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マシュマロ・マーサ

初投稿2022,02,22,22:22を狙ってたのに。自分がださくてツラい。

「メイクオフ」


 泳ぎ疲れた人魚の若者はそうつぶやくと、王都をまるごと包む巨大な空気の泡〈エアードーム〉に飛び込んだ。


 さっきまで若者に素晴らしい推進力を与え、イルカと競走させてくれていた魚の下半身は消えてなくなり、かわりに二本の足が軽快に石畳を踏みしめた。


 若者はビスチェワンピの腰を真珠のチェーンで留めたようなヒラヒラの服を着ていて、深く切れ込んだスリットと張りつかない布地で下半身をさらりと隠していた。街を歩く人々も男女の区別なく似たような布をまとっている。



 この異世界には人魚族以外にも多種多様な人種がいる。


 その多様な人種のなかでも人魚族の一番の特徴は海で暮らすことにあって、世に半身半魚として知られる彼らの外見については、実のところ陸で暮らす人族とさほどの違いはなかった。



 海を愛する人魚族の生活は、鱗粧(レピクス)と呼ばれる種族固有魔法が使えることで成り立っている。


 半人半魚の姿は、その鱗粧(レピクス)を使って全身に鱗をまとったり、下半身を鱗でくるんで魚の様に変化させている状態だ。


 鱗粧(レピクス)はとても自由度の高い魔法技術で、体表であれば好きな場所に鱗を薄くひろげてヒレ形状にできるし、例えば背中に翼のような大きなヒレを生やして空中を舞うことすら可能だった。


 ただしそれは海中からエアードームの天頂に飛び込み、歩道までの数百メートルを滑空できるといったもので、その逆に低い場所から高い場所へと飛び立つことはできない。

 鱗粧(レピクス)で作り出す翼は、浮遊はできても人を支えて羽ばたくほどのパワーのないハングライダーのようなものだ。


 人魚の若者たちは鱗粧(レピクス)の解除を「メイクオフ」、半人半魚状態を「メイクマーメイド」、翼形状にする時は「メイクウィング」、などと口にする。でもそれはただの掛け声でしかなく呪文のような効果は特にない。




「鱗とは言っても、結界魔法の一種なんですけどね」


 乳母のマーサは、まだ言葉の意味のわからないだろう赤ん坊のサフィアに、人魚ライフとそれにまつわるあれこれを優しく解説してくれていた。


 サフィアの乳母のマーサは男爵家の出身のふくよかな小柄の女性で、五人の子を育てたベテランマザーだ。


 幼児の言語の発達促進のため、大人言葉でしっかりと語りかけをする。それがマーサの教育方針。

 とはいえ我が家での家事の合間の子育てとは勝手が違い王女様は密着保育。長時間の丁寧な語りかけで、すでに子供向けのネタは尽きていた。


 旦那の愚痴なら何時間でも語れるけど、赤ん坊の耳を汚す単語は教育上よろしくない。__と、いう訳でマーサは思いつくこと目にとめたこと、出来るだけ基礎教育っぽいことをとりとめなくサフィアに語り聞かせている。



「水、風、火、土の4つの守護魔法のなかで、水魔法の特性こそが最も優秀で、高度な魔法技術の習得にも適しているのですよ。私たち人魚は水魔法の恩恵を受けて、産まれながらに鱗粧(レピクス)という便利な結界魔法を操ることができるので、とってもお得なのですよ」


 マーサに抱かれたサフィアはこくこくうなずく。


(そうそう、知ってる! 理屈はわかんないけど知ってるよ! 学んでないのに頭のなかに知識があるの。それになぜだか人魚の言語も理解できてるよ__これが噂にきく転生特典のスキル? 言語理解? チートってやつなのかも?)


 サフィアは心がぴょんぴょんしていた。


(もしも、神的存在からチートパワーがもらえてたりしてたら、魔法を極めちゃったりしてモテモテ無双主人公になれるかも! この世界にも陸はあるし乾いた国だっていっぱいある。恐ろしい深海城をチート魔法でさくっと抜け出すのよ! ギルドもあるのかな? 地上で楽しく冒険者生活できたら素敵すぎるんですけど!)


 前世の悠里は歌とダンス、カヌーが趣味の活発な女の子で、乙女ゲームよりTPSシューティングゲームに夢中だった。

 本来の悠里ならウォータースポーツもソロキャンも大好きだから、水へのトラウマさえなければ、究極アウトドアな人魚ライフも大歓迎でいられたのだけど……



 寝室のカーテンのすきまから、忌まわしき地獄の腐海がちらりと覗く。


(ぴぎゃああああ! ヤバイよヤバイよ! 地獄の門が開いてるううう!)


 すきまから見えるほんのわずかな〈海〉にパニックをおこし、白目になるサフィア。


「あらあらぁ~! サフィア姫ちゃまどうちまちたかぁ? あらぁ~お水が怖いのでちゅかぁ? はーい。ないないちまちたよぉ」


 あわてたマーサはカーテンをきつく閉じると、教育方針をぶっ飛ばして甘々な赤ちゃん言葉を使いまくり、ガクガク震える顔面蒼白なサフィアをあやした。


「サフィア姫様はお水がおきらいなのよねぇ」


 この水に囲まれた王宮で、それは困ったものだとマーサはため息をつく。でもまぁ幼児が闇雲になにかを怖がることはよくあるものだし、少し成長すれば収まるだろうとマーサは考えた。


(いやいやいやいや! 水きらいとかそんなアッサリしたのんじゃないから! お部屋の窓、ガラス入ってないからね! 窓が水壁、スグそこ海! 人魚アタマおかしい。結界? なにそれおいしいの? 圧迫感ひどすぎ定期)


 サフィアは素でそう訴えたが、まだバブバフなので意志の疎通ができなくて辛い。

 どこもかしこも水ばかりで、海底にいると考えただけで心臓が爆発しそうなのに、自室の窓まで水族館仕様でお魚こんにちは、だとかストレス半端ない。


「よちよち」とマーサに三十分もあやされて、サフィアの頬にやっとこ赤みが戻ってきた。


 ふっくらふわふわのマーサの胸はまるでマシュマロのよう。こうしてぎゅっと抱きしめられると、もちもちもっちり柔らかい安心安全の優しさに癒されちゃう。

 この拷問部屋でも心が折れないのはマーサのマシュマロ聖域のおかげだ。


(マーサ好きっ大好きっ! 結婚したい)




 




 

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