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星方陣撃剣録  作者: 白雪
第二部 常闇の破鈴 第二章(通算二十一章) 神の強制
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神の強制第二章「滞る男」

登場人物

阿修羅(ヴァン=ディスキース)。神の発音で「あじゅら」、人間の発音で「あしゅら」。邪闇綺羅(神の発音で「じゃぎら」、人間の発音で「じゃきら」)の弟。神刀・白夜びゃくやつきを持つ。神に背いた罰を受け、この世界ではヴァン=ディスキースと名乗って旅をする。

セイラ=サザンクロスディガー。栄光の都レウッシラで阿修羅が助けた星羅せいらと同じ姿をしている。歌姫。

ザヒルス。十五才。ザヒルス村の領主で、斧使い。

黒魔。星の持つ、憎しみと絶望の権化。すべての命を喰らい、すべてを葬ろうとしている。

ラウクゼーク。ラウクゼーク教の教祖。教えに従わない地を侵略している。




第二章  滞る男



 ヴァンは自分の鍛冶屋帳をパラパラとめくっていた。

「修業する時間がないから、少しも埋まらないな」

 この時代にどんな武器が望まれているのか、教わりながら知るつもりだったが、この星のことを考えると、のんびりもしていられない。

「武器屋か戦場で確認するしかないな」

 一つもはんこがないのは怪しまれるので、自分で勝手に創ったはんこを一つ、押しておいた。

「神の鍛冶場のはんこだ。親方はオレ」

 何をしているのかと自分で苦笑していると、近くで誰かが隠れる気配を感じた。敵だろうかとヴァンが赤紫色の星晶睛せいしょうせいで探すと、相手は飛び上がって尻もちをついた。

「お前は何だ。オレたちをつけているのか」

 美しい黒の瞳に戻して、ヴァンが近づいた。相手は逃げられないと悟ったのか、立ち上がった。

 百五十センチほどの小柄で、金髪を前髪からきれいに斜めになでつけたショートヘア。服装は、左側にだけ赤いマントが腰まで垂れ下がっていて、短く黄色いジャケットが胸の下でとぎれている。革のウエストポーチをつけ、赤いショートパンツに白い金属靴。むきだしの両太ももに、丸と三角のいれずみがある。二等辺三角形を少し曲げたような形の弓を背負っている。胸に小さい女の線が入っていなかったら、少年と間違えていただろう。

「お前たちこそ、ラウクゼーク教と関係があるのではないのか」

 少女は、警戒して弓を構えた。矢は持っていない。

「ラウクゼーク教とは何だ。この世界に何をしている宗教だ」

 そのとき、ヴァンにザヒルスが声をかけた。

「おーい! 朝ごはんだぞー!」

 セイラもやって来た。

「二人でがんばりましたー! ……あら?」

 朝ごはんと聞いたとたん、少女のお腹がぐごごごとすごい音を立てた。少女は真っ赤になって両手でお腹を押さえた。

「……オレの分をやろう。話はそれからだ」

 ヴァンは、少女を食卓へ招いた。

「私の名はビロ=カールーン。ここアメッサ国の魔弓まきゅうです」

 ビロは、豆と野兎のスープを夢中で食べながら、自己紹介した。

「魔弓士?」

 ヴァンの問いに、ビロは太ももを上げた。

「このいれずみから魔法の矢を出して、魔法攻撃を弓矢として放つのです。普通の魔法を出すより、相手に届く距離が飛躍的に伸びます」

「なるほど。それで、魔弓士とラウクゼーク教がどう関係しているのだ」

 ヴァンに問われて、ビロは、三人をうかがうように見た。

「……ラウクゼーク教は、数年前に世界の表に現れた、ラウクゼークという男が教祖の、新興宗教です。世界が色を取り戻してから、『あれは自分の力だ』と偽る宗教家たちが数多あまた出ましたが、ラウクゼークは信者の獲得数からいくと、その中で一、二を争う勢力の持ち主です。なぜなら、冠婚葬祭に金を払わなくていい、誰にも従わなくていいと、平等を説く教えだからです。ラウクゼークは信者を自分の軍隊にして、教えに従わない周辺の町村を侵略しています。平等な社会には衣食住のための金がいるからです……」

 ビロは紙にペンで図を描いた。中を塗った五芒星を、その五つの頂点を結んだ五角形の中に入れた。

「これがラウクゼーク教のマークです。自然界に人間がつけたペンキの印の中に、ときどきまぎれています」

 ヴァンたちも見た印であった。

「ラウクゼーク教という宗教のものだったか。貧乏人には富を、被差別民には差別を教えるとはな。お前の様子からすると、そのラウクゼーク軍の動向をこの国に報告に来たのだな」

 ヴァンに言われて、ビロは赤くなってお腹を押さえた。

「い、急いでいたのに、お、お前があんな目で見るからだ。驚いたんだから――。それに、食料が底をついて、王都までもたなかったのだ。お腹がすくと魔法の矢の出が悪くなって、ろくに戦えないから――」

 が出た口調になって、ヴァンをちらちら見る。セイラは、ビロがヴァンの美しさに目が抵抗できないのを見て、むっとした。

「(ヴァンをたくさん見ていいのは、私だけなんだからっ!)」

 隣でザヒルスが、ん? という顔でセイラとその視線の先のビロを見比べている。

 ヴァンはビロの、地図も入らないような小さなウエストポーチの軽装を見回した。

「しかし、お前は斥候せっこうではあるまい。あまりに用意がない」

 ビロは革のウエストポーチから丸い石を取り出した。真珠ほどの大きさで、白くほのかに光っていた。

「これはよるしろてんといって、夜でも光る石だ。一回分の、炎の魔法の力がある。いざというときの切札にしようと、私は国境のマイヂ山のサルウ湖に潜って採っていたのだ。獣が騒ぎだし、ラウクゼーク軍が、印をつけた旗と共に行軍しているのを見てしまった。そこで、町に寄って帰りの食料を買いこむ余裕もないまま、ここまで戻って来たのだ。奴らは用意周到だ。町を一つも落とさず、気づかれないようにして国内を進んでいる。王都を突然包囲して、王を倒すためだろう」

 ヴァンはしばし考えた。

「ラウクゼーク軍は物資・人員共に弱体で、一回しかまともに戦闘できないということだ。できて日の浅い宗教で、軍はどういう規律で動いているのだろうか。傷病兵の手当てをする体制は整っているのだろうか、宗教は必ずそこで矛盾するのだが。手当てすれば救える兵を見殺しにして進軍・退却したというのは、教祖の力が疑われる第一歩だからだ。どの宗教もこの問題から逃れられない。ラウクゼークも、どうごまかしているのか。一応見ておかなければ」

 ヴァンは、ビロに同行させてほしいと言い出した。ビロは、赤くなってちらちらヴァンを見ながら、

「足手まといにならないでねっ!」

 と、承諾した。


 ヴァンの風魔法で、アメッサ国の王都、エルルに着いた。

「は……速くてありがとう……」

 ビロは酔いかけながら、地面に両膝をついた。

「さ、さっそく国王陛下にお知らせしなくては!」

 しかし、王都の入口に立っているはずの門番の兵士の姿がなかった。王都の中も、静かな気配である。

 王都がラウクゼーク教の軍に何かされたのでは、と不安に駆られたビロが王都を走った。王都の、丸い噴水のある中央広場へ出た。

 全市民が集まって、壇のある中央を見ていた。国王・アメッサ五世が、その一段高い壇の上で、立派な革張りの椅子に座っている。若いのに髪を白く脱色させている。

「陛下っ!!」

 駆け寄ろうとしたビロを、全体を見張っている兵士たちが止めた。

「大事な裁判の途中だ、邪魔は許さない!」

「しかし、至急のご報告が……!!」

 兵士たちはビロを縛り上げた。

「この裁判以上の至急な案件はない! オレたち全員に関わるんだ、お前もしっかり見届けろ!」

 ヴァンたちが近づいた。

「ビロ。なぜ黙っている。ここから叫べ」

 しかし、ビロは壇上の人物を見て迷っていた。茶色い髪を油で整えてなでつけた、皺の目立ち始めた四十代の細身の男が、茶色いローブ姿で手に縄をかけられていた。それを見ている市民は、その目つきも、ささやきあう声も、怒気を帯びていた。ビロはヴァンたちに顔を向けた。

「あの捕まっている男性は、タンケリ=レベンという名で、この王都一の金持ちだ。小さな商いをしていたころからずっと、王都一になった今も、いつもへりくだって商売をするから、皆の好感を得て、ずっと仕事は順調だったのだが、順調すぎて……」

 壇上の、高くて白い三角帽をかぶった裁判官が、発言した。

「タンケリ=レベンは商売で成功して巨額の富を得ておきながら、けちで他人を援助せず、贅沢ぜいたくもしないため、金蔵かねぐらきんがたまる一方となり、ついに王都中の富のほとんどが、タンケリ=レベンのもとに集まることになった。王都中の民はきんがなくなり、貧しくなった。証人エイク=メス!」

「エイク=メスは商業組合の会長だ。商売や王都の民のいざこざを法的根拠なしにおさめる、長老的役割の方だ」

 ビロがヴァンたちに解説する。エイク=メスはふさふさの白髪をきちんと丸い帽子に入れて、老人らしい皺の入った、引きしまった顔を見せながら壇にのぼった。国王と裁判官に向かって一礼すると、民衆も含めた全員に向けて話しだした。

「タンケリ=レベンの商売があくどいわけではなく、またその人柄が我々を困らせてやろうという悪意がないものと、私は信じたい。しかし、タンケリ=レベンには、思いやりの心がない。様々な商人が私のもとに相談に来た。タンケリ=レベンに、『お願いだから何か買ってくれ』とか、『きんをくれとは言わないから、何かにきんを使ってくれ』とか頼んだが、タンケリ=レベンは、『質素な食事は神に喜ばれるし、きれいに整頓された部屋は運が通り抜けて良いから』と――正しいことを言うので、皆は流通するきんがだんだん減っていくのに苦しむばかりであった。

 あまりに成功した者は、自分を富ませた社会に感謝し、いくらか返さなくてはならない。寄付が嫌なら、赤字が目に見えていて誰も手をつけない、しかし世界には必要な分野に率先して参入し、事業をおこし、雇用を生むなど、社会に貢献しなければならない。商売とは、売り手と買い手の信頼である。社会を良くすることは、買い手への恩返しであり、これから先も、自分の商売の買い手を守ることである。それは、自分を守ることである。

 タンケリ=レベンにはそのことをよく知ってもらいたい。今回王都の民の、王への直訴によりこのような裁判となったが、私としては、ぜひタンケリ=レベンに私の言葉を受け入れ、社会のことを考えてほしいと願う」

 エイク=メスは一礼して壇の脇へ下がった。裁判官はタンケリ=レベンに尋ねた。

「証人の言った、人々の嘆願を断った話は本当か」

 タンケリ=レベンは、ぎこちなく動いていた。どうすれば自分の身を守れるかと考えて、パニックに陥っていたのである。タンケリ=レベンは常にへりくだる姿勢で好感を持たれて商売が成功した。だが、タンケリ=レベンがへりくだったのは、別に買ってくれるお客に感謝したからではなくて、金を持ちすぎていても、自分から人の下に行けば、神に罰せられまいと算段したからであった。そしてタンケリ=レベンが何も買わないのは、けちだからというより、人々の売り物が陳腐すぎて、買う価値がないと思っていたからであった。

 しかし、それを正直に言えば、興奮した民衆に死刑を求刑される恐れがある。なんとかうまく言い逃れをしなければ――。

 ヴァンが呟いた。

「独り勝ちは自分以外の全員を敵に回す、そして独り負けとなる。こいつがこの場を切り抜ける方法はあるが――」

 タンケリ=レベンは、きんを吐き出す覚悟を決めた。そして、エイク=メスの指導を受けて、新しく出直しますと、言おうとしたとき――。

「罪を隠そうとした。こやつは有罪じゃ」

 国王・アメッサ五世が鼻にかかったような声を出した。

 一同は騒然とした。裁判官の判定を待たず、国王が有罪と決めてしまったからだ。国王の声は絶対である。この先どんなに無罪の証拠が出ても、有罪が覆ることはない。

「……!! ……!!」

 裁判官は声にならず、二回息を止めて、それからようやくアメッサ五世にひざまずいた。

「ではこれから、刑罰を決めます」

「家財没収じゃ。半分を、国を騒がせた罪で国王のわしに払い、半分を民衆に払え。民衆は平等に分けよ」

 いつの間にか、タンケリ=レベンの金蔵かねぐらきんが、すべて広場に積まれていた。

 それを見たエイク=メスは、この裁判は、初めから結末が決まっていたことを知った。

 国王としては、タンケリ=レベンに特別に税を重くしたら、残りの金ごと国外に逃げられて困ると思い、今まで手が出せなかったのだろう。だが、民衆の同意があれば、堂々ときんをすべて没収する口実ができる。これまで外貨の獲得など、民衆の救済措置を取らなかったのは、民衆を動かしてタンケリからきんを取り上げるためだったのだ。現物のきんには、それほどの魅力があるのだ……。

「(何を言っても無駄だったか……。金を適度に使わないとこうなる。高い授業料だったなタンケリ)」

 国王以下全員がきんの分け前をもらい、大喜びで帰っていった。後には手に縄をかけられたままのタンケリ=レベンと、立っているエイク=メス、ヴァンたちと、縄を切ってもらったビロが残った。エイクがタンケリの縄を切った。

「命があるだけましだ。死刑になっていてもおかしくなかった」

 タンケリは呆然としていた。民衆が、自分の大切な金を、楽しげに略奪していった一部始終を見せられたのだから、無理もない。エイクは首を振った。この男は、もうこの国にはいられまい。

「お前さんは商人として優秀だから、よその国でも十分やっていける。この国で長く働いてくれたお前さんに、私からの手間賃だ。ここに五十万キーンある。これを元手に、一からやり直しなさい。次は、どうすればいいかわかるな。今日は、みんな悪い。この意味が、わかるね」

 社会に金を使わなかった自分に、復讐する資格はないのだ。タンケリは、心が少し軽くなった、そして、力なくくにゃりと腰を曲げて、できる限り深くお辞儀をすると、王都を去っていった。

 ビロは、全民衆の関心の的であった裁判が終わったので、エイクにラウクゼーク軍のことを報告した。エイクは顔を曇らせた。

「今日は全員、はめを外すだろう。今から国王陛下に進言しても、兵である民が動くまい。指令が行き渡るのは早くても明日だろう。とにかく、城へ急ごう」

 王都中の人間が、大いに酒を飲み、牛や豚をつぶして好きなだけ食べて、陽気に笑っている。祝祭とまったく変わらない。この状態の民衆を動かせるのは、王か宗教指導者だけであろう。

 大理石でできた同じ大きさの四つの円塔を、中央にまとまるように寄せた、上から見ると正方形の中におさまる城が見えてきた。城の中庭の芝生の上では、衛兵や召使いたちが座りこみ、思い思いに酒を飲んでいる。ヴァンたちを見て立ち上がりかけたが、エイク=メスを見て座り直した。会釈して、また酒をぐ。

 城中の廊下に入ると、両側に甲冑かっちゅうがズラリと並んでいた。他には、芸術品らしい芸術品はない。金がなくなって芸術品を売り、城内が寂しくなったので武器庫から甲冑を引っ張り出して、並べたのだろうか。

 国王の食事の間で、国王と貴族たちが美食の限りを尽くしていた。最高級のワイン、羊のステーキ、一人につき一羽の鶏の丸焼き。干し果物入りのパンも次々に焼かれている。

「金は使ってこそ、人生に潤いを与えるというものだ」

 王がワインを一口飲んだ。貴族が応じた。

「そうですとも、ためこんでいては宝の持ち腐れです。持ち主と周囲の者を幸せにしてこそ、金も使命を果たせるというものです」

 全員、そうだそうだと同調する。王はワイングラスを軽く回した。

「タンケリ=レベンは金の使い方がなっとらん。貧乏人あがりは節約することしか知らない。金持ちになったら、それなりに出費を増やさなければならないことを、知らなかったらしい。これも貧乏人あがりの限界だな」

 全員で笑った。ヴァンは無表情にそれを眺めていた。

「(民衆には質素を命じ、特権階級は好きに贅沢か。自分の特権を押しつけ、従わなければつぶす。ただ自分たちだけが楽しく暮らし、繁栄し続けるために――いや。この者たちの特権の源は戦争でおもてに立つことか――)」

 そのとき、国王・アメッサ五世は、ヴァンたちに気づいた。

「なぜ民が城中にいる。出て行け!」

 しかし、エイク=メスがビロを伴って前に出た。そして、ラウクゼーク教の軍隊が国内に入りこんでいることを、ビロにしゃべらせた。

 さすがに国王と貴族たちは真っ青になった。今日は、酒の飲みすぎでまともに動ける者が極端に少ないと、わかっていたからである。アメッサ五世は貴族たちに命じた。

「お前たち、この食事はあとだ。民に、金は無駄遣いせず、すぐに残りを軍資金として国に納めよと命令して回れ。また、各自食事が終わったら、城へ集まれとも。防衛戦争の準備を行う」

 貴族たちが席を立った。一時間後、貴族と、民衆に触れ回るのと同時に徴収した金が戻ってきた。民衆から戻ってきた金は、与えた分の十分の一にまで減っていた。アメッサ五世は激怒した。

「あれだけタンケリの富を分けてやったではないか! 一度の食事で十分の九も使えるわけがなかろう! なぜ出し渋る! 戦争費用だぞ!!」

 貴族は言いにくそうに話した。

「民衆は、自分が戦死したときや、戦争で働けない間のことを考えて、余分にお金を取り分けて貯めこんでいるようです」

 それを聞いて、アメッサ五世はしまったと思った。国家が兵士の死後、家族の面倒をすべて見ると約束できないのであれば、タンケリ=レベン一人に金を任せていれば、そんな無駄金はもっと少なくて済んだのにと、後悔した。しかし、すべては後の祭りだった。いくら強引に徴収しようとしても、民衆は山に畑に金を隠してしまった。


 三日後、アメッサ五世の軍とラウクゼーク軍は激突した。

 ラウクゼーク軍は高い精神力を誇示するつもりなのか、精神力で放つ魔法攻撃部隊が主力だった。他に、剣と槍の部隊が少しいる。魔法があるからか、弓兵はいない。

 ラウクゼークは、軍の最後尾の部隊に囲まれた、馬車の上にある三角形の白いテントの中にいるようで、姿を見ることはできなかった。ラウクゼーク軍の規律の合い言葉は、

「ラウクゼーク様を守れ、神敵をラウクゼーク様のいらっしゃる後方へ行かせるな!!」

 と、いうもので、絶対に退却せず戦い続ける、ラウクゼークの剣であり盾であった。将軍は存在せず、ラウクゼークの指示をすべて、伝令が各部隊に伝えて、戦争が行われていた。

 手当てすれば救える兵を踏みつけて戦闘が行われていることについては、

「ラウクゼーク軍として死んだ徳ですべての罪が赦される。自分が戦死することも仲間を殺すことも、それぞれ救いがあるから悩むな」

 と、言っていた。

 ヴァンは戦争を傍観していた。守るべき者が見当たらなかったからである。

 各都市から王都に援軍が来ていた。しかし、死を恐れないラウクゼーク軍は、集中攻撃でアメッサ五世を仕留めた。

 国の最高祭司である王を失うと、各都市の軍は総崩れとなり、ラウクゼーク軍に敗北した。

 ラウクゼーク軍は、アメッサ国を手に入れた。これから先、この国の最高祭司はラウクゼークとなる。

 ヴァンは、ビロ=カールーンとエイク=メスを、風で意図的に死から守っていた。ヴァンが去ったあとも、守るに値する行動を取り続ける限り、この風魔法が二人から失せることはない。

 ヴァンは、マイヂ山のサルウ湖でよるしろてんを採ると、鍛冶を行い、光がエネルギーの源になる、ひかりけんを創った。そして夜白点の光の揺らぎが水中に響いているのを聞くと、ラウクゼーク教の本拠地へ向かう道をとった。


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