第5話 炸裂、ましろハート
「ちょっと、どこへ行くのましろ!」
ましろを追って部屋を出た聖奈は、警察署の外に出てようやく彼女の背中に追いつく。肩に手をかけられながらも、なお早歩きでどこかへ向かおうとするましろは渋々口を開く。
「決まっているじゃないですかぁ聖奈さん、真実を追うんですよ」
「叢雲班長は関与するなと言っているわ」
ここでましろが早歩きをやめ、その場で立ち止まる。後ろにいる聖奈に向き直ると、真剣な目で言う。
「聖奈さんはどう思っているんですかぁ」
「どうもこうも・・・班長の命令には従うべきだと思うわ」
「~~っ、そういうことじゃなくてですねぇ・・・」
彼女特有の先輩を舐め腐った表情で、「呆れた呆れた」と訴えるましろは、頭を軽く掻き、ため息ひとつ経て再び口を開く。
「そういうの置いておいて、聖奈さんはどうするべきだと思っているんですか?上から関与するなって言われて違和感とかないんですか?」
「あるわよ。でも証拠がないでしょう。証拠もないのに上を疑ったところで・・・」
「その証拠を調べるって言っているんですよ、アタシは」
ましろの思惑を理解した聖奈は、目の色を変える。
「それを独断でやるのが危険だっていうのよ!」
警察署前の歩道ということも考えずに、聖奈が大きな声で言い放つ。幸い、周囲には人がいなかったので変な目で見られるということはなかった。
ましろはそんな聖奈を見て思った。上層部に違和感はおぼえているのは彼女も同じ。別にその違和感の正体を明かそうという気持ちが無いわけではない。それをしたくても出来ないのだ。あくまで相手は警察署の上層部という組織。その謎を班長の意向を無視して独断で行動しようとしていることは危険なことであるということを伝えるために、聖奈は追いかけてきてくれたのだと察した。
ましろは小さく微笑むと、丁寧な口調で言った。
「ありがとうございます、聖奈先輩。アタシはそんな真面目で優しい先輩が大好きで、尊敬していますよ」
安らかな表情のままでましろは振り向き、小走りで聖奈から去っていった。
ましろからの言葉を受け取り、そのまま置き去りにされたままの聖奈は、目を丸くして佇んでいた。
「ましろ、私のこと、初めて『先輩』って・・・」
丁寧な口調や、大好きとか尊敬してるとかのフレーズよりも、ましろから初めて「先輩」と呼ばれたことが頭から離れないようだった。
聖奈がふと頭をリセットする頃には、既にましろの姿はなかった。