第六話 お誕生日パーティ改
「やあやあやあ。待ってたよ。いつも娘と遊んでくれてありがとう」
両手を広げられて、一瞬ハグでもされんのかなって思ったけれど、普通に握手してきた聖ちゃんのパパさんは、ちょっと小太りで口周りにお髭をたくわえた、これまた聖ちゃんと同じ遺伝子を受け継いでいるんだろうなって感じの、瞳が綺麗な金髪のおっさんだった。
「キミのお陰で娘が明るくなってね。まあ、二三心配事は増えたんだが可愛いものさ。改めてようこそ我が家へ。ミス・フー」
「二三で済んでなによりです」
それだけ聞くと大御所ロックバンドの子分みたいだなと思いつつ、私は通されたリビングを見る。
フローリングに薄いグリーンの壁。その壁には風景画が幾つか飾られ、写真立てには家族写真が収められている。聖ちゃんと……あと小さな女の子。
バックの風景が聖ちゃんの故郷かな? 広大な大自然が人物同士のわずかな隙間からでも伝わってくる。もちろん聖ちゃんは金髪。
夏だから稼働していないけど外から見た通り暖炉が付いていた。私の家とは正反対の正しく外国のお家って感じだ。
以前に一度だけ聖ちゃん家に来たことがあるが、あの時はさっさと二階にある聖ちゃんのイカれた部屋に上がっちゃったしね。こうしてじっくり見る機会は無かった。ウォレスもパパさんとドッグランに行ってるだとかでいなかったし。お母様と少しご挨拶した程度だ。
「さあ。座ってくれ」
調度の良いダイニングテーブルが設置されている。その椅子の一つに私は勧められた。
「よし。早速用意をしよう」
そう言って席を立つパパさん(用意……? ところで、なんでこのおっさんチェック柄のスカート履いてんだろ? ツッコんじゃいけないやつ? メンズスカートってやつかな?)。私は足元にちんまりと座るウォレスを一撫でし、タイミング的に今かなと思って聖ちゃんに訊いてみる。
「で? えーっと、出身国当てクイズだっけ?」
「そうそう」
聖ちゃんは、私の向かいの席に腰を下ろした。
「クイズにするからにはアメリカーとかそう分かりやすいものでもないんでしょ?」
「違うよ。実はもうヒントはいっぱい出しているんだけどね」
ふむ。アメリカは違うと。
ヒントは出している? と、言われても、私ってその辺にいる一般的な女子高生とそうは変わらないから、外国に関する知識なんてそれほど持ち合わせていないんだけど。一体どうやってこのイベントを進行していくつもりなのかな?
あ。そっか。たしか郷土料理とか言ってたっけ?
てことは何かその国特有の一品が出されるんだろうか。じゃあ適当に答えてって正解を出しちゃうのも気が引けるな。そこは気をつけよう。
……ふむ。しかし、こうして見ると。
恐ろしいほど金髪が似合っている。パパさんが嫌がったのも分かるというもの。黒髪も捨てがたいけど、こっちの方がしっくり来るな。
そうして見ていて気づいた。
「もしかしてさ、あの前髪に入れてた金のメッシュって……」
「ああ。あれ、メッシュじゃないよ? 内側の毛染め忘れててそのままになってただけ」
ずぼらだなあ。ひょっとして国民性だったりする?
「今日お母さんは?」
「いないよ。今日はパパがふーちゃんのためにお料理振る舞うって言ったら、逃げちゃった」
「逃げちゃった……?」
え。なに。私はお母様が逃げ出すような代物を今から食べさせられようとしているの?
その私の不安そうな表情を見て取ったのか、
「ほら、お母様は健康志向だから」
と、聖ちゃんは付け足した。
付け足されても。逆に不安になるわ。
不健康な物――ジャンキーな食べ物ってこと? ならば私の大好物――とまでは言わないが望むところだ。ひょっとしてピザとかかな? 私、ピザだって冷凍のやつとスーパーやコンビニで売ってるピザパンぐらいしか食べたことないんだよね。ピザって言ったらアメリカってイメージがあるけど、それはさっき否定されてるから……だったら、ピザ発祥の地、イタリア料理かなー? ナポリのピッツァとかよく言うもんね。わあ~。たのしみ~(恍惚)。
そうこうしているうちに五分が経過。パパさんが戻ってきた(早いな)。手には何やら大判の紙皿を持っている。
「おまたせ」
テーブルの上へとそっと置かれた。
「まずは一品目のお通しからね」
「わくわく。わくわく」
「名物揚げピザ」
「揚、げ……?」