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暗黒騎士は迷宮に潜る  作者: フリーデン
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第1話

 迷宮のひんやりとした空気が僕の頬を撫でる。といってもそれは兜の隙間から入ってきた風だ。蒸れているせいで涼しく感じているだけかもしれない。


 震える手に力を込めて大剣を握りなおし、軽く振って血糊を飛ばす。


 僕の持っている大剣は非常に大きい。僕の身長は180セント程あるが、大剣の全長はそれと同じくらいもある。幅もかなり厚く、20セント程はあるだろうか。所謂、グレートソードという奴だ。


 見た目通り重く、とても扱いにくいがその分威力も保障されている。


 周りを見れば僕が斬った魔物の死体がごろごろと転がっていた。もう少し経てばその死体は消え、魔石へと変わるのだろうがそれには少しばかり時間がかかる。


「邪魔だな、早く消えてくれ」


 そう呟きつつ、転がっている死体の奥に居る敵を見据える。…あと八体か。


―――九体よ、しっかりなさい―――


 成程、九体らしい。


 リザードマンと呼ばれるその魔物達は、剥き出しの敵意を隠そうともせず威嚇の声を上げていた。


 僕を殺したくて仕方がないんだろう。だが、周りの死体が邪魔で思う様に僕を囲めないのだ。


「まぁ、囲んだところでさっきの二の舞だけどね」


 そう言って僕は跳躍する。


 意表を突かれたリザードマン達の反応は鈍かった。


 リザードマンは他の魔物と違い、多少は知性がある。姿形は大トカゲが後ろ足で立っている様にしか見えないが、二足歩行をこなし空いた両手に剣と盾を持っているのはその証拠だ。


 だからこそ僕から斬り込んでくるなんて考えもしなかったんだろう。まぁ気持ちはわかる。僕は全身鎧に身を包んでいる上で特大の大剣を担いでいるのだ。明らかに重量過多に見えたはず。


「死ね」


 呆気にとられている先頭のリザードマンを叩き斬り、噴水の様に噴き出る血を浴びながらそのまま次の標的へと駆け出す。


 キシャー!!


 元気な叫び声だなと考えながら二体目を斬り捨てる。そこでやっと他の奴らが反撃に出てきた。


 横なぎに振るわれた剣を屈んで躱し、足を両断して放置、次へ向かう。多対一なのだから一体一体に時間はかけられない。


 その後も、反撃を試みるリザードマン達の剣戟を掻い潜りながら僕はその数を減らしていく。


 残り三体になった所で彼らも頭を使ったのだろう、二体同時に飛び掛かってきた。


「意味ないけどね」


 僕は既に、大剣を後ろに引いて溜めを作っている。


 跳躍しながら襲い掛かってきたリザードマン達の剣が届くより先に、後ろに引いていた大剣を横なぎに振り切った。


 流石に二体を同時に斬り捨てた衝撃は強く、少しばかり手が痺れてしまったがその甲斐はあったようだ。


 横からハンマーで殴りつけられたかの様にリザードマン二体は吹き飛ぶ。可哀想なことに彼らの上半身と下半身は泣き別れながら壁に叩きつけられ、迷宮に染みを残した。


 最後に残ったリザードマンは一瞬唖然とし、そして思い出したかのように動き出す。


「えっ、逃げるの?」


 なんと背を向けて駆け出したではないか。


 先程までは僕への殺意で彩られていたはずのリザードマンの瞳は、今は恐怖で濁っていた。こちらをちらちらと振り返りながら、必死に逃げていたのだ。


「…いや、逃げるなら追わないよ」


 ひらひらと手を振って逃げるリザードマンを見送る。


 何か凄く悪いことをしてしまった様な気分になった。




 迷宮の壁に背を預けて休憩しながら大剣の整備をする。血糊を布で拭き、刃が欠けていないか確認する。


「見た目通り頑丈だなぁ」


 全く問題なかった。


 この剣は街の武器屋で買った物だ。確かこの街に来た時に買ったから…もう3ヶ月の付き合いになる。


 正直、僕本来の筋力ではこんなものは扱えない。そもそも、人族が扱う武器ではないのだろう。


「ま、そこは職業に感謝…ってところなのかな」


 僕が就いた職業のおかげでこの大剣を自由に振り回せるのだ。


 別にこの剣を使う必要はない。剣なら種類に関わらず使いこなす自信がある。だけど僕は3ヶ月前に冒険者になってからこの剣でしか戦っていなかった。


 理由は勿論ある。格好いいからだ。


「剣は大きい方が格好いい。そうだろ?」


 自分でも誰に同意を求めたのかはわからないがなんとなく呟く。


 そういえば鎧に付着していたリザードマンの返り血はいつの間にか消えていた。これも僕の職業のおかげだ。整備いらずで助かるが、どうせなら剣も同じにして欲しいと思ってしまうのは我儘だろうか。


 そんなことを考えていると、リザードマン達の死体がいつの間にか光に包まれていた。その光は段々と薄くなり、空気に溶け込むようにして消えていった。


 光が消えた後に残ったのは魔石。


 魔石は魔力の塊、魔物達の核になっているものだ。


 疲れた体に鞭を打ってその魔石を回収していき、冒険者ギルドから支給された魔法のポーチに収納していく。全部で16個の魔石を手に入れることが出来た。


 僕は、これを求めて冒険者になったのだ。




 休憩を終え、僕は整備したばかりの剣を背中に担いで迷宮の探索を再開した。


 迷宮は地下へ向かって階層別に広がっている。今居るのは迷宮の24階層だ。


 この迷宮は全部で何階層あるのだろうか?いや、街で情報を集めてみたのだがはっきりとはしなかったのだ。


 わかっているのは40階層以上あるということだけ。


 60階層とも言われているし、80階層とも言われている。もしかしたら100階層くらいまであるのかもしれない。


 想像してブルりと震えた。


 そんなに深かったら流石に僕も最終階層まで行くことは出来なそうだ。よしんば行けたとしても、一体どれだけの年月がかかるのだろうか?


 そう考えて僕は頭を振った。そんなことを考えても意味が無いからだ。


 何故なら、僕の目的は迷宮を制覇することではない。少しでも多くの魔石を集めることこそが、僕の目的。


 つまり、単純に出会った魔物を倒していけばいい訳だ。


―――前方2体。リザードマンよ―――


「こういう風に…ねっ!」


 大剣を引き抜き、前方に向かって渾身の力で投擲した。


 空気を切り裂いて真っ直ぐ突き進む大剣は、そのままグシャっという音と共に何かに突き刺さった。姿は見えないが、手応えありだ。


―――残り1体。気を付けて―――


 頭の中に響く声を頼りに、僕は疾走する。


 どうやらそのリザードマン達はかなり遠くに居たらしい。僕が剣を投擲した位置から、距離にして30メーテル程離れていたようだ。


 迷宮内は薄暗く、10メーテル先だって見渡せない。だが、僕には頼りになる味方がいる。


―――こちらに気付いたわ―――


「問題ありません」


 声の主に感謝しつつ、僕はリザードマンに肉薄した。


 二体いたはずだが先制攻撃で一体潰してある。残ったリザードマンは、僕の姿を見つけると占めたとばかりに躍りかかってきた。


 大方、僕が武器を持っていないことを見て自分が有利だとでも思ったのだろうが…。


「甘いよ」


 避けてもいいが、少し遊びに興じてみたくなった。


 僕はわざとリザードマンの剣戟を右手で以って受け止める。


 キィィィン!


 金属同士がぶつかり合う甲高い音が迷宮内に響き渡る。勝ったのは勿論僕の鎧だ。


 リザードマンの持っていた剣もそれなりに業物だったのだろう。だが、剣を当てた部分からぽっきりと折れてしまっていた。


 唖然とするリザードマンを横目に、僕も自分の右手を確認する。剣を受け止めた右手の鎧…籠手部分には破損どころか傷一つ無かった。


「改めて思うけど、凄いなこれは」


―――当然よ。貴方は私の右腕なのだから―――


 きっとこの声の主は今頃、胸を張って誇らしげにしているんだろう。


 その様子を想像して苦笑してしまう。なんだかんだで僕の可愛いご主人様だからだ。


 そんなことを考えていると、視界の端で何かが動いた。おっと忘れていたな。


「今度は逃がさないよ」


 僕は獰猛な笑みを浮かべながら右手を振りかぶる。なんてことは無い、ただ殴りつけるだけだ。


 背中を見せて逃げようとするリザードマンに対し、僕は渾身の力を込めた拳をその背に向かって繰り出した。


 グシャッ!


 鱗を砕き、骨を砕き、そして内臓まで破壊してなお、僕の拳は止まらない。


 キシャー!!


「うるさいなぁ…あら?」


 そのまま反対側まで突き抜けてしまった。


「くさっ!血生臭すぎ!」


―――調子に乗るからでしょ―――


 御尤も。でも僕だってたまには遊んでみたくなる。そういうお年頃だ。


―――18にもなって…まだまだ子供ね―――


「そりゃ貴女と比べたら誰だって子供ですよ」


―――喧嘩売ってるの?―――


 あ、まずい。彼女に年齢を感じさせる言動はご法度だった。


「滅相もありません。敬愛する女王陛下に対して喧嘩を売るなどと」


 既にピクリとも動かなくなったリザードマンの体を蹴り飛ばして右手を引き抜く。どろっとした血が鎧に付着しているのを確認して顔を顰めるが、今はそれどころではない。


 僕は片膝をつき、恭しく一礼した。


―――ふん、どうだか―――


 めんどくさいババア…いや、お姉さまだ。


「どうか機嫌をお直しください。僕は貴女の永遠の奉仕者です。お慕いしているのですよ、女王陛下」


―――つーん、そんな台詞は聞き飽きました―――


 まじでいい加減にしろよクソババア。何がつーんだ。可愛くないんだよ!


「セレスティア、機嫌を直しておくれよ。僕は君のことが大好きなんだ」


―――……魔石をもっと集めてくれたら許してあげます―――


 条件まで付けるか。まぁいい。元から僕もそのつもりだ。


 僕が魔石を集めている理由は女王陛下の為だ。


 そう、彼女は魔王。


 かつてこの世界に覇を唱えるべくして立ち上がり、宿敵である初代勇者と幾度となく戦った魔族の王だ。


 そして僕は、その魔王たる彼女の右腕。


 僕の名はシリル=ナイトブレイズ。


 セレスティア女王陛下の右腕にして魔剣。


 世界を恐怖に陥れた魔王の…唯一の側近にして理解者でもあった暗黒騎士と呼ばれる存在、その二代目だった。



シリル=ナイトブレイズ 

人種=人族 職業=暗黒騎士 年齢=18歳

主人公。おっぱい大好き人間。少々戦闘狂の素養あり


セレスティア女王陛下

人種=魔族 職業=魔王   年齢=???

本作のメインヒロイン…の予定。年齢を気にしている様子。

巨乳、高身長、そして美貌と3拍子揃ったパーフェクトウーマン。

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