第3話 Clever Silence
「な、何故ですか叢雲班長」
「あくまでその一件は一課のテリトリーだ。俺たち二課がとやかく口を挟むものではない」
叢雲は冷静に聖奈の疑問に答える。しかし、聖奈はその返事に満足していなかった。組織の分業的な理由だけで、この班長・叢雲があそこまで怖い顔で警告をするだろうか。あの顔には、それ相応の理由があるに違いない。
そう思い、聖奈は改めてその理由を追求しようとする。が、彼女がそうすることを察知したかのように、叢雲が口を開く。
「・・・というのが、あくまで二課の班長としての理由だ」
突然の補足に、聖奈は口を再び閉ざした。「二課の班長としての理由」ということは、やはり他の理由があるのだろうと、聖奈は大人しく叢雲の話に集中する。
「今から話すこと、誰にも言わないと誓えるか」
深刻そうな顔で聖奈に問う。沙織の方を見るとすました顔で座っている。恐らく彼女はもう知っているのだろう。なかなかにトップシークレットめいた話であると悟った聖奈は、一呼吸おき頷く。
「・・・上層部の人間から俺に向けて伝達された。『君たち刑事第二課は、当事件においての一切の言及をしないように。』と。当事件というのは『岡田太一郎殺害事件』のことだ。」
「上層部が、事件に関与するなと言っているんですか?」
頷いて肯定。叢雲はつまらない嘘やハッタリを言う人間ではない。それを重々理解している聖奈は、彼が事実を述べているのだと確信する。
「それっていつ言われたんですか」
「2ヶ月前、事件が起こってすぐのことだ」
「どうして今まで黙っていたんですか」
「・・・。」
叢雲は考えを巡らせるように黙り込む。即答できないということは、彼が次に最初に言うことは熟考の末に思いついた便宜上の言葉であると知っている。その上で、本心を言う。「本音と建前」という日本人特有の習慣とでもいうのだろうか、そうやって話を進めるのが叢雲の特徴だ。
「上層部からの伝達を、沙織以外に伝えていなかった。俺の伝達ミス、失態だ」
「・・・。」
「というのは建前で、本音を言うと、伝達するとお前が事件に関心を持って、関与していかんとばかりに動き出してしまうと心配していたからだ」
聖奈の沈黙に白旗を揚げるように、彼女の予想通り建前の後に本音を打ち明けた。その叢雲の顔は悪さする子供に呆れるかのような顔だった。
「とはいえ、いちおう上層部からの注意なので伝達しようとは思った。思ったが、とりわけこの事件の話をする者もいなかったので、あまり伝達しなくてもいいかと思ったんだ。逆に、事件の話をするわけでもない人間に『あの事件には関わるな』って言うのも違和感しかないだろう。逆に怪しいと思われてしまう。だから、久しぶりにその事件の話を表に出したお前に、2ヶ月の間を空けて伝達したわけだ」
一通りの弁明を終え、叢雲は一息つく。叢雲の行動はたしかに正解かもしれない。逆に不信感を煽るような伝達をするのは芳しくないと考えた上での行動であると、聖奈は心の中で勝手にフォローする。それにしても、上層部の見解は一体・・・
「その、一課はなんと?」
「・・・。聞けなかったよ」
「そうですか・・・」
「まぁ、聞こうとはしたさ。『事件の進展はどうなってる』って。そしたら、さっきの俺みたいに、苦い顔をされてな。俺はそれ以上聞くのをやめた。厄介を感じたからってのもあるが、どうせ問い詰めても本当のことは言ってくれないって察したんだ。なんせ、一課はプライドが高いからなぁ」
やれやれ顔で叢雲はデスクに向き直る。一連の話は終わりだと思い、聖奈も自分のデスクに荷物を置き、席につく。話を聞いていたであろう沙織もいつの間にか、部屋から消えていた。
「・・・天宮、何度も言うが今の話、本当に誰かの前で口にするなよ」
書類に目を通しながら、聖奈に再び警告をする。聖奈が「はい」と返事しようとした最中、邪魔が入る。
「え、何の話ですか」
いつの間にかムラクモ班の部屋に戻ってきていた者がいた。その正体は聖奈とともに署に戻ってきたのに、何故か遅れて部屋に帰還したアロハ姿の霧江だった。不思議そうな顔で2人を見る。その2人は、非常に厄介そうな顔で霧江を睨む。
「・・・へ、どうしたんですか2人とも。あ、そうか。霧江 慎一郎、ただいま帰投しました!」
「「そういうことじゃない。」」
息の合った2人が的外れな解釈をしているであろう霧江を一蹴。




