第六話 お誕生日パーティ改4
パパさんが大型テレビの前のソファに深々と腰を下ろした。そうして、チャンネルを幾つか回していって、お目当て番組を探し当てる。
サッカーだ。そう言えば今ってワールドカップやってたっけ。
「よしよしよしよぉーし! ハッハー!」
なかなか白熱している。どうやら試合は途中だったらしい。左上にはイングランド対スウェーデンの文字。得点は二対〇を示していた。
うん? これはもしや、大きなヒントになるのでは?
ってか、普通に考えたら、イングランドが正解じゃね?
ふふっ、抜かったな、聖ちゃん。パパさんにしっかりと言い含んでおくか、サッカー見るなら自室でとでも伝えておくべきだったな。聖ちゃんも、パパさんのリアクションにまでは頭が回らなかったと見える。
いいさ。今はまだ黙っておいてあげよう。その代わり答えは一発で当ててやるがな。慈悲など無いぞ聖ちゃん。
……そういえば当てたらどうなるんだろう。
「聖ちゃーん! これって当てたら何貰えるのー!?」
キッチンに行ったっぽい聖ちゃんに大声で訊いてみた。そうしたら同じく大声で答えが帰ってくる。
「マーマイト一年分!」
いらねえ。
一瓶でも一年分どころか一生分だわ。
「おまたせ」
そう言って持ってきたのは……なんだこれ。
なに、この焦げたクッキーみたいなの。
小皿には薄く切り分けられた五百円玉大はありそうな黒い物体が十枚ほど並んでいる。表面からかろうじてお肉だと分かるくらいに黒い。
「聖ちゃんの失敗した料理の残骸?」
「違うよ……ブラックプディングって言うの」
「ふうん。プディングってことは、こんな見た目でプリンみたいに甘かったりして」
まあ、どっからどう見ても、プリンには見えないが。
ていうか、だんだんと聖ちゃんの悪戯っぽい性格がこうして付き合ってきて分かってきた私だったし、今回のこれもここまで来ちゃえば、聖ちゃんの故郷の中でも、かなり好き嫌いの分かれる、云わばゲテモノの類なのだろう。
正直、お味の方はあまり期待できない。
……だって、体に悪そうな見た目してないし。
逆に良さそうな色してるもんね。
そうなるとアレだよね。テンション下がるよね。
私の体は今超絶ジャンクを欲してるのに(忘れられない揚げピザの衝撃)。
「いただきます」
たいして期待せずにひょいっと一枚手掴みでいってみた。
……む? これは……。
「美味しい。普通に。ちょっとびっくり。また変なもん出してくるのかと思ってたのに」
「でしょ?」
「なんか変な臭みはあるけど。甘いの飲んだ後だから食べやすいかも」
「濃さが癖になるよね」
もちゃもちゃと食す。焦げたクッキーみたいな見た目からして、カリッとしたのを想像していたけれど、普通のウインナーよりは大分柔らかい。だが、ウインナーよりは大分癖のあるお味だ。
これは……レバーとかそっち系かな? 私、レバーは苦手だけど、これは結構いけるわ。
「これ、中身なんなの? レバー?」
「豚の血」
「ぶっ!」
「ばっちいな」
とか言いつつ笑ってる聖ちゃん。
わたしは噎せ続ける。変なとこ入った。ちくしょう。
「に、肉は……? 肉は一体どこ?」
「油脂とかちゃんと入ってるよ」
「油脂は油脂だろ」
「別名、ブラッドソーセージ」
「そっちを先に言ってほしかったな……」
改めてブラックプディングもとい血の腸詰めを見た。ああ、なるほど。この黒は血の色か。どーりで臭かったわけだ。
「欧州だと割と見るよ」
欧州、つまりはヨーロッパ。ここに来て初めてヒントっぽいヒント。それだってかなり範囲が広いけど。
しかし、このヒントと先ほどのパパさんの白熱っぷりで完全に確信できた。間違いなくイングランドだ。
ひょいぱくとまた口へ。
「あれ? それでも食べ続けるんだ」
「正直、日本だとあんまりお目に掛かれない一品だから抵抗はあるけど……ただ、血がどうこう言い出したら、動物の臓物食ってるレバーとかどうなの?って私は思っちゃうし。ま、これはこれで美味いよ。珍味珍味」
慣れればどうってことな……う~ん、けど、後味が血生臭いのはどうにも慣れないかなあ。そしてひたすら臭いのも。まじでくせえ。
「ふーん。そっかあ。臓物ね」
なんで少し残念そうやねん。しかし、またどことなく悪魔の微笑みが聖ちゃんの頬に浮かんでいるように見えるけど気の所為だろう。
「じゃ、次ね」