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私が兄さんを全盛期に戻します!!  作者: 藍
第1章 四月
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第8話 入学式Ⅷ

 サードスキル発動により、忍からどす黒い悪意が体現したかのようなオーラが流れ出した。そのオーラは集まり、ある形を作り出す。


「これは?」


 皐月が構えを取る。それほどまでのプレッシャーが忍から放たれていたからだ。


「遅いな、神堂皐月。これから【ねつ造報道】によって、あんたの真実は書き換えられる。…あんたは無様に敗北すればいい。それだけだ!!」


 忍の言葉が終わるころには、にじみ出た黒のオーラが明確な人型となった。


「骸骨ですか?」


 心が述べたようにオーラが形作ったものの正体は骸骨だった。骸骨はトレンチコートと帽子を身に纏っており、【ねつ造報道】という単語と服装から昔の記者かカメラマンをイメージさせる。その右手には一眼レフカメラが握られていた。


「ねつ造報道を依頼する。取材対象は神堂皐月。目的は彼の戦闘能力の低下だ」


『承りました。依頼により忍様に代わりセカンドスキルを使用します。セカンドスキル【知る権利】代理発動』


 すると、骸骨が忍の言葉に頷き、手にしていた一眼レフカメラを皐月に向けてシャッターを切る。その一連の動作は滑らかで、早打ちを得意とするガンマンを連想させるような一瞬のものだった。


「くっ」


 皐月は突然の撮影行動にその場から飛びのく。


「遅いな」


 だが、骸骨がかざしたファインダーは確実に皐月を捕らえていた。


「殺意がなかったから行動が遅れたな、神堂皐月」


『忍様、対象の情報の入手を成功しました。…併せて、情報のねつ造を完了しました。データを忍様の秘書に送ります』


「わかった」


 忍が頷くと同時に骸骨が消え去った。それと連動するかのように架空秘書の映像フレームが忍の傍にポップアップされる。


『忍様、情報を受け取りました。報道を開始しますか?』


「あぁ、対象者はこの戦闘を見ている者だ」


『かしこまりました』


 架空秘書が頷き顔を上げる。すると心と皐月と如月、そして夕姫に武蔵のそれぞれの前に映像フレームがポップアップされる。その映像フレームに映るのは、報道番組のスタジオを思わせる場所で座っているスーツ姿の女性だった。


『緊急速報をお伝えします。魔獣対策省の神堂皐月魔獣対策総司令官の所持するSSデバイス【絶対零度】の不具合が確認されました。この不具合によりこれから30秒間、SSデバイスの起動が不可能になるとのことです。以上、緊急速報をお伝えしました』


「えっ?これって、兄さんがブルードラゴンと戦っていた時の?」


「なっ!?」


「【絶対零度】の不具合ですって?」


「あらあら」


 忍が発動したサードスキル【ねつ造報道】による緊急速報に対してそれぞれが驚きの表情を浮かべる。


「30秒間か、褒めたくないが流石だな」


「SSデバイス【絶対零度】起動」


 忍の発言が終わるかどうかの間に、皐月がSSデバイスの起動を宣言した。宣言したのだが…。


『エラー発生』


「…起動しないだと」


「はっ。時間がないから、種明かしは見舞いついでに病院のベッドで説明してやる。神堂皐月、宣言どおりに今からあんたをぶちのめす!!」


 忍がスペシャリストの身体能力向上によって実現する弾丸のようなスピードで皐月に詰め寄る。


「手加減はしてやるよ!!」


 忍は如月に対して、回し蹴りを放つ。回し蹴りは皐月を確実に捉え、壁際に並んでいる書棚へと吹き飛ばした。


 ガシャッ!!


 派手な音をたてて書棚が壊れた。忍は手加減すると言ったが、下手をすれば致命傷となる威力だ。


「…何か仕掛けがあるのか?とっとと起きな」


 だが、この結果に忍は納得のいかない表情を浮かべ、皐月へと声を掛けた。


「…なかなかの威力ですね」


 忍の言葉に応えるように、皐月が起き上がる。その動きは滑らかで、ダメージを受けたとは到底思えなかった。


「ちっ、SSデバイスの起動を妨害されているのにどういうことだ?」


「それこそが【解放】が存在するということの証明ですよ」


「くっ、吹き飛べ!!」


「…甘いですね」


 ガシッ!!


「なっ!?」


 皐月は忍の蹴りに対して左手を上げる。そしてその手で忍の足を掴んだのだ。


「後方支援を得意とするスペシャリストでこの身体能力とは」


 そして流れるような動きで、皐月は掴んだ忍を校長室の床へと叩きつけた。


「ぐはっ!!」


「忍さん!?」


 忍はまだ足をつかんでいる皐月の手に対して手刀を放つ。これに皐月はこだわることなく手を離し飛びのいた。


「くっ、ありえないな。SSデバイスの起動が出来ていない普通の人間が、俺たちスペシャリストの動きについてこれるはずがない」


「否定しているわりに動揺はしていませんね」


「ふっ、まぁな。これで疑問は確信に変わったよ」


「確信とは?」


「はっ、【ねつ造報道】の時間はまだ残っているぜ」


 皐月の問いを無視して、再び忍は駆け出す。先ほど、床にたたきつけられたダメージは無いようだった。それどころか、皐月へと向かうスピードは先ほどより上昇していた。


「実力差がまだわかりませんか?」


 だが、皐月は動じることなく身構える。その視線は確実に忍の動きを捉えていた。


「そこまでです!!」


 今まさに忍と皐月が激突しようとした瞬間、校長室に男の声が響いた。その声に二人は動きを止める。


「…室長か」


「…小暮陽輝(こぐれはるき)室長」


 校長室に登場した人物は元魔獣対策庁長官の陽輝だった。


▽▽▽


 小暮陽輝(こぐれはるき)は現魔獣対策省長官である小暮夕姫こぐれゆうきの実の兄であり、現在はスペシャリストの管理及び保護を行うスペシャリスト管理室の室長を務めている。


「室長、どうしてここへ?」


「天草君に届け物があったので近場にいたのですが、小暮長官から連絡を受けたので急きょこちらの学校まで駆けつけたのですよ」


「くっ、長官め、よけいなことを」


「遠藤君、緊急性なくスペシャルスキルを私的使用することは重大な違反行為のはずですよね」


「うっ、それは神堂皐月が隊長のことを…」


「言い訳は後程聞かせてもらいましょう。ちなみにこの件についてはすでに地神君と都築さんの耳にも届いています。覚悟しておいてください」


「くっ!!」


 忍は先ほどまでの真剣な表情と違い、いたずらが見つかった子供のような顔をしている。それは奇しくも入学式直後の心と同じ表情だった。


「神堂君、うちの遠藤が失礼しました」


「いえ、お気になさらず」


 忍や駆のように民間人の立場に戻ったスペシャリストは多々いる。ただ民間人に戻ったとはいえ、使い方によっては危険となりうるスペシャルスキルを保有していることには違いない。その為、魔獣対策省所属のスペシャリストも民間人として社会に復帰したスペシャリストも、等しくスペシャリスト管理室の管理下に置かれているのだ。


「小暮長官」


「はい、に…小暮室長」


 陽輝が映像フレームに映る夕姫に話しかける。


「今回の件について後で改めて謝罪させてもらいます」


「えぇ、わかりました」


「ただ、そちら側にも色々と問題行動が見受けられますね」


「うっ」


「それで相談ですが、この件については無かったことにしませんか」


「えっ?」


「幸いにも神堂君は怪我をしていないようですし。何より今まで秘密にしていた遠藤君のサードスキルを知ることができたのですから、そちらとしても損はないでしょう?」


 陽輝の提案に、夕姫が深く目をつむる。スペシャリストを管理しているのは確かに陽輝が長を務めている管理室だ。ただ、そのスペシャリスト管理室自体は魔獣対策省の要請に対して、協力せざるを得ない立ち位置にある。今回の忍の校長の調査もその流れから引き受けたものだ。


「(今まで謎とされていた遠藤さんのサードスキル。今後はデバイスユーザーの支援に使用することが可能というわけですね、兄さん)」


 そして、夕姫は目を開けて陽輝に対して答えを返した。


「わかりました。それでは私たちは遠藤さんのスペシャルスキル無断使用及び戦闘行為に対して目をつむりましょう。小暮室長側は神堂如月さんの戦闘行為に関する監督不行き届きに対して目をつむって下さい」


「えぇ、ありがとうございます。これで遠藤君への懲罰を行わなくてすみます。それでは心さんに如月さん、貴女たちもこの件について他言無用でお願いします」


「ふふふっ、わかりました」


「うー、えっと、わかりました」


 突然の出来事に如月は微笑みを浮かべて、心は戸惑った表情で陽輝に対して頷き返した。


「ありがとうございます。疑問があればそれぞれの保護者に対して質問してください。天草君には私のほうから連絡を入れておきますから」


「は、はい」


「それでは如月さんと心さんがお疲れでしょうから解散としましょうか。この場は私が引き継ぎますので、小暮長官は担当者を派遣してください。まさか、神堂君が担当することはないのでしょう?」


「えぇ、わかりました。速やかに担当者を送ります。三雲、指示を出しなさい」


「はいっ」


「それでは遠藤君、心さん、行きましょう。玄関まで見送りますよ」


「あっ、あの校長はこのままで大丈夫なのですか?」


「校長はしばらく目覚めませんし、生徒や保護者の避難は完了しています。デバイスユーザーである教員たちも本棟を囲むように配置しているので、もしもの時も心配は不要です」


 心は今更ながら陽輝が登場するまで誰一人、校長室に駆けつけてこなかった不自然さに気づく。校長室の外では必要な対応はすでに完了していたのだ。


「神堂君、如月さん、それでは失礼します」


「えぇ」


「…神堂皐月、この続きはいずれ…」


「…貴方では私を倒すことは不可能です」


「はっ、一生言ってろ」


「心さん、帰ったら駆さんに私の活躍を伝えて下さいね。約束ですよ、ふふふっ」


「うー、絶対に伝えません!!」


 心の言葉に如月は変わらずに微笑むだけだった。

お読みいただきありがとうございました。

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