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マナの光

 サフィアのお部屋はリフォームされた。


 水晶のお城には、謁見と執務の館、居住棟、兵士棟など、広間やお部屋は数えきれないほどあって、兵士を含めて数千人の住民がいる。


 一般住民は個室か家族部屋を使うのが普通だけれど、王女であるサフィアには六つの専用ルームが用意されていた。

 バスルーム、パウダールーム、衣装部屋、居間兼寝室、応接室兼レッスンルーム、メイド控室。と、以前はこの順番で並んでいたのを場所を入れ替えて使いやすくすることになった。

 リフォーム後は窓のない衣裳部屋を寝室として使い、拷問部屋こと壁一面が海の恐ろしい寝室は居間兼応接室兼レッスンルームになる。



(ふぅ、落ち着くぅ~。窓のない穴蔵部屋最高! 眉間の苦悶ジワと肩凝りからやっと解放されたわ。生後一年未満なのに気苦労が絶えないよ)


 眉間のシワを指でぐりぐりしたサフィアは、ふっくらした頬を自身の小さな手のひらで包んで息を吐く。


(前世の記憶があったって赤ちゃんなんだもん。すこやかな成長のために安眠できる環境が必要なのよ。毎日たっぷりのミルクを飲んで身体はどんどん大きくなるけど、こんなに縮こまっていたら骨だって歪んじゃう。せっかく生まれ変わったのだから、ちゃんときれいに育ちたい)


 元衣裳部屋を改装した寝室に窓はないけど、ドアもないのでよく風も通るし居心地は悪くない。以前よりずっと落ち着ける環境だ。


(そう! 斬新なことにバスルームを含む全てのお部屋にドアがないのです。プライバシーゼロ仕様。人魚おそるべしだね)


 お部屋の出入り口はドアなしの楕円、壁や天井もゆるく曲線を描いて小部屋どうしがつながった構造。これはもしかすると洞窟を模してるのかもしれない。


 洞窟風。とはいえ内装は中世ヨーロッパ。

 新しい寝室の壁紙は落ち着いた淡いピンクベージュに花柄。腰板と家具は白でまとめられていてとっても乙女。ベッドには丸い天蓋のモスキートネットが吊るされているし、姫様ムード満点でサフィアは心ぴょんぴょんが止まりません。


(うふふ。ぴっかぴかの脳は情報吸収も反映も高速だから、この時期に学べることは全部学びたいな。……魔法、そう、まず魔法を覚えたい!)


 心ぴょんぴょんの勢いで気持ちは前向き過ぎるほど前向いちゃってるサフィア。

 だけど魔法の練習ってどうしたらいいの? と、サフィヤは悩む。


(ベッドの横では乳母のマーサが縫い物してるし……。魔法練習は人目を避けたいんだよね。転生バレってめんどうそうだし。うん、まずはアレが先ね。ステ確認!)


(ステータスオープン)(ステータス)(メニュー)(オープンザウィンドウ)


 ベッドの上であおむけになり天井に向けて拳を突き出すサフィア。あれこれ名称を変えて心の中で唱えてはみても、目の前にステータスウィンドウがオープンする兆しは一向にない。

 

(言語理解のギフトがありなら、定番のステータス表示もありなはず。これはもしかして、コマンドを言葉にして唱えないといけないのかしら)


 正直なところサフィアは言葉が遅れていた。なにしろ人前でばぶばぶするのが恥ずかしくてずっと口を閉じていたのだから。


(言葉が理解できてるせいで逆にしゃべれないの。思うように舌を動かせないから発音できなくて、よだれだらだらしちゃうのが辛い。あ~でも舌も喉も使わないと筋肉発達しないんだよね。うぅ)


 ベッドの上で拳ぶんぶんしてるサフィアをみて「すこし運動なさいますか」と、マーサが床に降ろしてくれた。


 床の上には木と布でできた小さな森がひろがっている。そこに住むのはマーサと侍女のお手製ぬいぐるみたち。

 サメの口から入ってお尻から出る形のチューブくぐり、つかまり移動もできるタコの家などたくさんのおもちゃがあった。


(もうハイハイもつかまり立ちもマスターしたのよ! 一人立ちまでもうすこしなの。魔法練習はあとにして、とりあえず筋トレしよう)


 自力歩行ができるようになるまでハイハイで筋力をつけなくてはいけないらしいのだ。サフィアは人前ハイハイの羞恥に耐えて、今日も自分育成を頑張る。


 サフィアがハイハイ筋トレに励んでいると、マーサが離乳食の準備のために監視をメイドのハンナに任せてメイド控室に移動した。この控室にはミニキッチンがあって、マーサは離乳食を手作りしてくれている。


(ハンナはマーサより監視がゆるいのよね。ほら、こちらに背を向けて家具を磨き始めたわ)


 これをチャンスとみたサフィアは高速ハイハイでパウダールームに逃亡した。


 パウダールームはお風呂上りにマッサージやお手入れをする場所で、窓はあるけど外は小さな温室のようになっていて、満開の花の鉢を入れ替えで飾っている。つまり海感のないセーフゾーンだ。


 やっと一人の時間を得られたと、サフィアは満足の笑みを浮かべる。


(貴重なこの時間を使って発声と魔法の練習するのよ! とりまマーサたちの動向確認)


 サフィアは聴覚域を拡張した。

 調理中のマーサ、針仕事をする侍女二人、調度品を磨くハンナ、四人の姿を耳で()()する。


 幼児の環境適応能力は素晴らしい。おんぎゃっと産まれても脳と身体は未発達で、環境に合わせて筋肉や神経もカスタマイズされる。


 前世のサフィアは子供のころからピアノを習い軽音部にも在籍していたが、絶対音階などは持ち合わせていなかった。

 それが今世では当たり前のように簡単に得られた。絶対音感。そして音を色彩に変える共感覚。可聴周波数を調整しイルカの声も聴き分けられる。


 転生して自我をもってからすぐに、音階、音域、といったものをサフィアは意識して少しづつより高度に洗練させていった。

 音楽の素養があり、幼児期に感覚機能が強化できると知っていたからこそ、自信をもって音情報の視覚変換システムを構築できたのだ。


 音は指先のように室内をなでる。周波数、音圧、得られる音情報を色彩情報に置き換え、それを脳は補完処理し最適化した映像を脳内に表示する。


(外的な刺激じゃなくって脳細胞を意思で成長させたのよ。自力で偵察能力開発できちゃうとか赤ちゃんパワー半端ない。あ、でもこれも魔法なのかも?)

(脳内情報によると、この異世界はマナと呼ばれる魔素で満ちてるらしいからね。魔法が使えるのはこのマナのおかげで、私が音情報を拾う時にはマナからも情報をもらってる気がする)


 この世界に満ちてるマナ。目に見えないそれを人間や動植物は呼吸や飲食で身体に取り入れ、体内に循環させて魔法として発動させる。それがこの世界での定説だ。


(ここにもマナはあるのかな?視覚情報のコントロールはまだ厳しい。音でマナに触れられるかな?)


 お座りしたサフィアは何もない空間に手を伸ばしマナを探る。そしてマナの振動を耳で捕えようと集中。


 しばらくすると空気中に金色の粒が混じり、キラキラと光を放ちはじめた。

 手ごたえを感じたサフィアは、金色の粒子を手のひらにあつめるようイメージを強くする。


 キラキラの光の粒子は数を増し、サフィアの願いに応えるようにゆっくりと集まりだした。

 そして、まぶしい大きな光の珠となった瞬間__サフィアの手の中に吸い込まれるように消えてしまった。




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