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星方陣撃剣録  作者: 白雪
第一部 紅い玲瓏 第十九章 王の誓い
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王の誓い第六章「魂(たま)極(きは)る」

登場人物

双剣士であり陰陽師でもある、杖の神器・光輪こうりんしずくを持つ、「土気」を司る麒麟きりん神に認められし者・赤ノ宮の名字を改めた九字紫苑くじ・しおん、神によって呼ばれた正式な名前は赤ノ宮九字紫苑あかのみやくじ・しおん。強大な力を秘める瞳、星晶睛せいしょうせいの持ち主で、「水気」を司る玄武げんぶ神に認められし者、紫苑と結婚している露雩ろう。真の名は神・邪闇綺羅。神の発音で「じゃぎら」、人間の発音で「じゃきら」。

紫苑の炎の式神で、霄瀾の父親になった、「火気」を司る朱雀すざく神に認められし者・精霊王・出雲いずも。神器の竪琴・水鏡すいきょうの調べを持つ、出雲の子供にしてもらった、竪琴弾きの子供・霄瀾しょうらん――星方陣の失敗により死亡する。帝の一人娘で、神器の鏡・海月かいげつと、神器の聖弓・六薙ろくなぎまたの名を弦楽器の神器・聖紋弦せいもんげんの使い手・空竜くりゅう姫――星方陣の失敗により死亡する。聖水「閼伽あか」を出せる、「魔族王」であり格闘家の青年で、はちまきの神器・淵泉えんせんうつわの持ち主の、「金気」を司る白虎びゃっこ神に認められし者・閼嵐あらん。輪の神器・楽宝円がくほうえんを持ち、「木気」を司る青龍せいりゅう神に認められた、忍の者・霧府麻沚芭きりふ・ましば。人形師の下与芯かよしんによって人喪志国ひともしこくの開奈姫に似せて作られた、槍使いの人形機械・氷雨ひさめ

魔神・阿修羅。神の発音で「あじゅら」、人間の発音で「あしゅら」。邪闇綺羅の弟。刀の神器・白夜びゃくやつきを持つ。

 邪闇綺羅の世界を失敗させ、次の新しい種族で次の神の王の座につこうとしている、りん




第六章  たまきは



 紅晶闘騎は、紅い光を放ち、救われた世界を祝福した。美しい金属を光で叩いて出たような音、玲瓏れいろうあいって、紅い玲瓏が世界を満たした。この光と音の届かぬ場所はなく、世界はすべての可能性という、希望の種を得た。

 その種は、いつの間にかこの複製の世界に花鳥風月の美しい生命をもたらし、調和を始めていた。

 紅晶闘騎が宣言した。

「元の世界とこの複製の世界は完全にけられた。しかしこちらの世界に私と阿修羅、四神五柱、運命の戦士たちの魂があるので、これより先はこの世界が、基準であるげん世界せかいとなる」

 そのとき、紫苑の両肩に、空竜と霄瀾の手が置かれた。二人は出雲の後ろ姿を見せるように、体を動かした。そして、別れを告げるように口を動かすと、空に消えていった。

「ありがとう……!!」

 それを見送った紫苑は、その穏やかな空をめぐり見てから、璘を倒した出雲が刀を握ったままむこう向きに立っているのに近寄った。

「出雲!! やったわね!!」

 声が弾む。閼嵐、麻沚芭、氷雨もよろよろになりながら立ち上がり、美しいはな野原のはらや蝶たちを見て笑いあった。

 しかし、阿修羅だけは、じっと出雲の背を見ていた。

 紫苑が出雲の前にたどり着いた。

「ありがとう出雲!! あなたのおかげで、私たち、勝てたのね!!」

 しかし出雲は何も答えなかった。ただうつろにまぶたを開けて紫苑を見ている瞳が、どす黒く微動だにしない。

「出雲……?」

 紫苑は不審に思い、出雲の肩を揺すった。

 出雲は、音もなく膝から崩れ落ち、地面に倒れこんだ。

 紫苑は出雲の肩があった場所に手をとどめたまま、目を大きく開いて動けなかった。

「あ……そうか……」

 紫苑の瞳から透明な真珠の液体がこぼれた。

「分けてあげたんだね……あなたの命」

 花びらが舞った。鳥がさえずった。蝶がたわむれた。

 この世のあらゆる美しさが出雲を取り巻くけれど、彼はもう目醒めない――。

「じゃあ、しょうがないね」

 紫苑は笑って足元の彼を見た。弾みで目から真珠が二、三粒続けて落ちた。

「さよなら……!!」

 大声で叫ぶのをこらえながら膝を折り、出雲の上半身を起こして斜めに顔を寄せて抱きしめた。

 式神はすべての存在を失うとき、精霊として光になるのがさだめだ。出雲は紫苑に抱きしめられながら、暖かな日差しの一部となって消えていった。

 紅葉橋の紅葉が世界を彩るあやにしきとしてきらめき続ける。

 出雲をいたむ間を過ぎて、ここで閼嵐が麻沚芭と対峙した。

「これで終わりではない。魔族軍と人族軍が両世界で対峙している以上、オレは人族と決着をつけなければならない。魔族王・閼伽あか閼嵐あらんは問う、人族王・霧府きりふ麻沚芭ましば、人族は我々魔族とどのような関係を結びたいのか、返答してほしい」

 遂に人族の搾取と虐殺に対抗するために進化した魔族の魔族王と、武力で滅ぼそうとしてきた人族の人族王は、対面した。麻沚芭は、人間の善悪すべてが詰まった青い水晶球、あお玻璃はりをすべて見終えている。

 人族王の一言で、世界が決まる。

 人族王は深く息を吐いて、魔族王に答えるために大きく息を吸った。

「魔族を本当に救うには、人間が拝金主義を排除しなければならない。あなた方への虐殺も、ひとえに金になるからなのだ。一銭でも多く金銭を得るために、森を焼き、単一のものを飼育し、絶滅するまでる。人間は満足するということを忘れてしまった。みんなが同じだけ金持ちになることが幸せだと勘違いしてしまった。

 本当に幸福な社会とは、全員が金持ちの社会ではない。人が他人や他種族のために自制し、皆で支えあう社会こそ、幸福な社会だ。金とは、欲だ。金持ちの社会は、欲の塊の社会なのだ。だから獲得するのに際限がなくなる。だが、自制する社会は欲から離れ、足るを知る社会となる。それこそ人族の求めるべき社会である」

 ここで人族王麻沚芭は紅晶闘騎に顔を向けた。

「もしお赦しいただけるなら、人族王の、王の力で人々に伝えたいです。拝金主義を捨て、足るを知る者に戻れ、そのとき、人と魔族はもはや戦いあうことはないと」

 紅晶闘騎は、魔族王に再び向き直った人族王の願いを受け、二つの世界の音をつなげた。人族王は人々に演説した。

「『足るを知る』世界にするために。金銭欲に関して、大きく分けて三種類の人間を挙げる。

 一つ目は、満足を知らず、欲望のままに突き進む人間だ。いずれ神になりたいと願うようになるか、膨大な欲の熱量と情報を処理しきれなくなって、自己崩壊を起こすだろう。

 二つ目は、他人にはない、自分だけにある価値を知っている、自尊心のある人間だ。金がなくても誇りを失うことなく、あるがままに生きていける。

 三つ目は、自分は一般人で、他人よりずば抜けて優れたものがないと思う自己評価をしている人間だ。簡単に手に入る『成果』である金銭に、執着する。

 どの種類の者になりたいか。結局のところ、この世は金を稼げるだけ稼ぐのが正しいのだろうか。それぞれに養うべき家族がいる。働くことは否定しない。

 しかし、貨幣経済が発達しすぎた結果、それはいつの間にか『好きなものを手に入れるのでもなんでも、すべて金で解決する社会』にしてしまったのではないだろうか。

 それは、『金を得るために搾取したい欲』を自制する足るを知る社会には程遠い。

 この問題を解決する方法としては、お金を出さなくても、ちょっと自分が勉強し、ちょっと自分が工夫すれば、同等のものは得られることに気づくことだ。他人の作ったものに、お金を払わなくてすむ。結局、人は『他人のかけた時間・発見した工夫』にお金を払っているのだ。お金に支配されない人とは、『今ある自分の知識で代わりのものを作れたり、代わりのことをできる人』のことである。自分で責任を取ってしたことだから、後悔しないし、満足する。失敗した自分でさえも、受け入れる覚悟ができるのだ。

 他人に勝ちたいという欲も際限がない。これも足るを知る社会には程遠い。

 これを解決する方法としては、星を害して得た『金持ちの資産』にしろ何にしろ、人生で他人に勝ち続けられる人間はいないことを、勇気をもって受け入れることだ。たとえ負けても、自分のための何かを学べれば、それは自分の中の勝ちなのだ。満足とは、そういうものだ。他人は関係ない。もし他人に勝ち続けたいなどと思ったら、もう搾取の欲から逃れられない。

『負ければ店がつぶれて収入がなくなる』から、搾取は止まらないので、全員を一斉に足るを知る世界に導かなければならない。だから、語らせてほしい。

 家族を養うために働くのは正しいことだ。だが、負けないために過剰に作り、それを無理に売りさばいて金を余るほど持ったら酒池肉林を思い描き、再びその欲のために星を害し搾取で稼ぐという循環に陥る前に、思い出してほしい」

 麻沚芭は目を閉じ、四神五柱を思い浮かべた。神から、何を学ばせていただいた? 麻沚芭は目を開いた。

「そう考えるその思考は、一、誰のおかげでたどり着き、末路までわかるのか。老いていく時代のすべての人々と魔族の歴史を大切にし、学べ。二、毎日外に出て誰かと関わりながら過ごせて、三、事故にも遭わず無事家族のもとに戻って来られるのは誰のおかげか。四、今、痛いところもなく、当たり前のようにしたいことができるのは誰のおかげなのか。五、神は、一秒後にすべてを奪えるお方である。つまり、『お金で買えないものをたくさん持っている者が、一番幸福なのである』。

 すべての夢や希望、そして欲望は、皆これがなければ達成困難である。足るを知る世界は、全世界の人間が、この『お金で買えないものを持っている幸せに気づいたとき、始まる』。

 どんな苦しみのうちにあっても、今持っているものに気づき、それを使って全力で生きることを誓える瞬間だからである。

 人族は、幸福の定義を、これからお金で買えないものに転換せよ。星の搾取を自制する、足るを知る社会がその宝の元手になるであろう」

 人族王霧府麻沚芭の、魔族だけでなく星をも守る決意を持った演説を聴き終えて、魔族王閼伽閼嵐は、星の中ですべての種族がその宝と共に生きる場面を、一瞬見た。虐げられてきた魔族王として、人族王に返答した。

「そうしなければ、今度こそ共倒れになっても魔族は人族を滅ぼす」

 人族王霧府麻沚芭と魔族王閼伽閼嵐は見つめあって同時に言った。

「「人族王と魔族王は今ここに宣言する」」

 二人の声が響き渡る。

「「互いの虐殺をやめ、欲の縮小を奉拝ほうはいせよ。富の追求では物体しか進化せぬ、他人への慈しみの追求はやがて精神を進化させる! この世の誰も未だ知らない世界となる! 人族と魔族、ついに互いの憎悪を滅するときが来たのだ! ものども、我らに続け!!」」

 紅晶闘騎の力で、二人の王の言葉は、全生命に伝わった。世界を守って戦った二人に、反論する者はなかった。

 麻沚芭と閼嵐は抱きあった。

「オレたちで、やろう! 新たな世界のために!」

「ああ! すべての命を救うために!」

 麻沚芭はまず魔族と動植物を大切にする世界にするために、人族を導く自分なりの答えを一つ、考えていた。

「少し物が不足する社会」。そうすることで、物は消費される前に廃棄されることが減り、皆が限りある資源・命・物を、大切に扱うようになるだろう。

 もちろん、これ以上の答えがあったら、それをすればいい。

 大事なのは、間違ってもつたなくてもいいから、自分の答えを出すことだ。完全な正解など、この世にはない。それがこの世界の真実だ。あお玻璃はりの中の人間のすべての歴史が、それを教えてくれた。

 人の世が続いていけるのなら、各時代での全員で考えて、議論して、最適な思考で行動すればいい。

 王の思考の答えすら、いずれ古びていくのだ。

 麻沚芭は、霧府の里に伝わる人族の勇者の伝説を思い出していた。人族を他種族から守ったあと、人の世が秩序を得ると共に消えた人族王、勇者の伝説である。

「なぜ人族の勇者が人々の前から去ったか、今やっとわかった」

 閼嵐が続きを待った。

「完全に調和のとれた世界に、王などいらない。支配には、軋轢あつれきが生まれる。そして、王もすべてを救うことができない。人間は、不完全だからだ。王は不協和音の原因にしかならない。勇者は人々を守るために去ったんだ」

 閼嵐は麻沚芭を見つめた。

「だが人は己を守るために、王から始まる階層と職業を作ってしまう。人は支配されたがるのではなく、自分を守りたがる生物なのだ」

 麻沚芭の決意の瞳が、閼嵐を真正面から見つめ返した。

「閼嵐。オレたちで守ったこの世界を、もう少しだけ待ってくれないか。たぶん、永くかかるだろう。でも、オレは、オレと同じ人間を信じたい。自分で出した問題を解決しないままに、人族を天の罪人として死なせるなんて、オレはそれを見て見ぬふりはできない」

 閼嵐の瞳は厳しさの中に和らぎが広がっていた。

「わかった。お前を信じよう。すべての人間がもしこの信頼を裏切っても、オレは人族として答えを出した麻沚芭を信じたことを、後悔しない」

「ありがとう閼嵐」

 二人は固く握手をし、揺るぎない岩のような空気を共に吸った。

 和の始まる世界の前途を祝して、紅葉橋の紅葉の降る中、紫苑が、表が水気のくろおうぎ、裏が金気のしろおうぎの自分の扇を使って舞い始めた。これまで見てきた善と悪を乗り越えるように、互いにひらめきあう。

 そして、紅晶闘騎から戻った、神・邪闇綺羅じゃきらに奉納する。

 自分の、清めるだけ清めた心で、神刀桜・神刀紅葉の双剣剣舞も神前で舞い、神の舞姫は世界と神をつなぐ。

 最後に星方陣の五芒星を双剣で二つ描き、すべての種族の調和を記念して、舞を終えた。

「邪闇綺羅さ――」

 褒めてくださるだろうかと笑顔で駆け寄った紫苑の頬に、邪闇綺羅は右手をそっと添えた。

 その瞳が、悲しげに紫苑を見つめていた。

 紫苑は緊張して声が出なかった。ただ、聴いていた。

「紫苑。私は力を使いすぎた。元の世界は神なき世界になってしまったから、いずれこの二つの世界を再び一つに戻さなければならない。その力を蓄えるために、私は天の園でしばらく眠りにつかなければならない。その間誰一人神を傷つけられないように、天の園は闇と氷に閉ざされるから、紫苑、お前を連れては行けない。お前が生きているうちには、もう戻ってこられない」

 麻沚芭たちが叫んだ。

「それって!!」

「いいの」

 紫苑は、静かに、ゆっくりと制した。

「邪闇綺羅様も、私と同じように、この美しい世界を真っ先に守るお方でよかった」

 紫苑は知っている。もし紫苑が邪闇綺羅と同じ立場だったとしたら、彼女も同じ選択をしたということを。自分を絶望から引き戻したこの美しい世界があったから、紫苑は人間たちを諦めずに済んだのだ。この世界には恩がある。この美しい世界がなければ、紫苑は躊躇ちゅうちょなくめっしていた。その世界を救うのに――

「犠牲が私一人で済むならば、これほど嬉しいことはありません」

 紫苑の顔は誰よりも先を向いていて、誰にも見えなかった。

「でも……もしあなたが目醒めたときは、また私のそばにいてね」

 その紫苑を邪闇綺羅は黙って後ろから抱き締めた。その腕に温かな雨が四滴落ちた。紫のそのにあらゆる雨が落ちたけれども、苑を育てられたのは結局己の露であった。

「神様に赦せと言われたら、赦すしかないです。でも、」

 紫苑は振り返って、涙を含んで笑ってみせた。

「あなたも、私についてきてはくれないのですね」

 紫苑の涙が太陽のような輝きを放った。それを見た邪闇綺羅は星の輝きのような涙を流した。兄の涙を見て、阿修羅も月の輝きのような涙を流した。天地てんち開闢かいびゃく以来、三つもの輝きが一堂に会したことはなかった。

 邪闇綺羅は阿修羅に告げた。

「お前は神に背いた罰を受ける。償うまで天の園には帰れないものと思え」

 阿修羅は従い、光になって消えていった。

 全員で別れの紅葉もみじざけを一杯飲み干した。

 自分の紅葉酒を注いでくれた神の舞姫紫苑に、邪闇綺羅は語りかけた。

「紫苑。お前の母・九字璃千瑠くじ・りちるの予言は未だ成就しておらぬ」

 紫苑は驚いて、邪闇綺羅の星晶睛せいしょうせいの瞳の奥を、顔を近づけてのぞきこんだ。

「私は運命の扉を開けて、世界の初めに立っている。だが、お前が立つはずの世界の終わりは、まだ来ていない」

「私は、まだ白き炎の守護姫として、何かをしなければならないということですか?」

 紫苑は困惑したように、神の言葉を待った。

「元の世界へ行って、神なき世界を守ってくれないか」

 邪闇綺羅は言葉を降ろした。私の舞姫、舞えと!

「わかりました。戦いの先に、きっといつも答えがあります」

「ありがとう。お前に私の気を分ける。人間の時間を一定の期間止める、特別な神気を――」

 邪闇綺羅は、紫苑に口づけをした。そして、己の神気を送りこんだ。全身がしびれるほど強い力だった。

 しびれがおさまって紫苑が目を開けたとき、邪闇綺羅の姿はもう消えていた。

「去ってしまわれた……」

 悲しいからなのか、しびれて心が震えたからなのかわからないのに、涙が一筋流れた。

「たった一人で、世界中を旅する……私しかいない、私しかいない」

 紫苑はたった一人になることを考えたとき、深く自分と向き合った。すべてを終え、昔の自分を心から抱きしめてあげたくなるときが、遂に来た。

「あんなに自分のために生きた日々はない」

 帰れる場所があって、仲間がいて、自分のしたいことを追求できた日々。答えが出たけれども、答えがなくても、私は自分を責めたりしない。ただ、よくがんばったねと、悲しくも美しく生きたあの日々の私を抱きしめてあげたい。私を理解してあげられるのは、私だけなのだから。私にしかその権利はないのだから。あの方以外は。

 もう、あの方はいないけれど、あの方の代わりに、私が私を抱きしめよう。ふふ、答えが見つかるまでそばにいてくれたけど、答えが見つかったらいなくなってしまうなんて。でも私はこうなったことを悔やまない。ありがとう神様、私はもう答えに迷わない。私に力があろうとなかろうと、戦い続ける勇気が運命を変えてくれることを、あなたが教えてくれたから……!!

 紫苑の体から光が放たれだした。この世界から消え、元の世界に移るのだ。

「元の世界で『死んで』こちらに来て、こちらでも『死んで』元の世界に戻る、か。みんな、私のこと忘れないでよ、元の世界に行ったとたんに」

 麻沚芭が本気で怒った。

「大好きなかっこいい紫苑のこと、忘れるもんか! ……早く終わったらさ、こっちに戻って人族と魔族がどうなったか、見てみてよ。案内するから!」

「ありがとう麻沚芭」

 麻沚芭と紫苑は握手した。

 閼嵐がそれをうらやましそうに見て手を握ったり開いたりしながら声を出した。

「オレと紫苑は陰の極点と陽の極点なんだから、ずっとつながってるぞ! 紫苑は一人じゃない、紫苑こそオレたちを思い出せ!」

「ありがとう閼嵐」

 閼嵐の手を紫苑が握り、二人は握手した。

 氷雨が紫苑の手を取った。

「お前には私たちがついている。いつでも呼べ。特に神器の私なら、行けるかもしれない」

「ふふふ、そうね、氷雨、ありがとう」

 紫苑は笑顔で氷雨と握手した。

 四神五柱を代表して、麒麟が歩み寄ってきた。

『赤ノ宮九字紫苑、よくここまでがんばったな。汝を認めた神として、我は汝の戦いを守れたことを誇りに思う。しかし、我はこちらの世界にいるため、汝が元の世界に戻れば神剣は力を失うであろう。汝が元の世界にいる間は、神剣・麒麟はこちらの世界に残し、汝の神刀桜と神刀紅葉で戦うがよい。神剣は、我が責任をもって預かろう』

 紫苑は麒麟と、少し後ろの玄武、青龍、朱雀、白虎の五柱に深々とお辞儀をした。

「これまで、お力をお貸しいただき、ありがとうございました」

 閼嵐、麻沚芭、氷雨も深くお辞儀をした。

『神の器たち、見事な剣舞であった!! これからも人生は続く!! この先の舞も、我らと共にれ!!』

 四神五柱の言葉が終わると、紫苑の体が本格的に輝きだした。

 皆との今生の別れだと胸が迫った紫苑は、そのまま感情がこみあげて、歌になって口からほとばしった。

『題・紅い玲瓏 作詞作曲・白雪


 苦しみのない世界 地に手をつき求めてた

 そのとき 光は指し示され流星いくつもつないでる

 愛する世界守るために

 さよならは言わないで この世界が好きだから

 私は虹の光の先へ行くよ すべてを乗り越えて

 振り向かずに きっと舞おう』

 紫苑の姿は光に包まれ、その光の粒子が消える頃には何一つ、足跡あしあとすらも、この世界には存在していなかった。


「星方陣撃剣録第一部紅い玲瓏十九巻」(完)・――第一部紅の章・完――


 第一部が完結いたしました。お読みいただき、ありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。

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