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オルトゥス


 朝食を終えて寂しそうな眼差しで見てくるメアリーラさんとどうにかこうにか別れ、私はギルさんと共にホールへと向かっていた。朝食後にホールでケイさんと待ち合わせだからね。その前に気になっていることを一応聞いておこうと思う。


「ギルしゃん」

「なんだ」

「ケイしゃんとは、仲良しでしゅか?」

「………………」


 流れる無言の時間。き、聞いちゃダメだったのかな? ギルさんは顎に手を当てて何かを考えているみたいだけど……


「……付き合いは長いな」


 結果、当たり障りない返答をいただきました。結局2人が会うまでわからないままホールへと辿り着いた。ドキドキ。




 私たちがホールに着くと、そこにはすでにケイさんが待っていた。軽食スペースでカップを傾けていたケイさんは、私たちに気付くとニコリと微笑み、立ち上がってこちらに近付いて来てくれた。


「やぁ、おはようメグちゃん。ギルナンディオも、護衛を頼んで悪いね」


 今日のケイさんたらオシャレ! 元々スタイリッシュだったけど、オフ姿はこれまた素敵。

 首元が隠れるデザインのシンプルな黒ストライプのシャツに黒いスカーフを巻いており、それを瞳の色と同じ赤い石の飾りで留めている。白いスキニーパンツはケイさんの美脚を強調していて、黒いハイカットブーツがよく映える。黒い透け素材の袖のない上着を羽織っており、膝までの長い羽織は歩くたびに揺れて優雅な雰囲気を演出していた。


「構わない。気にするな」

「まぁ、護衛の件がなくても、君は戻ってきてただろうけどね? 流石は保護者、心配性だね?」

「……黙れ」


 クスクス笑いながらケイさんがギルさんをからかっている? 意味はあんまりわかんないけど。とりあえずは挨拶だ!


「はよーごじゃいましゅ、ケイしゃん。かっこいーの!」


 なぁんだ、2人の関係は至って普通だ。ほら、メアリーラさんのジュマくんへの反応とかみんなのケイさんへの反応とか見てたから警戒しちゃったけど、いらぬ心配だったね! 安心したのと、素敵すぎるケイさんの姿に褒め言葉もスルッと飛び出た。


「ありがとう。可愛いメグちゃんにそう言ってもらえるなんて光栄だよ。今日はもっと可愛くなろう、ね?」

「……ケイ」


 通常運転で口説くケイさんの言葉に、それはもう低い声がケイさんの名を呼ぶ。きっと、子ども相手に口説くなとかそういう意味が込められてたんだろうけど、当のケイさんはわかっていない様子だ。首を傾げて心底不思議そうに、どうしたんだいギルナンディオ? なんて聞いてるもん。


「はぁ。もういい」

「そうかい? 変な人だな、ギルナンディオは」


 ……ケイさん、恐るべし。


 こうして、無事に合流したところで私たちは街へ向かった。両手にイケメン! いや、ギルさんが両手に花なのかな? いや、でも2人ともイケメンなわけだし……ああ、ややこしい!




 ギルドの外はなんていうか、まんま異世界でした。前に出た時も思ったんだけど、その時はそこまで考える余裕はなかったんだよね、注目されすぎて! 今も注目されてるけどっ! しかも今回は両サイドに保護者がいる。開き直って観察することに決めたのだ。


「うわぁ……! みんな、お耳がモフモフ!」


 そう。街を歩く人はみんな、獣耳やら尻尾やらが生えてるのだ! あ、モフモフじゃない人もいるけど。爬虫類系の尻尾の人とか、角の人とか……あ、鱗がある人もいた!


「おや、もしかして……半魔型は珍しいのかな?」

「はんま?」


 思わず呟いた一言を拾ったケイさんが少し驚いたようにそう聞いてきたので聞き返す。


「そう。亜人はね、魔物型、半魔型、人型の3種類に姿を変える事が出来るんだ」


 一般的に、半魔型でいるのが亜人の自然体な姿なんだとか。なんでも、人に近い姿の方が器用に物事をこなせるのだという。まぁそうだよね。肉球の手や蹄では細かい作業が出来ない、みたいな事なんだろう。進化の過程でそうなったのではないか、って言われてるんだって。


「改めて考えると亜人っていうのは不思議な生き物だよ。理性的であればあるほど人間寄りで、本能に忠実であればあるほど本来の魔物の姿になるんだ。姿の変化は自らの意思で出来るけど、感情に左右される事もあるから注意が必要だね」

「故に、心の未熟な幼子の亜人はよく魔物型になって暴れる。亜人の子育ては生傷が絶えないと聞く」

「メグちゃんはエルフで良かったよ。とは言っても、メグちゃんほど賢い子ならコントロールも出来てそうだけどね」


 生傷……! 子育てってただでさえ大変だって聞くのに、亜人の子育てはもっと大変そうだよ! つまり肉食動物系の亜人だったら癇癪起こして噛み付いたり、空を飛べる亜人だったら飛んで逃げられたりするわけだ。しかも親が同じ種族とは限らないわけでしょ? 草食系亜人や飛べない亜人がそういった子達の親だったら……う、考えただけで同情する。


「ま、子ども自体貴重だから、子育ては大変だけど地域全体で見守るからね」


 なるほど。親の手に負えなくてもみんなが助けてくれるって事か。それなら少し安心だけど、大変なことに変わりはないよね。亜人って本当に不思議だなぁ。


「ちなみに、単純な力なら本来の姿の方が強いよ。力を存分に発揮できるからね。ただ少し、野生的な性格にはなっちゃうかな?」

「これも訓練次第でコントロールは出来る。リスクが高いから普通はあえて魔物型になろうとはしない」

「でもたまに酔っ払いが魔物型になってたりするから厄介なんだよね。美しくない飲み方だからボクは好きじゃないな」


 おぉ、お酒の失敗ってやつも洒落にならないんだね。会社の上司が飲み過ぎて泣きながら家庭の愚痴を溢したのなんか可愛いもんだわ。……あの人、家庭での居場所を取り戻したかなぁ。


 その後もケイさんは色々と説明してくれた。話によると、人間っていうのは最弱の生き物と言われているそうだ。まぁ、こんな色んな力を秘めた亜人や魔物がいる事を思えば納得出来るけど。最大の武器と言える知恵や狡賢さなんかは亜人もそうだし、繁殖力ならネズミに劣るしって感じかな?


 で、亜人っていうのはその最弱な人間に完璧な姿で擬態出来る。つまり、弱い器に強い力を収納するのが人型なんだって。あれだ、大量の荷物をスーツケースに入れてどうにかこうにか仕舞い込むのに似てる。ちょっと刺激を受けると蓋が開いて中身が飛び出しちゃうように、感情が大きく揺れると半魔型や魔物型になってしまうのね。

 だからこそ、完全な人型になれるのは、実力者の証と言えるのだそう。弱い器に己の力を隠しておける程の実力。大体は力を隠しきれずに魔物の特色が出ちゃう、つまり耳やら尻尾などがどうしても出てしまうんだって。……はみ出た力が耳や尻尾。なんか可愛く見えてきた。ギルさんやケイさんも、ふとした拍子に羽が出たり尻尾が出たりしちゃうのかな。この2人はそんな失態犯さなそうだけども。


「だからね、メグちゃん。人型は目立つんだ。実力者か……エルフなんかの希少種族しかいないからね」

「人型は狙われやすい。我々のような実力者以外は……高値で売れるからな」


 そっか、そうなんだ。そりゃ、綺麗な面だけじゃないよね、この世界だって。人身売買が存在するんだなぁ……魔大陸では人間も珍しいから売られる事があるって聞いた時は、思わず眉間にシワが寄っちゃった。というか、魔に属する者が住む大陸と、人間の住む大陸が海を隔てて存在するってのにまず驚いた。だからギルド内でも人間とは会わなかったのか、と納得。


「でも心配しなくていい。だからこそオルトゥスの者は皆完全な人型でいる事がルールになっているからな」

「え……?」


 人型でいるのがルール? それはどういう事だろう?


「サウラディーテやシュリエレツィーノ、他にも人型種族がいるだろう? 他にも街中に人型種族は少ないながらもいるにはいるんだ。そういった人たちを守るためだよ。ぱっと見ただけじゃ、実力者か希少種族かわからないからね」

「俺たちは長い時間をかけて、実力者は人型をしている、と世界中に認識させてきた。少しでも、希少種族を守るために」


 エルフや小人、ドワーフのような元々人型の希少種族。世界中に少ないながらも存在するはずだ。そして、みんながみんな、自分を守れるほど強いわけじゃない。そういう人たちを守るためにオルトゥスは動くんだね。


「オルトゥスは、人身売買をあまり良しとしない。正規の人権を認めている組織ならいいけど、非合法は決して許さないんだ」

「そういった組織に捕まっていた者たちが何人もオルトゥスに所属している」


 そう語るギルさんやケイさんは誇らしげで、何だかオルトゥスがどんなギルドか少しわかった気がした。

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