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第六話 お誕生日パーティ改7

「結局、最初の方に言ってたヒントってなんだったの?」


 パパさんの入れてくれた紅茶を味わいつつ訊く。

 んー。おいちー。

 落ち着くー。こういうのでいいんだよ、こういうので。

 最初からこうしてくれればいいのにさ。

「ウォレスはスコットランドの英雄だから。ねー?」

 聖ちゃんは自慢するように言って、足元でくるくる回っているウォレスを撫でた。あれから臭いのキツい料理は引っ込められ(夕ごはんに食べるらしい。お母様がんばれ)、サッカーの試合も終わって、パパさんも一緒にダイニングテーブルでお紅茶と洒落込みあそばせておりざんす。

「知らんがな」

「ウォレスを知らないなんて。ブレイブハート観なきゃ。だいたい史実通りだよ。ざっくりとスコットランドとイングランドの歴史の一端が知れるから」

「メル・ギブソンに丸投げだ」

「知ってるの!?」

 ぱあっと表情が華やいだ。かわいいなあ。

 しかし。

「いんや。名前だけ」

「けぇっ!」

 本当、そういうとこだと思うよ。聖ちゃん。

「だいたいさあ。イギリスだったら、フィッシュアンドチップスとか出してくれればよかったのに。私、あれ、まだ食べたことない」

「有名過ぎるし、すぐ答え分かっちゃうよ」

 そりゃ確かに。

「今度出すよ」

 そりゃ楽しみだ。

 そんな私と聖ちゃんのやり取りを、にやにやと見守っていたパパさんが紅茶片手に口を開いた。

「フー。改めて。本当にありがとう。聖と友達になってくれて」

「いえいえ。そんな。こちらこそ」

 楽しい想いをしているのは私の方だ。

 今更だけど、パパさんがサッカーの試合を『途中から』視聴し始めたのは、自国の試合じゃなかったからだろうな。

 気になるっちゃ気になるが、出身であるスコットランドの試合ほどじゃなかったってわけか。

 ……そして、パパさんがやたら白熱していたのは、先程の反応を見るに、イングランドが攻められていたことに対する興奮だったのだ。点数云々ではない。

 私はいつかどっかで見て記憶に引っ掛かっていたネットの記事を思い出す。

 それは、ラグビーの国際戦で、スコットランド人たちが、同じイギリスのはずのイングランドを応援せずに敵国ばかりを応援している様子を面白おかしくまとめた記事だった。

 ……色々あるんだろうなあ。あんまり深堀りしたくない。触れたくない。

「フーと仲良くなってからというもの、聖もよく笑うようになったよ。聖は昔から引っ込み思案でなかなか友だちができなくてね。最初は良さそうでも、だんだんと疎遠になっていくのさ。どうしてだか分からなくてずっと悩んでいたんだ」

 パパさんの言葉に恥ずかしくなったのかなんなのか、聖ちゃんは唇を尖らせて部屋から出て行った。ウォレスが追いかけて行く。

 その姿を視界の端で捉えながらも、私は柔らかい笑みを浮かべて言う。

「性格じゃないですか?」

「なにか言ったか?」

「ほんと、そういうとこだと思いますよ」

 冗談は置いといて。

「ま、聖ちゃん感性独特ですし、服装はヤバいですし、言動なんかも時々あれですし、すーぐ調子に乗りますからね。気難しい子なんじゃないですか」

 エスカレーター式の一貫校とはいえ、学校という空間は一度躓くとなかなか取り戻すのに苦労するもんだ。聖ちゃんは自分だけの世界とか作っちゃいそうな子だし。それに、例え中身は日本人でも、よそ者ってのは、だいたいどこの世界でも苦労するもんさ。幼少期まではあっちで過ごしたってのも、小学校辺りまでは、もしかするとスコットランドにいたのかもしれない。


 ……ま、私だって普通に学校生活、みんなと距離感じてるしね? 自分で言うのもなんだけど、私は持ち前の明るさでどうにかこうにかやっているが、ふとした時、話の輪に入れなくて、寂しくなる瞬間ってのはあるよ。

「えー? それなんの話ー?」みたいに割って入っていくのも気が引ける。気ぃ使うじゃん? 

 あー小中高一貫ってこういうことなんだなーそっかーみんなこの学校の前からの付き合いだもんなーと実感する毎日である。

 小笠原懐かっしんぐ。

 まだ帰りたいとまでは思わないけど、高校生活思いっきり遊んだら、やっぱり地元だなーってふと感慨に耽って空を見上げてみるくらいには私にだって思うところはあるのさ。聖ちゃんもそうなんだろう。

 ……聖ちゃんはなんでか気使わないんだよね?

 余所者同士だからかな? ちっちゃい島国出身同士だからか(スコットランドと小笠原諸島比べるのは流石に失礼か)? 

 私は日本人だけど本州はどこか外国に感じてしまう感覚あるしね。たぶん聖ちゃんと感覚は似通っているんだろう。

「似た者同士ってわけか。聖から聞いていた通りだ」

 むう。

 やり込められてるって感じが気に食わねえぜ。パパさんよ。

「紅茶、おかわり!」

 はいよ――と言って、パパさんは私からティーカップを受け取った。

 ぶっとい腕で優雅に注がれる紅茶を見ながら考える。

 メイド!

 ではない。

 パパさんのこのスカートは向こうの民族衣装か何かだろうか。それもヒントの内だったのか。スコットランドって一体どんな国なんだろう。確か、ハリーポッターの国だっけ? 私の島にも来て欲しいけれど、いつか聖ちゃんの島(?)国(?)にも、行ってみたいな。


 また二人で――これからも二人で、

 色々な場所に行けたらな――。


「はい、ふーちゃん! これクイズの景品!」

 ぼーっとしてたら、聖ちゃんがウォレスと一緒に戻ってきた。

 手渡されたのは手のひらサイズの透明なビニール袋。口の部分を綺麗にリボンでラッピングされている。中身は悲しい哉宣言通りのマーマイト。

「……ありがとう!」

 その満面の笑みは、果たして聖ちゃんの悪戯好きの性格から来るものなのか、本当に、心から喜んで欲しくて、私にこうして手渡したのか非常に判断に悩むところだ。

 一瓶でも処理に困るぜ。どうすんだよこれ。

「……それと」

 ようやく、いつもの『聖ちゃんらしさ』が戻ったように、聖ちゃんは私の前で体をくねらせて、手と足を擦り合わせた。もじもじ聖ちゃん。

 どした? おしっこ?

「これっ!」

「これは?」

 分かっていたけれど敢えて訊いた。手渡されたのは綺麗にラッピングされた赤のチェックの紙袋。横っちょに『HAPPY BIRTHDAY!!』の銀色に光り輝くシールが貼られている。なるほど。こちらが本命というわけだ(よかった……)。

「ふーちゃん。だいぶ遅れちゃったけど、十六歳のお誕生日おめでとう。これ、プレゼント。あの、その……わたしと仲良くしてくれて、お友だちになってくれて本当にありがとう……これからも一緒に、ずっと一緒に遊んでほしい」

「こちらこそ」

 こっちに来て初めての友だちにもらった初めてのプレゼント。それも、あの聖ちゃんが自分から。無い袖がどうとか言ってた子と同じ子なんだぜ、これ。

 私は本当に嬉しい。心からね。

「開けていい?」

 こくこく頷く赤面聖ちゃん。改め、えっちな顔したこくこく聖ちゃん。

「――」




 さて。

 中身はなんだったでしょうか?

 女子高生らしいプレゼントか、スコットランド伝統のものか、はたまたここまでやっといてまだウケを狙ったプレゼントか(それもまた聖ちゃんらしいっちゃらしいよね)。

 クイズの答えは次回の放送に持ち越しとし、今日の放送はここまでとします。

 え? 景品ですか?

 なんと、正解者にはマーマイト一年分(人によっては一生分!)をプレゼント!

 え? 転売じゃないかって? 知りません!

 それではっ!

 シーユーネクストタイム!

 



   おしまい


ふーちゃんと聖ちゃんが全国区で有名になってしまうシリアスな続編は既に書き終えています。いつか出せたらと思います。

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