第六話 お誕生日パーティ改2
予想を遥かに上回るにジャンキーっぷりだった。ピザ――らしき三角形に天ぷらの衣っぽい物が付いている。これは……お料理っていうより、出前のピザに衣付けてそのまんま揚げただけでは(だから早かったのか)?
今だかつてこんな重たいお通しがあっただろうか。
紙皿もよくよく見たらピザーラって書いてあるし。
お料理と呼んでいい代物なの?
「我が国は揚げ物が大好物。このお料理は、サッカー史上最も愉快な応援コールも生んだの。
『お前らのピザを揚げてやる! お前らのピザを揚げてやる!』
バーサスイタリア代表戦で有名な応援歌だよ」
それは応援歌というより、ただの野次では?
しかし、なるほど。イタリアではないということが分かったところで、私はこれを食べねばならない。お腹は空かしてきた。ごくりと喉を鳴らし、視線を聖ちゃんとパパさんにやれば、二人とも得意気に腕を組んで私を見ていた。ほら、食ってみろと言わんばかりだ。こうして見ると親子だ。なんか腹の立つ仕草だが、そこはよし。いつもの聖ちゃん。
予めカットしてある一切れに手を伸ばす。通常のピザのように、でろんとチーズが垂れるのを手で抑える必要もないからこれはこれで便利なのだろうが、残念、圧倒的ピザ経験不足な私は便利さにピンとこない。
衣で覆われているためこちこちだ。
手に油がべったり付くのが非常に気になるな。
「揚げピザねえ」
ピザなんてそのまんま食った方が美味いでしょうに。揚げる必要性。
疑念を抱いたまま口元まで運ぶ。微かにピザの香りがする程度で、どっちかってえと、周りの衣の油っぽい香りの方が強い。香りも殺されているような。
はむ。と、一口。
「!」
これは――!
得も言われぬ罪悪感!
ざくっとした衣を噛むと、中からでろっとチーズがとろけて現れ、それからトマト、ベーコン、油を吸ってしなしなになった玉ねぎが渾然一体となって同じく油を吸ったピザ生地に絡み合う絶妙なハーモニー。
ただでさえ、摂取カロリーの高そうなピザを揚げて包み込むことによって、まだそんなことを気にしている自分自身の矮小さを再確認させられるとてつもなさがここにはあった。重ねて大量のカロリーでぶん殴ってくれるような快感すら。
感じる! ああ、今、私、思いっきり身体に悪いものを食べていると! これは……。
「美味い……! 美味すぎる……!」
「ハッハー! そうだろう、そうだろう!」
「だろう、だろう!」
パパさんに聖ちゃんが続く。
気にしちゃあいられない。次だ。もう一口だ。ざくざくと揚げピザを消化していって、次の一切れに手を伸ばす。脳内エンドルフィンが分泌されて、私の身体を多幸感が包み込む。やっべ。うっひゃ、うひゃ。最高。マジ、最高。あっ……。
「ここまでだよ」
聖ちゃんがひょいと紙皿を持ち上げてパパさんに手渡す。パパさんはにやりと微笑って奥へと引っ込んでいった。
「どうしてそういうことするの?」
摂取し足りなかったのに。
脳がアレをまだ欲してたのに。
私の物欲しげな視線を受け、聖ちゃんが悪戯っぽい笑みを浮かべた。どうしてだろう。聖ちゃんがだんだん悪魔に見えてきた。
「だーめ。お腹いっぱいになっちゃうよ。飛ばしすぎはよくないよ。一旦ブレーキ踏まないと」
「ブレーキ?」
「おまたせ」