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根拠のない確信


「ちょ、ちょっと待って。それってつまり……メグちゃんは次期魔王って、事……?」


 魔王さんからの話はもうなんか、別次元過ぎて全然理解が追いつかなかったよ。自分のことなのにね!

 だってそりゃそーでしょーよー。突然ギルドに魔王がやってきて、「子よ。そなたは我の血を分けた娘なのだ」とか言われて? 母親はハイエルフの罪人で? っていうか私エルフじゃなかったのか、ハイエルフとの違いは一体なんなのかってもう疑問を挙げだしたらキリがないってな状態ですよ!! 挙げ句の果てには、私が次期魔王なんですって。


 ないわー。そりゃないわー。だってこれといって特技もない、中身は元社畜ってだけの美幼女だよ? それが魔王とかなってごらんなさいよ。大混乱な未来しか想像できないよね。……はぁ。お腹空いたなー。そりゃ、現実逃避もするってもんよ。


「まぁ、我はもっともっと長生きするがな!」

「してもらわないと困ります、ザハリアーシュ様!」


 いやほんと、なんなら私より長生きしてね。そうしたら私、魔王にならなくてすむし!


「我に子がいるかもしれぬと聞かされた時は面白くもない冗談だと思ったのだが。実際目の前にいると思うと、我が子だと確信出来るものだな。そなたはイェンナに瓜二つだ。そして流れる魔力には我と同じ物を感じる」


 その言葉を聞いて、今の話が全て真実なんだと実感がじわじわと湧いてきた。ずっと身元不明だった「メグ」の両親を知り、嬉しいし、安心したような気もする。でもね、同時に言い知れぬ不安を感じるのはなぜだろう。実の親が出てきたのだから、私はギルドにはもういられなくなるのだろうか。不安の原因はきっとそこだ。

 あぁ、私、きっとここに居たいんだなぁ。やっと居場所を見つけたかなって時に、実の親が現れたんだもん。良いことの筈なのに……悲しい気持ちが勝ってしまう。ギュッとギルさんの腕に思わずしがみついてしまった。


「のう、メグ。少し、我と話をしてくれぬか?」


 魔王さんにそう声をかけられた私。ここで無視をするわけにもいかないので、ギルさんの腕に隠れ気味だった私はそっと顔を出し、ジッと魔王さんを見つめて声を出した。


「魔王、しゃま……?」


 どう呼べばいいかわからなかったのでとりあえず首をコテンと傾げながらそう問いかけると、当の魔王さんはなぜか驚愕したように目を見開き、その場で暫し固まっていた。……あるぇ?


「く、クロン……我は、我はもうダメかもしれぬ……!」


 それから震える声でそう告げた。な、何事ですか。


「こ、この子は今凄まじい魔術を放ったぞ! 我は、我はこの目に見えぬ衝撃に心臓が耐えられぬほどのダメージを負ったぞ!」

「落ち着いてください、ザハリアーシュ様。それは魔術ではございません!」

「魔術ではない、だと……!? こんなにも心臓をぎゅっと鷲掴みにされている感覚が襲っているというのにか!」

「ザハリアーシュ様、それが『萌え』にございます!」

「なんと、『萌え』とはげに恐ろしきものよ……! 胸が苦しいぞ……我は呪いか病にでも侵されたのだろうか……?」

「あえて選ぶとしたら病ですね、ザハリアーシュ様」


 あ、この人残念な人だ。

 それを理解した途端私は肩の力を抜いたのだった。




「あー、こほん。メグよ。我の質問に答えてくれるか?」


 我に返った魔王さんが佇まいを直して再び私に問いかけた。すでに私は余計な力が抜けており、気楽な状態で魔王さんと相対している。


「あい」

「あい……って可愛いぞ! クロン!!」

「良い加減になさいませ、ザハリアーシュ様」


 またしても取り乱しそうになった魔王さんに、クロンさんの氷の刃が突き刺さった。もちろん物理ではなく、言葉と言う名の刃がね……それでいいのか上司。


「あー……そなたの事情は、彼奴から聞いているのだが……一応確認のために聞かせてもらう。イェンナの、そなたの母親が今どうしておるか、わかるか?」


 母親か。そのイェンナさんって人を探していたから私に辿り着いたんだもんね。でも残念ながら、母親がどんな人なのかも知らないし、名前だって今初めて聞いたよ。


「わからないでしゅ……ごめんしゃい」

「いやっ! いいのだ! 我が嫌な質問をしてしまったのだ! 気に病むな!」


 魔王さんの慌てぶりに少し笑ってしまう。気遣いの人なんだな。……だというのに、自分のせいで戦争が起きてしまって、この人はどれほど心に傷を負っただろう。たくさんの人から恨まれているかもしれない。罵声を浴びた事もあるだろう。それがどれほど心を抉るのか、私は想像でしか知り得ないけど……


 もう2度と、戦争など起こしたくないと思っているだろう事は考えなくてもわかった。


 夢のことを話すなら、今がいいかもしれない。魔王さんがいるなら、協力してくれる可能性だってあるもの。だけど、先の理由からこの質問をするのは躊躇われる。でも、聞かなきゃいけない。


「あにょ、魔王しゃま」

「ぐはっ! あ、いや、なんだメグ」


 魔王さまと呼ぶ度に悶えるのは仕方ないのだろうか。まぁ、いい。慣れてください!


「嫌なことを聞くかもしれましぇんけど……」

「構わぬ。申せ」


 私の雰囲気を察して、魔王さんはちゃんと真剣に話を聞いてくれる姿勢をとってくれた。嫌な思いをさせちゃわないといいけど。ドキドキ。


「もう、戦争は2度と起きて欲しくないでしゅよね……?」

「!」


 私の質問に、魔王さんだけでなく、この場にいるみんなが息を呑んだ。うう、気まずい。でも必要な質問なんだよう!


「……ああ。我は平和が好きだ。我が魔王である限り、戦争は回避したいと思っておる」


 その微妙な雰囲気を壊してくれたのは魔王さんだった。柔和な微笑みを浮かべてそう告げた魔王さんは、やはり王としては甘っちょろいのだろうけど、その考え方には好感が持てる。そして、私の予想通りの答えに心底安堵した。


 それならば。これは魔王さんにも伝えなきゃいけないよね。


「じゃあ、協力してくだしゃい」

「協力?」

「どういうこと? メグちゃん」


 ずっと様子を窺っていたサウラさんがここで口を挟んだ。うん、サウラさんたちにも聞いていてほしい。信じてもらえますように。


「私、夢を見たんでしゅ。とっても大事な夢。けど、いつもそれを忘れちゃってて……それで、さっき思い出したんでしゅ」

「さっき、話そうとしてくれた事ね? 今ここで話す必要があるのね?」


 さすがはサウラさん。察しの良さがピカイチです。私は1つ頷いてから続きを口にした。


「……エルフが、ううん、たぶん魔王しゃんの話からするとハイエルフでしゅね。ハイエルフが、攻めてくるでしゅ」

「なっ……どういう事ですか!?」


 いち早く反応したのはクロンさん。そうだよね、そうなるよね。


「細かい事はわからないんでしゅ。けど、こわーい顔したハイエルフのおじーちゃんが、攻めてくるんでしゅ。このままだと、戦争が始まっちゃうでしゅ」


 伝えたいことを正確に人に伝えるのって難しい。特に今は幼女だし、信憑性に欠けるのもあってつい焦ってしまう。夢の中でメグが描いた怖い顔。それを見た瞬間、ハイエルフが襲いかかってくるビジョンが浮かんだんだ。大丈夫、間違いないはずだから落ち着け、私。スーハー。


「でも、たぶん遠くない未来でしゅ。夢だけど、たぶん本当に起こる事でしゅ。そんな気が、しゅるだけなんだけど……」


 後半、声のトーンが落ちてしまったのは自信がないからだ。なんの根拠もないただの夢。だけど、「メグ」が知らせようとしてくれた大事な情報だから。


 それに、これが事実だって妙な確信があったから。

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