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星方陣撃剣録  作者: 白雪
第一部 紅い玲瓏 第十九章 王の誓い
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王の誓い第三章「紅晶闘騎(こうしょうとうき)」

登場人物

双剣士であり陰陽師でもある、杖の神器・光輪こうりんしずくを持つ、「土気」を司る麒麟きりん神に認められし者・赤ノ宮の名字を改めた九字紫苑くじ・しおん、神によって呼ばれた正式な名前は赤ノ宮九字紫苑あかのみやくじ・しおん。強大な力を秘める瞳、星晶睛せいしょうせいの持ち主で、「水気」を司る玄武げんぶ神に認められし者、紫苑と結婚している露雩ろう。真の名は神・邪闇綺羅。神の発音で「じゃぎら」、人間の発音で「じゃきら」。

紫苑の炎の式神で、霄瀾の父親になった、「火気」を司る朱雀すざく神に認められし者・精霊王・出雲いずも。神器の竪琴・水鏡すいきょうの調べを持つ、出雲の子供にしてもらった、竪琴弾きの子供・霄瀾しょうらん――星方陣の失敗により死亡する。帝の一人娘で、神器の鏡・海月かいげつと、神器の聖弓・六薙ろくなぎまたの名を弦楽器の神器・聖紋弦せいもんげんの使い手・空竜くりゅう姫――星方陣の失敗により死亡する。聖水「閼伽あか」を出せる、「魔族王」であり格闘家の青年で、はちまきの神器・淵泉えんせんうつわの持ち主の、「金気」を司る白虎びゃっこ神に認められし者・閼嵐あらん。輪の神器・楽宝円がくほうえんを持ち、「木気」を司る青龍せいりゅう神に認められた、忍の者・霧府麻沚芭きりふ・ましば。人形師の下与芯かよしんによって人喪志国ひともしこくの開奈姫に似せて作られた、槍使いの人形機械・氷雨ひさめ

魔神・阿修羅。神の発音で「あじゅら」、人間の発音で「あしゅら」。邪闇綺羅の弟。刀の神器・白夜びゃくやつきを持つ。

 邪闇綺羅の世界を失敗させ、次の新しい種族で次の神の王の座につこうとしている、りん




第三章  紅晶闘騎こうしょうとうき



 紅晶闘騎は阿修羅を眺めたあと、邪闇綺羅に戻らなかった。

 複製の世界の遠く、元の世界を眺めるような目つきをした。

 ゆっくりと飛び始めた。紅い光の粒が散る。

 元の世界を破壊しに行くつもりなのだと、一同にはわかった。

 危急存亡のときに動いた者があった。

 赤ノ宮九字紫苑、神に穿たれし剣姫が、白き炎の翼で紅晶闘騎の行く手を塞いだ。

「ここから先は、行ってはなりません!!」

 紅晶闘騎の目は、紫苑を見ても変化がなかった。愛しさなど初めからないかのようであった。

「もう人間は、全員神器の力に溺れて死ぬだろう。せめて苦しまずに死なせてやるのが情けというものだ。もう人間は救われない。一度手の届くところに力をぶら下げられたら、一生見果てぬ夢と気づかずに追ってしまう。そして自滅する。阿修羅はとんでもないことをしでかした。すべての人間にかつえることを教えた。もう人間は自分の力を向上させることより、神にへつらい神器の力を借りることに人生の時間を注ぐようになるだろう。人生のすべてを神に支配されてはならない。よって私はこの世界を破壊する」

 紅晶闘騎の行く手を、再度剣姫が塞いだ。

「邪魔をするな――」

「できまするぅッ!!」

 腹の底から、そして骨の奥から、剣姫が声を絞り上げた。

 紅晶闘騎は一瞬止まって剣姫の声を聞いた。

「力を目の前にしてもへつらわない人間が、ここにおりまするぅッ!!」

 剣姫の力があるから一生安全だと思ったことなどない。むしろ力を使うことで常に死を意識してきた。剣姫は力のためにこびたりはしない。力を得ることはその力についている責任を果たすことであり、戦いの始まりであることを知っているからだ。身を清めたうえで、覚悟して力に触れるべきである。畏れることをしないで力を求め、自滅する世界になっても、剣姫だけは力を渇望しない。だから、世界はそんな者が一人でもいる限り、見限られることはない。

「世界中の人間が神器に自滅しても、私は自分の器を守ります!! 人は努力した分しか力を器に入れてはならないのです!!」

 明らかに、紅晶闘騎は動揺していた。魂の叫びが、紅晶闘騎に届いたからだ。ゆっくりと間合をとった。

「――では、私を止めてみせよ。お前が私の望みの剣を振るえれば、私を覆せるはず」

 紅晶闘騎と、戦うのだ。

 紫苑は、緊張で心臓の鼓動が強く鳴った。

 落ち着かせようと、ゆっくりと半月の仮面を手に取る。

 地上で阿修羅が血まみれになって倒れている。

 なってたまるかという不安を、顔の左側につけた仮面の下に隠す。

 この世で神魔に並ぶ第三の最強・男装舞姫が、神刀桜と神刀紅葉の双剣を抜き払った。

 男装舞姫と紅晶闘騎が交刃したとたん、男装舞姫の方が力負けして刀が跳ね飛ばされそうになった。

「予想はしてたぜ!!」

 男装舞姫は素早く刀の柄を一回転して、相手の力を逃がしつつ、刀を持ち続けることに成功した。

りんのときは刀を手放すほどだったからな。紅晶闘騎様と戦っても絶対そうなると思っていたぜ」

 交刃のたびに刀を手で回転させ、刀を跳ね飛ばされることを防ぐ。

「人間の身でありながら、よくもったものだ。では、私の問いにどう答える!!」

 紅晶闘騎が大地をえぐる爪痕を表す剣技を放った。

 世界を破壊する神とどう戦う。

 一瞬で決めろ。

 男装舞姫は川のせせらぎを表す剣技で大地の爪痕を川の自然に還した。

「……?」

 紅晶闘騎はいぶかしげに眉を上げてから、続けて断罪の鎌を振り上げる様を表す剣技を放った。

 男装舞姫は小鳥のさえずりを表す剣技で鎌の音をさえずりの自然に還した。

「何をしている」

 紅晶闘騎は氷のように冷たい声で、天を紅く染めた炎を表す剣技を放った。

 男装舞姫は波間に揺れる太陽の光を表す剣技で炎を太陽の光の自然に還した。

「私の創ったものを見せて、思いとどまらせようとでもいうのか」

 紅晶闘騎は怒りの交刃の音で空を割る剣技を放った。

 男装舞姫は森の葉の中を吹き抜けるそよ風を表す剣技で割れた空を風の自然に還した。

「いくら私の世界をたたえても無駄だ。そこに生きる者の心が汚ければ、世界は共に汚れる」

 紅晶闘騎は一度も揺れずに容赦なく、空間を光の届く限りまで裂く剣技を放った。

 男装舞姫は雨をしのぐ動物たちの見上げる空を表す剣技で光を雨の自然に還した。

「……お前は世界が嫌いだったのに、よく世界を見ているな」

 紅晶闘騎はすべての生命が安心して立てないように、足元を穿つ剣技を放った。

 男装舞姫は鈴なりの実を揺らす木を表す剣技で、穿ちにおぼつかない足元を、揺れる実の揺れの自然へ還した。

「そんなにこの世界に感動してきたのか」

 紅晶闘騎はこの世の美しいものをすら仮借なく滅ぼす剣技を放った。

 男装舞姫は美しいものをつららに変えて、美しいつららが水晶のように地面に刺さって地上から去らない様を表す剣技でつららを守り、自然に還した。

「私の滅びの剣をことごとく自然に還すのか!!」

 紅晶闘騎が驚く間もなく、男装舞姫が飛びかかってきた。

 夜に月の光がたつように艶やかに振るう剣。青龍のように猛々しくも優雅さを秘めた剣。陰陽の陰のように暗くどこまでも深く振るう剣。白虎のように千里を駆けすべてを見透かすと思える引き締められた剣。玄武の蛇が神通力をわせるときであるかのように高く通る剣。朱雀の炎を放つ翼のような剣。白い狼のような真っ白さで美しい光を見せて振るう剣。

 太陽の豪放な光と月の静寂な光と星の燃える光を混ぜ合わせた力を匂い立たせながら、紅晶闘騎は自分の顔を描写する男装舞姫の剣を受けていった。

 すべての剣に優しさがあった。

 何も言わないけれど、わかった。

「あなたを愛してる」――。

 すべての剣を弾かれても、男装舞姫は剣の手をゆるめない。死ぬまで剣を離さないつもりなのだ。

 紅晶闘騎は両手を開き、双剣を地面に落下させた。丸腰である。

「私はあなたを止める!!」

 男装舞姫が両手を突き出し、双剣をまっすぐ地面と平行にすると、髪も地面と平行にせんとばかりに、白き炎の翼で突進した。

 男装舞姫が紅晶闘騎の体に二本とも突き刺そうと迫った――その瞬間。

 紅晶闘騎は前のめりに飛び、あるものを二つ回転させた。そして男装舞姫の体が紅晶闘騎の体に重なったとき、剣は紅晶闘騎の体を貫通した――地上の仲間は息を呑んだ。

 だが、男装舞姫の両刃は、男装舞姫の突進と紅晶闘騎自らの突進によって、完全に紅晶闘騎の剣のさやの中におさめられていた。

 そして、それに驚愕している男装舞姫を、紅晶闘騎は抱き締めた。

「私の負けだ……紫苑! ……ありがとう……」

 紫苑は紅晶闘騎に体を預けた。


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