ギルド追放
「アルダヴァーン。今日でお前、このギルドクビな」
カルネス王国の王都カルネシアに本部を置く、冒険者ギルド【プライマリースターズ】。その末端の末端たるDランク冒険者の俺は、解雇通告を受けていた。
「そ、そんな……私はまだ働けます!」
そう嘆願するとともに咳き込む。
「その体調じゃあな……もうまともに働けんだろ」
Cランク冒険者の上司は無慈悲に事実を突きつけてくる。
確かに、ギルドの地下工場でよく分からない植物の栽培、加工の仕事に参加するようになってからは、どうにも体調が悪い。きっと怪しい物でも作っているのだろうが、他に行く当てもないし、こうするほかない。
それに何より、俺はここのギルドマスターに命を救われた恩義がある。今は亡き彼のためにも、終生このギルドに尽くしたいのだ。
「そんなことは無……」
叫ぼうとしたとき、俺は激しく咳き込み、血痰を吐いた。
「ほらな。全く。Dランクの雑魚は使えないくせに、意地だけは立派なんだからな。いいか? お前たちなんていくらでも替えの利く部品みたいなもんなんだ。古くなったら使い捨てる。それだけのことさ」
他のメンバーには聞こえないよう、上司は耳元で囁く。
薄々気づいてはいた。恩義のある先代マスターが亡くなって以来、このギルドは変わってしまったと。人間を消耗品のように扱うようになってしまったと。
だがそれでも、俺はかつてのこのギルドが好きだったのだ。クエストを受注できない俺のような雑魚でも、出かける冒険者の準備のサポートくらいはできる。
そう思って尽くしてきた結果がこれか。
「とにかくもう今日は帰れ。病人の居場所なんてねぇんだよ」
つまみ出されるようにしてギルドを出された。
だが俺は、落ち込むというより失望していた。もうこのギルドは地に堕ちた。
「【セプト・アルテマ】其の一【星削ぎ】を使えば、あいつの首なんて簡単に斬り飛ばせるんだがな」
だがそんなことは、可能だが現実的ではない。ここは大人しく追い出されるしかない。
そして、俺はもう二度とギルドに入れてもらえることはなかった。
三日後。
もともと薄給だったこともあり、既に貯金は底をついた。
「俺、このまま野垂れ死ぬのかな」
俺は故郷を焼かれ家族を亡くしたので、頼るアテもない。
「どうしてこんなことになったんだろうな……」
どこから間違ったのか? 何が悪かったのか?
考えても考えても、やはり帰結するのは、自分の愚かさが原因だという事実だ。マスターが代わった時点で、あんなギルドは見限り、手に職をつけるべきだったのだ。
冒険者なんて不安定な仕事だ。その冒険者にすらなれなかった奴なら、なおさら不安定な仕事にしかありつけない。
そんなことを考えていると、強烈な眠気が襲ってきた。
目の前には、かつての故郷で彫像や壁画として見慣れた姿の女性が立っていた。すなわち、女神ニケ。
これは、あの時の記憶か。
俺が地上最強のスキルを得たときの記憶。
「君には特別なスキルをあげる。そして、この世界を、地球人から守って」
地球人とはなんだろうか? そんな人種聞いたこともない。
「これから君に授けるスキルの名は、【セプト・アルテマ】。つまり、【七つの究極奥義】。まぁ、七つともとんでもない力を持つ技だから。期待していてよ」
そう言われると、俺は目が覚めた。