sideギルナンディオ2
メグを医務室に運んだ後、本当は側に付いていてやりたかったがサウラに呼び出された。大事な話らしいから仕方がない。そうして来客室へ行ってみればそこにはいつものメンバーがすでに揃っていた。
サウラ、ケイ、ルド、ニカ、そして俺だ。シュリエは今遠征に出ていていないが、頭領を入れたこの7人が最初のギルドメンバーになる。ギルド創立からそのままこのメンバーがギルドの重鎮となっていた。
「時間が惜しいからさっさと用件を言うわね。ジュマが……戻ってこないの」
サウラの最初の一言に誰もが言葉を失った。あのジュマが? 確かにあいつは色々と雑で自由なところがあるが、連絡もなしに何日もギルドを空ける事など考えられない。エピンクを追った後に何かあったと考えたのは当然だった。
「あの日から、って事だよね? 終わったらドラゴン討伐に行くって言っていたけど……そうじゃないって事なのかな?」
ケイが眼鏡の奥の赤い瞳を細めてそう質問する。答えはわかっているが、確認のためだろう。サウラはそうだと頷いた。
「エピンクを追って、そのままネーモのホームに帰るようなら戻りなさいって伝えていたわ。そうじゃなければ1度報告を、とも。いずれにせよ連絡は寄越してもらう予定だったのにそれすらないのが問題なのよ。……まぁ、最近ストレスが溜まっていたみたいだから、先に本能のままに大暴れしてるって事も大いにあり得るわけだけど。それにしても遅いのよねぇ」
これは問題の大小はあれど確実に何かがあったに違いない。たとえ大した事がなかったにせよ、早急に確認するためにすぐにでもジュマの足取りを追わなければ。ジュマの事だ、安否はあまり心配していないが、攻撃の火力と強靭さならナンバーワンのあいつでも、身動きを取れなくする方法などいくらでもあるのだから。いつでも最悪を想定しながら動く。ギルド内でも常識だ。
「俺が追うか?」
人の足取りを調べるのなら俺が適任だ。そう思って声をあげたのだが。
「……いいえ。貴方にはメグちゃんを守ってもらわないと。確かにギルの能力が1番適任だけれど、優先順位を間違えるわけにはいかないもの」
サウラのその発言には納得せざるを得ない。エピンクの何かありそうな物言いからいって、メグがまた狙われる可能性は極めて高いのだから。内心でホッとしたのは当たり前だ。今は俺が、メグの親なのだから。
「だから今回はニカとケイに行ってもらおうと思うの」
「おぉ、俺なら匂いで追えるからなぁ! 任せておけ」
「それに、ボクならヴェロニカの苦手な尾行や調査が出来るしね。引き受けるよ」
なるほど、この2人なら俺の代わりが務まるな。それに、敵が複数いる今回は単独行動はしない方が良い。最悪の場合はどちらかが囮になり、どちらかがギルドに報告をする。俺のように1人だと動きを封じられると厳しいのは事実だった。
「影鳥を連れて行け。いつでも連絡出来るし、1羽くらいならさほど問題ない」
「おお、そいつぁ助かるぜ、ギルよ」
「どのくらいの距離まで大丈夫なんだい?」
ケイの質問に対して少し考える。ネーモの本拠地は確かセインスレイ国の北部だ。ここ、リルトーレイ国からだと、大きな国であるセントレイ国を超えた西側にある国になる。影鳥1羽とはいえ、メグの護衛のための余力を残す事を考慮すると……
「セインスレイ国手前。セントレイ国内なら問題ない」
「……お前ぇ、セントレイがどれだけ広いと……まぁ、ギルなら知ってるはずだがなぁ」
「ギルナンディオ、相変わらず恐ろしいほどの保有魔力量だよね」
「……頭領には遠く及ばない」
「んー……比較対象にあの人を選んだらダメだと思うよ」
とはいうものの、あの人は俺の目標でもある。あの人はその力を努力で得たものではないと言うが、授かった能力を生かすも殺すも本人次第なのだ。頭領は自分の能力をどんなものか知り、向き合い、熟知しているからこそ、世界最強と呼ばれる魔王と互角に戦える力を持っているのだと思っている。
努力で得たものではない能力を、努力によって活かせる事。これこそが才能なのではないか。持って生まれた能力の事を、才能と呼ぶのは違うのではないか、と。
頭領に会って気付かされた事の1つだった。おかげで俺は自分の未熟さを知り、今も上を目指せるのだ。
頭領という目標を越すことは出来ないだろう。だからこそ、俺はずっと追い続け、成長し続ける事が出来ると信じている。
「私は今回役に立ちそうにないな。任せきりになってすまないね」
「いーえ! そんな事ないわよ? ウチの主力がほぼいない状態だもの。ギルはメグちゃん優先だし、ギルドの守りはルドにかかってるのよ?」
基本的に腕の立つギルドメンバーは3人はホームにいるようにしている。それをいつもならケイ、シュリエ、ジュマ、ニカで回しているのだ。俺は遠出が多いし、何より今回は最優先でメグの安全を守るのが仕事。前線に立つことは出来ない。ルドの本業は医療で、サウラはトラップ専門だから今回は確かにホームが手薄になる。魔術特化の中堅トリオがいるにはいるが、そいつらに任せるには近接戦になった時不安が残る。
「なるほど。なら私はギルドを中心としたこの街の見張りに力を入れよう。医療チームはメアリーラと最近しっかりしてきたレキ、他にも優秀な人材がいるから大丈夫だろうしね」
つまり、まずは不審な動きが周辺にないか、それを掴む必要がある。その役割としてルドは適任だ。あの糸は敵に回すと厄介だが、味方にいると思うととてつもなく心強い。糸の監視に集中したルドの目を掻い潜るのはそれこそ頭領レベルでないと無理だ。
「私もギルド内にいつも仕掛けてあるトラップの見直しと強化をするわ。ギルド内に居れば安全だとは思うけど……なんとしてでもメグちゃんを守らないと。頭領だって、私たちを信用してるからこそ、メグちゃんを託したんだわ」
そう。頭領にとってもメグは守るべき対象だと言っていた。だというのに、自らはなにかをするでもなく、ギルドを後にしたのだ。俺たちのメグに対する想いを感じ取り、大丈夫だと判断したのだろう。ますます気が抜けない。元より気を抜くつもりはないが。
「メグには常に俺が付いていよう。部屋はもう準備出来たのか?」
「んふふっ、バッチリよ! 素晴らしく可愛いお部屋になってるんだからー! もちろん、セキュリティの面でも安心安全設計! ギルの部屋とはドアで繋げておいたわ」
メグを迎えてから準備していたメグ専用の部屋がついに整った。メグは幼児だが、1人でいる時間も多少は必要であるし、周りが仕事している間、安心して待っていられる部屋が必要だった。気を失っている間も毎夜発症した「夢遊病」も、泣き喚くこともなく毎回絵を描いて満足して寝るため、医務室から出ても構わないと許可も出ている。それに俺の部屋と繋がっている為、何かあってもすぐに対応出来る。カーターは良い仕事をした。
「と、言うわけで! これからの行動は各自もうわかるわね? ただしニカとケイ。……危険を感じたら無理はしないこと。絶対よ?」
「んー、善処するよ」
「がははっ! なかなか難しい指示だなぁ! まぁ命だけは守るとするかぁ!」
こうして会議は締められた。それぞれが部屋に戻っていく。俺はこのまま医務室へと向かう。
メグが目覚めたら、部屋の案内でもしてやろう。その時のメグの驚いたような顔を思い浮かべて、自然と笑みが溢れてしまった。





