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星方陣撃剣録  作者: 白雪
第五部 藍碧(あいへき)開闢(かいびゃく) 光の刻(きざ)名(な) 通算二十八章 藍碧(あいへき)開闢(かいびゃく) 光の刻(きざ)名(な)
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藍碧(あいへき)開闢(かいびゃく) 光の刻(きざ)名(な)第三章「神々の章」

登場人物

赤ノ宮九字紫苑あかのみやくじ・しおん。世界の王。新しい世界への扉を開けた者。

邪闇綺羅じゃぎら。神々の王。紫苑と結婚している。

きんべ。ぎんえ。紫苑と邪闇綺羅の子供で、男女の双子。三才。

雄牛の神。金と銀をさらった神。




第三章  神々の章



 邪闇綺羅じゃぎらと紫苑は見つめあった。

「私たちは、人と神々との接し方についても伝えなければ」

 そのとき、神々が足音荒く、荒野からやって来た。自分を信じる民が異教徒によって滅ぼされてしまった、いにしえの神々であった。その荒野には太陽も月も星もすべてがそろっていた。古の神々もすべての神であらせられるからだ。

 武具で立派に身を固めた神々が、邪闇綺羅に申し立てをした。

「かつて私が戦争を勝利に導いたのを、後に征服した異教徒は、黒魔こくまの仕業だったと伝えた!」

「私の武勲も、征服した異教徒の神の武勲にすり替えられてしまった! 名前だけ変えられて、命がけの戦いを盗まれて、私は非常に憤激している!」

 そして神々は肩を落とした。

「戦争に負けた側の神々が滅ぶしかないことはわかっている。『勝てない神』と思われてしまうからだ。勝てない神に自分の人生を預けることはできまい。負けた側の神々は消えるか、侵略国の宗教に悪側として組み込まれるしかないのだ。それでも、我々の行いを盗むのは、あまりな仕打ちだ!」

 古より、各都市の興亡によって新しい神々が登場し、古い神々がその威信を失墜しっついするようになっていた。

「たとえ古い時代の神々でも、忘れ去られたくない」

「いくら新しい神の威厳と力を見せつけるためとはいえ、我々古の神への畏敬もなく、徹底的に攻撃してくるのは、片手落ちである!」

 古の神々は、古の神々の住む荒野へと、邪闇綺羅と紫苑を導いた。

 しばらく進むと、激しく存在を主張するのにその輝きは優しく包みこむようなきらめく銅の色の、枯れ葉の森が現れた。

 枯れ葉の森の中では、あちこちで神々が水盤をのぞきこんでため息をついていた。昔自分を信じていたり名を知っていたりしたのに、新しい神を信仰するようになってしまった地上の人々を見ていた。

 神々の嘆きを見て、紫苑は近くの神の水盤をのぞきこみ、人々に直接語りかけた。

「お前たちはなぜ異国の神を信じるのだ。お前の国にも土着の神はいたであろう」

 しかし人々はむっとして横を向いた。

「異国が攻めてきたとき神は我々を救ってくれなかった。力をくれない神に用はない! 我々は我々を勝たせてくれる強い神が欲しいのだ!」

「自分の神を悪側にされ栄光の力を盗まれても黙って見ているのか!!」

「我々は栄えたいのだ!!」

 人々は耳を塞いだ。紫苑はやめなかった。

「栄えるとは何だ! 富か! 名誉か! 弱者が強奪にあわない悲しみのない世界か! この世の喜びをすべて満たしてくれるのが本当に神なのか! 人に生きる希望を与えて魂を救うのが神ではないか! 幸福を教えるために不幸にも遭わせよう! それも知らずしてただ一生の富と栄華を求めるとは! 神を裏切るのか!!」

「我々は勝てる神が欲しいのだ!! 我々が征服されるのを許す神を、どうして信じ続けられようか!!」

「一生勝ち続ける民族などいない!! 征服されても己の神を失わなければきっと再興のチャンスがあるとなぜ思わない!! 勝ち組の民族の神の勢いに乗れ? 自分を殺す気か!! 祖先が伝えてきたものを、神さえも全部異民族に奪われて、悔しくないのか!! 自分を否定していいのかっ……!! この世の栄華、なんと儚いもので己の神を捨てたのだ。己の神の神話に異民族の神を取りこんでしまえばよかったものを。そうして己の神を強化武装させて己を救えばよかったものを……」

 人々が神々を呪いながら捨てたため、神々も人々を呪いながら捨てるしかない。神々は人々の、神との絆を断ちたいという「願い」をかなえるからだ。

 人々は、耳を塞いだまま逃げ去ってしまった。神々は嘆きのため息をつくばかりである。

 鮫の神が空中を泳いで邪闇綺羅と紫苑に近づいてきた。

「私はざめという。海の守り神で、半島から海を渡ってくる敵の侵入を防いでいる。祀られて力を増して私を信じる島国の民を守りたいと思っているのだが、この島国の民に悪者のように扱われていて悲しい。弱い動物を寄ってたかっていじめたように思われているのだが、それはその者が我々をだましたからであって、我々にもその者を怒る道理はあったのだ。何もなければ報復はしなかった。どの神にも尊敬されるべき力があり、行動には理由がある。一つの側面だけ見て嫌ったりけなしたりしないでほしい。どの神も尊敬してほしい。人間の知らないところで人間を守っているのだから」

 すると、北の国に住んでいた石の巨人も近づいてきた。

「私も、人々から倒される側として認識されてしまっている。しかし、私は、朝日と海と岩山が一度に見える東向きの地で、オーロラを背に、『カ』のつくある町を見守っている。私の本来の背丈はその岩山の倍以上あるので、町も朝日の昇る水平線も一望できるのだ。だが、私がこの地にいることを、その町の住人は誰一人として知らない。もう、新しい神を信じてしまっているからだ……。忘れられても、私たちはずっと人間を守っているのになあ……。寂しいことだ」

 すると、神気のやせ細った神が現れた。

「私のご神体である山は、人間が利用できる岩石でできていたため、毎日切り崩され、堂々と連なって立っていたのが一つの細長い円錐にまで削られてしまった。祭祀はするくせに、その山を見て、工事の者も、一目見たその他の者も、何も思わないのか。神よりも金を取り、心痛も起きないのか。水と違って循環して元には戻れない。切り出されるだけ切り出され、いずれ消滅してしまう。私はすべてが虚しい。人間を罰しても、代わりのよその山でまた同じことを始めるのだろう」

 紫苑が人間として答えた。

「人間の文明を論じられるほど、わたくしは世界の経済のことを存じません。ですから、私はあなた様の山が切り崩されても、元の形を調べて、覚えて、イメージして、『ありがとうございます』と祈ります。たとえ山が消滅しても、あなた様の山があった姿を思い浮かべて祈ります。『ありがとうございました』と。私はそれしか思いつきません。でも、あなた様はそれだけで山にいられると思うのです、あなた様の地を守れると思うのです。あなた様のいたいだけ」

「……そうか」

 神気のやせ細った神は少し考えた。

「もし皆がずっと記憶してずっと思い出してくれたら、それも一つの答えの形だな。人々に、私の山のことを、ずっと覚えていてほしい」

 紫苑が答えた。

「はい。人々に、損なう前の自然の姿を覚え、その命を分けていただく大切さを説きます」

 神気のやせ細った神が重々しくうなずいた。

 すると、階段も何もない白いすりこぎ棒のような塔に、影の階段が映った。

 神気のやせ細った神が、指差した。

「行きなさい。影が階段になり、扉を作っている」

 確かに、黒い階段の最後に、黒い入口の扉があった。

 邪闇綺羅と紫苑が階段を昇り扉を開けて中に入ると、

「金!! 銀!!」

 母親はひとっ飛びで我が子を抱きしめた。母親の両腕の中には、自分がどんなに心配されていたか知らない、無傷のきんべとぎんえがいた。

 双剣に手をかけることも忘れて、紫苑は金と銀をぎゅううと抱きしめて泣いた。

「よかった……!! 無事だったのね!! うっううっ!!」

「おかあさま……」

 金と銀はそんな母を見てから、互いに顔を見合わせた。

「そこにおじいさんがいる」

 紫苑が泣き顔を上げると、自分がさっき飛び越えたものが目に入った。白いシーツの簡素なベッドだった。立派な三日月形の角を生やした雄牛の神が、寝こんでいた。傍らで邪闇綺羅が厳しい目で見下ろしている。紫苑の目が剣姫の殺気を帯びた。

「あなたが私と夫の子供をかどわかしたのか! どういう理由からか尋ねます! また、あなたのお名を頂戴ちょうだいいたします!」

 ところが、当の雄牛の神も、ぱちと目を開けると、怒りながら上半身を起こした。

「私は人間が古代文明と呼ぶほど古い頃の神だ。ずっと肥沃な土地になるよう守ってきたのに、人々の信仰は新しい神に変わってしまった。みんな私のことを忘れてしまった。人々の祈りが足りなくて、力が出ないのだ。助けてくれ」

 紫苑は尋ねた。

「つまり、それを言うために金と銀をさらったのですか?」

「私はお前が古の神々を救いに言葉を出しに来てくれるのを待っていたのに、お前がすっかり一人の母親になってしまっていたからだ。荒っぽいやり方をしてすまなかった。しかし、お前にしかできないのに、すべきことから逃げたから罰したのだ」

 紫苑は深く礼をした。

「戦いこそ私の使命でしたのに、自分の幸せを選んでしまったことを深くお詫び申し上げます。私の人生をどうぞお使いください」

 紫苑は怒りに任せて双剣を抜かなくてよかったと思いつつ、双子をしっかり抱えて答えた。

「どんなに一人も覚えていなくても、その土地を離れずに守ってくださるので、古の神々を含め、すべての神はお優しいのですね。一度お名がつき存在したら、ずっとその神は世界にとどまっていらっしゃるということなのですね」

 ここで雄牛の神が自分の意見を述べた。

「古代の宗教を復活させるには、神官王か祝女はふりめになる者を穿つべきだと考えているのだ。我々の宗教の祭祀をさせるつもりだ」

 紫苑は答えた。

「信者と寄付が減り、権力と食いぶちが奪われるので、既存の宗教があなた様の異教の神官王や祝女を殺しにかかるでしょう。金と権力の前に既存の宗教の彼らの信仰は消え去ってしまいます。殺人を許すほどに」

「そういうものに私は忘れられたのであった」

 雄牛の神は長いため息をついた。紫苑は答えた。

「現在、新しい宗教を興すことは非常に難しく、ほとんどが既存の宗教の分派で、教義は正統派の焼き直しです。それくらい、新しい宗教は入りこむのが難しいです。そこで私からの提案ですが、『この土地のいろいろなものを防いでいた』という、古の神々が現代に至るまで守ってくれていたということを、しっかり伝えるのはいかがでしょうか」

 雄牛が立派な三日月の角をちょっと動かした。

「ほう……? つまり我々が『いろいろなものを救った』ことを言い伝えるのか?」

 紫苑は答えた。

「はい。『様々な天変地異を抑えていた、しかし人々が慢心し、神を軽んじたため、支える力が減り、人々は滅んだ』という形などでです。

 各民族の神々の力は対等です。しかし、人々が悪しき行いをすれば、滅ぼさざるを得ません。また、悪しき行いをしたとき、敗戦などの罰を受けない民族は滅びる、それを教えざるを得ないのもまた神々の御業みわざです。また、世界の王にしないために命運を尽きさせることもあります。

 このように、神が自らの民を守れない理由は、人間にはすべては理解できません。

 ただ、一つだけ言えます。

 決して勝者の側の神が偉く、強いからではありません。何度でも言います、すべての神は対等で、同等の力です。

 この世界は、勝つことだけでまわってはいないのです。勝ってどうするのかまで、神はご覧になっています。一方、負けて命をつなぐこともあるのです。

 人間は、『改宗する前の自分が負けているときに、勝ちを約束してくれたはずの異教の神』を、果たして恨まずに生きていけるのか。負けているときも励ましてくれる本来の神を、思い出すべきである。自分の住む土地の神は、自分の先祖と同じくらい、人間を守ってくれる。名を知り、感謝すれば、先祖のように守ってくれる。新しく信じている宗教の神を終点に、自分の住む土地の神々の歴史を、自分の先祖を覚えるように覚えよう。そして、今日までこの土地を維持してくれたことに感謝しよう。もしそれができると、『自分は全部があるから今があることを知っている人間だ』ということに気づき、『どの神も忘れてはいけない』ことに気づけるだろう。

 少なくともその土地を守ることに対してとても強い神は存在する。戦争には負けたかもしれない。だが、いつから神は戦争の殺しあいが第一に望まれる存在になったのか。神は、人を生かす存在である。そして、土地を崩壊させないこともまた大変重要な御業である。これだけ人を救おうとしているのに、勝利民族の神だけが尊ばれるのは、神の意志の真逆の御業を褒め称える、瀆神以外の何ものでもない。また、負けた側の軍勢の神について言うと、たとえ殺しあいに負けたとしても、勝利した側は、その土地の神に敬意を表するべきである。信仰すれば、自然の恵みを与えてくださるからである。

 古の神々は、人の住めない海や岩の大地などでさえも守ってきたのだ。それがあるから敵の侵入を防ぎ、戦争が常に起こることがないのだ。勝つことより、守られていることに気づくべきだ。侵略民族でさえも守るその土地の神を。なぜなら神とは『その場所に適した願望が認識された存在』だからだ。その場所に来たとき、侵略民族でさえ、その負けた側の神の力で守れる望みを考えるのだ。侵略民族は、それを自分の神への裏切りだと思うから、負けた側の神のことを消去するのだ。

 しかし、裏切りにはならない。神々は、元は一つだから」

 雄牛の神はベッドから降り、立ち上がった。

「なるほど、真実の歴史、土地の神の系譜を覚えてもらうのか。それなら、現在の神の信者も、信仰を捨てることはないし、知識として覚えてくれよう。興味を持って調べ、心のどこかに尊敬や感謝が生まれてくれれば、立派に私たちの力になる。それで土地の安全を維持できる。よかった。忘れられたら……寂しいからな」

 一同は、塔の外に出た。古の神々が、今の話を聞いて、さっそく人々に働きかけようと考えていた。雄牛の神が紫苑に告げた。

「世界の終末とは、神々がこの世で誰からも信じられなくなる時のことだ。我々古の神々も、忘れるな。必ず知れ、少しでもいい、信じろ。そして気をつけろ、地上には神々の名を消しにかかっている集団がいる。赤ノ宮九字紫苑あかのみやくじ・しおん、子供のためにもまだお前は戦わねばならんぞ」

 紫苑は双子を抱く手に力がこもった。

「お教えくださり、ありがとうございます。もう二度と逃げません」

 青空を見上げながら、紫苑は考えた。

「この世界の神々は、一つの神を人の数だけ解釈して認識されるようになった存在です。だから、それをまとめた各宗教一つずつでは、すべての人は救われないでしょう。不完全な人間である教祖や幹部の作る宗教、そして一から十まで決められた教えや裁定に承服しかねる不完全な人間である信者。だから私は人々を人から与えられた宗教で統一することはできないと考えています。

 一人ひとりがそれぞれ自分に合った神を好きに信じること、一人につき一神いっしんかそれ以上を信じる、『一人ひとり一神いっしん』こそが、人を救う唯一の方法だと考えます。そこで初めて人は疑いなく神を信じ、また神を疑うことから解放されると考えます。

 人間は一人ひとり違うのだから、同じ神を全員が同じように信仰できるわけがありません。一柱の神が不変にいたとして、それを見る人間の視点は一人ひとり異なるのですから。オーの神をエービーシーとだけ見るのが人間であり、オーと完全に理解できる人間はこの世界に一人としていないのですから。だから他人の認識する神が自分と違うからといって、責めてはいけないのです。自分の理解できる神の部分を信じる、それが一人一神の基本理念です。人は他人と違って当たり前なのだから、一つの宗教の内部でさえ一つの思想でひとくくりにすることはできません。それが人間の持つ複雑さの証であるし、多様な人間を生んで新たな多様な世界を形成することを望まれる神のご意志に沿うものと考えます。

 一人一神のとき、異教の神をいくつも同時に信じることも可能です。風の神が好きなので様々な宗教の風の神を信じているとか、遺跡をうまく発掘できるように現地の神を信じるとか、などです。そのとき人々は互いに、他人の神への信仰心に干渉してはいけません、優劣をつけてもいけません。他宗教への不寛容をなくしなさい。一人ひとりに必要な神の能力は違いますし、ありがたみも違うのですから。人は宗教から自由になり、神々を自由に選んで信仰すべきなのです。一人ひとりに心から納得できる神々がいることにこそ、己の矛盾が解消でき、初めて心の平安が訪れるのです」

 そのとき、青空を割って、光球が現れた。

 すべての神々が膝をついて頭を下げた。

 紫苑は己に赦される限り、光球の光を訳した。

「この世界の中心にあらせられるきゅうしん様です。すべての神々はこの球神様から生まれました。人間は、この球神様を見て己の神を訳して認識するようになりました。球神様のすべてを理解することができなかったからです。

 球神様は分裂と融合を繰り返していらっしゃいます。その時代の善と悪すべてが攪拌かくはんされているのです。ある時代では善だったことが、時代を経ると悪になります。その悪とされた魂が球神様から分裂して雫となり地上に降り、新しい思考を手に入れてその時代の善の魂となったとき、球神様に戻って融合します。球神様も、時代と共に新たな変化そして思考を手に入れたいとお考えなのです。硬直した、進化のない世界はお望みではないのです。

 球神様は新たな光、新たな調べを求めて進化を望んでいらっしゃいます。人間の新しい細胞と古い垢のように、その身を作り替えていらっしゃいます。古い思想を捨て、新しい思索を取り入れ、生命にそれを天啓てんけいで与え、世界を進化させていらっしゃいます。ですから人は進化の極みに至って悟りを開けたとしても、神の一部に取り入れられることができたとしても、それは束の間なのです。そのときの自分の思考が時代を経て古くなれば、神の垢になって神から分離され、再びこの世に戻されます。そして、新たな思考を獲得するために、苦しみながら生きなければならないのです。再び球神様の一部になるために。

 しかし、球神様は、おそらく世界の始まりから終わりまでの思考を既に完成させていらっしゃるのでしょう。あとはそれを一度に教えず、少しずつ人々に広めるおつもりなのでしょう。人々が一つ一つ、心から理解し、成長の喜びを得られるように。

 これだけ多くの神々と宗教をお赦しになり、お守りあそばした球神様の慈しみを、我々は知らなければなりません。

 では、これから真の世界最終戦争に入ります」

 紫苑の言葉が聞こえていた全世界の人々は、非常に驚いた。神と戦えとでも言うのか。

 紫苑は告げた。

「全員、どの神を信じるか決めなさい。全世界は、己の信仰を試されます。どの宗教の神を信じているかは、関係ありません。万人に等しく、救われるチャンスが与えられます。あなたの信仰を、神に誓いなさい」

 人々は、己の神に自身の信仰を誓った。神に背く者の心の火は消え、脱落した。

 そのとき、きんべとぎんえが、火がついたように泣きだした。

 金の右手の中央には、陽の極点を表す白い玉がある。銀の左手の中央には、陰の極点を表す黒い玉がある。二人の周囲には悪気が渦巻き、二人を襲おうとしていた。金の白い玉は、悪気をその強力な陽の気で弾き飛ばし、金の周りを清浄な白い空間に保っていた。銀の黒い玉は、悪気を磁石のように吸い寄せてしまい、邪闇綺羅が必死に戦って守っていた。

「おとうさまあ!! おかあさまあ!!」

 恐怖に泣く二人を狙っているのは、救いから脱落した無神の者の怨念であった。

「貴様らああっ!! 魂を塵にしてくれるわああっ!!」

 紫苑が目を血走らせ、怒りのあまり星ごと砕く一撃を神刀桜で振り下ろそうとしたとき、邪闇綺羅が叫んだ。

「やめるのだ!! 子供に当たるっ!!」

 はっ、と紫苑は我に返った。球神から光が放たれ、紫苑を包みこんだ。そして、悪気をも包んだ。すべての攻撃が止まった。

 今言うのだ。世界を救う最後の言葉を。紫苑は答えた。

「無神の者は、いずれ神を信じれば救いの道は開かれる。そして人々よ、世界が完結し、終わるとは、ふるき世界のすべての問題が解き明かされた状態のことをさす。これ以上考えても新しい問題が出ないほど完成された状態のことだ。そのとき世界は消失するであろう。そして世界が消失したあと、また別の疑問を持ったとき、新たな世界は始まるであろう。

 この世の全員が新しい世界への扉をくぐるまで、決して宗教戦争は起こさないように。お互い、同じ球神様を信じているのですから」

 悪気はしぼみ、地上に戻っていった。希望が見つかったからだ。泣きやんだ金と銀を、紫苑と邪闇綺羅が抱きあうようにして抱きしめた。

「金!! 銀!! 恐かったね、どこも痛くない?」

「私たちの宝物……!!」

 一家が安堵していると、球神が輝き、その光で、虹色のグラデーションの空が出現した。その中にたくさんの星がきらめいていた。

 そして、世界の果てである碧落へきらくから、この星のすべての神々のが、光で次々に刻まれていった。

 それは同時に、球神様の御名の一部でもあった。球神様の御名でさえ、誰もすべてを知ることはできない。

 そこで、すべての神々が整列し、紫苑の前に、神々の代表として、『和』の字の形の黒い神が歩み出て来た。

「人間・赤ノ宮九字紫苑あかのみやくじ・しおん。最後に答えよ。地上では、我々はマンガやアニメ、ゲームなどで、魔物にされたり馬鹿にされたり、勝手に冗談などでいじられたりしていて、赦せないのだ。怒っているのだ。神を敬え。倒す対象にするな。神に対する敬意と接し方を、人間よ、おのれで考えて答えよ」

 紫苑は深く息を吸って、答えた。

「人間は、若いときは善の言葉に乏しく、悪い言葉の方が圧倒的に多いのです。ですから、神の前に立っていいと言われたとき、恐くて仕方がないのです。『お前は私の前に立つ資格がないほど悪人だ』と言われることが。神に拒絶されることは、恐怖以外の何物でもありません。神は、その言葉の後に『だから、私が厳しく導いてあげるから安心しなさい』と続けるおつもりなのでしょうけれども、人間はそこまで考えつくことができないのです。『拒まれた!』で止まってしまうのです。ですから、神を自分より一格下に扱うことで、『神を使うのは自分だ、倒すのは自分だ』と安心して、ようやく神の前に出ることができるのです。この不安を抱くのは十代から二十代の若者です。書く・描くほうも、読むほうも若者なので、神に敬意を表した書き方・読み方ができないのです。

 これは、一つ目に学校の義務教育で宗教との正しいつきあい方を学ばせないことと、二つ目に無神論者が創作物の企画側にまぎれこんでいることと、三つ目に異教徒の神々をおとしめようと意図していることと、四つ目に子供の頃は勉強さえできればよく、『自分の力』でテストの点と志望校を勝ち取るという、神の力に頼らない『環境』にあることなどが理由として考えられます。

 もちろん、学校時代が終わって社会人になれば、自分だけの力で成功して生きていくことはできないとわかり、神を敬う気持ちを取り戻すはずです。そして、若い頃散々マンガやゲームに出て来た神々を祀る場所を、拝むようになるのです。

 神様方、人間は、若い頃は、神の光に消されないように、影だらけの自分を守るために神を魔物やギャグにしてしまうのです。しかしそのとき、『かっこいい』とか、『仲間になってほしい』とか、そういった感情も芽生えますし、なによりを知ることができます。それは、大人になって神々に祈りを捧げるとき、もはや未知の神ではなく、既知の神として、親しみの感情が入ることになります。『え、ここにいらしたのですか』とか、『すみませんゲームで倒しました』とか、いろいろ一言はあるでしょうが、大人はもう神が自分の幸福に欠かせない存在だと知っているので、もうそれらのゲームやマンガを心から楽しまなくなります。むしろ、そういう神をおとしめる表現をする作品を、『ああ、この作者幼いな』と残念な気持ちで見るだけです。『神の前に立てない』と思っている子供たちに共感してもらうために、わざとそうしている人たちもいるかもしれませんが。

 人々よ、神とは敬う存在です。人間より格下に置いてはいけません。自分に置き換えて考えてください。自分が魔物になってクラスメートに倒されるゲームは、とても嫌な気分になるでしょう。『回復魔法で一緒に戦って』と言われたら、頼られて嬉しいでしょう。人間は、自分を守ってくださる神を、裏切ってはいけないのです。敬語を学びましょう。これはお祈りのときの礼儀です。

 神様方、このままでは誤ったイメージ・情報・話が世界中に広まってしまうというご懸念はごもっともですが、どうか若者を待っていただきたいのです。いずれ大人になれば、神々の偉大さに気づき、祈りを捧げるようになります。そうしなければ無事に生きていけないからです。そして、神々の真のお姿も学んでいくと思います。神を知ることが祈りの力につながると気づくからです。寺院や神社の名前も由緒正しいですが、それだけでは足りず、きちんと祀られている神々の御名まで知らなければならないといつか気づきます。そこで人々は正しい神々の歴史を知ることになるでしょう。ですから、若者たちを待っていただけないでしょうか。この若い期間は、世界中の神々の御名を知る期間と考えていただけないでしょうか」

 和の神が少し考えた。

「しかし、悪いイメージは困る」

 紫苑は答えた。

「それは子供がアニメやマンガにしか接しないからです。本当に興味のある子は、正しい神話にたどり着き、アニメやマンガの話をしているときに、正しい神話を語ってくれるでしょう。『そのアニメやマンガ、ゲームをより深く理解するため』に。人間を信じて、若者が大人になるまで待ってくださいませんか」

 和の神は告げた。

「では、望み通り猶予をやろう。だが、もし大人になっても我々を魔の手先のように扱うなら、その者にそのように力を落とそう」

 紫苑はつつしんで返答した。

「神はすべてを与えるお方です。その者の信仰の通りに」

 その瞬間、和の神の「和」の字の影が全方位に広がり、神々も人々も包みこんだ。

「天界のすべてが解かれた!!」

 神々をはじめ、問いに答えを出した者たちが新しい世界への扉をくぐっていく。

 神々の喜びの声がいつしか歌になっていた。


『題・新たなる世界へ 作詞作曲・白雪


一、すべてを光へ 救いは天地満ちる

  たたえよ世界よ 時の果てまで

  忘れられる 置いていかれる 誰か知って『ここにいる』

  隠された訴えに振り向く「必ず答える あなたが大切だ」

  すべてが喜ぶなかで泣いてるなら

 「叫んで」“聞こえない”『聞けないふりをする』

  時が解決しなかったことを 答えるときが来た全員


二、命は溢れる 可視不可視も踊らん

  世界は一つも 欠けてはならぬ

  わたしのもの 今さえあれば 貪るのを「見ているぞ」

  誰が剣を持ちたて突けるか『光が消し去る』「変わらせるために」

  この星は光で命をつなぐ『誰なの』“どこなの”『“探して生きてゆこう”』

 『苦しい』“悲しい”護りあうために

  独りじゃない『“ここにいる”』


三、一人さえも知らぬ者のない「知ってる」『あなたを』「『わたしは影じゃない』」

  知っているすべての神のこえ

 「手を取れ」「分かつな」「「皆で生きてゆけ」」

  恩も怒りもすべては愛のため

  手をこちらに 続こう さあ』


「星方陣撃剣録第五部藍碧開闢 光の刻名・通算二十八巻」(完)

――第五部藍の章・完――


 第五部が完結いたしました。お読みいただき、ありがとうございました。引き続き、よろしくお願いいたします。

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