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薬局塔の魔法師匠

 白いレースのリボンを手に取った侍女は、サフィアが目を閉じると、その閉じた瞼を繊細なレースで覆い隠した。

 

 水ギライが認知されたのをこれ幸いとばかりに、サフィアは目隠しファッションを強行した。

 視界に入れなければ水の恐怖はかなり和らぐし、音で視るなら不快な映像を排除して必要な情報だけを絞り込める。

 お出かけするには目隠しは絶対に必要と、侍女たちに熱弁をふるい協力させたサフィアは、我ながら秀逸なアイディアではないかと腰に手を当て満足そうにうなずいた。


「これはファッションなんです! くっ(涙)! 皆さんにそう錯覚していただくために、飾りましょう! 盛りましょう!」


 何か大事なものを踏みにじられたかのように悔しげな侍女たちは、レースの眼帯にはじめはイヤそうな顔をしていたものの、次第にノリノリになってサフィアを飾りだした。

 白いレースの眼帯にレースの手袋と靴下。同じレースでバラを作ってティアラの横に盛りつければ、病みかわいいゴシックロリータの完成だ。侍女たちは作品の出来栄えに誇らしげだった。


 城内を移動するだけなのにちょっと特殊な方向に盛りすぎて恥ずかしい。サフィアは微妙な面持ちのまま部屋を送り出された。

 


 コンテ先生の魔法学の授業は城内にある薬局塔で行われる。

 サフィアの教育はレッスンルームに教師を招くのが基本だったし、薬草くさいと評判の薬局塔にサフィアを通わせるコンテ先生に大人たちはいい顔をしない。

 けれどこの塔は薬草・薬品などを扱う関係上、城内のドライエリアに建てられていて、教室がほかの場所より素晴らしく乾いてるという理由でサフィアは魔法学が大好きなのだった。


 お城の裏手の薬局塔は人の出入りの多い医局とは違いとても静かだ。摩耗の進む石造りの階段を昇ると、塔の二階のコンテ先生の研究室にたどりつく。

 薬草臭い研究室の天井には、謎の乾物や実験器具がぶらさがり、ところかまわず積みあげた本の山がいかにも魔法使いの部屋といった雰囲気だ。



「く~くっくっく、麗しの宝貝ちゃん、素敵、素敵な眼帯。これぞ個性、自我の開花~あぁなんて素晴らしいぃ」


 骨ばった身体に麻布のマントを羽織ったコンテ先生はちょっと不気味だけど、これでも優秀な宮廷医でそのうえ貴重な全魔法使いだ。


 コンテ先生の言う宝貝は、メンテナンスフィッシュの一種で苔やぬめりを食べてきれいにしてくれる貝のこと。どこにでもいて、サフィアの部屋にもいる。丸くてコロンとしてかわいいけど壁にくっついてるので背中しか見えない。

 女性を宝貝に例える場合「あなたの笑顔がみたい。こちらを向いて」という口説き文句になるらしい。


「じじいは身の程わきまえうのよ! 姫様かや離れやさい」


 サフィアとコンテ先生の間に割って入ってきたのはマルマだ。マルマはマーサの末の娘でサフィア同じ歳になる。とってもたくましくて人魚というよりドワーフ系女子だろうか。将来はサフィアの護衛騎士として仕えるのが希望で修行中なのだとか。


「く~くっく、珊瑚に群れるスズメちゃん。元気があって大変によろしい。さぁ席について、今日は先週の続き、魔法操作の基礎を学びましょう」


 ちなみに群れるスズメの意味は「逃げないで、警戒しないでほしい。ただあなたに興味があるのです」だ。


 ここで魔法学を学ぶ生徒は五人。サフィアとマルマ、それに加えてコンテ先生の三人の弟子だ。

 そのうちちゃんと着席するのはサフィアとマルマだけで、弟子たちは助手も兼ねているのでコンテ先生の脇に控え、小柄な一人は積んだ本の上に座り、さらに小柄な一人は本の隙間に詰まり、背の高い一人は床に直に座っている。


 三人とも先生と同じ麻布のマントでフードを目深に被っているので、顔は見えないし声もほとんど出さない。名前もイチ、ニ、サンと数字で呼ばれていて、コンテ先生の弟子は一人前になるまで人格を認められないという。


 まずは黒板を使って前回のおさらい。魔法、マナ、水、火、風、土、といった簡単な単語の読み書きからだ。


「くっく、サフィア姫様は優秀でいらっしゃる。二歳でハタタテのごとき力強い筆跡。くっくっ、実に実に素晴らしいぃ」 


 サフィアのノートを覗きこんだコンテ先生は、単語が並んだだけのシンプルな書面を絶賛する。

 

(ほぇ? 二歳児で文字が書けるのは優秀なの? だってマルマも普通に書いてるじゃ……)


 マルマはノートにひたすら落書きをしていた。おもにサフィアの似顔絵を。だまされた気分で一杯になるサフィアだが、サフィアより数ヶ月お姉ちゃんであっても二歳児はこんなものだ。


「この世界はマナで満ちてぇ、います。くっく、マナはぁ世界という身体を動かす筋肉でありぃ神経であり、血流でも、ある。そのマナにぃ命令を下す脳はぁ、くっくっ、貴女方自身!」 


 このあたりは先週も聞いた話。今日はこのあと魔法の実践をする予定でサフィアはそれを楽しみにしていた。


「さぁクマノミちゃんたち、偉大、偉大なるマナの存在を感じてみましょう」


 コンテ先生はサフィアの前まで来ると恭しく腰を折り膝をついた。そしてサフィアを立ち上がらせ、その両手をかるく握った。


「そこへなおれ! じじい! 成敗ちてくれえわ!」

「く~くっく、こ、れ、は、授業ですよ。スズメちゃん。し、か、し、騎士の熱き忠誠心、素晴らしい、素晴らしいですよ。イチ~! 小さき騎士に褒賞を」


 許しを得ずに姫様の御手に触れた無礼者を鉛筆で斬ろうと構えたマルマに対し、すかさず弟子から褒賞のクッキーが手渡された。

 教室の入口にいたハンナからも合いの手のようなほめ言葉をもらい、マルマは照れくさそうにペコリと頭を下げて大人しく席についてクッキーをほおばった。


(子供だまし! なんて見事な子供だまし! 騎士ごっこ全盛期のマルマをクッキー一枚でちょろく丸めるなんて)


「くっく、罪深きは水面の月と申します。くっくっ、美しき姫君に気が急いた愚か者にお許しを。お手に触れてよろしい~です、かな。くっく、姫様」

 

 再びサフィアの手をとったコンテ先生。


「くっくっ、マナはぁ私たちのぉ身体の、中に、も、存在します。その流れを、感じ、て、みましょう。私のマナをぉゆ~っくり姫様の、中に、流します」


 宮廷医であるコンテ先生は治癒魔法が使える。治癒魔法は四つのどの魔法属性でもなく、他者の体内のマナに干渉する力だ。

 ようするに魔法制御を極めたものが使える繊細な魔法技術といったところで、先生の魔法制御は王国でも三本の指に入るといわれていた。

 


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