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sideザハリアーシュ 前編


 ある日ついに、恐れていた事が起きた。2人の前で我は……意識を失い力に飲み込まれたのだ。


「イェンナ! 今のこいつはアーシュじゃないと思え!」

「わかってますわ! 手を抜けるような相手じゃありませんっ、ものっ!!」


 2人がかりで全力で我を止めてくれなければ、その時に我は壊れていたやもしれぬ。3人ともにボロボロの状態であったが、2人はどうにか我を倒してくれたのだ。あの時のことは生涯忘れぬ。感謝してもしきれぬのだ。


 ふと気付いた時には日が暮れていてな。我は怪我の手当てをされ、焚き火の近くに寝かされておった。暴れに暴れた時の事を覚えている我としては、何と言っていいのかわからず、出来ればこのまま意識を失っていたいと思ったな。


「……いつまで寝転がってる気だ? アーシュ」

「……バレておったか」


 だがな、ユージンは騙せなかった。我は渋々起き上がったのだ。


「つっ……久しぶりに身体が痛むな」

「当たり前でしょう? 私たちが全力でぶちのめしたのですもの。それでピンピンしていたら貴方化け物ですわ」


 丁寧な話し口調なのに時々言葉が悪いのは間違いなくユージンの影響だな。なかなかに気の強い女なのだ、イェンナは。


「ねぇ。私たち、もう隠し事はやめにしません? それぞれ隠してる事あるでしょう? 今日はそれを話し合いするのはいかがかしら」

「暴露大会か。面白そうだな!」


 2人はそんな風に切り出してきた。目覚めた瞬間我は問い詰められる事を覚悟していたのだが、予想外の反応に驚いたぞ。


「……我を問い詰めるのではないのか」


 だから、思ったままを我は2人に問うた。嫌われるのを覚悟で全てを白状するつもりだったのだ。2人が何か隠し事をしているのは薄々気付いていたが、交換条件に聞き出そうなど、そんな事を思ったことは微塵もなかった。


「そりゃ問い詰めるぞ。けどお前だけ話すのなんか不公平だろ」

「この際ですもの。3人揃って白状してしまいましょ?」


 まるでいたずらを思いついたかのような笑顔であった。この2人になら、全てを話してしまっても大丈夫だと、この瞬間に思ったのだ。




「で、では我から話すとしよう」

「いや、別に俺からでもいいぞ?」

「あら、私からでも構いませんわ」


 話す順番はなぜか揉めた。みんな先に話してしまおうと思ったのだな。普通は逆だと思うのだが、我らは揃ってさっさと話してしまいたいと思ったようだった。似た者同士とはこの事ぞ。


「ラチがあかないな。よし、同時に言ってみるか」

「……それって、ぐちゃぐちゃになるのでは?」

「だって決まらないだろ」


 ユージンの提案により同時に言う事に決まった。が、今思えば馬鹿な事をしたなと思う。だが、事が重大だからこそ、こういった遊び心を混ぜる事で緊張を解す意図もあったのであろう。


「じゃあいいな? 言うぞ? せーの……っ」


 我らは同時に叫んだ。


「我は魔王なのだ!」

「私、エルフではなくハイエルフなのですわ!」

「俺、実は異世界から転移してきたんだ!」


 叫んだ後の声が余韻として響き、沈黙が流れた。……正直、己の耳を疑った。そして理解が追いつかなかったのだが。


「お、お前ら、嘘つくならもっとマシな嘘つけよ」

「「あなたに言われたくない!!」」


 最初に口を開いたのはユージンであった。だが、彼奴の一言には物申さずにはいられず、思わずイェンナと声が重なってしまったぞ。


「魔王もハイエルフもこの世界に存在しますけれど、異世界人なんか存在した事もないではありませんかっ!」

「いやでもこの世が戦乱で、その元凶たる魔王がアーシュだってのが1番ふざけてるだろ!?」

「いや、我は存在自体なら多く人に知られているぞ? ハイエルフだって物語の世界であろう!?」


 我らは暫くギャーギャーとみっともなくも言い合いを繰り広げた。だが、次第にそれが滑稽に思えてな。我らは誰からともなく大笑いを始めたのだ。




「ふぅん、じゃあお前の意思じゃないって事なんだな。大変だなぁ、お前」


 我が全てを話し終えた時、ユージンは開口一番にそう言った。そのあまりの軽さに拍子抜けしたものだ。


「……ああ、大変だ。大変すぎて我はそろそろ我ではなくなるところだぞ」


 だから、我も同じように軽く答えたのだ。そうしたらな、イェンナがこう言ってくれた。


「大丈夫。大丈夫ですわ、アーシュ。これからどんな困難があっても、必ず光は射しますから」


 きっとこの時すでに未来を視ていたのであろうな。だが、その時は励ましの言葉だと受け取っていた。事実我はその言葉に励まされたのだ。


「そうだぞ、アーシュ。お前俺たちから離れるな。大丈夫だ! また我を失ったら、俺たちがぶちのめしてやる」

「ええ。任せてくださいませね?」

「ふっ……それは、恐ろしいな」


 こうして全てを話した我は、心が軽くなったのを感じたのだ。気の置けない相手という存在の有り難さを生まれて初めて知った。だからこそ、今度は我が聞く番だと2人にも話すよう求めた。この2人も我と同じように、話す事で心を軽くしてやりたいと思ったのだ。


「私は……さっき言った事が全てですわ。ただ、ハイエルフの思想に疑問を持ち、郷を出て行った重罪人というだけです」


 イェンナは物心ついた頃からハイエルフたちの教育に疑問を持っていたのだそうだ。なぜ郷の外に出てはならないのか、なぜ他の生き物が下等だと言い切れるのか。自分で見て知りたい好奇心旺盛な性格ゆえに疑問を持ったのだろう。

 少しずつその異常さに気付いていったイェンナは、大人しく言いなりになったフリをしながら、郷を出ていく計画をたて、ついに数年前飛び出したのだと語った。その為に費やした時間は500年程だと聞き、ハイエルフの長寿ぶりを実感したものだ。


「イェンナ……そなた、一体いくつなのだ……?」

「女性に年齢を聞くなんて、と言いたいところですけれど、正直申し上げまして、覚えていないのですわ。数えていられませんもの。でもそうですわね……2、3000年くらい生きているのではないかと」

「……途方も無いな」


 ハイエルフにとって、年齢は意識するものではないのだとその時知ったぞ。歳を重ねるのが亜人よりかなり遅いのだろうな。


「けれど、郷を飛び出してから身体の成長が少し早くなった気がしますの。あのハイエルフの郷の空間が特殊なのか、私がハイエルフと認められなくなったのかはわかりませんが。人に近付いたのであれば、私は嬉しいのですけれど」


 イェンナはそう言って微笑んだ。なるほど、ハイエルフとは考えが正反対である。もしかすると、ハイエルフからエルフという種族が生まれたのも、イェンナのような考えの者が突然産まれたからかもしれぬな。


「そういうわけですので、私は実家と縁を切っているのですわ。自分はハイエルフ、というのも今は違うのかもしれませんし、やはり大した内容ではありませんでしたわね?」


 そう言ってクスリと笑ったイェンナは、次はユージンの番だと、自分の話を終えたのだ。どこかスッキリしたような、晴れ晴れとした表情を見るに、話した事で彼女も心が軽くなったのだろうと察した。我はそれを見てホッと安心したぞ。さて、ユージンも心が軽くなればいいのだが。ただ、ユージンの場合、話の内容が想像もつかない。


 だってそうであろう? 異世界というものが存在するのかさえ、信じられなかったのだからな。

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