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月と烏、花の哀歌  作者: カタリナ
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雨のぬくもり

 情景は登場人物の心情を表すっていうけど、全然、そんなことはないよね。

 天気は晴れ。でも、私の心は鉛色。なんて、詩人みたいに言ってみたけど、これが結構深刻な話で。というのは、さっき携帯電話を落としてしまったのだ。やばいよ。やっばい。というわけで、大学の講義を休んでさっき通ってきた道を逆走して探している。いや、走ってはいないのだけれど。

 しかし、見当たらないぞ。これはもう警察にいくしかないのか?いやいや。もうちょい粘ってみよう。そうしよう。

 そうして、駅前まで戻ってきたところで、急に空が曇ってきた。おかしい。今日の予報では一日中いい天気で洗濯物もよく乾くって言ってたのに。しょうがない。警察によろう。そしたら、家に帰って洗濯物をしまおう。

 警察の人になんて説明したら一番手っ取り早いかを考えながら、電車に乗り込んだ。

 電車はすぐに走り出した。


           〇


 しばらくして、電車内の異変に気が付いた。私の他に乗っている人が誰もいない。となりの車両をのぞいてみたが、やはり誰もいない。みんな真面目にお仕事してんのかな、とあまり気にしないことにした。まあ、こんな日もあるでしょう。

 外を見ると、雨が降り始めていた。

 ふいに、終点です。という車掌さんの声が聞こえてきた。私が降りるはずの駅は終点じゃないはずだと思って、駅名を見てみた。


 「そら」


 空駅?聞いたことない名前。そもそもそんな駅ってあるのかな。でも、終点なんだから降りた方がいいよね。というわけで、降りてみた。ここは無人駅らしい。

 とりあえず、次の電車が来るまで、ホームでおとなしくしてよう。

 ベンチに座って足をぶらぶらさせてみた。ベンチはぎしぎしと音を立てる。辺りを見ると、建物は全然見合たらず、木がいたるところに生えている。

 周りに誰もいなくて、なんだかさみしくなってきたので、

「めっちゃ雨降ってるー」

と、つぶやいてみた。すると、

「そうですね」

という声が返ってきた。ついにさみしすぎて幻聴まで聞こえるようになってしまったらしい。だがしかし、今のは幻聴というにはなんだかリアリティがあるぞ。たしか右のほうから、と思って、右を向いてみると、髪の毛がくるくるしている少年が、ちょっと離れたところにちょこんと腰かけている。私はびっくり仰天して、ベンチから転げ落ちてしまった。少年は少しだけ眉を上げた。

「少年よ。何故君はこんなところへ?」

わたしはベンチにきちんと座りなおしてたずねた。少年は首を右に倒した。そして、しばらくしてから、首を元の角度に直し、

「お姉さんは、どうやってここに来たんですか」

とたずねた。見たところ小学校4年生くらいなのだが、ちゃんと敬語を使っている。やるな、少年。

 私は、携帯電話を無くしたとこからここに来るまでの経緯を、大まかに説明した。すると少年は、パーカーのポッケから携帯電話を取り出した。しかも、ニャンコのストラップがついている。これは私のスマホじゃぁないかッッ。

 私は少年を見た。「どこで、拾ったの?」

 少年は口を開きかけたが、ちょうど電車が来たからか、答えてはくれなかった。

 この電車に乗ったら、家に帰れるだろうか。私は電車に乗り込んで振り返った。

「ありがとう。スマホ拾ってくれて。私は美優。少年は、あ、なんていうの?その、名前」

 少年は口を動かしたが、雨音にかき消されて聞こえなかった。

 ドアは静かに閉まった。


           〇


 いつの間にか、眠ってしまっていたようだ。自分が今まで何をしていたのか、さっぱり思い出せなかった。周りを見ると、いろんな人が、スマホをいじるなり、本を読むなり、寝るなりして目的地に着くのを待っている。電車の窓から見る景色は見慣れたもので、最寄り駅に向かっているのだということが分かった。真っ青な空と太陽が、とても眩しかった。右手にはしっかりと携帯電話が握られており、メールが一通届いていた。メールアドレスは見たことがないものだった。

 そのメールには、『なつめ』とだけ書かれていた。

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