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イノセント エリート  作者: 明日原 たくみ
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第2話 刑事第二課・ムラクモ班



天宮(あまみや)、ただいま帰還しました。」




 署に戻った天宮 聖奈(せな)は、刑事第二課の捜査官たちに自らの帰還を告げる。気付いた捜査官から「おつかれ~」などといった挨拶が帰ってくる。それを受けながら、聖奈は刑事第二課の部屋の最深部へと向かって歩く。部屋の奥にある扉を開くと小さなオフィスが広がっており、そこが聖奈の所属する、「刑事第二課・ムラクモ班」だ。



 水上警察署における犯罪捜査は、基本的に「刑事第一課」と「第二課」に任される。刑事第一課が殺人や強盗、傷害などといった凶悪犯罪を担当するのに対し、第二課が担当するのは詐欺などの金銭・知能犯罪、空き巣などの窃盗事件といったとりわけ控えめなものに分類される事件である。


 そして刑事第一課と第二課はそれぞれ、いくつかの「班」に分かれている。課ごとの業務を細かく班で分担しているのだ。



 そんな緻密に分類された水上警察署の刑事課という組織。ここに『刑事第二課・ムラクモ班』というイレギュラーが存在する。


 ムラクモ班は上層部からも一目置かれる、二課を統率するトップである。そして、組織の分類を無視した、二課の全ての業務を担当するイレギュラーかつオールラウンダーなチームなのだ。その実力は確かなものであると、同僚たちから「エリートチーム」として賞賛されている。





「天宮、ただいま帰還しました。」



「・・・お疲れ。」


「ふふ、まるで戦場から帰ってきた敗戦国の兵士みたいねぇ~」



 聖奈の帰りを迎えたのは、静かな男とおっとりとした女の2人だった。いづれも聖奈が尊敬する人物だ。


 男の名は「叢雲むらくも じゅん」。その名から分かるとおり、彼はムラクモ班の班長である。口数が少なく、非常にクールな人物だ。署内での女性人気が抜群に高い。


 もう1人の女の名は「沙織(さおり)・ローラレイ」。アメリカ人の父を持つムラクモ班の副班長である。容姿端麗で人当たりがよく、男性はもちろん女性からの人気も凄まじい。金髪のロングヘアが自慢で、よく聖奈にからめつけて遊んでいる。




「敗戦国・・・ですか。捜査官という立場上、できれば勝利国のほうが」



「も~、別にどっちでもいいじゃない。大事なのは戦場から帰ってきた兵士ってトコよ。『帰還しました』だなんて。」



「そうですか・・・」




 聖奈は戸惑いながら反応する。尊敬する人物だとはいえ、その対応に困るという状況が多々ある。真面目な聖奈の性格上、沙織の独特な絡みに苦しんでいるのだ。仕方の無いことなのだが、そういった点で、沙織にかわいがられているというのは聖奈は知らない。




「・・・その感じだと、今日も御子柴は面会謝絶だったか。」




 聖奈の様子を察し、叢雲が聞く。昼休みになれば見舞いに赴き、その度に面会謝絶を食らい、帰ってくる聖奈の姿を過去にもう56回も見ているのだから、そのくらいは当然のように察することができるのだ。ちゃんと見舞いが出来たのならばもっと嬉しそうというか、活き活きしていてもおかしくないはずである。


 図星をつかれた聖奈は静かに頷く。




「なんだぁ、やっぱり敗戦国の兵士じゃない。」



「・・・面会謝絶とはいえ、ちょっと期間が長すぎませんか。」




 沙織の横槍(よこやり)を華麗にかわし、叢雲に率直な思いをぶつける。無視されて残念そうな沙織を横に、叢雲は少し間を開けて口を開く。




「まぁ、色々あるんだろう。」




 聖奈はため息をつき、少し間を開けてその返しかい、と心の中でシャウト。長い面会謝絶期間についての自分なりの考察を話すとか、慰めの言葉とかを期待していたが、全くの無駄骨だった。



 叢雲は別に、入院している御子柴に関心がないわけではない。彼は彼なりに御子柴のことを心配しているのだ。あえてそれを口にはしない。それを口にしたところで何の意味も無い、ナンセンスの極みであると感じているのだ。




「私、思うのですが。」




 聖奈は小さく手を挙げて言う。




「御子柴が捜査していた事件あったでしょう。たしか・・・『岡田太一郎殺害事件』、でしたっけ。」




 聖奈が事件名を出した瞬間、叢雲が苦い顔になる。あぁなんだか厄介なことを言い出しそうな予感、と心中。沙織はそれを察し、面倒くさそうに楽しそうに彼を見つめる。




「2ヶ月前に大型トラックに轢かれ、それ以来彼が捜査していたその事件に何の進展もない。これって、犯人か犯人に関係する人間が、真相に近づいた御子柴を始末しようとしたんじゃないですか。」



「・・・。」




 聖奈が言い終えると、叢雲は頭をかかえて静かに机に伏した。まるで夏休みの宿題が終わっていない夏休み最終日の小学生のように。


 やがて顔を上げ、目線を聖奈に合わせることなく口を開く。




「天宮・・・、その話、二度と口にするな。」




 そう言う叢雲の顔は、今まで見た中で1番恐ろしい顔であったと、聖奈は過去を振り返りながら確信した。


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