1、トカゲ男の憂鬱
(雌の目には、この景色はどう映るのだろうか。)
地平線に夕暮れの太陽が落ち、地表と空がオレンジや赤や青や灰色になっている様を、2匹の雄トカゲがじっと眺めていた。地平線が見える崖の上に2匹はじっとたたずんでいた。彼らは、我々現代人が思うような4本足でちょろちょろと動き回るそれではなく、体長は2m近くあり、頭が大きく発達し、2本足で立っていた。尻尾は長く、後背部から長く伸びている。人間のように2本足歩行ではあるものの、トカゲのようにウロコはあるし、色合いなどは緑色のトカゲであった。
一匹のトカゲが声を出した。
「おいペッパ。どうした黙りこくって。」
その声は早口で高音で、少しせわしない。
ペッパと呼ばれたトカゲは、もう一匹の顔を見た。
「いや、夕日が綺麗だと思ってね。そう思わないか?ソルト。」
ペッパは、隣に座っている青色ウロコのトカゲに、おっとりとした口調で言った。
「お前は本当に感傷にふけりやすいタイプだよ。だからいつも馬鹿にされるんだ。」
ソルトは、夕日の美しさに心を奪われたくないように、目をそむけた。
「自分を誤魔化すことはないよ。美しいものは美しいんだから。」
ペッパはソルトを蔑むような目で見た。
(僕は、こんな世界に生まれるんじゃなかったんだ。)
ペッパは、一人心の中でつぶやいた。