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味気のある帰り道

 春はあけぼの、清少納言がそう言ったように春は日の出も早まってくる。それと同時に桜花の花吹雪が散るようなつむじ風と暑すぎず寒すぎずといった気温が相まってとても眠くなる季節でもある。春眠、陽春、花の便り、惜春、菜種梅雨、花曇り、響きだけでも暖かかったり、眠くなりそうだったりする言葉があるようにとても心地いい季節だと思う。実際俺も春は好きだし、それに関する言葉も大好きだ。春は何月からというのは人によって違うと思うけど、俺は大体3月くらいかなって感覚。でも、さすがに3月の夕方は寒いな。日はすっかり線に沈んじゃってるし、逆方面から月が見える。そう遠くないうちに日も見えなくなってしまうだろうな。そうなれば気温はさらに下がる。3月でも氷点下に達することはあるのだろうか。それはわからないけどな。だが、そうなると心配なのは、、、


 「へくちッ!」


袖口を使って口を押えながら可愛らしい声でくしゃみをした俺の隣の人物だ。寒がりだから結構辛そうにしている。さっきから腕を前に組んでガタガタ震えている。ブレザーはお互いに着用しているとはいえ、まだまだ寒いんだろうな。にしても


 「ふふ、可愛いくしゃみだな」


 「なッ!?うるさいでず!」


顔を真っ赤にしながら鼻声でそう言ってきた。1年一緒にいるくせに、なんでこうもツンとした態度は治らないものなのかね。それが紗理亜の性格だからそういわれればそれまでだけど。だが、そんなだけどそっぽを向いていてもわかるくらいに耳が赤くなっているし、後ろ姿からもわかるくらい頬に空気を貯めてムッと膨らませている頬が何とも可愛らしい。そしてこの時、俺の中でようやく今までのモヤモヤが一つとれた。何故か紗理亜を見るたびに何かに似ているような既視感を覚えた理由が。


 「そういうことだったのか!」


謎が解けたことに際して思わず口から大きめの声が漏れてしまった。隣にいる紗理亜がビクッと肩を震わせて目を丸くしながらこちらを見てくるのが感じられた。その丸い目はたちまち疑念を抱える尖った目つきへと変貌した。


 「ど、どうしたんですかいきなり。何か思いついたんですか?」


紗理亜は首を傾げながらおずおずと俺に聞いてきた。


 「いや、思いついたというか気付いたというか」


 「なんですかそれ。全く、聞いて損しました」


「はぁっ」とあからさまにため息交じりな呆れの声が発せられた。まぁ、こんなこと言われればなんじゃそれと思うのは仕方のないことだろうから気持ちはわからんこともない。


 「それで、気付いたというのは何なんですか。まさか地球の真理がどうとかこうとか言いませんよね」


いやどれだけ変なこと考えてたと思ってたの?俺ってそんなに変なこと考えているイメージ?そんなこと、、、あるわ。まあ違うけど。


 「そうじゃないよ。お前が小動物に似てるってこと」


 「なんだ、そんなことですか」


 「そういうこと」


紗理亜はため息をつきながらでもどこか納得がいったような表情でそうつぶやいた。なんだ、自覚はあったんだ。


 「にしても意外。自覚あったんだ」


 しっかり者の性格から想像がつくかもしれないが、紗理亜は本当に人も自分もよく見ている節がある。自分の長所も反対に弱点さえも。自分自身のことをよく知っているからこそ自分によく合った道を選べるし、自分に合った方法なども見つけられる。容姿でも頭の良さでもない、紗理亜の最大の武器とは恐らくそれんだろうな。にしても、そういった紗理亜の言動からある程度思い描くことは容易だけど、まさかそこまでわかっているとは。そこらへんは完全に埒外だった。まぁ、多かれ少なかれ過去に他人にも言われたことがあるんだろうな。俺自身、自分のことを人に言われて気付くこともしばしばだ。


 「それは当然、、、あれ、先輩なんて言いましたっけ?」


ん?流れ変わったな。


 「自覚あったんだって」


 「その前です」


 「そういうこと?」


 「もうちょっと前です」


 「お前が小動物に似てる」


 「そうそれです!私のどこがそっくりなんですか!?」


前言撤回、自覚がなかったらしい。あんな納得したような顔を浮かべといてなんで今更になって否定するんだよ。


 「なんで今更?」


 「あまりにも自然な流れで話を振ってくるから気付かなかったんです!」


そんな自然な流れだった?突然暗めの道で高3の男子が何かに気付いて叫んでその原因を聞いたとかいうあまりにも不自然極まりないような流れだったの思うんだけど。乱気流ばりに不自然だと思うんだけど。


 「自然な流れ、ねぇ、、、それにしても気付かないのはどうかと思うけど」


 「うるさいです、、、」


余ほど恥ずかしかったんだろうな。紗理亜は頬を真っ赤に染めて俯いてしまった。顔を真っ赤にして俯いた彼女の顔は、どことなく食べごろに色づいたリンゴのように見える。よく真っ赤な顔をリンゴと例えられることに疑問を持っていた。赤いものならば夕日やイチゴ、鮮血などにも例えられるだろうに。鮮血は少し物騒かもしれないが、たった今人生17年生きてきてやっと納得することができた。確かにこれは多くの人がリンゴに例えるだろうな。リンゴそっくりだもん。小さな顔が赤くなって俯いたまま動かないその様は、な。


 こんなのも日常の一部に組み込まれてきたと考えると感慨深いものがある。中学の俺は碌に友達もいなかったし、友達どころか話せる奴らもほぼいないに等しかった。せいぜい席が隣になったから勉強のために教材を貸し借りする目的で軽い言葉を交わす程度の間柄。異性どころかあまつさえ同性とさえも自分の趣味の話や好きなもののことさえ話したことはなかった。それが俺の日常だし、クラスメイト達の日常でもあった。ただ毎日、退屈な学校に行って受けたくもない授業受けさせられて終わったらまるで人知れずいなくなっている蚊の如くみんなの前から姿をくらませる。もういっそのことどこかに家出してやろうかという気持ちさえ生まれていた。まあ、俺もう親居ないに等しいけど。


 そんな毎日を過ごしていても俺が腐らなかったのは間違いなく幼馴染たちのおかげだ。家が近いから必然的に仲良くなった二人の幼馴染。あいつらは俺がクラスで孤立していようがあらぬ濡れ衣を着せられようが信じてくれたしかまってくれた。中学の頃の俺はほとんど感じてなかったけど、多分俺は嬉しかったんだろうな。今でもそのことを思い出すと胸が暖かくなって思わず顔が(ほだ)されてしまうから。俺は胸にそっと手を当てた。


 「先輩、、」


唐突に横から紗理亜の声が聞こえた。恐る恐る聞いているような感じ、周囲の状況を忘れるほどに入り浸ってしまっていたらしい。この癖は昔から治らないな。


 「んっ、どうしたの?」


 「いえ、恥ずかしくて無言になってしまいましたけど先輩にとって私は何の動物に見えるのかなって」


 「あ~ね」


どうやら自分自身が何の動物に似ていると思われているのか気になっていたらしい。優等生同然、いや、優等生の紗理亜はかなり周りの目を気にするから多分俺にどう思われているか知りたいんだろうな。そういう癖は自分の体験に基づくものも多いだろう。きっと紗理亜は周りの目を気にする生き方を強いられてきたんだろうな。過去を直接聞いたことはないが俺は予測するのが得意だから想像するのは容易だ。そう思えば隠しておくことに意味はない。俺はゆっくりと口を開いて


 「ハムスターかな」


そう言い放った。紗理亜のほうをチラと見ると普段はキリッとしたクールな目つきが今は優し気に丸くなっている。驚いたんだろうな。


 「、、、なんでハムスターなんですか?てっきりスズメとか小鳥に例えられるのかと思っていたのですが」


どうやら紗理亜はスズメのような小鳥に例えられると思っていたらしい。確かに小柄な背丈や普段は冷静な雰囲気を纏っているから木の上から見下ろしている小鳥に例えられなくもないけど、それを踏まえても俺はハムスターだと断言する。


 「確かに小鳥に見えなくもないけど、俺の言葉に反応してころころと表情を変えていく感じがやっぱりハムスターだなって」


その言葉に偽りは一つも混じっていない。事実、俺の中での鳥という存在は気高い存在というのがイメージだ。猛禽類を想像してみてほしい。あの高いところから常に獲物に目を光らせている、そして獲物を借るときは一切の表情を変えずに一撃で仕留めるあの様を。そんな猛禽類に引っ張られ小鳥だとしてもある程度の冷静な奴というイメージが俺の中に根を張っている。そうするとなると冷静に見えて意外と表情豊かに微笑んだり、怒ったときは頬を膨らませる紗理亜はハムスターだと例えるしか俺にはできなかった。最もそれを除いても小動物だということは変わらないが。ハツカネズミとか言わないだけ俺の言葉選びもマシな部類のほうだと思う。ハツカネズミなんて白いドブネズミだからな、言ったらガチギレされる気がする。


 「は、はぁ、、、私ってそんなに表情コロコロ変わりますか?」


 「ん、なんだ?気付いてなかったのか」


さすがにそこまで自覚がないのは俺も驚くぞ。もう何度目になったのかわからない驚愕。今日一日で本当にいろいろなことが知れた気がするな。知識を吸収するのは嫌いじゃない。


 「そ、そうですか。意外と自分が自分のこと一番知らないものなんですね」


 「まあ、人によるだろうな。自己分析をいかにしているかしていないかじゃない?」


自己分析をしていても自分のことは意外と気付けないものだということは俺自身がよく知っているからその言葉は100%真意というわけじゃないが、少なくとも自分のことを客観的に見れるって結構強いんだなって。


 「お前ももっと自分のことを他人に尋ねなよ。本当に自分がわかるって結構いいものだぞ」


 「そうですね、そうしてみます。先輩を見てると今まで怖がってた自分が馬鹿らしくなってきました」


怖がってた?紗理亜は怖がってたのか。


 「怖かったのか?」


 「えぇ、なんかこう、、、自分のことをよく知るってちょっと抵抗があるんです。他人が自分のことをどう思っているのかとかそういうことを知っていく中で自分のことを良く思ってない人たちの声を聴くことになりそうで、、、」


確かにそれは怖いな。自分のことを他人に尋ねるってことは言いかえれば他人の心の内を知るということ。陰で自分に牙をむいていないか、確かに怖い人は怖いだろうな。


 「実をいうと私、中学の頃は結構周りからいろいろ言われてたんです。意外ですよね、ちゃんとしている私のどこに言われる要素なんてあるのかって思ってますよね?でも、言われちゃうんです。ちゃんとしているばっかりに」


俺は息を呑んだ。良くも悪くも良し悪しの基準は人それぞれ。紗理亜の性格はほとんどの人が好いと答えるものだろう。でも、一部の層はそれを良く思わないだろうな。それを俺はなんとなく想像してしまった。


 「、、、そういうことか」


だから俺はそれしか言えなかった。下手なことを言って紗理亜の傷口を抉るのだけは避けたかったからだ。


 「お察しの通りです。まぁ、それはそうですよね。先生に媚びを売っているとか機嫌取り上手だとか、自分にはそういった気は微塵もないのですがそう感じる人もいる。わかっていました、わかっていたのですが、、、やっぱりそう言われるのは辛かったです。でも、何も言えませんでした。やっぱり皆さんは良い私を見てくれているから、そこで言い返して何か根も葉もない噂が更に立ったらと思うと、怖くて、、、」


紗理亜はいつものハキハキとした喋り方ではなく、どこか弱弱しい声で震えるようにそう言った。何の気なしに彼女のほうを見て俺は言葉を失った。紗理亜は俯いたまま顔を青くしている。心配になって無礼を承知で覗き込んでみると俺に気付かないくらいに瞳孔が定まっていなかった。紗理亜にとってはトラウマものだったんだろうな。


 (落ち着け、、、落ち着け、、、!)


そう思ったら、いつの間にか俺の手は自然に伸びていて


 「っえ!?」


紗理亜の頭に手を乗せていた。自分の顔は自分で見れるわけではないが今俺が浮かべている表情は多分慈愛の笑みだろうな。なんとなくわかる。


 「悪いな、妹が辛そうにしているときとかこうすると落ち着いてくれたからさ。まあ、、、なんだ、俺にもあるからさ。そういうこと。あることないこと言うやつとかどこにもいるんだよ。自分より秀でた奴に嫉妬してその嫉妬をそいつに発散することしかできない奴。でもさ、それにお前耐えてたんだろ。いいじゃんそれで。そいつらなんざよりお前のほうが今は絶対いい思いしてるだろ?」


-------------------------------------


 先輩に自分のことを打ち明けるとき、なんだかすごく体が震えた。私自身わかっていた。怖いんだって。今まで自分のこういった過去を明かしてこなかった相手にそういうことを言うことが。


 放った言葉がどんどん場の空気を重苦しくして言っても止められなかった。言えば言うほど頭の中に中学の時の記憶が蘇ってきて、どんどん私の口から溢れてくる。心に収まりきらなかった負の感情が色々と爆発するように。


 先生のご機嫌取りなんて考えてない。私はただ、みんなの助けになればと思っているだけなのに。媚びを売っているわけない、そこにあるのはただ純粋な思いだけ。そんなこと思ってないのに、、、そう言いたくても言えなかった環境に長く居たせいで私の中で何かが狂ったようだった。もしかして、小学校の時の友達たちもそう思ってたんじゃないかって。上辺だけうまく取り繕って陰では私の罵詈雑言を投げてたんじゃないかって。そう思うと、友達なんて作らないほうが楽なんじゃないかとすら思えて、、、


 この話をするとき正直先輩に引かれると思った。そんなことが怖かったのかって笑われるんじゃないかって。でもそう思っていた矢先に感じた頭上のぬくもりに絆されてしまってちょっと驚いたけど、どうでもいいと思ってしまった。それは優しく私の頭を包んでくれて。嗚呼、、、なんかすごく落ち着くな。


 「悪いな、妹が辛そうにしているときとかこうすると落ち着いてくれたからさ。まあ、、、なんだ、俺にもあるからさ。そういうこと。あることないこと言うやつとかどこにもいるんだよ。自分より秀でた奴に嫉妬してその嫉妬をそいつに発散することしかできない奴。でもさ、それにお前耐えてたんだろ。いいじゃんそれで。そいつらなんざよりお前のほうが今は絶対いい思いしてるだろ?」


先輩にもあったんだ、そういうこと。先輩、人は選ぶだろうけどいい人だからな。意外だったかも。でも、自分より秀でた人に嫉妬してたか。心のどこかではわかっていたと思うけど理解するのをやめていたことに今更気付いた。自分を見てくれてその上で認められるってこんなに嬉しいものなんだ。今思うと、この人の前だと口酸っぱい自分が出てしまうのはどことなくこの人なら大丈夫なんだって思えたからだと思う。出会いは最悪だったけどね。


 でも今はそんなことどうでもよくて、いつも振り回されるけどそんな先輩が、、、今はいいや。


 なんだか胸が温まるような感触と共に先輩の手が頭から離れていく。なんだかちょっと名残惜しいな。もっと撫でてほしかったーってッ私は何を!?てかハッとして顔上げたら先輩凄く慈愛に満ちた笑み浮かべてるし!えっ、これは揶揄いの目?それとも本当に私のことを心から同情してくれている目?どっち、区別つかない!


 「あう、、、すみません」


何故か誤ってしまった。今日の私なんか変かも、疲れてるのかな...


 「何誤ってんだよ。寧ろよく言った。そういうのって中々言いずらいものだからな。俺も色々言われてきたさ。あいつおかしいだとか変な奴だとか。だから高校では割と一歩引いたような態度取ることが多くてさ。でも、蓋開ければみんないい奴だった。だからかな、こんなにサボるようになったのは。いわば一種の信頼みたいなものかもな。褒められたことじゃないけど」


先輩の言葉は私の心に深く突き刺さった。自分を押し殺してみんなから一歩引いたような態度を取っていたこと。まさに今までの私だった。嫌われたくなくて陰口言われるのが嫌で、勉強は自分で言うのもなんだけど元々出来たから仕方ないにしても他人と深く関わらない高嶺の花になればこんな辛い思いしなくてもいいんだと思って今までそうしてきた。でも、もうそろそろそういった自分に別れを告げるべきかもしれない。先輩がそうしたように。


 にしても、信頼しているからこそ自分を出せるか。確かに自分をさらけ出せることは一種の信頼なのかもしれない。高校に入ってから他人を叱責する自分を封じる仮面を被ったはずなのに、先輩の前では何故かできなかった。これじゃいけない、嫌われちゃうなんて思いながらもどうしても意識しても仮面を被れなかった。それは多分私が先輩なら大丈夫だとすでに思っていたからなのかもしれない。確かに先輩のサボり癖は褒めたものじゃないーん?


 「あの、、、先輩。褒められたことじゃないって」


私がそれを言った瞬間、先輩の顔が引きつった。まるでやっちまったと思ったような顔。見飽きたほど1年間で何度もなる顔。やっぱりー


 「やっぱりサボるの良くないって自覚してるんですね!ようやくあなたの言葉として聞けました。わかっているならサボらないでください、もう許しません。今日という今日は覚悟してください!」


 「えっと、、、その、な?」


さっきのしんみりとした空気はどこへやら。私の今までの鬱憤がトラウマとは違う形で爆発して別ベクトルの方面で空気がピリピリし始めた。先輩は顔を明らかに青ざめさせて冷や汗をかいている。知りません、あなたが悪いです。


 「あ~ちょっと早く帰らなきゃいけない用事を思い出したわ。それじゃ!」


取ってつけたような言い訳を吐き出しながら全力疾走する先輩、それを追いかける私の声。そして二人分の走る音が街灯が照らす夜道に響き渡り続けた。


-------------------------------------


 あれからどれだけ走り続けたのだろうと思う。俺が口を滑らせて紗理亜がガチギレして俺のことを追いかけてきたのは覚えている。俺たちは15分くらい一緒に歩いてきていたから多分歩けば5分程度の道を走ってきたことになる。そうなると多分2分掛かるか掛からないかくらい?距離も自分が時速何キロで走るのかも図ったことないから正確な時間はわからないけど。でもなんだろう、体感20分くらい走り回ったような気がする。


 無我夢中で走り続けて、気が付けば俺の家の玄関の前まで来ていた。鍵を開けて家の中に逃げ込もうとするが後ろを見ると紗理亜がいない。俺と紗理亜の家の距離はそう遠くない。歩いても1分掛からないくらい。しかもあの時歩いていた道では俺のほうが先に家に着く。多分自分の家の方面に帰ったんだろうな。ここら辺は街灯が多いから今の時間帯でも不審者はほとんどいない。しかもここ最近はこのあたりで警察が見回りを強化しているから尚更だ。わざわざ発見される可能性が高いのに悪事を働くようなバカはいない。一人でも大丈夫だろう。


 もう大丈夫だろうとドアノブに手を掛けたその時、後ろから足音が聞こえた。おいおい、冗談だよな?


 「ぜぇ、ぜぇ、おいづぎ、、、まじだ、、、!」


笑っている膝を抱えて顔を真っ赤に染め、息を荒くした紗理亜の姿がそこにあった。まさか本気で着いてくるとは思わなかった。運動部の俺と運動部じゃない紗理亜の体力の差は歴然だが、、、まあ根性は褒めてやるとしよう。というか、この状態になったのもほぼ俺のせいみたいなものだし放っておけば冗談抜きでゲロ吐きそうだなこいつ。さすがに家の前で吐かれても困るのでいったん俺の家に上げることにしよう。


 「根性は褒めてやるよ。ほら、片貸せ」


 「なんの、つもりですか...?」


紗理亜は未だ整っていない呼吸で無理やり絞り出したような言葉を放つが、俺はそれをガン無視して紗理亜を自分の方に半ば強引に乗っける。


 「な、なに、、、するんですか、、、」


 「疲れただろ?とりあえず上がっていけ」


 「へ?」


上がって行けと言った瞬間にきょとんとした顔を浮かべる紗理亜。一瞬静かになったかと思うとー


 「え、上がって行けって先輩のお家にですか!?流石に悪いですっ!というか普通に考えて女の子家に連れ込まないでしょッ!」


俺の家に上がるということに抵抗があるのか若干敬語が崩れている。静かになったかと思ったらこれってやっぱりハムスターのような小動物だな。俺は心の中でそう呟いた。侮辱のつもりはない、どっちかといえば可愛らしいという意味で、、、な。




 

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