火の精霊
「ごっ、ごごごごごめんしゃい! まさか精霊しゃんを言い当てる事になっちゃうなんて!!」
驚いてる場合ではない! わざとじゃないにしても勝手に人の精霊を言い当てるなんて失礼な事をしてしまったんだから謝らなきゃ! ……失礼な事、だよね? 何となくそんな気がしたから謝ったんだけど。だってさ、初めて会った人が連れている犬の名前を当てて、犬と突然ワイワイしてたら、飼い主さんからしたら何こいつひくわー、ってならない? 犬、飼ったことないしそんな経験ないからわかんないけど!
「いやっ、だいっ……! 気にっ……」
「……気にしなくていいそうだ」
ギルさんが通訳してくれた。けど、カーターさんの両手をブンブン横に振る仕草と、今くらいの言葉なら私にも何となく意味はわかったよ! でも、今後は気をつけなきゃいけないな。自然魔術を使う種族と出会う事が今後あるかはわからないけど。しっかりと反省。
『そうだぞ、嬢ちゃぁん! どうせ主人は教えるつもりだったんだからさぁっ! でも口下手だからそれがいつになるかわかんなくてさ、心配してたんだぁぜっ! だからむしろ良かったんだぜーっ!』
す、すっごい全力で喋るな、この子。いや、元気な子で良いんだけど、カーターさんとのギャップが!
だって、ネフリーちゃんもショーちゃんも、それぞれの主人に似てるところがあるから、この子も寡黙な精霊だったりするのかなって思ったんだよ。思い込み、良くないね!
「あ、あの! この子はショーちゃんって言って、声の精霊なんでしゅ! カーターしゃんも、火の精霊しゃんも、仲良くちてくだしゃい!」
ひとまず自分だけじゃなんなので、ショーちゃんを紹介してみた。すると、カーターさんは、何度もカクカクと頷いてからボソリと呟いた。周囲の騒音もあって、カーターさんの声は聞こえなかったけど、きっと声の精霊と呼んだのだろう。ショーちゃんが一瞬淡く光ってからカーターさんに自己主張していたからね。
『オラの事はジグルって呼んでいいんだぜ! 嬢ちゃんにはオラの秘蔵っ子を紹介してやるんだぁぜっ!』
「えっ、いいんでしゅか?」
『もちろんだぁぜっ! 嬢ちゃんの事は精霊の間で噂になってるしぃ、オラはこれでも力が強いんだぜ! 嬢ちゃんには良い同胞を従えて欲しいんだぜぇっ! ひゅぅーっ!!』
おぉ、ひょんなとこから火の精霊とも契約出来ちゃいそうだよ? ありがたい! そうしたら、きっとカーターさんとも精霊を通じて連絡を取り合えたりするのかもしれない。今後も道具やら何やらでお世話になるだろうから、すぐに会いに行けなくてもお礼が言えるのは良さそうだよね! もちろん、火の自然魔術が使えるっていうのも大きいけど。
『ほらっ、こいつがオラの同胞だぁぜっ! 名前をつけてやって欲しいんだぜ!』
そ、そうだったぁぁぁぁ!! な、名前、名前……! ああ、もう、なんでいつもこんな土壇場で名付けしなきゃいけなくなるのかなぁ!? 考えたところでネーミングセンスはさほど変わらないっていうのはこの際置いておく!
私が慌てているのをよそに、ジグルくんはさあ、さあ、と催促してくる。せっかちかっ!
「え、えっと、火の精霊しゃん。私と契約してくだしゃいな。あなたの名前は……焔。ホムラくんでいいかなぁ?」
あまりにも早く早くとせがまれたので、言い当ての儀式と名付けを立て続けに行う羽目に。むしろそれでいいのかい、と思ったけど、すんなり受け入れてくれたところを見ると、この子もジグルくんのようになかなかのせっかちさんとみた。
『オレっちの名前はホムラ! かっくいー名前、ありがとうなんだぞ!』
ふわっと赤く光って小さな猿に姿を変えたホムラくんは嬉しそうにそう言った。思い付いたままに名付けたけど、気に入ってもらえるっていうのが1番だよね! 決して安易なネーミングじゃないのだ!
それにしても真っ赤な小猿姿が可愛いよう。うちの子はみんな可愛い! そう思っていると、ホムラくんはスルスルと私の頭の上に登ってきた。流石はお猿さん!
「……火の精霊と契約したのか」
「あい! えと、成り行きで……」
頰を指でかきながら目を泳がせてそう答える。いやぁ、そんなつもりはなかったんだよ。悪いことしたわけじゃないんだけど、何となく居心地が悪いぞ?
「すっ……! うち……っ!」
『うちのがすまないって言ってるんだぁぜっ! なんだよぉ、オラ良いことしたんだぁぜ?』
長年の付き合いなのかジグルくんはカーターさんの言いたいことがわかるらしい。いや、されるがままに流された私も悪いんだけどね。すみません……
「良かったんじゃないか? メグはこれから力をつけなきゃいけないんだろう?」
「そ、そうでしゅね! カーターしゃん、ジグルくん、ありがとーでしゅよ!」
笑顔を心掛けてカーターさんたちにそう言うと、ジグルくんは良いってことだぜ! と答え、カーターさんは暫し停止。え、停止?
「……! ……っ!!」
そして先ほどのようにドンガラガッシャーンと大きな音を立てて、尻餅付きながらの素早い後退。なぜだ。というか、器用ですね……?
『なはははっ! 嬢ちゃんが可愛いから、心を射抜かれたんだぜっ! しっかりしろよぉ、カーター!』
えっ、可愛いだなんてそんなぁ! 確かにこの姿は可愛いけど、自分がそんな風に褒められるのは照れちゃう。いや、勘違いするな環。お前が褒められているわけではないぞ! ……でも嬉しい。うふ。
「とっ、ところで、カーターしゃんは今、何を作ってるんでしゅか?」
動揺すると私も噛みまくる……! でも、そんな噛み噛みな質問にもカーターさんはしどろもどろと答えてくれました。
「メっ……ベッ、わっ……!」
『わぁ、素敵なのー!』
誰より先にショーちゃんが反応を示した。え、待って、ショーちゃん通訳プリーズ!
『ご主人様のー、お部屋に置くベッドの枠組みを作ってるのよー!』
「え? 私のベッド?」
医務室で寝泊まりしてるから、もはや医務室が私の部屋みたいなところあったんだけど……でもそういえば前にサウラさんが追い出すとか、総取っ替えとかそんな物騒な話してたっけ。ま、まさか?
「ああ、サウラが急ピッチでメグの部屋を用意してたな」
実行されてたー!? 言葉の綾とか冗談かと思ってたよ!
「元々お部屋使ってた人を、お、追い出したり、してないでしょーか……?」
「追い出す? いや、空室があるんだ。わざわざそんな事はしないだろう」
ほっ、良かったー! 追い出す云々は流石に冗談だったんだね! 私のせいで誰かが部屋を追い出されるなんて、ダメ! 絶対!
「あ、でも広さと陽当たり的にちょうど良いからと、部屋の場所を移動させられた奴がいたな」
追い出しも事実だったー!?
…………私は何も聞かなかった。うん、聞かなかった!





