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03

「クソだろ」

「クソだな」

「大変だったんだなぁ、ヒナちゃん…」


ドレッドさんから果実のジュースをご馳走になりながらこれまでの経緯を話すと、みんなこぞって不機嫌そうに眉を寄せた。

話の途中から参加したリザードマンの双子の冒険者、ギアさんとゼアさんもうんうんと強く頷く。

あまり自覚はなかったけれど、わたしの状況は周りから見るとかなり酷いものだったようだ。


「しっかし、ホント運が良かったなぁヒナちゃん。自力で混沌獣から逃げれるなんて、腕の立つ冒険者でも難しいのによ」

「混沌獣…?」

「100年ぐらい前から突然『深淵の森』に湧き出した魔物の総称だ。他の魔物より野生の本能が強くて凶暴。その上何故か人間の匂いにだけは敏感でな、人間の冒険者じゃ犠牲が出るだけで討伐が難しいってんで、魔物の冒険者がこうして駆り出されてんだ」


この集落は『深淵の森』に現れる混沌獣を討伐する魔物の冒険者達の為に作られたものらしい。なので住人の殆どが魔物で冒険者だ。


「ヒナも流界者だ。この世界に来たときに何かしらスキルを授かってるんだろうよ」

「あぁ!そっか!」

「スキル、って…?」

「生活や鍛錬で身に付けることができる、才能…いや、技能だな」


スキルは基本的に後天的に手に入れることができるものが殆どで、先天的なスキルは多くても2つ程までだという。

しかし流界者はこの世界の外から来た関係か、3つないし4つのスキルを初めから持ち合わせていることも珍しくないという。


「それを確認出来る魔具が、コレだ」


カウンターの中でゴソゴソと作業していたドレッドさんが顔を上げカウンターの上に取り出したのは、ビー玉のようなものが浮いた水盆。

魔具、という魔法の効果のついた道具らしく、そのスキルを持ってない人や魔法が苦手な種族でも使える物らしい。

この水盆は『鑑定』というスキルの効果のある魔具だそうだ。

『鑑定』は人や物を文字通り鑑定するスキル。人であれば身長や体重などの身体情報の他に持っているスキルの確認などができる。物であればその名称などの詳細情報が見れるそうだ。


「水盆の中に手を入れるだけで情報が見れるって代物だ。健康に害は無いから安心しな」

「オレらも冒険者になるときに使ってるから、安全性は保証するよ!」

「は、はい…」


みんなに見守られる中、恐る恐る水盆に手を沈める。心地よい冷たさが伝わってくるのを感じながらそのままジッとしていると水盆の水が淡く光りだした。

吃驚して手を引っ込めてしまいそうになるが、なんとか持ちこたえて光が収まるのを待つ。

光は一分と経たずに落ち着いた。ドレッドさんが貸してくれたタオルで手を拭きながらみんなで水盆を覗き込むと、水面にプロフィールのような文字が浮かび上がっていた。


「おぉーー!」

「えっ!?ヒナちゃんまだ17歳なの!?若い!!」

「お前ら、見るとこそこじゃねぇだろ…」

「『忍耐』、『隠密』、『物理耐性』、『精神耐性』…。我慢大会でもしてたのかよ…」


アッシュが呆れるのもわかる気がする。

スキルは生活の中でも取得できると言っていた通り、これらのスキルはわたしの今までの経験が反映された結果だろう。


「だとしてもこんなに防御や耐性スキルを持ってる人はそう居ないだろ。お嬢ちゃんが今までどれだけ耐える生活をしてたのか一目瞭然だ」

「うぅ…!ヒナちゃん、いままでよく頑張ったねぇ…!!」

「ベタベタすんな。うぜぇ」


目を潤ませながら頬を寄せてくるゼアさん。爬虫類のひんやりとした肌で頬擦りされると鱗の凹凸がボコボコと頬を滑る。

痛くはないけど、なんだか不思議な感触だ。


「…とはいえ、これだけのスキルがあるのに攻撃系スキルはゼロ……。性格もあるだろうが…」

「うぅむ……。攻撃系スキルを取得しにくいタイプなんだろうなぁ」

「向き不向きが、あるんですか?」

「そりゃあね。種族的に向かないのもあるし、性格とか、先天的な才能とか。理由は色々あるけど、個々で違うよ」

「オレ達兄弟でも剣と弓でそれぞれ得意な武器が違うし。人間にも色々あるだろ?字が綺麗なヤツが居たりとか、方向音痴のヤツが居たりとか。まぁ、そういうコトさ!」


つまり、個性のようなものなのだろうか。

確かにわたしは誰かを傷付けるようなことはしたくない。やり返されることも怖いから、ただ耐えてきた。そうして来たことが、今スキルという形で現れているのだろう。


「…まっ!心配することもねぇだろ。此処で生活している内にまたスキルを習得できるかもしれないしな」


アッシュの声に俯き始めていた顔をパッと上げる。

ドレッドさんもうんうんと頷いている。


「……ここに、居て…いいんですか?」

「当たり前だろ?丁度冒険者が増えてきて人手が欲しくなってきたところだ。住み込みアルバイトとして手伝ってくれると助かる」


パチン、と綺麗なウインクをしたドレッドさんに、鼻の奥がツンと痛む。滲みそうになる涙を目をギュッと強く瞑って抑え、顔を上げて改めて彼らを真っ直ぐ見つめた。


「ふ…不束者ですが、よろしくお願いします…!」


ギアさんとゼアさんに両側からハグされる。アッシュはそんな二人に少し呆れを滲ませたような笑みを零し、ドレッドさんは腕を組んで豪快に笑った。


「そうと決まりゃあ善は急げだ!おーい!!ソフィア!!」


空気どころか建物が振動しそうな程大きな声を張り上げたドレッドさん。数十秒程で2階からパタパタと足音が近付いてきて、呼ばれたソフィアという女性らしき人が顔を出した。


「はぁ〜い!お呼びですかぁ〜?」


フワフワ、クルクル。そんな雰囲気のクリーム色の癖毛に生えた大きな角は髪のようにクルンと綺麗に丸まっている。間延びした声が印象的なその女性は、わたしを見るとフンワリと笑って視線を合わせるように屈んで顔を覗き込んできた。


「あらまぁ〜!とっても可愛らしい子〜!初めましてぇ、ソフィアですぅ!」

「あ、はい…!は、初めまして…!日夏です…!」

「ヒナちゃん!まぁ〜!お名前まで可愛らしい〜!」


ソフィアさんの両手がわたしの頬を包み、捏ねるように頬を揉まれる。


「ソフィア。ヒナはアッシュが保護した流界者だ。身の振りが決まるまでウチで働いてくれるらしいから、面倒見てやってくれ」

「ホントですかぁ!やったぁ〜!」


ソフィアさんに両手を握られそのままクルクルと二人で回転する。

そんなに嬉しいのか、と不思議に思いながらさせるがままに回っていると少し目が回ってきたタイミングでアッシュが止めてくれた。


「大丈夫か?」

「う、うん…。ありがとう…!」

「無事ならいいさ。無理なことはちゃんと言えよ?お前の我儘ぐらいどうってことねぇんだからな」

「…うん…!」


言い方は相変わらずぶっきらぼうだが声色は優しい。きっとわたしが気負いしないようにそう言ってくれたんだろう。

早速ソフィアさんに連れられて従業員用の部屋に案内される。中はベッドやテーブル、ドレッサーやクローゼットなど一人用の家具が揃っていた。


「ギルドにいる間はこの部屋を使ってくださぁい。他にも必要な物があればご用意しますので、遠慮なくおっしゃってくださいねぇ」

「は、はい。ありがとうございます、ソフィアさん」


ソフィアさんの小ぶりな耳が嬉しそうにプルプルと揺れる。可愛らしくてぼんやりと眺めて居たらソフィアさんにクスクス笑われてしまった。


「それじゃあ早速着替えましょうかぁ!今日は皆さんへのご挨拶を中心にぃ、簡単なお仕事から始めましょうねぇ!」

「は、はい…!よろしくお願いします…!」


ソフィアさんはクローゼットから一着のメイド服を取り出す。ソフィアさんと同じデザインの物。

エプロンは勿論、裾や袖口にも可愛らしいフリルがあしらわれていて、明るい色のドレスは活気のあるこのギルドによく似合っている。

でも、わたしに似合うかな…。


「ヒナちゃんにはヘッドドレスですかねぇ!それともリボン?シュシュやカチューシャも絶対似合いますぅ!」


ドレッサーの引き出しから色んな髪飾りを取り出してはしゃぐソフィアさんは本当に楽しそうだ。

どの髪飾りも付けたことがないので自分に似合うかわからないので、どれを付けるかはソフィアさんに任せよう。


「うふふ〜!それじゃあお着替えしましょうねぇ!」


ルンルンのソフィアさんに少し気圧されながら彼女に促されるままにドレッサーの前に立つ。

今朝振りに見る自分の顔は、少し疲れているようだが、でもどこか、いつもと違って少し生気があるような、そんな感じだ。

どうしてだろう…。でもきっと、悪いことじゃない。

ムニムニと自分で頬を捏ねるわたしを、ソフィアさんがニコニコと楽しそうに見つめていた。

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