表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/14

12

視線が高い。見下ろした体は重そうな純白の鎧を身に纏っているにも関わらず驚くほど軽い。

存在を主張するように目の前で淡い光を放ちながら浮いている大盾に恐る恐る手を伸ばすと、触れた瞬間ズッシリとした重みが伝わったがそれも今は大したものに感じない。

まるで、あの人の身体を借りているようだ…。


「ヒナ!あぶねぇ!!」


アッシュの声に顔を上げる。

先程までアッシュと戦っていたはずの混沌獣が雄叫びを上げながら迫ってきていた。

反射的にビクリと体が震える。だけど、不思議と先程まで感じていたはずの恐怖は無い。

大盾を構える。なぜだろう。この大盾の使い方が自然とわかる。


「―――『純潔の加護』を!」


大盾を掲げると強く優しい光が溢れ出す。その光はわたしだけでなくアッシュやダークエルフさんの体を包むと一瞬強く光って消えてしまった。


「っ、こりゃあ…!」

「バフ…!?だが、この感じは…!」


目の前に迫った混沌獣へ大盾を向ける。振り下ろされた鋭い前足を受け止めると強烈な衝撃が腕を伝って全身を駆け抜ける。

思っていた以上の衝撃に思わず喉の奥から声が漏れるが大盾はしっかりと混沌獣の攻撃を正面から受け切った。


「ぅう…!てぇい!」


下から突き上げるように大盾で混沌中の攻撃を勢い良く押し返す。混沌中の前足は頭上へと打ち返されて態勢を崩す。その隙を見逃さなかったアッシュが背後から混沌獣へ飛びかかる。


「オラァ!!」


振り降ろされる大鎌が混沌獣の前足の関節を捉える。硬い甲殻へも攻撃ではビクともしなかった混沌獣も、関節で足を切り落とされると痛みに大きな声を上げた。

耳を劈くような混沌獣の悲鳴はビリビリと洞窟全体の空気を揺らす。


「ヒナ!大丈夫か!?」

「う、うん…!」


混沌獣を警戒しながらアッシュが隣に来る。

横目に投げられる視線には心配や気遣いが滲んで見える。その視線に甘えて泣き言を言ってしまいそうになるが、それは今じゃないとグッと堪えて大盾を構え直す。


「大丈夫…。今なら、アッシュと一緒に戦えるよ…!」

「……そうか。わかった!」


じわじわと込み上げてくる恐怖心を深呼吸で吐き出して、一歩アッシュの前に出る。

混沌獣が再び雄叫びを上げて襲いかかってくるのをしっかり見て振り下ろされる残った前足の攻撃を的確に受けていく。

何度か受けるうちに腕への衝撃を和らげる受け方を体が覚え始めたお陰もあって、段々と体への負担が減っていった。


「おい!クソ野郎!サボってねぇで働け!!」

「言われなくてもわかっている!!」


少し離れた場所に居たダークエルフさんが混沌獣に杖を向ける。杖の先端に5つの小さな魔法陣が浮かび上がり、そこから同じ数だけの水球が現れる。


「『ウォーターブラスト』!!」


水球が激しく回転しながら混沌獣へ飛んでいく。着弾すると爆発するように弾け、混沌獣が痛みにまた雄叫びを上げた。

混沌獣の硬い甲殻でも魔法のダメージはそれなりに通るようだ。

混沌獣の狙いがダークエルフさんに向く。巨大な体からは想像できないような素早い動きでダークエルフさんに向かって走っていく混沌獣を遮るように間に立つ。

止まらずに突進してきた混沌獣の巨体を受け止める。勢いが凄くて少し押されたが思い切り足に力を入れるとなんとか止められた。


「そろそろ終わらせるぞ!」


走り込んできたアッシュが脇から混沌獣の腹の下へ滑り込む。大鎌の柄を振って腹の部分を打ち上げるとタイミングを合わせたダークエルフさんが『バインド』の魔法で混沌獣を天井から宙吊りのするように拘束する。しかし拘束は一瞬で、混沌獣の浮いた体は地面に落ちようと降ってくる。そこに今度はわたしが潜り込んで大盾で天井に向かって打ち上げる。

この蜘蛛の混沌獣の脅威は素早く動き回る大きな体と硬い甲殻、鋭い前足の攻撃だ。だが地面に居なければ走ることは勿論できないし攻撃する時に踏ん張りが聞かない分威力が軽減される。巨体だから見た目通りにかなりの重量があって打ち上げるのは大変だけど、上手く宙に拘束し続けることができれば混沌獣に反撃の隙を与えずに戦う事ができる。


「おい!ゴブリン!さっさとやれ!」

「うるせぇ!こちとら燃費が悪いんだよ!急かすんじゃねぇ!」


そう吠えたアッシュの手にある大鎌は、いつの間にか刃の部分がぼんやりと透けていて陽炎のように揺らめいている。アッシュが力を入れると少し実体を取り戻すが、それも長時間は保たないようですぐにまた薄くなって揺らめいてしまう。どうやらあの大鎌は何かエネルギーを利用して刃を作っているようだ。


「…。アッシュ、わたしが引き付ける。その間にお願い…!」

「!ヒナ、でもよ…!」

「大丈夫…!今なら…、この姿なら、できる気がするの…!」


彼がまた背中を押してくれているような感じがする。緊張や恐怖心で心臓が早鐘を打っているけれど、同時に同じくらいの自信が溢れてくる。

何かを言おうとして、でもそれをグッと飲み込んで頷いてくれたアッシュにわたしは小さくお礼を返して前に出た。


「…来い!」


今まで一番大きな声を出して混沌獣の視界に入る。わたしの声に反応した混沌獣の顔が勢い良く此方を向く。ビクリと体が震えるが、大盾を握る手に力を入れると自然と体が前のめりになる。


「…『我は此処に在り』…!」


全身を淡い光が包む。それに反応するように一瞬混沌獣の体が揺れるとすぐさまその巨体を方向転換して此方に向かって走ってきた。

眼の前に迫った混沌獣が残った前足を振り上げる。それを大盾で受け止める。繰り返し振り上げられる前足はわたしを殺そうと何度も大盾を殴る。だけど大盾は攻撃を受ければ受けるほど固くなり段々と腕に伝わる振動は微弱なものになっていった。

攻撃が通じないことに苛立ったのか、混沌獣が一際大きな咆哮を響かせる。そうして大振りになった混沌獣の攻撃を待っていたかのように、振り上げられた足を走り込んできたアッシュが下から切り上げる。

再び関節で前足を切り落とされた混沌獣は痛みに体を震わせるとキィキィと悲鳴のようなか細い声を上げて走り去ってしまった。


「あっ!野郎…!」

「追わなくていい!あの傷なら再生にかなり時間が掛かる。逃げたってことは他の攻撃手段が無いってことっだろうし、今深追いして無理に討伐する必要は無ぇ」


アッシュの言葉にダークエルフさんは少し不服そうだったが苛立ちを吐き出すように溜息を吐いて杖を収めた。

終わった…。そう安堵して一つ深呼吸をした瞬間、全身を強烈な疲労と倦怠感が襲った。


「あ、れ……」


グラリと視界が回る。真っ直ぐ立とうとしても体に力が上手く入らない。

遠くからアッシュの声が聞こえる。大丈夫だと返そうとして声を絞り出す前に視界が真っ暗になった。




柔らかい香りが鼻をくすぐる。さわさわと風が草を揺らす心地よい音の誘われるように目を開けると、視界一杯に幻想的な星空が広がっていた。

驚いて体を跳ね起こすと周囲は月光を受けて淡い光を放つ純白の花が咲き誇る花畑だった。


「綺麗…」


先程まで居た洞窟とは違う、温かみのある景色をぼんやり眺めてると背後から足音が近付いてきた。

誰かが居るとは思わなくて少し不安になりながら振り返ると、そこに居たのは純白の鎧を身に纏ったあの騎士だった。


「あ…」

「ようこそ。我らの“幻想の円卓”へ。歓迎しよう、継承者よ」

「継承者…?」


首を傾げるわたしに大きな手が差し出される。それに恐る恐る手を重ねると体ごと引き上げられそのまま彼の逞しい腕に抱えられてしまった。


「…?っ、!、!?」

「ハハハッ!安心しなさい。悪いようにはしない」


抱えられたまま花畑の中を真っ直ぐ歩いていく騎士さん。何処か目的地があるのかと彼の腕の中で行き先を眺めていると広大な花畑の中に大きな円形のテーブルとそれに沿うように並べられた椅子が置かれているのが見えた。

そのテーブルには既に5人の男女が座っていて全員が此方を見ていた。

テーブルの側まで来ると地面に下ろされた。自然と集まる視線になんだか居た堪れなくて、思わず騎士さんのマントの影に隠れるように引っ張る。


「あらあら!可愛い〜!」

「小さいですね…。こんな小柄な子があの盾の継承者とは…」


踊り子のような派手な衣装の女性とモノクルを掛けた長髪の男性にまじまじと見られ、恥ずかしくて視線が下る。


「お前たち、あまり苛めるな」

「なによ。いいじゃない。数百年振りの継承者なのよ?わたし達にも少しはお話くらいさせてよね!」

「…過保護…」

「然り」

「あまり構い倒していると嫌われますよ?」

「可愛い継承者ができたからって鼻の下伸ばしてんなよ、変態」


先の二人以外にも、冬の装いで厚手のマフラーに顔を埋める同い年ぐらいの少女、侍のような風体で長い顎髭に可愛らしいリボンを編み込んだ老人、褐色の肌を引き立てる月白の髪と派手な装飾が目を引く男性と、個性的な人達ばかりで彼らの会話に合わせて視線が右往左往してしまう。


「突然のことで驚いたであろう。案ずるな。お主は我らにとって重要な継承者。傷つけるようなことはせぬ」

「あの…、継承者、って…?」

「わたし達“六聖人”の使っていたアーティファクト“原初の聖具”の継承者よ」


“六聖人”…?“原初の聖具”…?

ギルドでも聞いたことのない単語が出てきてひたすら首を傾げていると、豪快な笑い声を上げた褐色肌の男性に突然抱え上げられて強制的に膝の上に座らされた。その状況について行けずに固まっていると騎士さんが後ろから彼の頭を殴って、わたしを取り上げて空いている席に座らせた。

すると突然右手が淡く光りだした。手の甲にじんわりと熱が溜まり、その熱が次第に形になっていく。

手の甲に現れたのは白い盾の模様。あの大盾とよく似たデザインだ。


「おめでとう。これで貴女は正式に我々“六聖人”の後継者だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ