今度ブツと一緒に山ん中に埋めてやりゃあ」

 一人でぶつぶつ言い出したふーちゃん。はて? 山? 精神が半分ぐらいやくざに成りかけてるよ。どうしよう。そんなふーちゃんは見たくない。だったら、わたしが更生させないと。ふんすっ。

「聖ちゃん? なんで両の拳をぐっと握ったの? なんでこの場面でやる気を出してるの?」

「ふーちゃん」

「はい?」

「行こっか」

「どこへ?」

 すっくと立ち上がる。

 ふーちゃんに額に冷や汗が一筋流れる。

「少し歩くけど、最近スタバがこの辺にオープンしたから……」

 足を北へと向けたところで、後ろからがしっと左腕が掴まれる。後ろを振り返ってみれば、ふーちゃんがわたしの腕を両手で掴み、身体をちょうどくの字みたいにしていた。

「生まれたばかりのキリンのマネ?」

「誰がキリンじゃい! いや、そうじゃなくって!」

「?」

 首を傾げる。

「やめよ?」

 なんで?

「い、いや! ほら、だってさあっ! いきなしはなんか違うじゃん? そ、そう! こういうのは段階が大事だって聖ちゃん言ってたでしょ? 少しずつ、少しずつが大事!」

「そんなこと一言も言ってないよ? それに……そんな見るものないよ、ここ」

 お土産屋がせいぜい。それだって、だいたいの物は箱詰めされていて、大きなデパートみたいに試食で時間を潰せるってこともない。観光客向けのキーホルダーとかアクセサリーとかタオルとかはたくさんあるけど。

 服とかだってわたし好みの服――どころか、若い人向けの服が置いてあるところは全くと言っていいほどない。全部おばさん向け。栄えてるって言っても、ウィンドウショッピングを出来る場所じゃない。昔ながらの商店街に毛が生えた程度の街。構えているお店もほぼほぼそんな感じ。

「じゃあ、ほら、ね? 毛の生え具合をちゃんと見ていこうよ。観察? うん。まだ産毛かもしれないじゃん?」

「日本語を喋って」

 あと時折心読んでくるのやめてほしい。

「せ、せめて……ね? いきなりスタバは早いと思わない? 時期尚早だよ。うん、そうだ! ドトール辺りで手を打たない?」

「ドトールの人に怒られて」

 AサンドとかBサンドとかCサンドとか美味しいのに。

 わたし、Bサンドがあれば一生生きていけるよ。パンはいらないから抜いた中身だけ別売りにして欲しいくらい。それに、残念だけど、この辺りにドトール無いし。ドトールは直ちに店舗数増やして。

「コ、コココ、コメダなんてどう? 長居できるからおばさんもいっぱいいるって聞いたよ? ネットで言ってた!」

「趣旨、変わってない?」

 だめじゃん。女子高生が行くとこ行くんでしょ。それに、コメダだって女子高生はいるとおも……この辺は車じゃないと行けない位置にあるから本当におばさん多いかもしれないけど。

「うだうだ言ってないで。行くよ。ほらっ、きりきり歩け!」

「ああああ~~~」

 引き摺られるようにして小笠原のびびりは歩く。時折折り畳んだ日傘でぱしんぱしんふーちゃんのケツをひっぱたいた。駅前にいる人たちがずっと視線をくれているが、気が大きくなっているわたしはそういうのさっぱり気にしない。超気分がいい。


 どなどなどーなー、どーなー。ふーちゃんひきずうって~。


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