梅橋百鬼夜行第六章「麒麟神殿」
登場人物
双剣士であり陰陽師でもある、赤ノ宮の名字を改めた九字紫苑。強大な力を秘める瞳、星晶睛の持ち主で、「水気」を司る玄武神に認められし者、紫苑と結婚している露雩。
紫苑の炎の式神・出雲。神器の竪琴・水鏡の調べを持つ竪琴弾きの子供・霄瀾。帝の一人娘で、神器の鏡・海月と、神器の聖弓・六薙またの名を弦楽器の神器・聖紋弦の使い手・空竜姫。聖水「閼伽」を出せる、「魔族王」であり格闘家の青年で、はちまきの神器・淵泉の器の持ち主の、「金気」を司る白虎神に認められし者・閼嵐。輪の神器・楽宝円を持ち、「木気」を司る青龍神に認められた、忍の者・霧府麻沚芭。人形師の下与芯によって人喪志国の開奈姫に似せて作られた、槍使いの人形機械・氷雨。
麒麟神殿の祝女の一族、砂津砂津と由曜夫婦。田野花と景矢夫婦とその子供、友元と割満。季里四と健土夫婦とその子供、地新奈と秀地。
「この世界の王にして、神」と自称し、「寒雨教」を作り宗教軍隊を組織している寒雨。
第六章 麒麟神殿
麒麟神殿の内部は、人がごった返してざわざわしていた。登山で山頂に登りきった人たちが、絶景を前にして、あちこちで感想を共有しあっているような音声である。
「さすが寒雨様のお力のある場所だ……空気が違います」
「少し痛いような香りですね。おかわいそうに、早く解放してさしあげましょう。寒雨様が苦しんでいらっしゃるに違いありません」
「ここは、土ではなく玉砂利なのですね。特別な結界が張られている証なのでしょうか」
「みんな! この社の中に誰か住んでいた跡があるぞ! 見つけだして寒雨様のことを聞き出そう!」
「それより、洞窟の中に入った人たちが帰って来ない。様子を見に行った方がいいのではないか?」
「おい、食べ物と酒があるぞ! 持って帰ってオレたちだけで一杯やろう!」
祝女一族の住む社も、境内も、洞窟も、寒雨信徒にことごとく家探しされていた。
「おのれ……!! 神に仕えることを赦された者のみが入れる神域に、この盗人ども……!!」
信徒に紛れて走る砂津砂津は、顔を真っ赤にし、歯を食いしばって怒りをこらえた。
境内で、寒雨教の幹部と思しき者が叫んだ。
「封印解除に関する手がかりは、家探ししても残念ながら見つからなかった。皆は、とにかくあの洞窟へ向かえ。中の獣を手に入れろ。寒雨様がお喜びになるぞ」
人々は、我先にと洞窟へ走りこんでいった。先に入った連中と合わせて、二百人はいるだろう。幹部だけは、入らなかった。砂津砂津が怒り任せにその首に遠くから毒矢を吹き、殺した。
「どうしよう紫苑、二百通りの答えの中に、麒麟神の好きな答えがあったら!」
少女霄瀾が足踏みして、男装紫苑をせかす。
「あら霄瀾ちゃん。あなたは焦っちゃだめよ」
「えっ?」
田野花と季里四の姉妹が、少女霄瀾の手を握った。
「これからおねんねしなくちゃいけないんだから」
社の方へ歩き出す。
「えーっ!? こんなときにねられるわけないじゃない!?」
「ねんねしな、ねんね!」
「えーっ!?」
少女霄瀾は、母のように強制する二人に引きずられていった。
「では紫苑。まず、穢れを塩で清めなさい。あなたは穢れを身に帯びやすいようです。その後、土気の禊、『土見える禊』をなさい」
砂津砂津が、てのひらに載るくらいの白くて丸く固まった塩を、紫苑にくれた。穏やかな魂のように丸く、深みのある影があった。
「全国の神社の清めの塩を混ぜて、固めるとこうなるのですよ」
砂津砂津が、少し誇らしげに笑った。
誰もいない境内の角の湧き水のそばで、紫苑は着物を脱いで、溶けるようにきめの細かい塩を、こちらもきめの細かい肌に滑らせていく。
「穢れを身に帯びやすい、か。すぐに剣姫になって怒り狂うからかな」
水をかぶって、塩を張りのある肌から洗い流し、水垢離を終える。
「さて……もう一つ!」
紫苑はめりはりのある恵まれた体を一回引き締めてから、湧き水と土を混ぜて泥を作り、体中に泥で模様を描き始めた。「土」の字を中心に、神に届く文字で「土の力を恵みも災いも従順に受け入れることを誓う」と書くのだ。もちろん現在使われている文字ではなく、天降りの日に降り下りたもののうちの一つである。これが、土気の禊、「土見える禊」である。土気に神聖さを伴って接するとき、必ず行われる。
手の先も足の先も茶色い模様で埋まり、着物を着て準備が整い男装を解いた紫苑は、洞窟へ向かった。
ここから先は、祝女の助言は一切ない。
また戻れる保証は、ない。
愛する露雩と会話らしい会話もなく、ここに来てしまった。
お互い、言っておきたいことは、一生分かかっても言い足りないほど、あるのに――。
それでも、紫苑は麒麟神殿の中に、力強く入っていった。
星晶睛の露雩は、星晶睛の情報を寒雨信徒に与えるのを嫌って、引っこんでしまった。
女露雩は、麒麟の試練を受けている妻のことを想って、麒麟神殿をずっと見上げていた。
麒麟神のいる洞窟の中は、黄色の霧がたちこめていた。それは香りの塊で、脳を刺すような痛みを引き起こす香りだった。
「この痛みの空気に、逃げ場はないのね」
紫苑は直接目鼻耳口を突き刺されているような苦しみを味わいながら、薄暗がりの中を進んでいく。
「おかしいわ……」
三十分も一本道を歩いて、紫苑が呟いた。
誰にも会わなかった。
紫苑が入る前に、二百人は入ったはずである。
何人か脱落して休んでいたり、話し声がここまで届いたりするときがあってもいいはずである。
何の音もしなかった。
紫苑の歩く音だけが洞窟内に響き、そのうち自分の音なのか他人の立てる音なのか、混乱してわからなくなってくる。明らかに恐怖を感じる一歩手前の段階であった。ここには自分一人しかいなくて、どんな事が起きても自分一人で戦って道を切り開かねばならないという、「孤独」への。
「ギャ――ァァ……」
突然、絶叫が聞こえた。奇妙なことに、声の最後は消失していく。
追いついたかと、紫苑が走って広場に出たとき、黄色い柄の刀がたくさん土の上に刺さっているのが目に入った。そして、寒雨信徒が五十人ほど、腰を抜かして「どうする、どうする」と言いあっている。
「何があったのです。麒麟神にこの刀で殺されたのですか」
土見える禊をしている紫苑を見て、信徒たちは「指示をくれる人が来た」と思って、叫んだ。
「寒雨様のお力はこの刀を抜けば解放されると誰かが言い出して、みんなが刀に手をかけた。そしたら、一人残らず消えちまった! しかも、ただ消えるんじゃない、体が筆みたいに細くなっていって、そのまま存在がなくなっちまうんだ! 一本の髪の毛も、残さないで! オレたち、恐くて刀に触れねえよ! だけど、ここで逃げたら寒雨様が……!」
百五十人は、麒麟神の試練に耐えられず呑みこまれたのだ。今恐がっている五十人も、これでは二の舞になるに違いない。
「あなたたちは、外に出なさい。そもそも寒雨本人の力でどうしようもできないことを、信者がどうこうできるわけないでしょう。あなたたちは外の人々に今起きたことを知らせればいいのです」
紫苑は逃げていく五十人を見送った。これで自分が失敗しても、次の出雲に「刀に触るな」という情報が入る――。
ところが。
「ギャ――ァァ……」
広場から出たとたん、五十人の体が圧縮され、筆のような細さにまでなったかと思うと、匂いも残さず消えてしまった。
『姑息な娘よの。神の力を垣間見た者は、神に認められるか死あるのみ。神を軽々しく他言することはこれ死に値する罪なり』
地割れのような声がした。麒麟神だ。自分の心を見透かされて、紫苑は額は青ざめ頬は赤面した。
その後、刀に触れないように慎重に体をひねりながら広場を通り抜けようとする紫苑に、後ろから声をかける者があった。
少女霄瀾は、畳の上の布団の中に潜っていた。
田野花と季里四の姉妹は、障子を隔てた隣の部屋にいる。
しかし、神殿の外に寒雨信徒が大勢いて、いつまた家探しして襲いかかってくるかわからないので、少女霄瀾はとても寝られる状態ではなかった。
「あっ! しまった、紫苑に十二支式神の『未』(羊)かりとけばよかった!」
未は睡眠攻撃能力がある。
「あら霄瀾ちゃん。ずるしたら寝てもなんにもならないわよ」
「危なかったわね」
障子の向こうで姉妹が笑った。
「ずる? って?」
少女霄瀾が起き上がって尋ねようとしたとき、体にまったく力が入らないのに気がついた。
「うっ……つかれてる……?」
まぶたもろくに開けていられない。急に体が浮かび上がったかと思うと、真っ暗な空間に一目曾遊陣で跳んだようだった。
「ここ……どこ……?」
暗くて、何もなかった。隣の部屋にいた姉妹からも遠く離れてしまった。もちろん、出雲たちとも、もうどうすれば再会できるのかも、わからない。
「ボク、この空間にたった一人で生きてるんだ」
だれも助けてくれない。
術をはね返す空間だったら、紫苑たちの一目曾遊陣も使えない。
だれも、ボクがここにいるって、知らない。
神様がそうお決めになったら、もうだれにもわからない。
「ボク、独りぼっちになっちゃったの!? これは麒麟神のなさったことなの!? それとも、寒雨仮面がボクをさらったの!? どうしよう、ねむるどころじゃないよ!! 逃げなくちゃ!! とにかく、みんなの目の届くところに行かなくちゃ!! ボク、一人じゃなにもできないんだよ!!」
少女霄瀾の胸に、孤独の中、誰にも頼れない不安が一気に押し寄せてきた。空間のすべてを支配する無音に押し潰され、存在を消されそうな感覚が生じる。呼吸すら、力の限り意識しないと、できない。
「ボク、死ぬのかな」
先に旅立った祖父、降鶴が思い出された。
少女霄瀾の記憶の中で、降鶴はいつも笑っていた。この笑顔を曇らせると思うと、少女霄瀾は自分のことを残念に思って泣きたくなる。
「だめだよ、ボクがしっかりしなくちゃ。もうおじいちゃんはいないのだから」
口に出したとたん、もう降鶴に会えない寂しさがつのって、堰を切ったように泣き出した。
少女霄瀾の小さな体が、細くなっていく――。
「――露雩!!」
紫苑から刀の林立を隔てた広場の入口に、露雩が女装を解いて立っていた。
「どうしてあなたも来たの!! 神がお赦しにならないわ!!」
玄武神からも麒麟神からも罰を受けるに違いない。紫苑は刀に触れるのも構わず駆け出した。
「玄武神からはお赦しをいただいているし、麒麟神は同じ四神である玄武神の刀の使い手には手出ししないはずだとも、おっしゃっていらしたよ」
それを聞いて、紫苑はほーっと息と共に膝をついた。夫への神罰は、すべて我が身に受けるつもりでいた。
「私のこと、励ましに来てくれたの?」
安心した表情で深呼吸して、妻が微笑んだ。
「ちゃんと送り出せなかったからね」
夫も緊張した表情で深呼吸して、微笑んだ。
そして、紫苑の胸元を指差した。
合わせた着物で見えないが、都で露雩に買ってもらった、桜と紅葉をあしらった魔石の首飾りがつけられている。
「黄色い紅葉の方に土の護りがある。かわいい紫苑、オレがそばにいる。きっと大丈夫」
「ええ。私、幸せよ。あなたがずっとそばにいてくれるから」
朗らかに笑う紫苑は、ふと気がついた。
「旅をしなければ、一生出会うことはなかった。出雲以外は、霄瀾とだって別れていたわ」
永遠に旅をしていれば、永遠に人と出会えるのではないか?
旅が終われば、この仲間たちもばらばらに暮らし、今のような楽しい日々は永遠に失われるのではないか?
それから夫婦二人で旅をして、記憶を取り戻した露雩と遂に二人きりで住めたとしても、露雩に先に死なれたら、私は独りぼっちになってしまうのではないか?
友達のいなかった紫苑には、この仮定が将来どうなるのか何もわからなかった。
「私は、戦いが終わることを恐れている」
口にして、紫苑は愕然とした。
自分の運命に決着をつけることと、仲間と一緒にいたいという二つの望みが、拮抗していたのだ。あれほど、運命に嘆いた赤ノ宮紫苑が。
友と別れ別れになるのが恐い。
露雩に死なれたとき、独りになるのが恐い。
「旅が終わらなければいい……」
紫苑は無意識の己のセリフに嚙みついた。
「何を言っているのよ! 終わらせなきゃだめ!! いつまでも先へ進めないでしょう!!」
荒く息をつく。いつの間にか、露雩の姿が見えないほど黄色い霧がかかっていた。
紫苑の体が細くなっていく。
「孤独」に答えを出すことこそ、麒麟の試練なのだ。孤独に呑まれれば筆のように細くなって、存在を消されるのだ。それに気づき、恐怖に戦く――。
「うっ、うっ、うえーん! おじいちゃんー!!」
泣く少女霄瀾の、細くなっていく指をぐっとつかんで止めた者があった。
「お……おじいちゃん!?」
降鶴が、微笑んで少女霄瀾のそばに立っていた。
「来てくれたの!?」
降鶴は死んでいるはずである。だがこの空間では生きていた。降鶴と再会できて、少女霄瀾は何もかも忘れて夢中で話しかけた。
「あのね、出雲がね、ボクのおとうさんに……」
降鶴は孫を優しく制すと、古い竪琴を取り出した。霄瀾に曲を教えるとき、いつもこうしていたのだった。
「うん!!」
少女霄瀾は三種の神器・水鏡の調べを準備して、降鶴のあとにまねして奏でだした。
「これ、歌はつけないの?」
すべてを弾き終えたとき、尋ねた少女霄瀾を、降鶴は黙って立ち上がり、抱きしめた。
「お花畑のにおいがする……」
降鶴は白く光る衣をまとって、消えていく。
「おじいちゃん!! 死んでたの!!」
霄瀾はすべてに気がついて手を伸ばした。
死者は生者と話ができない。
それでも、愛する孫のため、祖父は麒麟神より先に孫に逢いに来た。
「麒麟」の曲を教えて孫を助けるために――。
「おじいちゃん!! 死なないで!! もっと生きて!! ボクが旅に出たから!! ごめっんなっさ……!!」
泣きじゃくる霄瀾の言葉を、降鶴は竪琴の優しい音色でくるんだ。
降鶴がいつも、舞台の始まるときに弾いていた曲だった。
「おじいちゃん!! おじいちゃんはもう、どこにもいないよう!! 幕なんか上げられないよう!!」
それでも、降鶴は、微笑みながら光の中に消えていった。
「待っておじいちゃんー!!」
うわああーと泣き叫んで、霄瀾は目が覚めた。
泣き疲れて眠って、泣きだして起きたのだ。
霄瀾は、麒麟の試練に呑みこまれずに、「麒麟」の曲を手に入れたのだ。
「ありがとう、おじいちゃん。死んだあとも、来てくれて……」
霄瀾は涙をぬぐってきゅっと橙色の髪紐を締め直すと、布団から立ち上がった。
「たった一人でも、戦え!! 紫苑!!」
はっと、紫苑は我に返った。幼かった頃の自分の声だった。今の紫苑にではなく、ずっと自分自身に言ってきた言葉であった。
殺人者の最終兵姫は、物心ついたときからずっと「孤独」だった。
麒麟の目がどこかで光った。
人々に蔑まれる。
のけ者にされ、石を投げつけられる。
「私のこの美しさとこの強さは一体何のためにあるのだろう」
お金を持っていても、食糧を売ってもらえない。
「お前なんかには、これで十分だよ!」
家畜の腐った臓物、野菜のくず、糞尿の入ったたらいをぶちまけられる。
自分で獲った鳥肉を食べながら。
「私のこの美しさとこの強さは一体何のためにあるのだろう」
母だけでも亡くなっていて良かった。子供のこんな境遇に、耐えられなかったに違いない。
強い人間や、幼い子供を殺して人間の世界を弱らせようとする魔族だけが、紫苑を殺そうと「真正面から向かってきてくれる」。
「お前たちが、私に生きる実感をくれるのか」
人々は紫苑が魔族を倒したときだけ、話しかけてくれるようになった。
「人間である私が、人間の中に居場所ができるのだ。魔物を倒せば、それがかなうのだ」
紫苑は、魔物を意識して倒すことを心がけ始めた。
遭遇した魔物の中に、人間と仲良くしたいと言う者がいた。
しかし、人々はその魔物も「殺せ」と叫んだ。
そこで、紫苑の剣は止まった。
「おかしい。それは、おかしい!」
紫苑はそのとき初めて、自分の中に人も魔族も正しい者は救いたいという考えが芽生えていたことに気がついた。
それは、己が人でも魔族でもない存在のように扱われていたからかもしれない。
「魔族を全部は殺さない」という紫苑の考えに、人々は反発した。
しかし、紫苑は考えを変えなかった。
これまで、人々に受け入れられるものが、人間のすべてだと思っていた。
でも、それは違う。
世界中のすべての人に反対されても、「これは正しい」と言わねばならぬときがあると、紫苑は知ったのだ。
人の意見を聞くということは、人の言う通りに生きること、人の操り人形になることと同じだ。
それでは人間に都合の悪い問題は、みんなでごまかしあって、いつまでたっても解決しない。それではだめなのだ。
誰かが大多数の人間の支配から脱して、答えを出さなければいけないのだ。
たとえ人間すべてに憎まれることになっても。
「私は孤独。今私は誰も頼る者がいなくなった。だけど、後悔はしない。他人の期待通りに生きて自分の人生を殺す自分を、変えることができるのだから。他人は、私の代わりになることはできない。だから、私は私だけの信じる道を進む。世界中の人間と戦うことになるだろう、だがそれがどうした。私のこの美しさと強さは、私の道を守るためにあったのだ。今なら心から感謝できる。私という存在が生まれてきたことに!
さあ勝負だ人間ども、私はこの世界でたった一人で戦う戦士。私を受け入れなくても構わない。それでも私は私の正義を貫くのだ。私は、誰からも理解されなくても怯まない! 私の心は既に世界の調和で満たされているのだから! 正しいことをする者は、恐れない!!」
地割れのような麒麟の声が、咆哮した。
『一生独りで誰からも理解されずに死ぬことを、剣の舞姫は受け入れた! その孤独、心身共に最強なり! 他人に頼らぬその心、常に己の答えを自力で見つける力と知れ! 他人の意見を聞いても、最後に決めるのは己なのだ。他人の言うなりになってはならぬ。誰かに頼ればその相手に支配される。金銭、愛情、友情……気をつけろ。生まれてから死ぬまで、人は独りだ。他人に代わることも代わられることもできない。
自分を持て、孤独を恐れるな。己で答えを出し続ける者が、最後まで地上に立っているのだ。それが己を守る強さだ』
しかし、麒麟の声は終わらなかった。
『世界を変える力のある者はこう思う。だが剣の舞姫のお前でさえ、本当に最後まで走り通せるかな?』
剣の舞姫は、悪を倒し続ける。人間も、魔族も、逃さない。
頭から血を流した命が叫んだ。
「結局貴様の法則とは何なのだ! 世界の異物め、殺人を罪とする社会の約束を破る殺人狂、なぜお前のような者が生存しているのだ! 世界は、お前など認めない!!」
世界は、この「独り」を排除する。
集団で決めた「約束」を守れない者は、排除する。
紫苑の正義と、社会の正義は、違う。
孤独な自分の存在が、周りに押し潰されそうになる。
ここで耐えなければ、存在は消える。
「私の法則とは、天に背かず悪を滅し天に使命と罰を受けながら赦され光をこの手につかむために生きることだ」
紫苑の知っている己の人生のすべてであった。
「私は己の死ぬまでに、すべての悪を斃すことが望みだ。そのために命を縮め悪に心を蝕まれても構わない。光を目指す私一人が救われるのは正義ではない。力と理論は使うためにあるのだ。私は己を犠牲にしても世界を救いたいと思っている。
私はかつてこの力を呪った。まともに生きていられない自分に憤った。中途半端な力しか持たず、世界のすべてを救えそうにない自分、世界のすべてを救う力をくれない神。
だから私は救われない自分の命を使い、すべての悪を道連れに世界を滅ぼしたいとさえ思った。そうすれば神が悪を斃す強大な力を授けてくださるなどと、あてもないことを思いついてな……。しかし心のどこかで世界と神に絶望して憎んでいた私に神の力が降りるはずがなかったのだ。それに気づいた今、私は己の過ちを認め、そしてこの世界を愛している。
憎しみから生まれた力では何も救うことはできなかった。ただ己の無力を呪うだけだ。しかし、愛から生まれた力は、他者を呼んだ。私は独りではない。私と同じ志を持つ者と共に戦えば、世界は救えると気づいた」
紫苑は、神に、剣姫の運命の末につかんだ自分の中の言葉を引き出されていることに、気づいていない。
「私に無限の可能性を教えてくれた、それが愛から生まれた力。だから私は己を嘆かない。むしろ、先陣を切り、後に続く者たちの道しるべになろう。だがそれでも私は正しいことをしている弱い者を救いきれない自分と、その彼らの叫びで、自分で自分が許せなくなってしまうのだ」
紫苑は、やはり、最後は独りになるだろう、と瞳がかげった。
「人々を救うこと、その力が少しでもあること、目を逸らせないこと、すべてが私に怒りを呼んだ。だから私は生きている。生きて戦わねばならないことがあるからだ。
『存在理由』とは違う。あれは自分の力に気づかない者が自分探しをすることだ。
私は違う。生きてやらなければならないことがあり、それを知り力の限り生き抜く。それが、私の『生存理由』だ。
それが今、私が貴様の目の前に立っている理由だ、世界を救うためでも、悪徳の最後の一人として斃されるためでも構わない。死ぬときが来るまで私は私のやり方で世界を救う、天が赦す限り、貴様らのような悪徳の輩を! 斃し続けるだけだっ!!」
剣姫がすべての敵を葬ったとき、静寂が訪れた。
露雩も仲間も、誰一人そばにいなかった。
今までは帰る所があった。
どんなに剣姫化で殺して独りでいても、幼い紫苑には父として接してくれていた赤ノ宮殻典がいた。旅に出てからは、仲間がいてくれた。
なのに、今この空間で累々(るいるい)と転がる死体の中には、剣姫しかいない。
急に紫苑は言い知れぬ感情が湧き起こった。それは剣姫の口からやっと一言で這い出た。
「……寂しい」
言ってから、剣姫は素早く辺りを見回した。
今の声を聞いて、誰か反応してくれないかと思ったからである。
しかし、石ひとつ、ことりとも動かなかった。
殻典も、仲間もそばにいない。
剣姫は、自分が今まで孤独だと思っていたのは幻想だったことに気づいた。みんながいたから、帰る場所があったから、「独り」でも耐えられたのだ。
誰も自分のことを知らない世界で、舞い斬って独りになることを繰り返すなど、とても自分からはその一歩を踏み出せないとさえ思った。
それほど、この自分のいる境地は恐ろしい魔境だったのだ。「孤独がいい」などと、人間には耐えられない言葉だったのだ。
人間など、悪人ばかりなら全滅寸前まで殺してもいいと思っていた。だが、「動物や精霊、自然まで滅ぼそうとは思わなかった」。彼らが残っている限り、「孤独にはならないことを知っていた」から、剣姫は人間を滅ぼすのに何の躊躇もなかったのだ。
剣姫は初めて自分の真の心に気づいた。私は、孤独を求めていなかったのか――! すべてが終わったあと死んでいいと思ったのは、その後の孤独に耐えられなかったからだ。人々が受け入れてくれるなら、剣姫は生き延びてもいいのだ。誰かがいてくれないと、自分は自己を維持できなくなる。それは剣姫が信じる生存理由である、「悪を全滅」させたときとて同じこと。善人は剣姫を受け入れない可能性が高い。
「悪がいないと、私は私でなくなる。私は、悪あってこその舞姫。……最後の一人になるしかないのか……」
剣姫から恐怖の汗の滴が、顎から一滴落ちた。自分の存在は、否、自分の意識は、運命と信じる戦いを終えた未来に、耐えられないのではないのか。
「俺は、弱くなった」
恐ろしさのあまり、剣姫は神魔に並ぶ第三の最強、男装舞姫として男装した。
「独りが、寂しいんだ」
第三の最強の体が、細くなっていく。
『使命を果たすと同時に、誰からも顧みられぬ者となって、存在が消えればよい。苦しまぬよう、我が一呑みにしてやろう。それまでは戦え。勝とうと負けようと、運命の戦いのために走るのが汝の運命。そのあとは汝の自由だ。死ぬなり生きるなり好きにするがよい』
麒麟の心ない言葉に、男装舞姫は悔しさと憎しみと怒りと悲しみでみるみる目に涙がたまった。
「もう美しくないものなんか見たくない! 悪の心なんか見たくない! 戦うたびに、私の眼が穢れていくのがわかるの! このままじゃ私、悪徳にくもらされてしまう! 剣姫のときは平気なの、でも普通の人間に戻ったとき、それがたまらなく怖い! 私の身体は、もう後戻りできないところまで蝕まれているのよっ!!」
男装舞姫は土壁の土をつかんでぼろぼろにした。
「もう戦いたくない!! なんで私なの!! 何の義理があって、私は私を傷つけてまで戦うの!! なんで私一人が命を投げ出さなければいけないの!! 私はもう、何が幸せなのかわからない!!」
これが普通の人間としての「紫苑」の本心であった。剣姫の、悪を滅したい気持ちと、紫苑の、人並の幸せで生きたい気持ち、二つが心の中でせめぎあっているのだ。
麒麟は何も答えなかった。ただ、洞窟の中で紫苑の絶叫が、何度も何度も反響していた。
神は何度も何度も聞いていた。
決して、土壁の中に吸収させなかった。
紫苑は音を吐きだした。
「世界なんかどうなったって構わない。私一人が救われれば私はそれで満足だ。この強く美しい私が世界から消えることなど許されるものか! ああ、でも! この強さと美しさが何のためにあるかと言えば、世界を救うためなのだ! 神の力を使うにふさわしく、美しく清い言葉を吐き、強大な力を持つならば、戦わねばならない! 持って生まれた才能は、持って生まれた使命のために使うものだ。才能ばかりかわいがって、使命を忘れるなどと、本末転倒があってはならない。
ああ、それなら私は死ぬことが運命だったのだ。世界のために……もう戻れないのか。
何度も自分と世界と使命の間で迷ってきた。そのたびにここへ戻ってしまうのか。力ある者は戦わねばならない。これを覆す論理を、私は知らない。
私はもう誰にも止められないのか。いつもたった独りでたどり着く、この論理を」
なぜ剣姫がいつも自分の心の中で迷うのか、麒麟にはわかっていた。
人をもし完全に愛したら、第三の最強の力の源である、中道の力が失われるからだ。
神は、紫苑をずっと迷わせたいのだ。
そこに何かがあるからだ。
しかし、紫苑の絶叫が、ずっと耳について離れない。こんなに神に怒り、嘆き、愛をもって放たれた言霊――魂の叫びを、麒麟は聞いたことがなかった。
ふと、気が動いた。
『そこまで言うのなら、剣姫の力を我・麒麟に封印し、汝の望むときに発動できるようにしてやってもよいぞ』
世界と決着をつけたあとの孤独は、まだ解決されていない。しかし、もう剣姫の暴走を、他人に見られなくて済む。「普通の女の子」の生活が、手に入るのだ。
手に入れようとして、しかし次の瞬間、紫苑は腹の中が煮えくり返った。
「ありがたい申し出だが断る」
『何故に?』
「普通の女として暮らせるようになっても、私はやはり全人類を許さない。この強く美しい私を、よくも今まで苦しめてきたなと殺意さえ覚える」
『殺すのか』
「剣姫は全人類を殺す権利がある。殺さなかったとしても、奴らが普通の私に笑顔を向けたとき私は心の底では許さない。私は二度と人間を許さない!! どんなに世界が笑顔に満ち溢れても!!」
『孤独』
迷う運命に神の眼が光る。
「そのとき力が私のものでなければ困る。自分の怒りは自分のものだ。あなたにそれはあげられません」
紫苑は、はっきりと告げた。
「私は、あなたはいりません。他者の力を借りて勝つというのは、剣姫にとってはありえないことです」
麒麟神殿に入っておきながら、神の力をいらないと言ったので、麒麟は大笑いした。洞窟全体に地鳴りが起こり、ビリビリと空気が震えた。
『ここまで来ておいて、生きて帰れると思っているのか。我に認められるか、さもなくば死だ』
「……認めてもらってから独りで帰ります」
麒麟は、また大笑いした。ビリビリと震えた土壁に、亀裂が入った。
麒麟の気を変える紫苑に、麒麟は興味が湧いた。
そこで、尋ねてやった。
『剣姫についてはわかった。だが、「汝はどうなのだ」』
「えっ」
『剣姫剣姫と申すが、汝自身はどうなのだ。剣姫の力に満足していたら、ここには来ておらぬはずだ』
九字紫苑は、ぎくっと体を動かした。
剣姫でないときの力が欲しい。
星方陣も、成さなければならない。
だが、剣姫の力は裏切れないし、「孤独」を克服する言葉が浮かばない。
『剣姫の感じた静寂。その先にあるのは、無の世界だ。怒る剣姫はいずれ世界を無にしてしまう。無の世界でなら受け入れる受け入れないもなく、生き延びられよう。しかし、一人孤独に耐えたとて、そこに何が残る。一度失われた命は二度と元に戻らない。そうなる前に孤独と世界をつながなければ、果ては勇者に倒される』
紫苑は思考した。剣姫の未来は宣告された。このままではだめなのだ。しかし今、剣姫の力は存在している。隠すことも、封印することもできない。
剣姫の力と共に、紫苑は世界と関わっていかなければならないのだ。強者の誇りを傷つけられることが、たまらなく恐ろしくても。
紫苑は世界中に住んでいる人たちと孤独を融合する方法について、自分なりに考え始めた。
「たとえ人類最高の頭脳を持つ人でも、人を寄せつけない単独行動型の人間なら、他人から理解されず、結局人の目には何も成せないと映り、世界にいてもいなくてもよくなる。『その人がどんな役に立つか、周りが知らない』からだ。だから自分のことを他人に知ってもらうことはとても大事である。『待っていれば有能な自分のところに勝手に人が尋ねに来て、集まるだろう』ということは、起きない。
自分のことを知ってもらうために自分から自己紹介をしていくことは、とても大事なのである。自分がここでこういう役に立つと、他人もわかるし、他人と話すうちに自分も気がついてわかってくるからである。
自分一人がいればいいというのは、他人にとっては、その人が存在しないのと同じだ。自分の価値をわかってくれる人がいて初めて、その人から生み出されたものは日の目を見るのだ。
他人に自分を理解してもらうのは絶対に必要だ。
人の能力は理解してくれる人がいて初めて世界の役に立てる。他人と自分が知り合うほど、他人との関係や他人と作り上げるものの選択肢が増える。老いて独りで暮らしたとしても、人と人が理解しあう限り、できることの選択肢は増える。
他者を知ろうとしなければ、自分の存在は消されたものとして扱われる。人を知ることと自己紹介することは、人生の最期までし続けなければならない。人のことを死ぬまでよく知ろう。その人とできることの選択肢を増やして、共に仕事も、文化も、安全も、一つも逃さず関わって生きていこう。社会の一員として、死ぬまで、自分と同じ時代を生きる縁ある人々と何かを為し、成しながら生きていこう。私は一秒も自分と他人の人生を『もう何もすることがない』と思わない!」
紫苑は、はっと気がついた。
「『剣姫』という強大な力を理解してもらえるよう、人間の弱さを知る紫苑が、人々に意を尽くして説けばいいのだ! 強い剣姫だけでは絶対に無理だったが、人間の弱さに響く言葉を、弱い紫苑なら出せる!」
世界に決着をつけたあとも、晩年独りになっても、自分を知ってもらい続けること、他人を知り続けること、これが紫苑の孤独への恐怖を消滅させた。
地鳴りがした。
『孤独は常に力と無理解の両輪で走る。力と思いやりがもし両輪になるならば、それは最大の変革を生むであろう』
すべての刀が消滅した広場の天井が、大きく垂れ下がった。その土の塊が、少しずつ四つ足の獣の形になって、地に降り立った。
龍のように彫りの深い濃い土色の細長い顔に、雲のように象牙色に波立つ毛を持つ頭部と尻尾、そして黄色の鱗に覆われた背中、顔と同じ濃い土色の腹側、それに四本の獣の足がついている。
四神のうち隠された五柱目の神・麒麟であった。
体についた香粉が、動くたびに振りまかれる。その香りは、もはや刺すような痛みは起こさなかった。
広大な大地で安らいだときの匂いがした。それを一息吸うごとに、紫苑の中に大地の力が漲り、どこまでも成長していけるような気がした。限界を破壊し、何もかも成し遂げられるような気にさせる力を持っていた。
『よくぞ我の試練「孤独」を克服した』
山びこのように通る声で、麒麟が言った。
紫苑の目の前に筆が現れた。先は、光が集まっていた。その筆が、土見える禊で模様だらけの紫苑の上を、さっとはいた。紫苑の体中が輝いて、土見える禊が消え、代わりに何かの文字が浮かぶと、消えた。
『今から我は汝に力を与える。共に歩もうぞ、世界の決着まで。しかし汝が孤独に耐えられなくなったとき、我は汝を呑むであろう』
黄色い雲をあしらった黄色い刀が、大地からせり上がってきた。
紫苑は、麒麟の刀を手に取った。
『我、汝に土気の力を与えん!』
山びこが神殿中に響いた。
「麒麟神……お尋ねしたいことがございます」
『何か』
「私の体に何と書かれたのですか」
ひとしきり地鳴りがした。そして、ひときわ大きな山びこが轟いた。
『神に捧げよ、その剣舞』
「紫苑!! 無事だったのか!!」
仲間たちが大喜びで出迎えた。少女霄瀾も一緒である。
露雩がふわっと、紫苑を大切そうに抱き締めた。
「ありがとう露雩。助けてくれて」
「え? 何のこと?」
露雩は聞き返した。紫苑は、死を前にして夫の幻を見たのだと知った。
「死ぬ前に逢いたかったんだ」
それがわかって、嬉しかった。
「紫苑。オレは、絵を描いていたよ」
露雩が、黒水晶の表紙の本の白い頁に描いた絵を、見せてくれた。黄色い刀を持った紫苑が、微笑んでいた。
「なんでもお見通しなの?」
紫苑は絵の通りに、露雩に微笑んだ。
祝女一族が一斉に平伏した。神剣・麒麟を目にしたからである。神は言葉をかけた。
『これまでよく耐えた。我の旅が終わるまで、好きに生きるがよい。望むなら自由に生きてもよい』
砂津砂津が地に額をこすりつけたまま答えた。
「いいえ、我々は身の潔斎を続け、いつでも祝女の任につけるように生きてまいります。どうか私どものことを、お忘れにならないでくださりませ。それだけで嬉しゅう存じます」
『汝らの信心、忘れはせぬ。ここは辛かろう。これから山を潰すから、先に出ておれ』
麒麟の刀が光ると、壁に穴があいた。山の外が見える。
神の力で、寒雨信徒の札がなくても鬼霊の世界の外とつながったのだ。
『神の社を牢獄に使うとは、寒雨赦し難し。逃がさぬからな』
ゴ・ゴ・ゴ・ゴと山が震え始めた。寒雨信徒たちが、尻もちをついたり壁によろけたりしている。
「麒麟神! 信徒ごと潰すのですか!」
『我に任せておけ。汝らは早く出ろ』
紫苑たちは全員、神の言う通り外へ出た。
新鮮な空気を吸って、はあっと全員が胸をいっぱいに広げた。
その後ろで、山が崩れていった。寒雨教が山の中身をくり抜いていたので、上からちょうちんをたたむように圧縮されていった。
ちょっと底の高い、まったいらな皿の形に落ち着いた。
そこになぜか穴があきだした。生き埋めになった寒雨信徒が、土をかき分けて出てくるところであった。
麒麟は、全員が埋もれないよう、一人ひとりに空間を作り、穴を掘れるよう柔らかい土砂にして、雄首山を潰したのであった。
人々は何が起こったのかわからず、周りを見回している。
寒雨は出てくるのか。
一同が固唾をのんで武器を構えていると、
「おのれおのれおのれおのれ」
と、地中から呪文のような低い声が響いてきた。
そして、仮面の大きさの石が飛びだしてきた。トナカイのような角があり、星の形の黄色い宝石で結び目をとめた紐を等間隔に三本巻き、下からひげのような触手と思しきものを無数に生やしている。
『寒雨。ようやく倒せるときが来た』
麒麟の声に、一同が驚いた。
「あれが寒雨!? あの姿は、精霊では!?」
姿を見られて、寒雨は一瞬宙で上下に動くと、把自気山へ一目散に飛んで行った。
『追え! これ以上山を荒らすことは赦さん!!』
麒麟の声で、寒雨信徒たちを砂津砂津たちに任せると、紫苑たちは男装と女装を解いて、霄瀾の絶起音で把自気山へ飛んだ。
「星方陣撃剣録第一部紅い玲瓏十三巻」(完)




