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私が兄さんを全盛期に戻します!!  作者: 藍
第1章 四月
2/10

第1話 入学式

私が兄さんを全盛期に戻します!!の第1話です。


本編初登校になります。現在、1話投稿に対する文字数や区切りが定まっておりません。今回は適当な区切りで投稿を試みました。今後1話に対する文字数が変更になったり、投稿する区切りの形式を決定したうえで、投稿済みのものを編集するかもしれません。出来るだけ早く投稿スタイルを確立したいと思います。

 校長室を目の前にして、少女が緊張した面持ちで立っている。少女は仕切りに前髪や制服を触っており、身だしなみを整えようとしているようだ。少女の名前は天草心(あまくさこころ)。170センチと長身で、少し目じりが上がっているつり目がシャープな顔立ちと相まって凛とした雰囲気をまとっている。ロングヘアーを1つにまとめたポニーテールの髪型からマンガなどに登場する女剣士のようでもある。


 コンッ、コンッ。


「どうぞ」


 意を決してノックすると、部屋から入室を促す優しい声が返ってきた。


「…失礼します」


 心は深呼吸をして気持ちを落ち着け、校長室の扉を開ける。


「おはよう、心」


「おはようございます、兄さん」


 心が入った部屋は確かに校長室のプレートが掲げられていたが、中身は全くの別物だった。校長室と言えば重厚な机に本棚や来客用のソファーなどが設置されており、ある種組織の長として威厳を保つような演出がなされている。しかし、この部屋にはそういった備品は無く、壁面には家具の量販店で買える本棚が設置されておりマンガやライトノベルが隙間なく詰め込まれている。他にも校長室に似つかわしくない物がある。パソコン机や液晶テレビにゲーム機、特に異彩を放っているのは部屋の中心に配置されたコタツだ。まるで、一般家庭にあるような一室になっている。その様な部屋には先ほど入室を促した人物―心の兄である天草駆(あまくさかける)はコタツに入ってゲームをしていた。駆は15歳の心と10歳年齢が離れている25歳。優しい顔立ちで、心の凛とした雰囲気と違い見る者に安心感を与える空気を醸し出している。


「朝食ができました。家庭科室で食べますか?それともここへ持ってきましょうか」


「そうだね、家庭科室で食べるよ。でも心、わざわざ呼びに来なくても、携帯か内線を掛けてくれたらいいのに」


「いえ、その、何と言いますか…、えっと、その…」


 心は言葉を濁らせ手を胸の前で合わせてモジモジとしている。


「兄さんに早く制服姿を見てほしくて…」


「あっ、そうか。今日は心の高校の入学式だったね」


「…やっぱり、入学式のことを忘れていましたね。普通、妹が新しい制服を着ているのを見たら、その時点で気づくと思うのですが」


「いやー、ギャルゲーばっかりしているとゲーム内でイベントがいっぱいだから季節感が無くなるからね」


「妹の高校進学を忘れる言い訳にはならないですよ。昨日も、明日は入学式だって伝えましたよね」


「ごめん、ごめん。この時期は新作ギャルゲーが多いから3日くらい寝ていないんだ。心が来たときは一瞬意識が飛んでいたよ」


「…兄さんに制服姿をほめてもらいたくて緊張していたのがバカみたいです」


「うん?何か言ったかい?」


「もういいです!!」


「?それじゃあ、家庭科室に移動しようか」


「あの、兄さん。何回も言っていますが、いい加減引越ししませんか?兄さんは自分の部屋に引きこもってゲームやマンガにラノベ三昧ですよね。何も廃校を買い取って、食事のたびに校舎内を移動するような不便な生活をしなくてもいいのではないですか?」


 心が言ったように、ここは駆が買い取った廃校だ。しかも、10年前には高校生だった駆が通っていた母校でもある。街中から外れた小高い山の上に建っており、通学に不便さから新入生が年々減少していることとある事件から安全性(・・・)を考慮されて廃校が決定されたのだ。


「この校舎には思い入れがあるからね。僕が買い取らなかったら更地にされて味気ないモニュメントがぽつんと置かれるだけの場所になっていたよ。そんなのは嫌だったんだ。それに心にとってもよかったじゃないか。ここならグラウンドや体育館があるから心置きなく訓練ができるだろう」


「確かにそうですが、私1人のためと考えると贅沢すぎます。それに買取やリフォームを含めて兄さんの退職金をほとんどを費やしたのでしょう」


「なあに、まだ公務員の生涯年収分くらいは残っているよ。僕はこれからゲームやマンガを楽しむ自堕落な生活を満喫するからね」


「兄さん、そのような考え方はいい加減に」


「心、そろそろ朝食にしないと入学式に間に合わなくなるんじゃないかな」


「あっ!!もう、兄さんのせいですよ!!」


「ごめん、ごめん。早く家庭科室に移動しよう。せっかく、心が朝食を作ってくれたからね。冷めないうちに食べようよ」


「もう、わかりました。早く移動しましょう」


「あっ、心、ちょっと待って」


「何ですか、兄さん」


「遅れてごめん。心、高校進学おめでとう。新しい制服似合っているよ」


「あっ…、もう、兄さんのバカ…」


「うん?どうかしたかい?」


「いえ、何でもありません。兄さん、ありがとうございます」


▽▽▽


「2010年。世界各国に異世界へと繋がるゲートが突如出現するようになりました。ゲートからは異世界の驚異的な超生物・魔獣が来襲し、破壊活動が行われるようになり地球は恐怖の渦に巻き込まれたのです。そんなおり、奇跡が起こりました。偶然にも魔獣を生身で倒せた人間が、特殊な能力を取得して、魔獣の討伐を成功させていったのです。特殊な能力はスペシャルスキルと名付けられ、それを使う彼らはスペシャリストと呼ばれるようになったのです。スペシャリストの活躍により魔獣被害は減少傾向になりましたが、絶対数の少ないスペシャリストでは現場に到着するまでの魔獣被害をゼロにすることはできませんでした。魔獣は日本国内では月に一度程度の頻度で法則性なくランダムに出現するので、事前にスペシャリストを派遣するといったこともできなかったのです」


 ここは対魔獣科高校の体育館。心を含む新入生に対し校長が式辞を述べている。


「偶発的に誕生するスペシャリストだけを頼っているのではいずれ魔獣に人類は淘汰されてしまう。そう判断した政府はスペシャリストに代わる戦力を求めました。そして開発されたのがスペシャルスキルデバイス、通称SS(エスエス)デバイスです。魔獣の核を材料に作られたSSデバイスは、使用者であるSSデバイスユーザー固有の対魔獣装備『対魔獣兵装デバイス』と、SSデバイス技師によりデザインされた防御用の『シールドデバイス』に変形し、魔獣との戦闘を可能にしたのです。そしてそのSSデバイスは誰でも使用できるわけではありません。SSデバイスに適合できる選ばれた者だけがSSデバイスユーザーとしてその力を振るうことができるのです。そう、この対魔獣科高校に入学する貴方たちこそが選ばれた存在なのです!!」


校長の式辞の途中にもかかわらず、選ばれた存在という言葉が成長過程の少年少女たちの琴線に触れたようで生徒たちから熱を帯びたざわめきが起こった。これに校長や教員はしかりつけることなく満足したように生徒たちの顔を眺めている。


「今まではスペシャリストだけが国を救っている英雄のような扱いを受けていました。ですが、彼らは只々偶然に力を手に入れただけに過ぎないのです。努力も無く力を手に入れた者はその力を使うことにおぼれてしまします。現に彼らの一部はSSデバイスが開発されたときに、これを不服としてテロ行為を起こしたことは記憶に新しいでしょう。そんな危険極まりないスペシャリストの時代ももう終わっています。SSデバイスユーザーの英雄である神堂皐月(しんどうさつき)が、スペシャリストのエースである対魔獣特務遊撃隊隊長と模擬戦闘を行った結果、完全勝利を収めたその日が全ての始まりだったのです。」


 校長から神堂皐月の名が出ると生徒たちが再度ざわめきだした。SSデバイスユーザーの英雄の名前が出たのだから当然だろう。ただ、それを快く思っていない人物も少なからずいる。話題に上がった当時の対魔獣特務遊撃隊隊長である天草駆の妹である心がその1人だ。もちろん、校長を含めてこの入学式に参列している人の中で駆のことを知っているのは心以外にいない…いや、心と保護者席の1人しかいないのだが。他にも当時活躍していたスペシャリストにより生命を助けてもらったことのある新入生や保護者も複雑な表情をしているのだが、SSデバイスユーザーを育てる機関である対魔獣科高校の入学式で校長の式辞に対し反論を述べる勇気はない様だ。校長は生徒たちのざわめきに気を良くしたのか、スペシャリストにたいする差別用語を用いて、どれだけSSデバイスユーザーが素晴らしいかを語りだした。


「兄さんをバカにして…絶対にゆるさない」


 心は兄とその同僚からSSデバイスユーザーを育てる教育機関である対魔獣科高校に入学する以上、自分たちスペシャリストが見下されても短気を起こさないよう言い含められている。それが、魔獣との戦闘に参加し危険にさらされることになる高校への入学の条件であった。今の世の中はSSデバイスユーザーがもてはやされ、スペシャリストの評価はロートル…もっと悪い言葉を選ぶと老害となっている。そのような社会の中で、スペシャリストが現在も対魔獣戦闘の戦力になるということを主張していると、認識の甘さを指摘され社会的評価が得られなくなってしまう。駆たちからすると、心の将来に暗雲が立ち込めてしまうことを心配してのことだった。もちろん、スペシャリストの過去の偉業を称えることは問題ない。ただ、現在でも彼らに期待することが問題となっているのだ。…だが、だが、今の心にはそのようなスペシャリストに対する社会的な評価も認識も、兄たちとの約束も頭の片隅からも消え去っていた。全ては、大好きな兄とその元同僚のことを公然と悪く言われたから。


「…対魔獣科高校に入学した貴方たちに私たち日本国民は期待をしています」


 校長の式辞が終わったことに対して、体育館内から拍手が響き渡る。もちろん、心は拍手はしていない。今あるのは校長を含め、この高校に対する嫌悪感のみ。


「…続きまして、新入生代表挨拶です」


 司会進行役が粛々と式を進めていく。


「それでは首席の天草心さん、お願いします」


「…はい」

 

 心は覚悟を決め、壇上へと歩を進める。


お読みいただきありがとうございました。

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