⬛︎ もうひとつのエンディング
ダニエルとアデーレのエンドも追記しておきます。
メリバエンドってやつかもしれないので苦手な方はバックしてください。
宣伝:熊バッジ連載版を始めました(´・(エ)・`)
「……ん」
アデーレが目を覚ますと、見知らぬ部屋にいた。まだ夜明けではないのか、部屋の中は暗いままだ。
(ええっと……わたくし――?)
ズキズキと頭が痛い。
一体どうしてこんなことになっているのか、頭の整理が追いつかない。
馬車に乗って城を出たことは覚えているが、いつの間にか、離宮に到着していたのだろうか。
「ちょっと、誰かいないの!? 着替えたいわ、それに喉も乾いたのだけれど!」
半身を起こして、そう声を張り上げる。
だか部屋には沈黙が落ちたままで、返事をする者は誰もいない。
「……っ、寂れた離宮ではわたくしの世話をする者もいないということね……忌々しいっ!」
これまで何不自由なく暮らしてきた。
望めばなんでも手に入ったし、嫌いなものは『嫌』だと一言いえば、すぐに目の前からはなくなった。物でも、人でも。
「……お父様……ダニエル……」
騒いでも、ひとりだ。
そのことが虚しくなったアデーレは、膝を抱えて嘆いた。
くるりと手のひらを返したように、アデーレに冷たくなった国王は見送りにも来なかった。
ダニエルも追放されたらしいが、元気にしているだろうか。
もしかしたら、アデーレよりもっと酷い目にあっているかもしれない。アデーレの庇護下になければ、ただの平民の商人なのだから。
アデーレはぐすぐすとシーツを濡らす。
ただ、お小言がうるさい婚約者を断罪しただけだ。好きな人の身分を手に入れて何が悪い。
シェーンハイトは野蛮で、何かと予想外だったあの令嬢だって、結局は熊を倒すような蛮族のひとりじゃないか。
「……なんなのよ、なんなのよぉっ」
全てを手に入れたと思った夜会で、反対に何もかも無くしてしまった。
これからどうやって生きていけばいいのか。
「まあまあ、ちょっと落ち着いて」
「!?」
誰もいなかったはずだった部屋に、軽やかな声が落ちた。
聞き間違えるはずのない、愛する人の声だ。
「ダニエルっ!?」
顔を上げてそちらを見ると、見慣れた顔がアデーレを見ていた。
「やあ、アデーレ。少しぶりだね」
「無事だったの!? 良かった……。ねえダニエル、なんとかして! わたくしをここから出して!」
アデーレは目の前の愛しい人にそう懇願した。我儘を叶えてくれる人だもの。
アデーレの瞳に希望が宿る。
「ダメだよ」
以前と変わらぬ甘やかな笑顔で、ダニエルはそうキッパリと言い切った。
「え……?」
「君はここから出られない。世間では死んだことになっているしねぇ」
「な、何を言っているの……? ここは、離宮じゃないの……?」
死んだことになっている、という状況が分からない。
あんなに素敵に見えたダニエルの笑顔が、なんだかほの暗く恐怖すら覚える。
「――この国の第一王女は死んだ。ここにいるのは、何者でもないアデーレだよ。一生ここから出ることは叶わない。だけど安心して、俺がいるからね」
寸分の隙のない笑顔に、アデーレはぞくりとしたものを感じた。背筋が凍る。
「まあ、俺も追放の身だから大っぴらに動けないんだけどねぇ。見つかったら今度こそ処刑されるだろうから、残念だけどアデーレはこれからずっと外出禁止だ」
「ひっ……」
好きだった人は、こんなにも恐ろしい笑顔だっただろうか。
薄暗さに目が慣れてきたアデーレは、周囲を見渡してある事に気がついた。
ここは、窓がない。
出入口は、いまダニエルが現れた扉ひとつだけで、その他には何も見当たらない。
「ど、どうして、こんなこと……」
「え?」
震える声でそう言うと、ダニエルは本当に不可解だと言わんばかりの表情を見せた。
「一緒になろうって約束しただろう」
また食事を運んでくるね、と言い残して、呆然とするアデーレを置いてダニエルは部屋を出て行った。
お読みくださりありがとうございました。
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